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第三章 出会いと契約
第1話 会談
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ルニの街の正門から五百メートルほど離れた場所で車列は停止し、一木達は下車してルニ子爵を待ち受けていた。
程なくして、アミ中佐に先導されたルニ子爵と思しき男がやってきた。
禿頭に口髭をはやし、でっぷりと太った大男だった。
あの体型によくぞというフィットした胸甲を身に着けたその姿は、相撲部屋の親方がコスプレしたような印象だったが、キビキビとした物腰と腰に下げた大振りな曲刀の扱いから、男が武人であることがよく解った。
男は一木達に近づくと、一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、すぐに表情を戻し、大声で名乗りを上げた。
「ワシがカラン・ルニ子爵である! その方らが海向こうから参ったという使者殿で相違ないか? 」
一木は一瞬、緊張から声が上ずりそうになったが、マナ、ジーク、殺の三人がポンッ、っと背中を軽く叩き励ましてくれたことで緊張が解けた。ミラー大佐は青筋を立てて怒っていたが。
何故か励ましよりも、アンドロイドが感情表現の為に青筋を立てる事を知った驚きの方が大きかった一木ではあったが、そのお陰か自分が思った以上に冷静な応対が出来た。
「そのとおりです。私が地球連邦政府の全権大使である一木弘和将軍です。この者たちは私の補佐をする者たちです」
一木の言葉を聞くと、ルニ子爵は顔を強張らせた。
こちらを疑っているのかもしれない、と一木は思った。
まあ、あの海の怪物たちを見れば無理もないだろう。
「あの恐ろしい海をどう超えて来たのかは興味があるが、それについては後で聞こう。しかし、正直言ってワシは海向こうから来たなどとても信じられなかった。今も半信半疑だが、こうして妙ちきりんな格好をした女ばかりの集団と、一木殿の様な立派な甲冑を身にまとった貴人を見ては、信じるほか無かろう」
随分と正直な物言いだったが、事前調査通りだ。
このルニ子爵は先祖の武勲で帝都近郊に領地を得た貴族だが、政治力はからっきし。帝都の官僚や貴族の中央からは距離を置いているという。
ただ一人、帝都に行く度に土産を持っていき仲良くしているグーシュ皇女を除いて。
あの皇女様と気が合うと聞いて、一木はどの様な人物かと思っていたが、どうも武人肌の竹を割ったような男のようだ。
細々した駆け引きが得意では無い一木としては、正直な物言いをしてくれる子爵はありがたい。
願わくばミラー大佐の餌食にならなければいいのだが。一木は憂えた。
「海向こうからの旅路などについては後ほど。具体的な交渉に関しても、帝都の方に連絡を取られてからの方がよろしいでしょう」
「うむ。申し訳ないが、ワシの権限ではなんの約束も交渉も出来ん。全ては皇帝陛下と貴族院、民衆会議によって決まる。今我が帝国は民衆主義という、民が政に関わる体制を構築しようとしているのだ。まあ、ちきゅうれんぽーの国がどんな政をしているか知らんがな」
「では、取り急ぎ私達使節団の滞在先だけでも決めさせていただきたい。この人数です。しかもうかつに動いてこの子爵領を出てしまっては、あらぬ諍いが起きるかもしれません。他の貴族の方や帝都の役人の方が、子爵のように聡明な方とは限りませんからね」
一木渾身のお世辞だったが、子爵はまんざらでもないようだ。
がはは、と笑うと、一木達代表団を屋敷に招いた。
「甲冑をまとった貴人をこんな所に立たせたままにしては子爵領、いや帝国の沽券に関わりますからな」
そう言って一木達を案内するルニ子爵。
一木達は、あえて60式機兵輸送車に乗り込み、子爵の後を追った。
こうして未知の力を持っていることを少しづつ知らしめるのだ。
平和的な交渉の為にあくまで少しづつ。いきなり空を飛んだりはしない。
「むう、やはり馬無しで動く……これが海向こうの技術……いったいどうやって動いているのですか? 」
「申し訳ないが、これは連邦の秘術。おいそれとは……」
「あいや、すまん。ワシの悪い癖だ。すぐに珍しいものに首を突っ込みたくなる質でな」
ルニ子爵が装甲車のスピードに負けずに、肉を揺らしながら小走りで奔りながら答えた。
やはりかなり鍛えているようだ。一木は感心しつつ、シャルル大佐に通信を入れた。
『今街に入る。師団主力はジーク大佐に任せて待機させているから、シャルル大佐は急ぎバニフの肉を持ってこちらに来てくれ。そして兵士や街の人への詫びだと言って、バニフ料理をたらふく振る舞うんだ』
『よっしゃ~、野外振る舞いイベントキターー! 任せてください。ルニの街から今宵空腹という概念は消え失せますよ』
『……と、とりあえず任せた。とにかく飯と用意してた酒を振る舞って、なし崩しに少しでもたくさんのSSを街に入れるんだ、頼んだぞ』
街に入ると、門の所でルニ子爵は馬に乗り、数人の兵士を連れて一木達を屋敷まで引き続き先導した。
街中から妙な乗り物に乗る妙な連中を見る視線が一木達に集中し、一木は酷く居心地が悪かった。
ただ、乗っている他の参謀たちはマナに至るまで楽しそうに手を振っていた。
道端でぽーッとした顔でミラー大佐を見る住人を見ると、アンドロイド達の外見が女性であることの理由である『現地人を威圧しない』はしっかり達成されているようだ。
一木は色々と考えながらこの後の段取りを考えていた。
この後はルニ子爵とは外交関係や条約については深く触れず、ただ単に第四四師団の駐留場所の確保を行うことになる。
子爵の性格から言って難しい交渉にはならないだろうが、どうなるか……。
そんな不安な時間はまたたく間に終わり、思ったよりも小さな子爵の屋敷にたどり着いた。
見ると使用人たちが輸送車両を見て驚愕していた。昔生身の頃ネット小説の世界でよく見たリアクションだった。
そうして屋敷にたどり着き、一木達が車両を降りた時、屋敷から慌てて使用人の中年女性が現れた。
「どうした騒々しい。海向こうのお客人がきてると……」
「子爵様! 奥様が……」
「どうした!? 」
「お腹を抑えて急に苦しそうに……」
その言葉を聞くと、子爵は悔しそうに俯き、またか、とつぶやいた。
「子爵、奥様の病状に心当たりが? 」
一木が聞くと、子爵は十数秒しっかりと迷った後、小さな声で答えた。
「一昨年もなのです……腹の子を流してしまいまして……この年でやっと……授かった……も、申し訳ない……お客人を……」
「医者は呼ばないのですか? 奥方もお子さんも……一刻を争う! 」
一木の言葉に、子爵は小さく首を振った。
「呼ぼうにも医者は領地ハズレの村に爺さんが一人……産婆の婆さんは今領地内のここから遠い村に行ってる」
重苦しい空気。だが、地球連邦の面々は違った。
『これも仕込みか?』
と無線通信で一木。それに対して、同じく無線通信で殺大佐が答えた。
『まさか、ご婦人のお腹に細工するほど落ちぶれちゃいませんよ』
『すまない、忘れてくれ。しかしならば好都合だ。ニャル衛生課長、流産の疑いのある女性が子爵邸に一名いる。母子ともに危険な可能性あり。病院車両ありったけ持ってこっちに来てくれ』
そして一木は、ニャル衛生課長の言葉を待たず悲しみにくれる子爵に告げた。
「よろしければ奥方を見せて頂ければ……治療できるかもしれません。 我々には優秀な医者がおりますので、お力になれるかもしれませんよ? 」
程なくして、アミ中佐に先導されたルニ子爵と思しき男がやってきた。
禿頭に口髭をはやし、でっぷりと太った大男だった。
あの体型によくぞというフィットした胸甲を身に着けたその姿は、相撲部屋の親方がコスプレしたような印象だったが、キビキビとした物腰と腰に下げた大振りな曲刀の扱いから、男が武人であることがよく解った。
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「ワシがカラン・ルニ子爵である! その方らが海向こうから参ったという使者殿で相違ないか? 」
一木は一瞬、緊張から声が上ずりそうになったが、マナ、ジーク、殺の三人がポンッ、っと背中を軽く叩き励ましてくれたことで緊張が解けた。ミラー大佐は青筋を立てて怒っていたが。
何故か励ましよりも、アンドロイドが感情表現の為に青筋を立てる事を知った驚きの方が大きかった一木ではあったが、そのお陰か自分が思った以上に冷静な応対が出来た。
「そのとおりです。私が地球連邦政府の全権大使である一木弘和将軍です。この者たちは私の補佐をする者たちです」
一木の言葉を聞くと、ルニ子爵は顔を強張らせた。
こちらを疑っているのかもしれない、と一木は思った。
まあ、あの海の怪物たちを見れば無理もないだろう。
「あの恐ろしい海をどう超えて来たのかは興味があるが、それについては後で聞こう。しかし、正直言ってワシは海向こうから来たなどとても信じられなかった。今も半信半疑だが、こうして妙ちきりんな格好をした女ばかりの集団と、一木殿の様な立派な甲冑を身にまとった貴人を見ては、信じるほか無かろう」
随分と正直な物言いだったが、事前調査通りだ。
このルニ子爵は先祖の武勲で帝都近郊に領地を得た貴族だが、政治力はからっきし。帝都の官僚や貴族の中央からは距離を置いているという。
ただ一人、帝都に行く度に土産を持っていき仲良くしているグーシュ皇女を除いて。
あの皇女様と気が合うと聞いて、一木はどの様な人物かと思っていたが、どうも武人肌の竹を割ったような男のようだ。
細々した駆け引きが得意では無い一木としては、正直な物言いをしてくれる子爵はありがたい。
願わくばミラー大佐の餌食にならなければいいのだが。一木は憂えた。
「海向こうからの旅路などについては後ほど。具体的な交渉に関しても、帝都の方に連絡を取られてからの方がよろしいでしょう」
「うむ。申し訳ないが、ワシの権限ではなんの約束も交渉も出来ん。全ては皇帝陛下と貴族院、民衆会議によって決まる。今我が帝国は民衆主義という、民が政に関わる体制を構築しようとしているのだ。まあ、ちきゅうれんぽーの国がどんな政をしているか知らんがな」
「では、取り急ぎ私達使節団の滞在先だけでも決めさせていただきたい。この人数です。しかもうかつに動いてこの子爵領を出てしまっては、あらぬ諍いが起きるかもしれません。他の貴族の方や帝都の役人の方が、子爵のように聡明な方とは限りませんからね」
一木渾身のお世辞だったが、子爵はまんざらでもないようだ。
がはは、と笑うと、一木達代表団を屋敷に招いた。
「甲冑をまとった貴人をこんな所に立たせたままにしては子爵領、いや帝国の沽券に関わりますからな」
そう言って一木達を案内するルニ子爵。
一木達は、あえて60式機兵輸送車に乗り込み、子爵の後を追った。
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