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第三章 出会いと契約
第15話―1 真意
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一木は轟音を聞いた瞬間、グーシュ皇女が撃たれたと思った。
しかし、拳銃を構え射撃したはずのミラー大佐の右手首は存在せず、呆然とした表情で手首のない右腕をグーシュ皇女に向けているミラー大佐が立ちすくんでいた。
一木がモノアイをミラー大佐の足元、その後に背後の壁に目を向けると、旧日本軍の銃剣によく似た形状のAM10高周波ブレードがM65拳銃を握ったままの手首をひっかけて壁に突き刺さっていた。
すると、呆然とする部屋にいた者達をよそに、平然とした表情でシャルル大佐が声を発した。
一木はその時にようやく、ミラー大佐が拳銃をグーシュ皇女に向けた瞬間、シャルル大佐が高周波ブレードをミラー大佐に投擲して発砲を防いだことに気が付いた。
「ミラー! お食事は! 楽しく! 殺、ミラーを連れて部屋を出てなさい」
見ると、殺大佐も腰の青龍刀に手をやっていたが、シャルル大佐の投擲の方がはるかに速かったようだ。
殺大佐は一木とグーシュ皇女に頭を下げると、ミラー大佐をしっかりと抱き寄せて、一緒に歩き出した。
「わたし……私はいったい……あの女、亡命するふりをしてハンス隊長を……」
「すまないな一木司令……ちょっと状況が悪かったんだ。本当にデフラグして休むべきだったのはこいつだったんだ……詳しい事は後で説明するから……」
二人が出ていくと、部屋には沈黙が訪れた。
だが、それも長くは続かなかった。
グーシュ皇女がタルトを一気に頬張り食べ終わると、あたりを見渡して言った。
「一木代表、もめ事かな? 部下の方は大丈夫か? 落ち着いたらわらわも見舞いなどした方がいいかな?」
何事もなかったように言うグーシュ皇女の態度に、一木が反応しかねていると、いち早く立ち直ったミルシャが困惑したようにグーシュ皇女に近づいた。
「で、殿下、僕にはいったい何が何やら……橋を落としたのが……一木代表たち……それはどういう。そ、それに今のは一体……」
「今起きたのはそうさな……ちょっとしたいざこざだよ。あとでミラー参謀の見舞いにでも行けばよいのだ。橋の事については……」
グーシュ皇女は一木の顔を見るとニコリと笑った。
「一木代表、話しても大丈夫かな?」
一木は頷くのがやっとだった。
先ほどからモノアイがゆらゆらクルクルと忙しなく動いている事を自覚していたが、どうしようもない。
一旦仕切り直すべきだ。
そう、まずはグーシュ皇女の真意を聞かなければ。
グーシュ皇女が結論を出すに至った過程を聞き、その間に態勢を立て直す。
静かに排熱ダクトから空気を吐き出す。
大丈夫だ。ここは宿営地で、相手はただの十八歳の少女二人に過ぎない。
根拠のない言葉一つで心細くなってはいるが、状況的に追い詰められるような事は一切ないのだ。
それでも、落ち着き払って笑顔でこちらを見るグーシュ皇女の言葉を聞くたびに、一木には不安がよぎり、信頼していた外務参謀の行動への困惑が頭の中を埋め尽くそうとする。
そして、何が一番危機を煽るかと言えば、そんな一木の心中を見抜いて逆に落ち着かせようと気を遣うグーシュ皇女の態度だ。
自分がこのような体になって尚、平凡な一般人であるという認識の下行動する一木にとって、その態度は嫌でも皇族として生を受けた者との格差を感じさせる。
自らが率いる圧倒的な軍備と技術力。それらによる優位性を薄紙のように突き破ってくるグーシュ皇女に圧倒されそうになる。
それでも、負けられないのだ。
一木は自分を信頼してくれている上司、参謀達、部下達、そしてマナの顔を思い浮かべると、目の前の皇女と向き合った。
「うむ、落ち着いたようだな。まあ、なんだ。硬くならずに聞いてほしい。わらわの素人考えで導いた答えだ」
「配慮、痛み入ります。それではお聞かせください。なぜ、我々がそのような行為に及んだとご判断されたのか」
声が震えていないことに安堵すると同時に、情けない気持ちになる。
すると、甘いオレンジの香りと味が脳に染み入るように感じられた。
ちらりと横を見ると、マナがオレンジジュースを飲んでくれていた。
自分を落ち着かせようとしてくれているのだろう。
糖分を摂取したわけでもないのに脳が軽くなるような錯覚を覚え、気持ちが楽になった。
「まことに申し訳ないが……いや逆か。一木代表には安心してもらいたい。実のところ疑いの根源は一木代表や地球連邦の者達とは関係ないところから生じていたのだ」
その言葉に、グーシュ皇女の言葉通り一瞬本当にホッとしてしまい、一木は自信を恥じた。
サラリーマンの頃から自分が全く変わっていない事実が嫌になる。
今は、自分が責任者で、なおかつ失敗をカバーしてくれる同僚はいないのだ。
「そうだ、安心していいのだ一木代表。わらわは前提として知っていたのだ。イツシズ達がいざという時の事を考え騎士団の火薬を横領して隠匿していたことを。そして、その火薬では今回わらわが通るガイス大橋を崩すことが出来ないことをな」
しかし、拳銃を構え射撃したはずのミラー大佐の右手首は存在せず、呆然とした表情で手首のない右腕をグーシュ皇女に向けているミラー大佐が立ちすくんでいた。
一木がモノアイをミラー大佐の足元、その後に背後の壁に目を向けると、旧日本軍の銃剣によく似た形状のAM10高周波ブレードがM65拳銃を握ったままの手首をひっかけて壁に突き刺さっていた。
すると、呆然とする部屋にいた者達をよそに、平然とした表情でシャルル大佐が声を発した。
一木はその時にようやく、ミラー大佐が拳銃をグーシュ皇女に向けた瞬間、シャルル大佐が高周波ブレードをミラー大佐に投擲して発砲を防いだことに気が付いた。
「ミラー! お食事は! 楽しく! 殺、ミラーを連れて部屋を出てなさい」
見ると、殺大佐も腰の青龍刀に手をやっていたが、シャルル大佐の投擲の方がはるかに速かったようだ。
殺大佐は一木とグーシュ皇女に頭を下げると、ミラー大佐をしっかりと抱き寄せて、一緒に歩き出した。
「わたし……私はいったい……あの女、亡命するふりをしてハンス隊長を……」
「すまないな一木司令……ちょっと状況が悪かったんだ。本当にデフラグして休むべきだったのはこいつだったんだ……詳しい事は後で説明するから……」
二人が出ていくと、部屋には沈黙が訪れた。
だが、それも長くは続かなかった。
グーシュ皇女がタルトを一気に頬張り食べ終わると、あたりを見渡して言った。
「一木代表、もめ事かな? 部下の方は大丈夫か? 落ち着いたらわらわも見舞いなどした方がいいかな?」
何事もなかったように言うグーシュ皇女の態度に、一木が反応しかねていると、いち早く立ち直ったミルシャが困惑したようにグーシュ皇女に近づいた。
「で、殿下、僕にはいったい何が何やら……橋を落としたのが……一木代表たち……それはどういう。そ、それに今のは一体……」
「今起きたのはそうさな……ちょっとしたいざこざだよ。あとでミラー参謀の見舞いにでも行けばよいのだ。橋の事については……」
グーシュ皇女は一木の顔を見るとニコリと笑った。
「一木代表、話しても大丈夫かな?」
一木は頷くのがやっとだった。
先ほどからモノアイがゆらゆらクルクルと忙しなく動いている事を自覚していたが、どうしようもない。
一旦仕切り直すべきだ。
そう、まずはグーシュ皇女の真意を聞かなければ。
グーシュ皇女が結論を出すに至った過程を聞き、その間に態勢を立て直す。
静かに排熱ダクトから空気を吐き出す。
大丈夫だ。ここは宿営地で、相手はただの十八歳の少女二人に過ぎない。
根拠のない言葉一つで心細くなってはいるが、状況的に追い詰められるような事は一切ないのだ。
それでも、落ち着き払って笑顔でこちらを見るグーシュ皇女の言葉を聞くたびに、一木には不安がよぎり、信頼していた外務参謀の行動への困惑が頭の中を埋め尽くそうとする。
そして、何が一番危機を煽るかと言えば、そんな一木の心中を見抜いて逆に落ち着かせようと気を遣うグーシュ皇女の態度だ。
自分がこのような体になって尚、平凡な一般人であるという認識の下行動する一木にとって、その態度は嫌でも皇族として生を受けた者との格差を感じさせる。
自らが率いる圧倒的な軍備と技術力。それらによる優位性を薄紙のように突き破ってくるグーシュ皇女に圧倒されそうになる。
それでも、負けられないのだ。
一木は自分を信頼してくれている上司、参謀達、部下達、そしてマナの顔を思い浮かべると、目の前の皇女と向き合った。
「うむ、落ち着いたようだな。まあ、なんだ。硬くならずに聞いてほしい。わらわの素人考えで導いた答えだ」
「配慮、痛み入ります。それではお聞かせください。なぜ、我々がそのような行為に及んだとご判断されたのか」
声が震えていないことに安堵すると同時に、情けない気持ちになる。
すると、甘いオレンジの香りと味が脳に染み入るように感じられた。
ちらりと横を見ると、マナがオレンジジュースを飲んでくれていた。
自分を落ち着かせようとしてくれているのだろう。
糖分を摂取したわけでもないのに脳が軽くなるような錯覚を覚え、気持ちが楽になった。
「まことに申し訳ないが……いや逆か。一木代表には安心してもらいたい。実のところ疑いの根源は一木代表や地球連邦の者達とは関係ないところから生じていたのだ」
その言葉に、グーシュ皇女の言葉通り一瞬本当にホッとしてしまい、一木は自信を恥じた。
サラリーマンの頃から自分が全く変わっていない事実が嫌になる。
今は、自分が責任者で、なおかつ失敗をカバーしてくれる同僚はいないのだ。
「そうだ、安心していいのだ一木代表。わらわは前提として知っていたのだ。イツシズ達がいざという時の事を考え騎士団の火薬を横領して隠匿していたことを。そして、その火薬では今回わらわが通るガイス大橋を崩すことが出来ないことをな」
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