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第三章 出会いと契約

第17話―1 来訪後の惨劇

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「というわけで、地球ではアメリカと中国と言う二国による対立が激化し、ついには月の資源を巡る戦争状態直前にまで達しました。ですが、その時月の上空に銀色の穴が開き、そこから一隻の船が現れたのです。その船には土偶……」

 一木はグーシュに、サンフランシスコの議会ホールに並び立つナンバーズの画像を見せた。

「このような見た目の七体の機械が乗っていました」

「ずいぶんと不細工な機械だな。誰がこいつらを作ったのだ?」

 不細工と言いつつも、ずいぶんと楽し気にグーシュは言った。

「数万年前に滅びた、地球をはるかに超える技術力を持っていた種族が彼らの生みの親だそうです。彼らは自分達をナンバー1からナンバー7と番号で呼称しました。そのため、彼らの事を地球ではナンバーズと呼びます」

「ナンバーズ……なるほど。つまりは地球もルーリアト帝国と同じように”来訪されていた”のか。それで、アメリカと中国の戦争はどうなったのだ?」

「両軍の戦闘は回避され、米中を含む地球上の主要国はナンバーズの求めに応じて宇宙船に使節を送り、会談が持たれました」

 一木はグーシュに、ナンバーズがもたらした地球繁栄の礎となった超技術の事と、それに伴う代価の事を説明していった。
 グーシュの知識は一木の想像を超えており、説話と呼ばれるSF小説や星辰と呼ばれる天文学の知識などを元にダイソン球や空間湾曲ゲートについて理解していった。

「なるほどな。そして、ナンバーズが与えた技術のうちの一つが歯車騎士……アンドロイドと言うわけか」

「まあ、そうなります。この辺りは動画の通りですよ。アンドロイドによる労働力とダイソン球による無尽蔵のエネルギーにより、地球からは飢えも労苦も消えてなくなりました」

「それは分かったが、そのことがなぜ田舎惑星への慈善事業に繋がる?」

「ナンバーズは自分たちの新しい主を求めていました。そのために技術の対価として、地球人類に様々な要求を突き付けた、と言うわけです。停戦、統一国家の設立、アンドロイドの普及、そして星間国家の設立……」

 一木の言葉にグーシュは驚いたような顔をした後、すぐに納得したような表情を見せた。

「なるほど、そういう事か。人間が慈善事業をする理由は二つしかない。自己満足か、やらされているかだ。地球連邦は後者と言うわけか」

 事実、なのだが改めてそう言われると一木としてもいまいち決まりが悪い。
 つい言い訳じみたことを言ってしまう。

「確かにきっかけはそうかもしれませんが、異世界派遣軍も長い歴史の中で経験を積み、惑星や世界の幸福のために……」

 ほとんど教科書の受け売りの暗唱に近い文言であり、案の定グーシュはそれを聞いて笑い出した。
 だが、笑いの後に出た言葉には笑いが感じられなかった。

「一木……嘘はつかんのだろ?」

 一木は気を抜いた自分を責めつつ、グーシュが条件を遵守しようとしている事が分かり安堵した。
 やはりここで、グーシュの協力者としての資質を見極めなければならない。

「敵いませんね。ええ、異世界の連邦加入はナンバーズによる課題を達成しようとするためです。連邦自体に必要性があるものではありません。具体的に言えば、初期の異世界制圧は安全保障上の理由が存在しましたがね」

 一木の言葉にグーシュはハッとした表情を浮かべた。

「ダイソン球……エデン星系のダイソン球か! 確かに国の心臓の隣に隣人の手足があれば安眠出来んな」

「本当に察しがいいですね……そうです。エデン星系の星系内に開いた空間湾曲ゲートを潜った先に、カルナークという惑星がありました。来訪寸前の地球と比べても技術程度が百年程度しか離れていない、その上自力で惑星統一国家を築いた強力な国家でした」

「それは……そのカルナークという国家は運が悪かったな。そこまで条件が重なれば放ってはおけん。それでそのカルナークはどうなったのだ?」

 その問いを聞いた一木は一瞬、脳裏にカルナークの激戦を戦ったという参謀達の顔が浮かんできたが、今はひとまず置いておく。

「圧倒的な戦力で攻めた地球側でしたが、敵の徹底した抵抗と、中盤まで行われていたアンドロイドへの厳しい交戦規定のせいでずいぶんと苦戦しました。結局十五年の歳月と、異世界派遣軍の創立メンバー……組織の屋台骨のほとんどを失いました」

「それだ!」

 突然、グーシュが叫んだ。
 何事かと一木は驚き、モノアイがぐるりと一周回転した。

「どうも疑問に思っていたのだ。あんなに人間のようにふるまえるアンドロイドがいるのに、なぜ一木やサーレハなる者がいるのだ? アンドロイドだけの軍勢を派遣して、地球でのんびりしないのにはどんな理由があるのだ? もしかしてだが、先ほどの話で感じたのだが、地球の政府はアンドロイド達の事を信用していないのではないか?」

 一木は気が付いた。
 グーシュはやはり、一木同様地球連邦が協力相手足り得るかを知ろうとしている。
 不可解な来訪理由に続いて、力の源泉であるアンドロイドの事を知ろうとしているのだ。

 ならばまずは答えるしかない。
 アンドロイド達の血塗られた物語を。

「その通りです。正直言って、アンドロイドの事を中央は信用していません。むしろ常に反乱の可能性を危ぶんでいます」

「わからんな……あそこまで献身的にしているアンドロイド達の何が不満なのだ……確かに先ほどミラー殿はわらわを害そうとしたが、それも一木の事を思っての事ではないか」

「それは、第二次大粛清と呼ばれる出来事のせいです。先ほど言ったアフリカと言う大陸への軌道砲撃を第一次大粛清……そしてそののちに起こったこの出来事こそが、今の地球を形作ったと言えます」
   
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