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第三章 出会いと契約
第17話―2 来訪後の惨劇
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第一次大粛清が全てナンバーズにより行われた物だったのに対して、第二次大粛清のきっかけは人類自らの手によって作られた。
きっかけは反連邦活動の活性化だった。
当時すでにエネルギー革命とアンドロイドによる労働力、そしてそれに伴うベーシックインカム制度の普及は進んでおり、人類は労苦から解放されつつあった。
しかしこのことは一部の人々に”人間らしさ”の欠如への不安や、アンドロイドという存在への忌避感から反発を生み始めていた。
そして決定的だったのが、パートナーアンドロイドの支給開始だった。
このことはアンドロイドへ不信感を持つ人々と、宗教勢力、人間の文化への不安を抱える人々を結び付け、それまで漠然としていた反連邦、反ナンバーズ勢力を大きなまとまりへと昇華させた。
その中でも過激派と目される勢力はアフリカやアジア、南米で一斉に蜂起。
アンドロイドの打ちこわし活動や連邦職員の殺害に及んだ。
この事態に対し、サンフランシスコの連邦政府は討伐宣言と共に史上初となるアンドロイドによる軍隊、地球連邦軍を世界に向けて発表。
三十万人規模のSS主体のこの軍隊を三つに分け、反連邦勢力の討伐を行うことを宣言した。
「そうして行われた討伐は、ほぼ一方的な流れになりました。それまで正規軍ですら手こずっていた反政府勢力に対して、アンドロイドの性能は圧倒的だったそうです。二か月ほどで主要な反政府勢力の部隊を撃破し、掃討戦に移行しました」
一木の教科書からの受け売りを聞いて、グーシュは渋い顔をした。
「なるほどな。宗教か……神官や信者は確かに厄介だな。しかし、聞いた限りではアンドロイドへ不信感を抱くようなことは何もないように思うが?」
一木は一瞬、本当にこの先の事を教えていいか迷った。
自分はシキや他のアンドロイドと出会ってからこの先の事を聞いたためにそれほど動揺はしなかったが、グーシュが聞いた時、アンドロイドへ不信感を抱かないか心配になったのだ。
だが、この場で誤魔化すことは出来ない。
一番交流の深いニャル中佐がグーシュに良い印象を与えている事を願うしかない。
一木は決心して話し始めた。
「問題はその後……。掃討戦は半年ほども続きました。しかもそれまで逐一広報官によって戦果が公表されていたのに対して、掃討戦の状況は全く公表されていなかった……そのことが地球人に連邦政府への不信を生みました。実はその時には、すでに地球連邦から作戦の主導権はナンバーズに移っていたそうです。現地の指揮官や国防省ですら実態を把握していなかった……」
「なぜそんなことに……軍の指揮権がそう簡単に移行させられるなど……」
「ルーリアトの騎士団ですら当たり前であることが、地球連邦軍には出来なかった……つまりはアンドロイド達はナンバーズには逆らえない。どんなに規則や法律、人間への親愛を設定しても、ナンバーズの一声ですべてを投げ出して従う。一部の人間が主張していたその事実が正式に明らかになり、世界に動揺が広がる中、ナンバーズのナンバー2と呼ばれる個体がこう発表しました」
グーシュは何かを察したように唾を飲み込んだ。
一木は絞り出すように続けた。
「反政府勢力の討伐成功。殺害戦果二十億人……と」
さすがにグーシュも驚いた表情を浮かべた。
無理もないことだ。一木も最初この記述を読んだ時、何かの間違いだと思った。
「バカな……ルーリアトの人口が……五千万ほどだぞ! 二十億など……その時の地球の人口は?」
一木はグーシュに地球の地図を表示して、示しながら説明した。
「百億ほどでした。殺害が多かったのはアフリカや中央アジア、インド周辺など……殺害されたのは主にナンバーズによる恩恵をこの時期にも受けられなかった貧困層でした。つまり何のことはない、ナンバーズは間引いたんですよ。連邦軍の反政府勢力掃討にかこつけて人類をね。恩恵をもたらすには多すぎた人類が邪魔だったんでしょう」
殺害はナンバーズの支援を受けたアンドロイドによって効率的に行われた。
通信妨害と交通遮断による目標地域の孤立化と、毒ガスや細菌兵器搭載弾頭による軌道上からの広域処理。
そしてアンドロイド部隊の突入による残存処理とガスや細菌の無害化。
スラム街や都市に住んでいた貧困層の大半がこれによって死に絶え、後には更地にされた元スラムだけが残った。
現地政府は何が起こったのか、作戦が終了して立ち入りが許可されるまで知ることが出来なかったという。
これによってアンドロイドへ不信感を持つ人間が続出した。
無理もない。
どんなに信頼し、関係が深まってもナンバーズの一言で豹変する存在をどうして信じられるだろうか。
「その後、この事実を知った穏健派と呼ばれる反ナンバーズ勢力によりある宣言が行われました。ローマと言う都市で宣言されたこの宣言が、また新たな問題を生むことになります」
そしてこれは一木にも関係してくる問題であった。
そう、非常に深く……。
「アンドロイド禁止特別区を求める宣言……通称ローマ宣言と呼ばれるものです。武力を用いる事を良しとしない穏健派による宣言で、ナンバーズや連邦そのものには賛意を示した上で、アンドロイドを使わない権利を求めたものでした」
「アンドロイドを使わない権利……だがナンバーズが呑むわけがないな。与えられた権利を拒否する事は結局、ナンバーズその物への否定に繋がる」
グーシュの言葉を一木は頷いて肯定した。
「その宣言への対応を行ったのは連邦政府ではなくナンバーズでした。答えはある意味では宣言を認めるものでしたが、あまりにも過酷なものでした」
そういって一木はグーシュの目の前の画面を操作した。
表示されていた地球の世界地図が、どんどんとズームアウトしていく。
やがて地図は地球上を飛び出し、太陽系の惑星図が映し出され、とある惑星がピックアップされた。
「ナンバーズが禁止特別区に指定したのは、当時完全な未開の地だった火星という星です。ナンバーズはここを特別区にしたうえで、宣言への賛同者を開拓団として送ることを決定したんです」
「そんな!? それは強制だったのか?」
「宣言賛同者には二十四時間の猶予が与えられましたが、宣言を主導したリーダー格などは強制だったそうです。このことが後に自治区となり、今現在も独立を宣言して政治的に対立している”火星民主主義人類救世連合”通称火人連との対立の原因となります」
きっかけは反連邦活動の活性化だった。
当時すでにエネルギー革命とアンドロイドによる労働力、そしてそれに伴うベーシックインカム制度の普及は進んでおり、人類は労苦から解放されつつあった。
しかしこのことは一部の人々に”人間らしさ”の欠如への不安や、アンドロイドという存在への忌避感から反発を生み始めていた。
そして決定的だったのが、パートナーアンドロイドの支給開始だった。
このことはアンドロイドへ不信感を持つ人々と、宗教勢力、人間の文化への不安を抱える人々を結び付け、それまで漠然としていた反連邦、反ナンバーズ勢力を大きなまとまりへと昇華させた。
その中でも過激派と目される勢力はアフリカやアジア、南米で一斉に蜂起。
アンドロイドの打ちこわし活動や連邦職員の殺害に及んだ。
この事態に対し、サンフランシスコの連邦政府は討伐宣言と共に史上初となるアンドロイドによる軍隊、地球連邦軍を世界に向けて発表。
三十万人規模のSS主体のこの軍隊を三つに分け、反連邦勢力の討伐を行うことを宣言した。
「そうして行われた討伐は、ほぼ一方的な流れになりました。それまで正規軍ですら手こずっていた反政府勢力に対して、アンドロイドの性能は圧倒的だったそうです。二か月ほどで主要な反政府勢力の部隊を撃破し、掃討戦に移行しました」
一木の教科書からの受け売りを聞いて、グーシュは渋い顔をした。
「なるほどな。宗教か……神官や信者は確かに厄介だな。しかし、聞いた限りではアンドロイドへ不信感を抱くようなことは何もないように思うが?」
一木は一瞬、本当にこの先の事を教えていいか迷った。
自分はシキや他のアンドロイドと出会ってからこの先の事を聞いたためにそれほど動揺はしなかったが、グーシュが聞いた時、アンドロイドへ不信感を抱かないか心配になったのだ。
だが、この場で誤魔化すことは出来ない。
一番交流の深いニャル中佐がグーシュに良い印象を与えている事を願うしかない。
一木は決心して話し始めた。
「問題はその後……。掃討戦は半年ほども続きました。しかもそれまで逐一広報官によって戦果が公表されていたのに対して、掃討戦の状況は全く公表されていなかった……そのことが地球人に連邦政府への不信を生みました。実はその時には、すでに地球連邦から作戦の主導権はナンバーズに移っていたそうです。現地の指揮官や国防省ですら実態を把握していなかった……」
「なぜそんなことに……軍の指揮権がそう簡単に移行させられるなど……」
「ルーリアトの騎士団ですら当たり前であることが、地球連邦軍には出来なかった……つまりはアンドロイド達はナンバーズには逆らえない。どんなに規則や法律、人間への親愛を設定しても、ナンバーズの一声ですべてを投げ出して従う。一部の人間が主張していたその事実が正式に明らかになり、世界に動揺が広がる中、ナンバーズのナンバー2と呼ばれる個体がこう発表しました」
グーシュは何かを察したように唾を飲み込んだ。
一木は絞り出すように続けた。
「反政府勢力の討伐成功。殺害戦果二十億人……と」
さすがにグーシュも驚いた表情を浮かべた。
無理もないことだ。一木も最初この記述を読んだ時、何かの間違いだと思った。
「バカな……ルーリアトの人口が……五千万ほどだぞ! 二十億など……その時の地球の人口は?」
一木はグーシュに地球の地図を表示して、示しながら説明した。
「百億ほどでした。殺害が多かったのはアフリカや中央アジア、インド周辺など……殺害されたのは主にナンバーズによる恩恵をこの時期にも受けられなかった貧困層でした。つまり何のことはない、ナンバーズは間引いたんですよ。連邦軍の反政府勢力掃討にかこつけて人類をね。恩恵をもたらすには多すぎた人類が邪魔だったんでしょう」
殺害はナンバーズの支援を受けたアンドロイドによって効率的に行われた。
通信妨害と交通遮断による目標地域の孤立化と、毒ガスや細菌兵器搭載弾頭による軌道上からの広域処理。
そしてアンドロイド部隊の突入による残存処理とガスや細菌の無害化。
スラム街や都市に住んでいた貧困層の大半がこれによって死に絶え、後には更地にされた元スラムだけが残った。
現地政府は何が起こったのか、作戦が終了して立ち入りが許可されるまで知ることが出来なかったという。
これによってアンドロイドへ不信感を持つ人間が続出した。
無理もない。
どんなに信頼し、関係が深まってもナンバーズの一言で豹変する存在をどうして信じられるだろうか。
「その後、この事実を知った穏健派と呼ばれる反ナンバーズ勢力によりある宣言が行われました。ローマと言う都市で宣言されたこの宣言が、また新たな問題を生むことになります」
そしてこれは一木にも関係してくる問題であった。
そう、非常に深く……。
「アンドロイド禁止特別区を求める宣言……通称ローマ宣言と呼ばれるものです。武力を用いる事を良しとしない穏健派による宣言で、ナンバーズや連邦そのものには賛意を示した上で、アンドロイドを使わない権利を求めたものでした」
「アンドロイドを使わない権利……だがナンバーズが呑むわけがないな。与えられた権利を拒否する事は結局、ナンバーズその物への否定に繋がる」
グーシュの言葉を一木は頷いて肯定した。
「その宣言への対応を行ったのは連邦政府ではなくナンバーズでした。答えはある意味では宣言を認めるものでしたが、あまりにも過酷なものでした」
そういって一木はグーシュの目の前の画面を操作した。
表示されていた地球の世界地図が、どんどんとズームアウトしていく。
やがて地図は地球上を飛び出し、太陽系の惑星図が映し出され、とある惑星がピックアップされた。
「ナンバーズが禁止特別区に指定したのは、当時完全な未開の地だった火星という星です。ナンバーズはここを特別区にしたうえで、宣言への賛同者を開拓団として送ることを決定したんです」
「そんな!? それは強制だったのか?」
「宣言賛同者には二十四時間の猶予が与えられましたが、宣言を主導したリーダー格などは強制だったそうです。このことが後に自治区となり、今現在も独立を宣言して政治的に対立している”火星民主主義人類救世連合”通称火人連との対立の原因となります」
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