地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

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第三章 出会いと契約

第20話ー1 ナンバーズ

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 マナ達を落ち着かせると、一木はシャルル大佐にグーシュを着替えさせるように指示を出した。
 この後の駐留部隊による閲兵式と、その後にルニの街中央まで行われるパレードに、まさか先ほどの服装で参加するわけにはいかない。

「とうわけで頼んだぞ、シャルル大佐」

「了解でーす! さあ殿下、こちらへどうぞ。ミルシャちゃんもこっちに来てね」

「ちゃ、ちゃん……僕はもう十八だぞ! そのような……」

 相も変わらず騒がしく着替えに向かうグーシュ達を見送った一木は、殺大佐にミラー大佐の事を尋ねた。 
 答えは先ほどシャルル大佐に言った内容と変わりなく、状態は安定しているようだ。
 しかし殺大佐は、ミラー大佐の処分について気にかけているようだった。

「あんなことをしたあいつを庇うようで申し訳ないが……処分は穏便にしてやってくれないか? 降格はやむを得ないとしても、除隊や初期化だけは……」

 一木としてもミラー大佐の処遇は悩みどころだった。
 グーシュは気にしていないようだったが、軍隊としてあのような行いをしたミラー大佐をどう扱っていい物か悩んでいたのだ。
 とはいえ、甘いと言われようがあまり重い処分を下したくはなかった。
 ましてや除隊や初期化など、なんとしても避けたいところだ。

 厳しい態度に閉口することはあったが、それでも何かと頼りになる参謀だった。
 異常を事前に察知できなかった自分にも責任があると一木は思っていた。

「これからサーレハ司令に報告するから……その時に相談してみよう。ああ、それに今日の行事が一通り終わったら自分もミラー大佐に会いに行って話を聞いてみるか……」

「そうしてやってくれ。あいつは一木司令の事を気に入ってるから、喜ぶよ」

 唐突な殺大佐の言葉に一木は困惑した。
 ジジジ、という鈍い音を立ててモノアイが揺れた。

「……確かに厳しいながらも助かるアドバイスをもらってはいたけど……気に入られているとは……」

 一木の困惑をよそに、殺大佐はクスリと笑みを浮かべた。
 何か思い出しでもしたのだろうか。

「あいつは気に入った人間ほど厳しい態度をとるのさ。だから、その観点からいけば一木司令はかなり気に入られてるよ」

「なんでそんな難儀な性格に……」

 だが、殺大佐は一木の問いには答えず、静かに閲兵式の会場へと歩き出した。

「そいつは自分であいつに聞きな。部下の管理も司令の仕事だよ」

 当然の事だ。
 未熟であろうがその責任は果たす。
 一木は心の中でそう思ったが、同時にこれ以上負担が増えるのかと思うと憂鬱になるのだった。

 そうしてまた問題を一つ増やした一木は、マナに頭部アンテナの応急修理の道具を取りに行かせると、自室で通信をつないだ。

 相手はもちろん、直属の上司であるアブドゥラ・ビン・サーレハ司令だ。
 彼には、問いただしたいことがある。

 そうして通信を入れると、やたらと長い呼び出しの後でオペレーターが出た。
 直通で通信を入れたのにかかわらず、本人はおろか副官のスルターナ少佐でもないSLのオペレーターが出るのは珍しい。

「サーレハ司令は出られないのか?」

「申し訳ありません、一木師団長。サーレハ司令は只今取り込んでおりまして。少々お待ちください」

 そうして待つこと数分。
 オペレーターの顔を眺め続ける居心地の悪さが限界に達しつつあったころ、画面が切り替わりサーレハ司令が顔を出した。

 自室で休んでいたのか、ジャケットを脱いだラフな格好だった。
 背景にはちらりとテーブルとその上に用意された珈琲と菓子が見えた。

「あ、申し訳ありませんでした、お休みでしたか?」

 相も変わらず鋭い目つきだったが、物腰はいつものように柔らかい。
 ニコリと微笑みながらサーレハ司令は応じた。

「なあに、スルターナ少佐と少し休憩していただけだ。それでどうした? 何かあったかな?」

「実は……」 

 一木はひとまず、今日起こった様々な出来事を報告していった。
 グーシュとミルシャとの最初の会談、その後の監視活動。

 二人に橋の崩落に関する真相を察知された可能性を考えた事。

 そして迎えた昼食会と、グーシュに真相を突き付けられた事。
 そしてミラー大佐の暴走と、その後の一対一での会談。

 概ねすべてを話したが、グーシュとの盟約についてだけは話さなかった。
 連邦から火星主義者を一掃するというのは、反逆と取られてもおかしくはないことだ。
 少なくとも、今は話せない。

 黙って聞いていたサーレハ司令だが、一口珈琲を飲むと口を開いた。

「そのグーシュという皇女殿下は随分と逸材のようだな。しかし連邦大統領になるか……ははは、それは大層なことだな」

「ええ、私もそう思います。ですが実際に会って話をすると、それが可能だと思ってしまうほどのカリスマを感じました。大統領は抜きにしても、ルーリアト帝国との交渉においては彼女を支援して向こうの代表者に据えてしまうのが一番いいと判断しました」
 
 一木の言葉を聞くと、サーレハ司令はにこやかに笑みを浮かべた。

「君がそう判断したなら私は尊重しよう。しかしそうなると問題はミラー大佐の処遇だな。君はどうしたい?」

「グーシュ……殿下が気にしていないという事もありますし、私としては彼女の力が今後も必要になります。この後話をした上で、厳罰は避けて穏便な処遇を考えたいと思います」

 サーレハ司令は一木の答えを聞くと手元の端末を操作した。
 しばらくあれこれと操作していたサーレハ司令は、こくりと頷くと一木の方を向いた。

「それならばミラー大佐を一旦副外務参謀へと降格させよう。そのうえでクラレッタ大佐に外務参謀を兼務させてしばらく監督と監視をさせる。これでどうだ?」

「クラレッタ内務参謀、ですか?」

「そうだ。彼は頼りになるし、ミラー大佐とは昔から仲がいい。君さえよければ内務参謀部の課長たちに業務を引き継がせて地上におろすが、どうだ?」

 一木としては、クラレッタ大佐には気を付けろ、などと言われたこともあって少し警戒していたのだが、この状況においてはミラー大佐の事を考えなければならないだろう。
 一木は腹を括って答えた。

「そうしてくだされば助かります。サーレハ司令には負担を掛けますが……」

「なあに、構わんよ。君がこうして成長して成果を上げてくれるのならこの程度は大丈夫だ」

 懸案事項を一つ解決した一木は、いよいよ本題に入ることにした。
 あの白い少女の件だ。
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