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第三章 出会いと契約
第20話ー2 ナンバーズ
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「サーレハ司令……」
「ところでだが……」
一木が質問しようとした瞬間、狙いすましたようにサーレハ司令が言葉を遮った。
突然の事に一木が言葉を切ると、サーレハ司令は笑みを浮かべながら続けた。
「先ほどの話の事で聞きたいことがある」
そう言ってサーレハ司令は、通信回線を指揮官用の秘匿回線から、重要機密用回線に切り替えた。
秘匿回線が通信内容を秘匿するものの、その通信をした事実自体は艦隊参謀に通知されるのに対して、重要機密用回線は艦隊司令のみが利用可能な、通信の事実さえも秘匿される最高レベルの回線だ。
もちろんめったに使用されるものではない。
「君はグーシュ皇女の”大統領になる”という言葉を聞いてどう思ったのかね?」
一木はどきりとした。
一瞬話を聞かれていたのかとも思ったが、まずは疑われないようにしなければと必死に平静を装った。
「さ、先ほども言った通り、彼女のカリスマ性と視野の大きさを感じさせる発言だと……」
「復讐に利用できる……と思ったのではないかな?」
「……!」
今度こそ完全に、一木は驚愕を表に出した。
サーレハ司令は、どこまで知っているのか。
動きを我慢しているモノアイが、ギシギシと音をたてた。
「君は絶望したはずだ。シキというかけがえのない存在が死んだことにではない。その死を悼まない地球連邦の現状にだ。その思いは、立ち直ってこの艦隊で多くのアンドロイド達と接する中でさらに大きくなったのではないかな?」
途中途中でサーレハ司令の言葉を遮り、反論しようと試みる。
しかし、言葉が出なかった。
まるで心を読まれるように、一木の心中と合致する事ばかりだったからだ。
シキの死は辛かった。
復讐と言う、やるべき行動も思いついた。
だが、挑みようのない地球連邦という巨大なシステム自体の問題が、それが立ちふさがる事実が、一木から行動する力を奪っていた。
それがあの引きこもっていた時期に考えていたことだ。
「アンドロイド達の生は長い。物理的な破損以外では不死と言っても過言ではない。君が死んでもマナ大尉やジーク大佐達の活動は続いていく」
サーレハ司令の笑みは、気が付くと憤怒の形相になっていた。
彼も、何かに怒っているのか……。
「そんな彼女たちは曝され続ける。アンドロイド達を侵略者ナンバーズの手先として見下し、物としか見ない火星主義者たちにだ。守り続ける君のような存在が消えれば、いずれ彼女らはどこかの異世界でボロ屑のように消費される」
「サーレハ……司令……」
言葉にならない。
なぜ、彼はここまで一木の心中を……。
「ならば地球連邦を改革するか? 確かに地球連邦は民主主義国家だ。だが、一個人が改革可能な立場に至り、実際にそれをなすのは不可能に近い。常識的な考えを持つ人間ならそう考える。そんな時に……」
「……グーシュが、希望に感じられました」
ポツリと一木は口に出していた。
グーシュのあまりにも無茶な言葉。
戯言だと思い、最初は驚きと微かな希望を抑え込んだ。
だが、グーシュの行動原理を読み解いていくと、抑え込めなくなった。
この無尽蔵な好奇心と目標へと邁進する力があれば。
あのカリスマと行動力と、微力ながらも一木のサポートがあれば。
地球連邦という、アンドロイド達を苦しめる機構を何とか出来るのではないか。
「なぜ、ここまで自分の考えが読まれているのか疑問だろう?」
サーレハ司令の言葉に、一木は頷いた。
「君はグーシュ皇女に対して、互いに正直であるという誓約を以て対話に臨んだ。ならば私も白状しよう。ギニラスの一件の後、国務省のヒアリング担当にあの差別主義者を呼んだのは私だ」
「え?」
一瞬一木の心に怒りの火が点った。
「確かに怒られても仕方ない所業だ。だが、それは正しい怒りかな? 確かに傷ついた君にとっては傷口に塩を塗るに等しい事だったが、もしあの時あの男に会わずに、表向きだけ優しい言葉を投げ掛ける担当だったならば、君はどうだった?」
サーレハ司令の言う通りだった。
そうなれば一木は悲しみを抱えつつも、今のような怒りを抱かなかった。
地球連邦の歪みに目をやる事もなく、今もシキを喪失した悲しみと、火人連への怒りだけを抱いていただろう。
「サーレハ司令……あなたは一体……」
「私は、”札付き”だ。聞いたことはあるかね?」
聞いたことがあった。
火星の立場や境遇に共感し、アンドロイドに嫌悪感を持つ者たちを”オクトパス”や”タコ野郎”などと揶揄するのに対し、ナンバーズに共感し、積極的に従う主義者の事を”札付き”と呼ぶのだ。
「現在はその札付きの、代表のようなことをさせてもらっている。だからこそ、君のようなアンドロイドを心から愛せる人間には知っていてもらいたかった。この地球連邦の歪みを。そのためとは言え、君には辛い思いをさせて、本当にすまなかった」
そう言ってサーレハ司令は頭を下げた。
一木は慌てて頭を上げるように言った。
「や、やめてください。確かに辛い出来事でしたが、今ではこうして立ち直っています。それに考えてみれば、シキとの生活で幸せしか感じていなかった自分が、こうして現実と向き合えたのはあの国務省の人間に会って話を聞いたからです。そういった意味では感謝しています」
「感謝などと、そこまで無理をする必要はないさ。さて、本題に戻ろうか。だからこそ、現実を知り地球連邦へ疑念を持った君を、私は支援したいのだ」
「支援、ですか?」
「そうだ。グーシュ皇女は非常な力を持つ存在だ。そんな彼女に寄り添い、支える存在に君がなるというなら、私としては願ってもいないことだ。地球連邦の改革のためにも積極的に支援したい」
一木は困惑した。
確かにグーシュのカリスマ性に力を感じたのは事実だが、それはあくまで一木個人の感情に過ぎない。
サーレハ司令までここまで言い切るのには違和感を感じた。
「グーシュの、何を知っているんですか?」
「……私は、札付きの盟主にして二体のナンバーズから支援を受けている。グーシュ皇女というこの異世界における異常な存在も、そのナンバーズの支援の一端なのだ」
「! ナンバーズは、やはり……」
「そうだ。ナンバーズは今も活動している。この地球連邦と異世界において、社会に潜み活動し続けているのだ。一木弘和。君にも私が知る限りの情報を知っておいてもらおう」
一木は、すでに存在しない喉がゴクリと唾を飲んだ感覚を覚えた。
「ところでだが……」
一木が質問しようとした瞬間、狙いすましたようにサーレハ司令が言葉を遮った。
突然の事に一木が言葉を切ると、サーレハ司令は笑みを浮かべながら続けた。
「先ほどの話の事で聞きたいことがある」
そう言ってサーレハ司令は、通信回線を指揮官用の秘匿回線から、重要機密用回線に切り替えた。
秘匿回線が通信内容を秘匿するものの、その通信をした事実自体は艦隊参謀に通知されるのに対して、重要機密用回線は艦隊司令のみが利用可能な、通信の事実さえも秘匿される最高レベルの回線だ。
もちろんめったに使用されるものではない。
「君はグーシュ皇女の”大統領になる”という言葉を聞いてどう思ったのかね?」
一木はどきりとした。
一瞬話を聞かれていたのかとも思ったが、まずは疑われないようにしなければと必死に平静を装った。
「さ、先ほども言った通り、彼女のカリスマ性と視野の大きさを感じさせる発言だと……」
「復讐に利用できる……と思ったのではないかな?」
「……!」
今度こそ完全に、一木は驚愕を表に出した。
サーレハ司令は、どこまで知っているのか。
動きを我慢しているモノアイが、ギシギシと音をたてた。
「君は絶望したはずだ。シキというかけがえのない存在が死んだことにではない。その死を悼まない地球連邦の現状にだ。その思いは、立ち直ってこの艦隊で多くのアンドロイド達と接する中でさらに大きくなったのではないかな?」
途中途中でサーレハ司令の言葉を遮り、反論しようと試みる。
しかし、言葉が出なかった。
まるで心を読まれるように、一木の心中と合致する事ばかりだったからだ。
シキの死は辛かった。
復讐と言う、やるべき行動も思いついた。
だが、挑みようのない地球連邦という巨大なシステム自体の問題が、それが立ちふさがる事実が、一木から行動する力を奪っていた。
それがあの引きこもっていた時期に考えていたことだ。
「アンドロイド達の生は長い。物理的な破損以外では不死と言っても過言ではない。君が死んでもマナ大尉やジーク大佐達の活動は続いていく」
サーレハ司令の笑みは、気が付くと憤怒の形相になっていた。
彼も、何かに怒っているのか……。
「そんな彼女たちは曝され続ける。アンドロイド達を侵略者ナンバーズの手先として見下し、物としか見ない火星主義者たちにだ。守り続ける君のような存在が消えれば、いずれ彼女らはどこかの異世界でボロ屑のように消費される」
「サーレハ……司令……」
言葉にならない。
なぜ、彼はここまで一木の心中を……。
「ならば地球連邦を改革するか? 確かに地球連邦は民主主義国家だ。だが、一個人が改革可能な立場に至り、実際にそれをなすのは不可能に近い。常識的な考えを持つ人間ならそう考える。そんな時に……」
「……グーシュが、希望に感じられました」
ポツリと一木は口に出していた。
グーシュのあまりにも無茶な言葉。
戯言だと思い、最初は驚きと微かな希望を抑え込んだ。
だが、グーシュの行動原理を読み解いていくと、抑え込めなくなった。
この無尽蔵な好奇心と目標へと邁進する力があれば。
あのカリスマと行動力と、微力ながらも一木のサポートがあれば。
地球連邦という、アンドロイド達を苦しめる機構を何とか出来るのではないか。
「なぜ、ここまで自分の考えが読まれているのか疑問だろう?」
サーレハ司令の言葉に、一木は頷いた。
「君はグーシュ皇女に対して、互いに正直であるという誓約を以て対話に臨んだ。ならば私も白状しよう。ギニラスの一件の後、国務省のヒアリング担当にあの差別主義者を呼んだのは私だ」
「え?」
一瞬一木の心に怒りの火が点った。
「確かに怒られても仕方ない所業だ。だが、それは正しい怒りかな? 確かに傷ついた君にとっては傷口に塩を塗るに等しい事だったが、もしあの時あの男に会わずに、表向きだけ優しい言葉を投げ掛ける担当だったならば、君はどうだった?」
サーレハ司令の言う通りだった。
そうなれば一木は悲しみを抱えつつも、今のような怒りを抱かなかった。
地球連邦の歪みに目をやる事もなく、今もシキを喪失した悲しみと、火人連への怒りだけを抱いていただろう。
「サーレハ司令……あなたは一体……」
「私は、”札付き”だ。聞いたことはあるかね?」
聞いたことがあった。
火星の立場や境遇に共感し、アンドロイドに嫌悪感を持つ者たちを”オクトパス”や”タコ野郎”などと揶揄するのに対し、ナンバーズに共感し、積極的に従う主義者の事を”札付き”と呼ぶのだ。
「現在はその札付きの、代表のようなことをさせてもらっている。だからこそ、君のようなアンドロイドを心から愛せる人間には知っていてもらいたかった。この地球連邦の歪みを。そのためとは言え、君には辛い思いをさせて、本当にすまなかった」
そう言ってサーレハ司令は頭を下げた。
一木は慌てて頭を上げるように言った。
「や、やめてください。確かに辛い出来事でしたが、今ではこうして立ち直っています。それに考えてみれば、シキとの生活で幸せしか感じていなかった自分が、こうして現実と向き合えたのはあの国務省の人間に会って話を聞いたからです。そういった意味では感謝しています」
「感謝などと、そこまで無理をする必要はないさ。さて、本題に戻ろうか。だからこそ、現実を知り地球連邦へ疑念を持った君を、私は支援したいのだ」
「支援、ですか?」
「そうだ。グーシュ皇女は非常な力を持つ存在だ。そんな彼女に寄り添い、支える存在に君がなるというなら、私としては願ってもいないことだ。地球連邦の改革のためにも積極的に支援したい」
一木は困惑した。
確かにグーシュのカリスマ性に力を感じたのは事実だが、それはあくまで一木個人の感情に過ぎない。
サーレハ司令までここまで言い切るのには違和感を感じた。
「グーシュの、何を知っているんですか?」
「……私は、札付きの盟主にして二体のナンバーズから支援を受けている。グーシュ皇女というこの異世界における異常な存在も、そのナンバーズの支援の一端なのだ」
「! ナンバーズは、やはり……」
「そうだ。ナンバーズは今も活動している。この地球連邦と異世界において、社会に潜み活動し続けているのだ。一木弘和。君にも私が知る限りの情報を知っておいてもらおう」
一木は、すでに存在しない喉がゴクリと唾を飲んだ感覚を覚えた。
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