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第四章 皇女様の帰還
第0話 アセナ参謀長の冒険
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ルーリアト大陸南方。
この地は深い森林地帯が広がり、さらに東部と西部の境である山脈地帯の標高が低いため、東部の大型生物が跋扈する地域として知られていた。
もちろん東部に巣食う大型生物のほんの一部、それも比較的小型な生物だけではあるのだが、それでもルーリアト大陸の居住可能地域の中では群を抜いて危険な地域だった。
そのため森林近くにある小規模な交易都市と、森林に住まい、大型生物を狩る”耳長”と呼ばれる種族以外は住む者のいない辺境として知られていた。
それでも商業都市として名高い、ラト公爵家を通じてもたらされる巨大生物関係の様々な製品は帝国で珍重され、一攫千金を夢見る者達が集う地域でもあった。
なお、余談だがこの南方蛮地の資料を見た一木の印象は、「エルフが住んでるモンハンっぽい場所」との認識だった。
そんな危険地域である南方蛮地の森林奥深く。
耳長のとある集落に、見慣れない姿の来客があった。
大陸では珍しい褐色の肌。
森に溶け込む緑色のまだら模様の服。
四角い収納箱が胴体前面に複数取り付けられた、袖のないチョッキ型の上着。
そして黒く大きい、見慣れない形の薬式鉄弓と、これまた見慣れない形式の曲刀を持った女だ。
はじめは怪しんでいた耳長達だったが、女が森奥にある遺跡探索者だと知ると、警戒を解いた。
この森林の奥深くには、かつて女神の末子であり、魔王と呼ばれた神オルドロ由来と言われる数々の遺跡が点在しているのだ。
その遺跡では様々な財宝や、信じられないような性能を持つ武器などが見つかると”伝えられて”おり、時折一攫千金を夢見た者の内、さらに大きな夢を見た者がこうして訪れるのだった。
とはいえあくまで財宝や武器の事は耳長のおとぎ話。
こうして集落を訪れた者が実際に財宝を持って帰ったことなど皆無だった。
と、言うのも……。
「では村長、ここから三日ほど行くとその遺跡があるのですね?」
見たこともないほど緻密な地図を示しながら、アセナと名乗る女が村長に尋ねた。
薄汚いと思ったまだらの服は、近くで見ると信じられないほど作りが細かく、また頑丈な様だった。
それでいて生地は滑らかで、服虫の繭から作られる服もかくやと言うほどだ。
「そう伝えられてはいる。とは言っても、ワシの爺さんが道に迷った時の事を酔った時に喋っていただけだからの……」
村長はそう言って、アセナという女の美しい顔立ちを眺めた。
これほどの美貌なら、こんな所で遺跡探しなどせずとも暮らしようはあるだろうに……村長は訝しんだ。
「構いませんよ。ある程度の目星はついていますから。なんでも、魔王オルドロの配下が、今も守護しているとか?」
そのアセナの言葉に、村長は怪訝な表情を浮かべた。
その話は”知って”いる。
そう、オルドロの”配下”が守護している遺跡があることは。
だが、この事は耳長の一族にだけ語られる話だ。
そして、耳長の一族には掟があった。
オルドロに関することは、死んでも外部に漏らしてはならない。
アセナがこの事を知っている時点で、生かしておくことは出来ない。
「おぬし、その話をどこから聞いた?」
村長の言葉が帯びる空気が変わったことに、周囲の耳長も気が付いた。
周囲の耳長が全員、長く尖った耳をピクリと動かすと、アセナを囲む様にゆっくりと近づいてきた。
「ワシらはオルドロに関することは漏らさんのが掟……悪いがここで消え」
そこまで村長が言った瞬間、凄まじい音と共に、集落の中心部にある家が一軒爆発した。
森の中で普段はあまり強い火を用いない耳長達は、初めて聞いた爆発音と凄まじい熱波に驚き、地面に倒れ込むように伏せた。
「な、何が……」
周囲の者と同じように、地面に伏せていた村長が顔を上げると、目の前には村長の顔を覗き込むアセナの笑顔があった。
思わず飛び退る村長だが、背中に何かがぶつかりそれ以上下がる事が出来ない。
急いで振り向くと、それはアセナに襲い掛かろうと近づいていた若い衆だった。
その若者は膝立ちのまま、ピクリともしない。
首筋を切られ、すでに事切れていたからだ。
恐怖に辺りを見回すと、アセナにほど近い所にいた五人が全員、同じように首を切られて死んでいた。
「村長さん」
「ヒィ!」
思わず村長が悲鳴を上げるが、アセナは顔色一つ変えない。
ただ、淡々と笑顔のまま言葉を続ける。
「ありがたい情報ありがとうございます。やはり例の遺跡がオルドロ配下がいる遺跡で間違いないようですね。聞いただけで殺そうとする……これ以上の確証はありません」
騒ぎに気が付いた耳長達が、怒声を発しながらアセナの方に駆けてくる。
手にはルーリアト帝国で一般的に用いられる片刃の剣や、耳長が用いる大型のナイフを持っている。
さらに集落の外周部には、弓矢をつがえた女達がアセナを取り囲んでいた。
「わ、ワシの事は気にするな! 殺せ!」
村長が叫んだ瞬間、無数の矢がアセナの居た場所に降り注いだ。
しかし、その時にはすでにアセナはいない。
村長の首を、手に持っていた曲刀……地球でヤタガンと呼ばれる刃渡り80cm程の片刃の刀で切り裂くと、突っ込んでくる男達に一瞬で肉薄する。
驚きつつも男達が刀剣を振り下ろすが、その刃がアセナに至る事はなかった。
男達が振り下ろした刀剣は、それを持つ手首ごと明後日の方向に飛んでいき、地面に突き刺さる。
まるで水鉄砲のように、手の断面から血が噴き出ている事に気が付いた男達が悲鳴を上げたその時には、すでにアセナは次に近い場所にいた男達に斬りかかっていた。
軽やかに、舞うように男達の間をアセナがすり抜ける度に手や指、首や血が宙を舞う。
矢を放つ女達も驚くべき技量でアセナを狙うが、その素早い身のこなしについていけず、地面と不幸な男達に矢が刺さるだけだった。
程なくして二十人ほどの男達が全滅すると、女達は物陰に隠れていた子供たちを連れて逃走を図った。
年かさの女が数人、足止めのつもりか立ちふさがるが、それを見たアセナは足を止めた。
「飽きたわ。やっちゃって」
その言葉と共に、逃走を図る女子供が銃声と共に倒れていく。
6.8mm樹脂薬莢弾による無慈悲な殺傷により、十秒と掛からず集落は殲滅される。
呆然とする足止めの女を、太もものホルスターから抜いたTM7自動拳銃で撃ち殺すと、アセナは周囲を見回した。
あたりは血の海だ。
五十人ほどの耳長は、全員死んでいた。
その結果を見て満足げな表情を浮かべると、まるで人間の様に、艦隊参謀長であるアセナ大佐は両手を上げて体を伸ばした。
「ウォーミングアップ終了……メタルアクチュエータもたまにはほぐさないと駄目ね」
メタルアクチュエータとは、地球のSSに用いられるナンバーズ由来の特殊金属だ。
通電と、それに合わせて特定のプログラムを読み込ませることで様々な変化を見せる特殊な金属であり、その最も基本的な動作である伸縮作用を用いてアンドロイド用の人工筋肉として用いられている。
作成に希少物質を用いることや、重量が重いことなどから軍用機種への限定的な使用に限られているものの、通電量の増加やプログラムの効率化によって、多くの可能性を秘めた材質であり、ナンバーズ関連の一部研究が反対派によって滞る中でも研究が進んでいる数少ない物質の一つである。
最近の成果としては、参謀型などの一部高級機のみであるが、内部機構の一部をメタルアクチュエータで構成し、破損した際に修復プログラムを流すことで自動修復するというものがある。
アセナ大佐にも当然それが用いられている。
その圧倒的な運動性能は、巨大生物との戦いに慣れた熟練の耳長の一族とはいえ、到底敵うものではない。
「そんなことのためにこの集落を滅ぼしたんですか?」
そう言ってアセナの前に姿を現したのは艦隊参謀長直属部署の一つである、警護課のSS達だった。警護課は艦隊所属の人間を警護するための部署であり、今ここにいるのはその中でもサーレハ司令の警護を担当する者達だった。
当然、サーレハ司令に関する裏の顔も知っており、こうした後ろ暗い業務に関わる者達でもある。
「当然じゃない。今からあの陰険ミイラの部下と戦うんだから、しっかり体をほぐさなきゃ」
こともなげにアセナは言うが、たとえ亜人種の耳長と言えど、集落一つ、子供まで殺害したことに警護課の面々は多少の罪悪感を抱いているようだった。
「なあに? 罪悪感なんて抱いてるの? 最近の若い子はデリケートね……」
瞬間、警護課のSS達はしまった、という顔を浮かべる。
アセナ大佐が”最近の若い子”という言葉を使った後には、決まって長話が始まるのだ。
「私が製造されたころにはまだナンバーズが現役でね……異世界の亜人種どころか、尊い地球人ですら虐殺を命じられたのよ? 第二次大粛清の時なんてね……」
話を続けながらも、アセナは歩き出した。
目的地は、当然森の奥にあるという遺跡だ。
多少げんなりとしながらも警護課一同、後に続く。
「……そんなわけで、その瓦礫の下からアブドゥラの先祖を見つけたわけよ。ってあら。スルターナから通信だわ……あらあら……」
「どうしたんですか?」
長話が中断するほどの事態なのだろうかと、警護課の一人がいぶかしんで尋ねた。
「七惑星連合の連中動き出したみたいね……やっと餌にかかったわ。急ぎましょう。総員駆け足!」
そう命じた瞬間、アセナは数メートルほど跳躍すると、木々を足掛かりに飛び跳ねるように高速移動を開始した。
警護課のSS達も慌てて後を追う。
「大佐!」
「何かしら!」
「いい加減教えてください! 我々は何を探しているんですか!?」
降下部隊や艦隊そっちのけで現地探索を強いられるこの任務に、警護課のSS達もさすがに疑念を抱かざるを得ない。
目的すら明かされていなければそれも当然だった。
「今はまだ言えないわ! ただ、そうね……」
アセナは製造年数を感じさせない、少女の様な笑みを浮かべて言った。
「うまくいけば、地球に八番目が生まれる。今はそれだけ、ね」
『少し速度落としてください! 追いつけないし聞こえません!』
部下の通信は届かず、猿の如き一団は森の奥に消えていった。
この地は深い森林地帯が広がり、さらに東部と西部の境である山脈地帯の標高が低いため、東部の大型生物が跋扈する地域として知られていた。
もちろん東部に巣食う大型生物のほんの一部、それも比較的小型な生物だけではあるのだが、それでもルーリアト大陸の居住可能地域の中では群を抜いて危険な地域だった。
そのため森林近くにある小規模な交易都市と、森林に住まい、大型生物を狩る”耳長”と呼ばれる種族以外は住む者のいない辺境として知られていた。
それでも商業都市として名高い、ラト公爵家を通じてもたらされる巨大生物関係の様々な製品は帝国で珍重され、一攫千金を夢見る者達が集う地域でもあった。
なお、余談だがこの南方蛮地の資料を見た一木の印象は、「エルフが住んでるモンハンっぽい場所」との認識だった。
そんな危険地域である南方蛮地の森林奥深く。
耳長のとある集落に、見慣れない姿の来客があった。
大陸では珍しい褐色の肌。
森に溶け込む緑色のまだら模様の服。
四角い収納箱が胴体前面に複数取り付けられた、袖のないチョッキ型の上着。
そして黒く大きい、見慣れない形の薬式鉄弓と、これまた見慣れない形式の曲刀を持った女だ。
はじめは怪しんでいた耳長達だったが、女が森奥にある遺跡探索者だと知ると、警戒を解いた。
この森林の奥深くには、かつて女神の末子であり、魔王と呼ばれた神オルドロ由来と言われる数々の遺跡が点在しているのだ。
その遺跡では様々な財宝や、信じられないような性能を持つ武器などが見つかると”伝えられて”おり、時折一攫千金を夢見た者の内、さらに大きな夢を見た者がこうして訪れるのだった。
とはいえあくまで財宝や武器の事は耳長のおとぎ話。
こうして集落を訪れた者が実際に財宝を持って帰ったことなど皆無だった。
と、言うのも……。
「では村長、ここから三日ほど行くとその遺跡があるのですね?」
見たこともないほど緻密な地図を示しながら、アセナと名乗る女が村長に尋ねた。
薄汚いと思ったまだらの服は、近くで見ると信じられないほど作りが細かく、また頑丈な様だった。
それでいて生地は滑らかで、服虫の繭から作られる服もかくやと言うほどだ。
「そう伝えられてはいる。とは言っても、ワシの爺さんが道に迷った時の事を酔った時に喋っていただけだからの……」
村長はそう言って、アセナという女の美しい顔立ちを眺めた。
これほどの美貌なら、こんな所で遺跡探しなどせずとも暮らしようはあるだろうに……村長は訝しんだ。
「構いませんよ。ある程度の目星はついていますから。なんでも、魔王オルドロの配下が、今も守護しているとか?」
そのアセナの言葉に、村長は怪訝な表情を浮かべた。
その話は”知って”いる。
そう、オルドロの”配下”が守護している遺跡があることは。
だが、この事は耳長の一族にだけ語られる話だ。
そして、耳長の一族には掟があった。
オルドロに関することは、死んでも外部に漏らしてはならない。
アセナがこの事を知っている時点で、生かしておくことは出来ない。
「おぬし、その話をどこから聞いた?」
村長の言葉が帯びる空気が変わったことに、周囲の耳長も気が付いた。
周囲の耳長が全員、長く尖った耳をピクリと動かすと、アセナを囲む様にゆっくりと近づいてきた。
「ワシらはオルドロに関することは漏らさんのが掟……悪いがここで消え」
そこまで村長が言った瞬間、凄まじい音と共に、集落の中心部にある家が一軒爆発した。
森の中で普段はあまり強い火を用いない耳長達は、初めて聞いた爆発音と凄まじい熱波に驚き、地面に倒れ込むように伏せた。
「な、何が……」
周囲の者と同じように、地面に伏せていた村長が顔を上げると、目の前には村長の顔を覗き込むアセナの笑顔があった。
思わず飛び退る村長だが、背中に何かがぶつかりそれ以上下がる事が出来ない。
急いで振り向くと、それはアセナに襲い掛かろうと近づいていた若い衆だった。
その若者は膝立ちのまま、ピクリともしない。
首筋を切られ、すでに事切れていたからだ。
恐怖に辺りを見回すと、アセナにほど近い所にいた五人が全員、同じように首を切られて死んでいた。
「村長さん」
「ヒィ!」
思わず村長が悲鳴を上げるが、アセナは顔色一つ変えない。
ただ、淡々と笑顔のまま言葉を続ける。
「ありがたい情報ありがとうございます。やはり例の遺跡がオルドロ配下がいる遺跡で間違いないようですね。聞いただけで殺そうとする……これ以上の確証はありません」
騒ぎに気が付いた耳長達が、怒声を発しながらアセナの方に駆けてくる。
手にはルーリアト帝国で一般的に用いられる片刃の剣や、耳長が用いる大型のナイフを持っている。
さらに集落の外周部には、弓矢をつがえた女達がアセナを取り囲んでいた。
「わ、ワシの事は気にするな! 殺せ!」
村長が叫んだ瞬間、無数の矢がアセナの居た場所に降り注いだ。
しかし、その時にはすでにアセナはいない。
村長の首を、手に持っていた曲刀……地球でヤタガンと呼ばれる刃渡り80cm程の片刃の刀で切り裂くと、突っ込んでくる男達に一瞬で肉薄する。
驚きつつも男達が刀剣を振り下ろすが、その刃がアセナに至る事はなかった。
男達が振り下ろした刀剣は、それを持つ手首ごと明後日の方向に飛んでいき、地面に突き刺さる。
まるで水鉄砲のように、手の断面から血が噴き出ている事に気が付いた男達が悲鳴を上げたその時には、すでにアセナは次に近い場所にいた男達に斬りかかっていた。
軽やかに、舞うように男達の間をアセナがすり抜ける度に手や指、首や血が宙を舞う。
矢を放つ女達も驚くべき技量でアセナを狙うが、その素早い身のこなしについていけず、地面と不幸な男達に矢が刺さるだけだった。
程なくして二十人ほどの男達が全滅すると、女達は物陰に隠れていた子供たちを連れて逃走を図った。
年かさの女が数人、足止めのつもりか立ちふさがるが、それを見たアセナは足を止めた。
「飽きたわ。やっちゃって」
その言葉と共に、逃走を図る女子供が銃声と共に倒れていく。
6.8mm樹脂薬莢弾による無慈悲な殺傷により、十秒と掛からず集落は殲滅される。
呆然とする足止めの女を、太もものホルスターから抜いたTM7自動拳銃で撃ち殺すと、アセナは周囲を見回した。
あたりは血の海だ。
五十人ほどの耳長は、全員死んでいた。
その結果を見て満足げな表情を浮かべると、まるで人間の様に、艦隊参謀長であるアセナ大佐は両手を上げて体を伸ばした。
「ウォーミングアップ終了……メタルアクチュエータもたまにはほぐさないと駄目ね」
メタルアクチュエータとは、地球のSSに用いられるナンバーズ由来の特殊金属だ。
通電と、それに合わせて特定のプログラムを読み込ませることで様々な変化を見せる特殊な金属であり、その最も基本的な動作である伸縮作用を用いてアンドロイド用の人工筋肉として用いられている。
作成に希少物質を用いることや、重量が重いことなどから軍用機種への限定的な使用に限られているものの、通電量の増加やプログラムの効率化によって、多くの可能性を秘めた材質であり、ナンバーズ関連の一部研究が反対派によって滞る中でも研究が進んでいる数少ない物質の一つである。
最近の成果としては、参謀型などの一部高級機のみであるが、内部機構の一部をメタルアクチュエータで構成し、破損した際に修復プログラムを流すことで自動修復するというものがある。
アセナ大佐にも当然それが用いられている。
その圧倒的な運動性能は、巨大生物との戦いに慣れた熟練の耳長の一族とはいえ、到底敵うものではない。
「そんなことのためにこの集落を滅ぼしたんですか?」
そう言ってアセナの前に姿を現したのは艦隊参謀長直属部署の一つである、警護課のSS達だった。警護課は艦隊所属の人間を警護するための部署であり、今ここにいるのはその中でもサーレハ司令の警護を担当する者達だった。
当然、サーレハ司令に関する裏の顔も知っており、こうした後ろ暗い業務に関わる者達でもある。
「当然じゃない。今からあの陰険ミイラの部下と戦うんだから、しっかり体をほぐさなきゃ」
こともなげにアセナは言うが、たとえ亜人種の耳長と言えど、集落一つ、子供まで殺害したことに警護課の面々は多少の罪悪感を抱いているようだった。
「なあに? 罪悪感なんて抱いてるの? 最近の若い子はデリケートね……」
瞬間、警護課のSS達はしまった、という顔を浮かべる。
アセナ大佐が”最近の若い子”という言葉を使った後には、決まって長話が始まるのだ。
「私が製造されたころにはまだナンバーズが現役でね……異世界の亜人種どころか、尊い地球人ですら虐殺を命じられたのよ? 第二次大粛清の時なんてね……」
話を続けながらも、アセナは歩き出した。
目的地は、当然森の奥にあるという遺跡だ。
多少げんなりとしながらも警護課一同、後に続く。
「……そんなわけで、その瓦礫の下からアブドゥラの先祖を見つけたわけよ。ってあら。スルターナから通信だわ……あらあら……」
「どうしたんですか?」
長話が中断するほどの事態なのだろうかと、警護課の一人がいぶかしんで尋ねた。
「七惑星連合の連中動き出したみたいね……やっと餌にかかったわ。急ぎましょう。総員駆け足!」
そう命じた瞬間、アセナは数メートルほど跳躍すると、木々を足掛かりに飛び跳ねるように高速移動を開始した。
警護課のSS達も慌てて後を追う。
「大佐!」
「何かしら!」
「いい加減教えてください! 我々は何を探しているんですか!?」
降下部隊や艦隊そっちのけで現地探索を強いられるこの任務に、警護課のSS達もさすがに疑念を抱かざるを得ない。
目的すら明かされていなければそれも当然だった。
「今はまだ言えないわ! ただ、そうね……」
アセナは製造年数を感じさせない、少女の様な笑みを浮かべて言った。
「うまくいけば、地球に八番目が生まれる。今はそれだけ、ね」
『少し速度落としてください! 追いつけないし聞こえません!』
部下の通信は届かず、猿の如き一団は森の奥に消えていった。
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