地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

文字の大きさ
83 / 116
第四章 皇女様の帰還

第0話 アセナ参謀長の冒険 

しおりを挟む
 ルーリアト大陸南方。
 この地は深い森林地帯が広がり、さらに東部と西部の境である山脈地帯の標高が低いため、東部の大型生物が跋扈する地域として知られていた。

 もちろん東部に巣食う大型生物のほんの一部、それも比較的小型な生物だけではあるのだが、それでもルーリアト大陸の居住可能地域の中では群を抜いて危険な地域だった。

 そのため森林近くにある小規模な交易都市と、森林に住まい、大型生物を狩る”耳長”と呼ばれる種族以外は住む者のいない辺境として知られていた。

 それでも商業都市として名高い、ラト公爵家を通じてもたらされる巨大生物関係の様々な製品は帝国で珍重され、一攫千金を夢見る者達が集う地域でもあった。

 なお、余談だがこの南方蛮地の資料を見た一木の印象は、「エルフが住んでるモンハンっぽい場所」との認識だった。

 そんな危険地域である南方蛮地の森林奥深く。

 耳長のとある集落に、見慣れない姿の来客があった。

 大陸では珍しい褐色の肌。
 森に溶け込む緑色のまだら模様の服。
 四角い収納箱が胴体前面に複数取り付けられた、袖のないチョッキ型の上着。

 そして黒く大きい、見慣れない形の薬式鉄弓と、これまた見慣れない形式の曲刀を持った女だ。

 はじめは怪しんでいた耳長達だったが、女が森奥にある遺跡探索者だと知ると、警戒を解いた。

 この森林の奥深くには、かつて女神の末子であり、魔王と呼ばれた神オルドロ由来と言われる数々の遺跡が点在しているのだ。
 その遺跡では様々な財宝や、信じられないような性能を持つ武器などが見つかると”伝えられて”おり、時折一攫千金を夢見た者の内、さらに大きな夢を見た者がこうして訪れるのだった。

 とはいえあくまで財宝や武器の事は耳長のおとぎ話。
 こうして集落を訪れた者が実際に財宝を持って帰ったことなど皆無だった。

 と、言うのも……。

「では村長、ここから三日ほど行くとその遺跡があるのですね?」

 見たこともないほど緻密な地図を示しながら、アセナと名乗る女が村長に尋ねた。

 薄汚いと思ったまだらの服は、近くで見ると信じられないほど作りが細かく、また頑丈な様だった。
 それでいて生地は滑らかで、服虫の繭から作られる服もかくやと言うほどだ。
 
「そう伝えられてはいる。とは言っても、ワシの爺さんが道に迷った時の事を酔った時に喋っていただけだからの……」

 村長はそう言って、アセナという女の美しい顔立ちを眺めた。
 これほどの美貌なら、こんな所で遺跡探しなどせずとも暮らしようはあるだろうに……村長は訝しんだ。

「構いませんよ。ある程度の目星はついていますから。なんでも、魔王オルドロの配下が、今も守護しているとか?」

 そのアセナの言葉に、村長は怪訝な表情を浮かべた。
 その話は”知って”いる。
 そう、オルドロの”配下”が守護している遺跡があることは。
 だが、この事は耳長の一族にだけ語られる話だ。

 そして、耳長の一族には掟があった。
 オルドロに関することは、死んでも外部に漏らしてはならない。
 アセナがこの事を知っている時点で、生かしておくことは出来ない。

「おぬし、その話をどこから聞いた?」

 村長の言葉が帯びる空気が変わったことに、周囲の耳長も気が付いた。
 周囲の耳長が全員、長く尖った耳をピクリと動かすと、アセナを囲む様にゆっくりと近づいてきた。

「ワシらはオルドロに関することは漏らさんのが掟……悪いがここで消え」

 そこまで村長が言った瞬間、凄まじい音と共に、集落の中心部にある家が一軒爆発した。
 森の中で普段はあまり強い火を用いない耳長達は、初めて聞いた爆発音と凄まじい熱波に驚き、地面に倒れ込むように伏せた。

「な、何が……」

 周囲の者と同じように、地面に伏せていた村長が顔を上げると、目の前には村長の顔を覗き込むアセナの笑顔があった。
 思わず飛び退る村長だが、背中に何かがぶつかりそれ以上下がる事が出来ない。
 急いで振り向くと、それはアセナに襲い掛かろうと近づいていた若い衆だった。
 その若者は膝立ちのまま、ピクリともしない。

 首筋を切られ、すでに事切れていたからだ。
 恐怖に辺りを見回すと、アセナにほど近い所にいた五人が全員、同じように首を切られて死んでいた。

「村長さん」

「ヒィ!」

 思わず村長が悲鳴を上げるが、アセナは顔色一つ変えない。
 ただ、淡々と笑顔のまま言葉を続ける。

「ありがたい情報ありがとうございます。やはり例の遺跡がオルドロ配下がいる遺跡で間違いないようですね。聞いただけで殺そうとする……これ以上の確証はありません」

 騒ぎに気が付いた耳長達が、怒声を発しながらアセナの方に駆けてくる。
 手にはルーリアト帝国で一般的に用いられる片刃の剣や、耳長が用いる大型のナイフを持っている。
 さらに集落の外周部には、弓矢をつがえた女達がアセナを取り囲んでいた。

「わ、ワシの事は気にするな! 殺せ!」

 村長が叫んだ瞬間、無数の矢がアセナの居た場所に降り注いだ。
 しかし、その時にはすでにアセナはいない。

 村長の首を、手に持っていた曲刀……地球でヤタガンと呼ばれる刃渡り80cm程の片刃の刀で切り裂くと、突っ込んでくる男達に一瞬で肉薄する。

 驚きつつも男達が刀剣を振り下ろすが、その刃がアセナに至る事はなかった。

 男達が振り下ろした刀剣は、それを持つ手首ごと明後日の方向に飛んでいき、地面に突き刺さる。

 まるで水鉄砲のように、手の断面から血が噴き出ている事に気が付いた男達が悲鳴を上げたその時には、すでにアセナは次に近い場所にいた男達に斬りかかっていた。

 軽やかに、舞うように男達の間をアセナがすり抜ける度に手や指、首や血が宙を舞う。
 矢を放つ女達も驚くべき技量でアセナを狙うが、その素早い身のこなしについていけず、地面と不幸な男達に矢が刺さるだけだった。

 程なくして二十人ほどの男達が全滅すると、女達は物陰に隠れていた子供たちを連れて逃走を図った。
 年かさの女が数人、足止めのつもりか立ちふさがるが、それを見たアセナは足を止めた。

「飽きたわ。やっちゃって」

 その言葉と共に、逃走を図る女子供が銃声と共に倒れていく。
 6.8mm樹脂薬莢弾による無慈悲な殺傷により、十秒と掛からず集落は殲滅される。

 呆然とする足止めの女を、太もものホルスターから抜いたTM7自動拳銃で撃ち殺すと、アセナは周囲を見回した。

 あたりは血の海だ。
 五十人ほどの耳長は、全員死んでいた。
 その結果を見て満足げな表情を浮かべると、まるで人間の様に、艦隊参謀長であるアセナ大佐は両手を上げて体を伸ばした。

「ウォーミングアップ終了……メタルアクチュエータもたまにはほぐさないと駄目ね」

 メタルアクチュエータとは、地球のSSに用いられるナンバーズ由来の特殊金属だ。
 通電と、それに合わせて特定のプログラムを読み込ませることで様々な変化を見せる特殊な金属であり、その最も基本的な動作である伸縮作用を用いてアンドロイド用の人工筋肉として用いられている。

 作成に希少物質を用いることや、重量が重いことなどから軍用機種への限定的な使用に限られているものの、通電量の増加やプログラムの効率化によって、多くの可能性を秘めた材質であり、ナンバーズ関連の一部研究が反対派によって滞る中でも研究が進んでいる数少ない物質の一つである。

 最近の成果としては、参謀型などの一部高級機のみであるが、内部機構の一部をメタルアクチュエータで構成し、破損した際に修復プログラムを流すことで自動修復するというものがある。

 アセナ大佐にも当然それが用いられている。
 その圧倒的な運動性能は、巨大生物との戦いに慣れた熟練の耳長の一族とはいえ、到底敵うものではない。

「そんなことのためにこの集落を滅ぼしたんですか?」

 そう言ってアセナの前に姿を現したのは艦隊参謀長直属部署の一つである、警護課のSS達だった。警護課は艦隊所属の人間を警護するための部署であり、今ここにいるのはその中でもサーレハ司令の警護を担当する者達だった。
 当然、サーレハ司令に関する裏の顔も知っており、こうした後ろ暗い業務に関わる者達でもある。

「当然じゃない。今からあの陰険ミイラの部下と戦うんだから、しっかり体をほぐさなきゃ」

 こともなげにアセナは言うが、たとえ亜人種の耳長と言えど、集落一つ、子供まで殺害したことに警護課の面々は多少の罪悪感を抱いているようだった。

「なあに? 罪悪感なんて抱いてるの? 最近の若い子はデリケートね……」

 瞬間、警護課のSS達はしまった、という顔を浮かべる。
 アセナ大佐が”最近の若い子”という言葉を使った後には、決まって長話が始まるのだ。

「私が製造されたころにはまだナンバーズが現役でね……異世界の亜人種どころか、尊い地球人ですら虐殺を命じられたのよ? 第二次大粛清の時なんてね……」

 話を続けながらも、アセナは歩き出した。
 目的地は、当然森の奥にあるという遺跡だ。
 多少げんなりとしながらも警護課一同、後に続く。

「……そんなわけで、その瓦礫の下からアブドゥラの先祖を見つけたわけよ。ってあら。スルターナから通信だわ……あらあら……」

「どうしたんですか?」

 長話が中断するほどの事態なのだろうかと、警護課の一人がいぶかしんで尋ねた。

「七惑星連合の連中動き出したみたいね……やっと餌にかかったわ。急ぎましょう。総員駆け足!」

 そう命じた瞬間、アセナは数メートルほど跳躍すると、木々を足掛かりに飛び跳ねるように高速移動を開始した。
 警護課のSS達も慌てて後を追う。

「大佐!」

「何かしら!」

「いい加減教えてください! 我々は何を探しているんですか!?」

 降下部隊や艦隊そっちのけで現地探索を強いられるこの任務に、警護課のSS達もさすがに疑念を抱かざるを得ない。
 目的すら明かされていなければそれも当然だった。

「今はまだ言えないわ! ただ、そうね……」

 アセナは製造年数を感じさせない、少女の様な笑みを浮かべて言った。

「うまくいけば、地球に八番目が生まれる。今はそれだけ、ね」

『少し速度落としてください! 追いつけないし聞こえません!』

 部下の通信は届かず、ましらの如き一団は森の奥に消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...