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18 初めての夜
しおりを挟むチンリンに案内された部屋は、シャオリンの部屋から一番離れた場所にあった。部屋の様子が伝わらないようにとの配慮だろうか。
「ここで王を待ちなさい。鈴の音がしたらいらっしゃる合図です。朝になり王がお帰りになる時はあなたが鈴を鳴らすのですよ。そうしたら正門が開き、王はお帰りになります」
「はい、チンリン様」
「食卓にお酒と料理も置いてあるので、王が望まれたらまずあなたが目の前で毒味をしてからお渡しするように。王がこの部屋にいらっしゃる間は、あなたが王の命をお守りするのです。わかりましたね」
「……はい、チンリン様」
チンリンは厳しい顔をしてリンファを見つめるとすぐに出て行ってしまった。
(どうしよう、不安だわ。このまま王を待っているだけでいいのかしら)
シャオリンの部屋ほどではないが大きな部屋だ。食卓と椅子、文机と鏡台もある。そして、シャオリンの部屋には無かったものがある。寝床だ。
(シャオリン様はあの部屋の他に寝室もあるのでしょうね。ここは、一部屋ですべてが済むようになっているわ)
リンファは床よりも一段高く設置されている寝床に置かれた布団を触ってみた。いつも大部屋で寝ている薄っぺらい布団の何倍も厚みがあってふわふわしている。
(これからここであの方と……?)
後宮入りの前日にガクとフォンファから聞いた閨での振る舞い方を思い出し、頬が熱くなるリンファ。まだ恋を知ったばかりの自分なのに、いきなりそんなことを? と、喜びよりも不安のほうが心を占めていた。
その時、鈴の音がシャリンと鳴り響いた。王のお出ましだ。正門がギギギ……と音を立てて開いている。王の足音が聞こえ、歓迎の言葉をチンリンが述べている。そして――
「リンファ!」
ドアが開き、勢いよくタイランが入ってきた。リンファはひざまづき、頭を深く下げて拝礼した。
「リンファ、よい。何もしなくていいのだ」
タイランはリンファの脇に手を入れ、持ち上げて立たせた。
「きゃっ……」
淡い桃色の薄い夜着越しにタイランの力強い掌を感じ、リンファの胸は早鐘を打ち始めた。
立ったまま見つめ合う二人。タイランの頬は上気している。
「リンファ。森で出会った時からずっと、もう一度そなたに会いたいと思っていた。あの時、嫁ぐと言っていたのは、後宮に入るという意味だったのか?」
「はい、タイラン様。後宮に入る身で男性と接触してはいけないと思い、あのように申し上げました。ですが、私もずっと、あの時の方にお会いしたいと……叶わぬ願いと知りながらずっと、思っておりました」
タイランはリンファを抱きしめた。
「あの日私の心は一瞬でそなたに囚われてしまった。今こうして腕の中に抱きしめているのがまだ信じられない。だから、そなたのすべてを今宵……私のものにしたい」
タイランに情熱的な言葉を与えられ、リンファは喜びに潤んだ瞳でタイランを見上げる。
「はい、タイラン様。私のすべてをあなたに捧げます」
感極まった表情でタイランが囁く。
「ああ、リンファ、そなたの翠の瞳はなんと美しいのか。薄茶色の髪のかぐわしい香り。滑らかな白い肌。すべてが愛おしくてたまらない」
タイランはリンファを軽々と抱き上げ、寝床へと運んでいった。そしてまるで壊れ物のようにそっと、布団の上に横たえた。
「リンファ」
「はい、タイラン様」
「今は二人きりだ。タイランと呼べ」
「タイラン……」
タイランはリンファに覆い被さってきた。しばらくそのままリンファの顔を見つめ、優しく微笑むと唇をそっと重ねてきた。
柔らかな唇がそっと押し当てられ、リンファはうっとりと目を閉じる。一度離れた唇がまた重なったと思うと、タイランの舌がリンファの唇をこじ開けて口内に入ってきた。
唇を重ねることすら初めてだったリンファは、タイランにされるがままであった。だがそれはいやなものではなく、どこか身体の奥がギュッと掴まれるような、そんな気持ちにさせられた。
「リンファ。そなたをずっと欲していた。もう我慢ができない。少し乱暴になるかもしれないが……かまわないか?」
「はい、あなたの思うままに……」
タイランはリンファの夜着を解き身体をあらわにするとその胸に顔を埋め、激しく求めた。この数ヶ月、何もする気になれなかったのが嘘のように若い精を迸らせた。
何度も果てたあと、タイランはリンファの上に倒れ込み、抱きしめて謝った。
「すまない、自分のことばかりで。そなたは初めてだったのに……」
破瓜の証が布団に赤い染みをつけていた。
「痛かっただろう。次は優しくするから」
リンファはタイランの髪を撫で、汗の光る額に優しく口づけた。
「最初は痛いものだと聞いております。それよりも、あなたに初めてを捧げることができて私は嬉しいのです」
もちろん、痛みはある。だがそれこそがタイランと結ばれた証。リンファの心は満ち足りていた。
「夜明けまでまだ時間がある。もう少しこのまま、こうしていよう」
タイランは掛け布団ごとリンファを包み、ギュッと抱き締めて過ごした。
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