現代がハードモードな吸血鬼の生きる術

雪雲

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吸血鬼の生きる術

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 決して昔から生き易かった訳ではない。
 日光も流水も平気で、ぶちまけられた種を拾う事もせずに普通に進める。悪臭は普通にヒトの感性的に好きな訳は無いがそれで逃げ出す事はしない。確かに昔は招待が無ければ『内』に入る事が出来なかったが現代は『家』への執着か、滞在時間が薄いのか普通に侵入出来るように成っていた。

 特に日本はそういう辺り、緩い。色々な文化や神が入り乱れるせい……或いは幽霊、悪魔、妖怪、お化け、災害、疫病、そんなモノを纏めて『鬼』と表していたせいなのだろうか? 人やそれ以外の距離が近い癖に、お互い必要以上に関わろうとしない。触らぬ神に祟りなし精神で、外よりはまだ生き易かった。

 だが現在。あんまりにも人以外のモノを認識しなくなったせいか超常的な物が薄れ『それら』の存在も力も薄く成ってしまった。そのくせ物を食べる時には手を合わせる。習慣化された無意識の信仰は濃く残っている。他の『魔』はどうか知らないし、吸血鬼という血を啜る化け物の類は種類が多いから言い切る事は難しいが、少なくとも今この場に居る吸血鬼は所謂神聖な物が苦手だ。日本のカップルと市場が騒ぐ程度のクリスマスでも具合が悪くなるレベルだ。

 その上、最近の人間は警戒心が強い。こっちは存在も力も薄く成っているのに向こうの自衛手段は発達して居る。まず知らない人間と会話もしてくれない。変な事を口走れば即通報されてしまう。
 超常的な吸血鬼への対抗手段など、さっぱり忘れ去れているが変質者に対する手段が多すぎる。下手をすると子供にだって、防犯ブザーを鳴らせれ、即大人が駆け付け、撃退される。
 実に世知辛い。


「で? 吸血できないし、あの似非クリマスの気配にあてられて具合悪くなってたの?」

 土下座状態のまま、切なそうに嘆く自称吸血鬼の男を見下ろしながら桃矢は尋ねる。まだその表情には疑り深そうなままだ。

 自称吸血鬼は頭を下げたままこくりと頷く。

「そもそも本当に吸血鬼? そんなファンタジーあり得るの? 何か証拠は?」

「えっ、えっと……牙は有る」

 慌てた様に顔を上げた男は人差し指でくいっと口元を押し上げて見せる。確かに人間の犬歯にしては鋭すぎる牙と表現するべきものが覗いて居る。

 うーんと、桃矢は吟味する様に相変らず青白い男の頬を掴んでその口元を覗く込む。

「八重歯とどう違うの?」

 そう結論付て、ぱっと手を離す。頬に触れていた指先が冷たい。部屋に招き入れて暫く経ったがまだ冷えている様だ。
 桃矢の判定不能発言に吸血はわたわたとする。

 このまま悪ふざけや、頭のおかしな人間と判断され警察に突き出されたり追い出されたりしたら、本当に死んでしまう! と必死なのだ。

「じゃあ、じゃあこれ! 多分! 最初に死んだ時の……!」

 その結果ばっと服をまくり上げ腹部を右から左へ大きな傷を示して見せる。良くそれで胴体が両断されなかったなと言う程の幅だが若干の引き攣れと皮膚の変色に落ち着いている。

「大きい事故にでも遭った?」

「……むしろどうしたら信じる……?」

 しおしおとしながらまくり上げた服を戻して捨て犬の様な悲しそうな顔になるが、桃矢は真面目くさった顔のまま悩む様に自身の頬に手を当てる。

「そもそも吸血鬼って死なないんじゃないの? そんな必死になる? 僕の中ではこのまま警察より病院に電話が優勢」

「そ、それは止めて!? 黒い服の人たちに捕まって俺解剖されそう……! ……あの、証明出来たら助けてくれるの……?」

「うーん。本当に吸血鬼だったらまたそこから考えるよ。面白かったらあげても良いかなって気分が七割」

 本心が読めない桃矢の顔に暫く躊躇してから、意を決したように左腕の袖を捲る。ふぅ……と大きく息をついて、ぎゅっと目を瞑ってから思い切り自身の腕に噛みつく。

 ぶちっと皮膚を破き肉に鋭利な物が無理やり押し込まれる湿った音がして、鉄錆臭い不快な臭いがふわりと広がる。直ぐに顔を離すと、青白い口元に暗赤色のどろりとした色が付着してた。

 右手の指先で口元を擦りながら、ん、と腕を差しだして示す。

 ぶつりと腕の内側に二つの牙刺さった穴が空き、酷く粘度の高い汚らしい血で汚れて居るが、見てる間にじわじわと穴が塞がっていく。小さな穴の奥で、無理に押しつぶされた肉がぐつりと盛り上がり修復しされていく。

「うわ……気持ち悪」

 差し出された左腕を取ってしげしげと眺めながらそんな事を言う。普通触れるのは躊躇われるであろう、その傷口が有った場所を撫でる。どろりと暗い色をした血は既に固まりかけざりざりとした質感だが、その下の皮膚は滑らかなままだ。

「こ……れで、信じる……?」

 先程より一層顔色を悪くしたまま、酷く気持ち悪そうに顔を歪めながら問う。気のせいか、言葉が酷く途切れる。

「人間ではない生物だな、ていうのは信じるけど。それ噛まれたら痛そうで正直嫌だ。どうしてさっき会った他人、しかも助けてやった奴の為に僕が痛い思いをしなきゃいけないの?おかしいと思う。……ねえ体調悪化してない?」

 よろよろとしながらも、しっかり身体を起して座っていた筈なのにぐったりと前傾姿勢になっている。再び土下座の体勢に成りそうな勢いだ。

「人間、はいたがった事ない……。なんでかしらないけど、じぶんの血はすごく気持ちわ……るくなる」

 はあ……と堪えていたように吐き出した息がざらついて居る。

「見返り、は……俺、何も無いけど……できる事は何でもするから、たのむ」

 もう一度ぎりぎり聞き取れる程度の声で耳に届く「たのむ」という言葉に、本当に人ではなさそうなこの生き物にもうちょっと構って見たくなり「いいよ」と淡白に頷く。

「要するに、身体で払うってやつだ」

「えっ」
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