現代がハードモードな吸血鬼の生きる術

雪雲

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頑張る吸血鬼

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 えっ。まって。なにこの子怖い。
 わりと人間は全体的に満遍なく怖いけど、この感覚は今まで感じていた恐怖とは微妙に異なる。得体が知れなくて怖い。
 人からしたら俺の方が得体が知れなくて気味の悪いものなんだろうけど、少なくとも俺が人間の血を啜る類の生物だと知った時はあんな表情じゃない。というか目の前の青年は表情らしい表情が無い。

 随分昔に日本にやって来た時は、背が低い人間が多く俺が随分浮いて居た。最近は現代っ子背が伸びたなーとぼんやり思って居た所がこの声を掛けてくれた人間はやや小柄な方だ。ぎりぎり平均身長と言い張れなくもない位。それなのに目の前で何の表情もなくじぃっと見つめてくるその姿に圧がある。

 顔立ちも笑えば柔和で人を引き付ける様な綺麗な物なのだろうが、現物はちょっと眉を顰めたり首を傾げたりするだけでにこりともしない。それどころか今まで出会った人間がした様な嗜虐的な笑みでも不快感と恐怖心から、拒否を示す歪んだ顔すら見せない。

 雪の降る中得体の知れないモノに声を掛けて、家に上げてくれた。

 昔は自分が人間に害になる生物だと知れるまでは、親切にしてくれる人も居た。でも最近はそれも無くなり悪意の籠められた記憶だけが増えて、向こうから近づいてくる生き物は常に怪しんでいた。

 でもあの瞬間は本当に限界で、差し出された手に疑心よりもこんなに疑り深く気色の悪い生き物が縋って良いのかという考えが先行しての躊躇が出た。そうしている内に向こうから手を引いてくれた。

 弱ってる時に少し優ししくされると精神的にぐらりといってしまうのかこれまでの人間への恐怖心を忘れてついて来てしまった。この人間なら、慈悲を与えてくれるかも……。

 そう縋った結果がこれである。
 なにこの子怖い。何考えているのか分からなくて怖い。

 原因は分らないが、少しでも自分の体液を摂取すると物凄く気分が悪くなるのを重々承知の上で腕に噛みついて見せてまで助けを請うた。

 その結果、助けて……くれたのか? という既に疑問符に成ってしまった人間は台所から包丁を持って現れた。

 ああ、これも生き抜く為だ。
 そう自分自身に言い聞かせて、相変わらずあまり変化のない顔を見上げてぎゅっと目を瞑る。

「どうぞ、しんぞ……つぶさなければ、すきにして……」

 大丈夫、大丈夫、ここまで何度か有った事。今更何を怯える必要が有るんだ? だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ……。

「なにその構え」

 平気だ耐えられると自己暗示をかけながらも強張って情けなく震えて待って居ても予想した様な衝撃はなく不思議そうな声が降って来る。

「だって、からだで払うって言、うから……」

「……うん?」

 何か腑に落ちない。と言ったように首を傾げて見下ろして来る。

「おれがしなないから……いたぶってぎじてきな殺人をたのしみたいのかと」

「え。こわっ……何その発想……え、こわ……どこの世紀末世界から来たのあんた」

 間髪入れずに『正直引いた』とでも言う物言いをする。しかも言い終わった後にわざとらしく手を口元にやって『うえ』という顔をして見せる。

 しかし片手には包丁を握ったままだ。

 今までの経験則から導き出された至極真っ当な回答に対して常識のない者に向けられる目をされて、急に恥ずかしくなり、喉がひりつき正常な呼吸が儘ならないのに、ぐっと身を起して必死に言い訳をしてしまう。

「っだ、だって! いまま、でっそうだったから……! それに、『金!暴力!SEX!』ってえらいひとがっいったんでしょ!?」

 そこまで言い切った後に酷い眩暈でせっかく起き上がったのそのままがすん、と酷い音を立てて背後に倒れ込む。この部屋の床は綺麗な白い石の床で、とても痛い……。

「金なんて、あるわけ、ない、し……。そうしたら、もう暴力し、か……」

 足音も無く僅かな衣擦れだけの音を立てて顔の直ぐわきに寄って来てしゃがみ、覗き込んでくる。恐らく初めて情動から来たような、呆れの顔をしていた。

「どこでそれ知ったのか分らないけれど、それはネタだからもう人に言わない方がいいよ? あとSEXもあるじゃん。その選択肢。僕的にはそっちの心算で言ったけど」

「えっ」

 また間抜けな声が出てしまう。何この子。本気で何を考えて居るんだろう?

 それこそ、『この子』なんて外見上は少しばかり年下程度の人間を表現する通り、結構長く存在してる。時代的に男色が流行っていたのも知っているが……。

 俺は言ってしまえば死体だ。
 生きている死体だ。
 健全な人間から奪った血で生きながらえる、悍ましい怪物だ。
 本来触れる事も憚られる生き物だ。唾棄すべき生物だ。
 無惨に打倒されるモノで、決して抱きたいような代物でもない、筈……。

 チカチカと視界か、脳内が明滅するようなこれは体の不具合のせいだろうか?

「まあ、死なないって言うのも興味有るけど。それもまた別途に検証するよ」

 すぐ脇に屈み込んだまま、右手に握ったままの包丁を軽い調子で振りながら小首を傾げて見せる。

「あんた今うっかり死にそうだしね? 取り合えず血はあげるよ」

 身動きできずに仰臥したまま柔らかく上品な証明が照らす天井を見上げていた視界に、左手が割り込んでくる。そのまま躊躇なく左の掌をすっと包丁の刃先でなぞり浅いが長い切り傷作る。逆光で影になって居ながらも、自分とは違う真っ当な人間の甘く蕩ける様な血の匂いが広がるので、血が溢れたのが分る。ぱたた、と顔面に降り注ぐ。

 皮膚に触れただけで、じりじりと焦げ付く様だった渇きが僅かに引くと同時にぞわいりと背中が泡立って雪のせいで下がっていた体温が急上昇する。

「どう考えてもあの噛み傷が痛くない訳ないじゃん。それならまだ清潔ですっぱり斬れる刃物の方が良くない?」

 それに関しては言いたい事が有ったが、それを口にする前に切り傷が付き血液があふれ出る左手で口を塞がれる。人肌の温度を持ったさらさらとした液体が唇を湿らせてじわりと口内にも甘い湿気が染み入って来る。

「まっ……てっ! こんなにいら、なっ!」

 摂取量につて何も話して居ない。過剰摂取は不味い。

 そう伝えようにも口をふさがれて声がくぐもり、ろくに伝わっている気がしない。それどころかこっちが慌てる様子をまじまじと観察している。更に擦り付ける、血を塗り込む様にまるで頬を撫でる動きをする。

 だめだ。

 人の血は美味しいが、酔う……。
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