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第六十七話 ラファエルの誘い
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リオはあっけにとられてラファエルを見つめた。
何を言われているのかわからない。
休みの話から海になり、そして自分ではだめか、とは?
「あの、ラファエル様、俺のようなものにはちょっとおっしゃる意味が難しくて」
「あ、ああ・・・」
ラファエルはごくんと唾を飲み込んだ。
「兄上はご結婚なさるし・・・もしよければ、この城を出て、私と一緒に来ないか」
「な、なぜ?」
「いや、ちょっと待ってくれ。断らないでくれ。よく考えてほしい。ここにいてはお前も苦しい思いをするかもしれない。だから、考えてはくれないか。返事は待つから」
「あ・・・」
このお方はどこまで気づいてらっしゃるのか。
「リオ」
ラファエルがもう一歩近づき、ふたりの身体が触れそうになり、ラファエルの顔がくしゃりとゆがんだ。
「・・・たのむ」
「・・・」
どうしてラファエル様は急にそんなことをおっしゃって・・・
「お前に、幸せになってほしいんだ」
リオの大きな瞳とラファエルの真剣な瞳がぶつかった。
ラファエルは反射的にリオの両腕をつかんだ。
「どうか、わかってくれ。私は本気だ」
リオが身をよじろうとすると、後ろから冷たい声が響いた。
「そこまでだ」
ラファエルとリオは驚いて互いに一歩飛びのいた。
気が付けば、距離が近すぎていた。
「私の使用人に何か用か」
アウレリオが大股に近づき、リオを後ろ手に隠した。
「腕をつかむとは、どのような用があるのか、言ってみろ」
アウレリオの薄青い瞳がギラリと光ると、ラファエルは負けじと歯を食いしばって顔を上げた。
だが、そこまでだった。アウレリオに迫力負けしたラファエルは、視線をそらした。
武力に長けた長兄に、一介の画僧に過ぎないラファエルが勝てるはずがない。幼いころから従う癖がついていた。
無言のままうつむくラファエルに目を細めると、アウレリオはリオの腕をつかみ、無言のまま回廊を抜けた。あまりの早足にリオの足がもつれ、引きずるようにして歩く姿を見た使用人たちは目を丸くして見送っていた、
近くにあった部屋にリオを押し込むとドアの前に立つ。
リオはアウレリオがなぜ怒っているのかわからなかった。
「・・・何があった」
抑えた声。
アウレリオの体内で魔力が暴走し始めていた。自分でもなぜこんなに腹が立つのかわからない。
ただ、リオとラファエルが寄り添っている姿に、抑えきれない怒りがふつふつとこみ上げる。
「あの、別になにも」
なぜアウレリオが怒っているのかわからず、リオは小首をかしげた。
「多分、ラファエル様はおさみしいんですよ。それと、とてもやさしい方なんです」
「馬鹿者」
アウレリオはリオをぎゅっと抱きしめた。
自分が何を言われたのか本当に理解していないのか、それともとぼけているのか。
リオを抱きしめると、アウレリオの中で暴走しかけていた魔力は急速にしぼんだ。
「お前は私のものだ」
「もちろんです」
リオがアウレリオの身体にぎゅっと手を回し、手のひらでアウレリオの身体の感触を確かめた。
「当り前じゃないですか。俺はずっとアウレリオ様の使用人です」
「・・・」
その通りなのだが、なぜかすっきりしない。
アウレリオの胸の奥がなんとなくもやもやした。以前、恋人だと伝えたのに、十分には伝わっていないらしい。だが、そのあとのリオのおびえようを考えると深追いはできなかった。
「ところで、アウレリオ様は『海』というものを見たことがあるのですか?」リオが腕の中で顔を上げた。ヘイゼルの瞳が新しいことへの興味できらきらと輝いている。
「いや?」
「そうですか」
リオはがっかりしたようだ。
「なぜ急に海の話を?海には大きな魔物が棲んでいると聞いたことがある。そのような恐ろしいところに行きたいのか?お前など近づいただけで食われてしまうかもしれないぞ」
「え・・・だって、ラファエル様がとてもきれいなところだって・・・」
「へえ?」
「俺、アウレリオ様と一緒にきれいな海が見たいなあって思ったんです」
とん、とアウレリオの心臓が鳴る。
「は、ははは」
リオの細い体をぎゅっと抱きしめる。暴走しかけていた魔力は跡形もなくなり、ただ単純に胸が浮き立った。
(悪いな、ラファエル。リオは私のものだ)
「急にかわいいことを言い出して・・・どういうつもりだ?」
「えっ?」
ちゅ
アウレリオがリオのほほに甘い口づけを落とした。
ちゅ
額にも。
ちゅ
そして、もう一方のほほにも。
「かわいいリオ。いつか海に連れて行ってやる。だが、まずは近場で勘弁してくれ。これから王都までいかなければならないんだから」
リオは真っ赤になって頷いた。「近場?」
「忘れたのか?薄情者」アウレリオはリオの額と自分の額をこつんと合わせた。「今日は雨が降っている。明日あたり、空色の丘が真っ青に染まるはずだ」
「アウレリオ様!!」
まさか、覚えていてくださったなんて!アウレリオ様が授けてくださった、俺の誕生日!
「明日は早朝に出発する。寝坊するなよ」
「はいっっ!!」
リオはアウレリオにぎゅっと抱きついた。
「覚えていてくださったなんて、俺、本当にうれしいです!今年はお忙しいから無理だと思ってました!」
アウレリオは小さく笑い、リオを抱きしめた。
先ほどまでのいらだちなど、思い出せもしない。
ただ、かわいい恋人の喜ぶ顔が見たい、それだけだった。
***********
お読みいただきまして、ありがとうございました。
♡も広告も本当にありがとうございます。
頑張って更新しなきゃと励みになります。
第二章はあと3話ぐらいで終了です。
そして最終章へと続きます。
これからもよろしくお願いします♡
何を言われているのかわからない。
休みの話から海になり、そして自分ではだめか、とは?
「あの、ラファエル様、俺のようなものにはちょっとおっしゃる意味が難しくて」
「あ、ああ・・・」
ラファエルはごくんと唾を飲み込んだ。
「兄上はご結婚なさるし・・・もしよければ、この城を出て、私と一緒に来ないか」
「な、なぜ?」
「いや、ちょっと待ってくれ。断らないでくれ。よく考えてほしい。ここにいてはお前も苦しい思いをするかもしれない。だから、考えてはくれないか。返事は待つから」
「あ・・・」
このお方はどこまで気づいてらっしゃるのか。
「リオ」
ラファエルがもう一歩近づき、ふたりの身体が触れそうになり、ラファエルの顔がくしゃりとゆがんだ。
「・・・たのむ」
「・・・」
どうしてラファエル様は急にそんなことをおっしゃって・・・
「お前に、幸せになってほしいんだ」
リオの大きな瞳とラファエルの真剣な瞳がぶつかった。
ラファエルは反射的にリオの両腕をつかんだ。
「どうか、わかってくれ。私は本気だ」
リオが身をよじろうとすると、後ろから冷たい声が響いた。
「そこまでだ」
ラファエルとリオは驚いて互いに一歩飛びのいた。
気が付けば、距離が近すぎていた。
「私の使用人に何か用か」
アウレリオが大股に近づき、リオを後ろ手に隠した。
「腕をつかむとは、どのような用があるのか、言ってみろ」
アウレリオの薄青い瞳がギラリと光ると、ラファエルは負けじと歯を食いしばって顔を上げた。
だが、そこまでだった。アウレリオに迫力負けしたラファエルは、視線をそらした。
武力に長けた長兄に、一介の画僧に過ぎないラファエルが勝てるはずがない。幼いころから従う癖がついていた。
無言のままうつむくラファエルに目を細めると、アウレリオはリオの腕をつかみ、無言のまま回廊を抜けた。あまりの早足にリオの足がもつれ、引きずるようにして歩く姿を見た使用人たちは目を丸くして見送っていた、
近くにあった部屋にリオを押し込むとドアの前に立つ。
リオはアウレリオがなぜ怒っているのかわからなかった。
「・・・何があった」
抑えた声。
アウレリオの体内で魔力が暴走し始めていた。自分でもなぜこんなに腹が立つのかわからない。
ただ、リオとラファエルが寄り添っている姿に、抑えきれない怒りがふつふつとこみ上げる。
「あの、別になにも」
なぜアウレリオが怒っているのかわからず、リオは小首をかしげた。
「多分、ラファエル様はおさみしいんですよ。それと、とてもやさしい方なんです」
「馬鹿者」
アウレリオはリオをぎゅっと抱きしめた。
自分が何を言われたのか本当に理解していないのか、それともとぼけているのか。
リオを抱きしめると、アウレリオの中で暴走しかけていた魔力は急速にしぼんだ。
「お前は私のものだ」
「もちろんです」
リオがアウレリオの身体にぎゅっと手を回し、手のひらでアウレリオの身体の感触を確かめた。
「当り前じゃないですか。俺はずっとアウレリオ様の使用人です」
「・・・」
その通りなのだが、なぜかすっきりしない。
アウレリオの胸の奥がなんとなくもやもやした。以前、恋人だと伝えたのに、十分には伝わっていないらしい。だが、そのあとのリオのおびえようを考えると深追いはできなかった。
「ところで、アウレリオ様は『海』というものを見たことがあるのですか?」リオが腕の中で顔を上げた。ヘイゼルの瞳が新しいことへの興味できらきらと輝いている。
「いや?」
「そうですか」
リオはがっかりしたようだ。
「なぜ急に海の話を?海には大きな魔物が棲んでいると聞いたことがある。そのような恐ろしいところに行きたいのか?お前など近づいただけで食われてしまうかもしれないぞ」
「え・・・だって、ラファエル様がとてもきれいなところだって・・・」
「へえ?」
「俺、アウレリオ様と一緒にきれいな海が見たいなあって思ったんです」
とん、とアウレリオの心臓が鳴る。
「は、ははは」
リオの細い体をぎゅっと抱きしめる。暴走しかけていた魔力は跡形もなくなり、ただ単純に胸が浮き立った。
(悪いな、ラファエル。リオは私のものだ)
「急にかわいいことを言い出して・・・どういうつもりだ?」
「えっ?」
ちゅ
アウレリオがリオのほほに甘い口づけを落とした。
ちゅ
額にも。
ちゅ
そして、もう一方のほほにも。
「かわいいリオ。いつか海に連れて行ってやる。だが、まずは近場で勘弁してくれ。これから王都までいかなければならないんだから」
リオは真っ赤になって頷いた。「近場?」
「忘れたのか?薄情者」アウレリオはリオの額と自分の額をこつんと合わせた。「今日は雨が降っている。明日あたり、空色の丘が真っ青に染まるはずだ」
「アウレリオ様!!」
まさか、覚えていてくださったなんて!アウレリオ様が授けてくださった、俺の誕生日!
「明日は早朝に出発する。寝坊するなよ」
「はいっっ!!」
リオはアウレリオにぎゅっと抱きついた。
「覚えていてくださったなんて、俺、本当にうれしいです!今年はお忙しいから無理だと思ってました!」
アウレリオは小さく笑い、リオを抱きしめた。
先ほどまでのいらだちなど、思い出せもしない。
ただ、かわいい恋人の喜ぶ顔が見たい、それだけだった。
***********
お読みいただきまして、ありがとうございました。
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第二章はあと3話ぐらいで終了です。
そして最終章へと続きます。
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