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第七十話 楽しい時間
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護衛が反応を確認する間もなく、アウレリオは馬の腹をかるく蹴り、一気に丘の上に駆け上がった。
ぶわっと流れる空気に飲まれ、髪の毛の中まですがすがしい空気が流れ込んだ。
目の前には真っ青に染まる景色。
地面と空との境界がどこかわからなくなる。
「アウレリオ様!すごく、きれいです!」
足元も周りも空も、すべてが空色に染まり、まるで空気の中を飛んでいるような気分になる。
土と草と水のにおい。
さわやかな花の香り。
馬に蹴られ、舞い上がる青い花が背の後ろに高く舞い上がる。
走馬灯のように飛び去る空色の中、何も考えずただ一目散に頂上を目指した。
丘の上で、腕のように枝を広げ優しい日陰を作り出す木の根元で馬が止まった。
いつもここでおやつをもらってから、好きに駆け回ったことを覚えているのだ。
アウレリオがぽんぽんと首筋を撫でてから馬の背を降り、リオを抱きとめるようにして馬から降ろした。
「よくがんばったな」ねぎらいながら人参を与えると、馬が甘えたような声を出した。
「よし、では少し遊んで来い」
手綱を外し、馬の尻を軽くたたく。馬は軽くいななき、どこかへ走り去っていった。
晴れた空。
真っ青な一面の花畑。
美しすぎて現実味のない光景に、ふたりしてため息をついた。
「またここに来ることができました。本当に、美しい場所ですね」
いつの間にかアウレリオがリオを背中から抱きしめていた。
「本当に、美しい場所だな。お前のおかげでまた来ることができた」
リオはにっこりと笑い、アウレリオの腕を撫でた。ずっとこのままでいたい。でも、腹の虫は正直だった。朝早く伯爵邸を出てから、何も食べずに交わり続けていたのだ。
「おなか、ペコペコです!お食事の支度をいたしますね」
さっきまで大事に抱えていた大きな包みを木陰に広げる。
その中には、朝早く料理長の作ってくれたお弁当が入っていた。
柳のバスケットの中には、ローストした鴨やキュウリと塩漬け肉のサンドイッチ、ラズベリーのタルトや焼きりんご、キャロットケーキなどが所狭しと並べられていた。
その中に入っている瓶には、朝リオが汲んできた水が入っている。
トクトクとコップに注ぐと、懐かしい気分になった。
「アウレリオ様どうぞ、俺が朝汲んできた水です」
アウレリオは無言で受け取ると、一口飲んだ。
「ついこの間まで、お前が毎朝汲んできてくれたのに。もう懐かしいな」
「へへ。俺も同じこと考えてました」
リオがくすぐったそうに笑うと、アウレリオもつられた。
「やはり、お前の汲んだ水が一番うまい」
「そうでしょう?」
リオの笑顔がはじけた。
「どうぞ、料理長のお弁当もお召し上がりください」
おいしそうなにおいに、おなかと背中がくっつきそうだ。
「何に、なさいますか?」
「お前は何が食べたい?」
「うーん、俺はこのラズベリーのタルトが」
「そうか」
アウレリオはタルトをひょいとつまむと、リオの口元にもっていった。
「ほら、口を開けろ。あーん」
「あーん」
ぱくっ。
口の中に甘酸っぱい味が広がり、はっと我に返る。
俺、アウレリオ様よりも先に食べちゃった。しかも、あーんって、あーんって・・・
顔が真っ赤になり、その姿をみてアウレリオは満足げにほほ笑んだ。
「あ、アウレリオ様!」
どこで誰が見ているかわからない。
護衛の騎士だっているのに・・・
「気にするな」
「む、無理・・・」
リオが目を白黒させていると、アウレリオは笑いながらリオの口の中にサンドイッチを押し込んだ。
ふんわりとしたパンと香ばしい香りと隠し味のオレンジの香りが口の中に広がった。
「お、おいしい・・・」
「もっと食べろ」
母鳥に餌をねだる子のように、食べ物をどんどん口元に運ばれ、ほおばり続ける。
「だ、だめでふ!あうれいおさまも・・・」
「何を言ってるのかわからんな」
アウレリオの目元が緩み、リオをからかうように口を開けた。
ごっくん。リオは口の中に押し込まれた食べ物を慌てて飲み込むと、アウレリオが好きそうなジューシーなチキンを挟んだサンドイッチを口元にもっていった。
「はい、どうぞ」
アウレリオはリオの手をつかむと、ぱくりとサンドイッチに食らいついた。
リオの手をつかまなくても十分に食べられるのに。
リオが戸惑っていると、アウレリオはリオの手に移った肉汁をなめ始めた。
指の間をなめられるとぞくぞくする。
「も、もう!ちゃんと食べてくださいよ!」
リオは赤くなった顔をごまかそうと、怒ったふりをした。
アウレリオはそんなリオを見て大笑いしている。
「どうしてお前はそんなにかわいいんだ?」
「な、なにを言っているんですか。そんなことをいう人はアウレリオ様だけですよ」
「ははは、当然だろう?」
アウレリオはリオの肩を軽く押して敷物の上に押し倒した。
「うーん、どうしてお前はこんなに甘いのかな?ん?まだ甘いのか確認してみないと」
「み、見られたら・・・」
「静かにしないとみられるかもしれないな」
リオが困り果ててアウレリオを見上げた。大きな瞳がうるうるとにじんでいる。
「心配するな」
「でも」
「あいつらなら見ない。私が信頼のおけない者を連れてくると思うのか?」
「それはそうですけど、でも、俺、心配で。だって・・・」
その先は言葉を飲み込む。
言ってしまったら、楽しい時間が終わってしまいそうだ。
でも、その心配はアウレリオに伝わってしまった。
視線をそらし、ぼそっとつぶやいた。
「悪ふざけが過ぎたか」
変わってしまった空気に気づいていないふりをして、敷布の上にごろっと仰向けに転がり、そのまま目をつむった。
「あ、アウレリオ様?」
えっと思ったが、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
それはそうだ。馬車の中で少し眠ったとはいえ、リオが寝ていた、というか気を失っていた時間もアウレリオは動き続けていたのだから。
リオは体を起こし、お弁当を丁寧に包みなおすと、アウレリオの身体にそっと上着をかけた。
(大好きです、アウレリオ様。本当に好きで好きでたまりません・・・このまま時が止まってしまえばいいのに)
リオはそよ風を顔に受けながら、咲き乱れる花を眺めた。
リオの複雑な心とは裏腹に、花たちがリオたちを祝福するように繊細な花びらを揺らしている。
(そういえば、今日は俺の誕生日だった・・・そうだ。こうして祝っていただけるなんて、俺、幸せだなあ)
目をつむると、瞼の上で日差しが躍った。
風がそよぎ、リオのほほの上に髪を躍らせる。
しあわせな、おだやかな、時間だった。
************
お読みいただきましてありがとうございました。
♡も広告もいつもありがとうございます。
特大の感謝をお送りします。
さて、寒さに弱い私ですが、超厚着で乗り切っています。
もう少し寒くなるとカイロを使いますが、最大5か所にカイロを入れたときには暑くなりすぎて、真冬にゆでだこのようになったことを思い出しました。
最近ならめっきり太ったので、ゆで卵に昇格?できるかもしれません。
それでは、今週もあと少しですね。
健康に気を付けてお過ごしください。
ぶわっと流れる空気に飲まれ、髪の毛の中まですがすがしい空気が流れ込んだ。
目の前には真っ青に染まる景色。
地面と空との境界がどこかわからなくなる。
「アウレリオ様!すごく、きれいです!」
足元も周りも空も、すべてが空色に染まり、まるで空気の中を飛んでいるような気分になる。
土と草と水のにおい。
さわやかな花の香り。
馬に蹴られ、舞い上がる青い花が背の後ろに高く舞い上がる。
走馬灯のように飛び去る空色の中、何も考えずただ一目散に頂上を目指した。
丘の上で、腕のように枝を広げ優しい日陰を作り出す木の根元で馬が止まった。
いつもここでおやつをもらってから、好きに駆け回ったことを覚えているのだ。
アウレリオがぽんぽんと首筋を撫でてから馬の背を降り、リオを抱きとめるようにして馬から降ろした。
「よくがんばったな」ねぎらいながら人参を与えると、馬が甘えたような声を出した。
「よし、では少し遊んで来い」
手綱を外し、馬の尻を軽くたたく。馬は軽くいななき、どこかへ走り去っていった。
晴れた空。
真っ青な一面の花畑。
美しすぎて現実味のない光景に、ふたりしてため息をついた。
「またここに来ることができました。本当に、美しい場所ですね」
いつの間にかアウレリオがリオを背中から抱きしめていた。
「本当に、美しい場所だな。お前のおかげでまた来ることができた」
リオはにっこりと笑い、アウレリオの腕を撫でた。ずっとこのままでいたい。でも、腹の虫は正直だった。朝早く伯爵邸を出てから、何も食べずに交わり続けていたのだ。
「おなか、ペコペコです!お食事の支度をいたしますね」
さっきまで大事に抱えていた大きな包みを木陰に広げる。
その中には、朝早く料理長の作ってくれたお弁当が入っていた。
柳のバスケットの中には、ローストした鴨やキュウリと塩漬け肉のサンドイッチ、ラズベリーのタルトや焼きりんご、キャロットケーキなどが所狭しと並べられていた。
その中に入っている瓶には、朝リオが汲んできた水が入っている。
トクトクとコップに注ぐと、懐かしい気分になった。
「アウレリオ様どうぞ、俺が朝汲んできた水です」
アウレリオは無言で受け取ると、一口飲んだ。
「ついこの間まで、お前が毎朝汲んできてくれたのに。もう懐かしいな」
「へへ。俺も同じこと考えてました」
リオがくすぐったそうに笑うと、アウレリオもつられた。
「やはり、お前の汲んだ水が一番うまい」
「そうでしょう?」
リオの笑顔がはじけた。
「どうぞ、料理長のお弁当もお召し上がりください」
おいしそうなにおいに、おなかと背中がくっつきそうだ。
「何に、なさいますか?」
「お前は何が食べたい?」
「うーん、俺はこのラズベリーのタルトが」
「そうか」
アウレリオはタルトをひょいとつまむと、リオの口元にもっていった。
「ほら、口を開けろ。あーん」
「あーん」
ぱくっ。
口の中に甘酸っぱい味が広がり、はっと我に返る。
俺、アウレリオ様よりも先に食べちゃった。しかも、あーんって、あーんって・・・
顔が真っ赤になり、その姿をみてアウレリオは満足げにほほ笑んだ。
「あ、アウレリオ様!」
どこで誰が見ているかわからない。
護衛の騎士だっているのに・・・
「気にするな」
「む、無理・・・」
リオが目を白黒させていると、アウレリオは笑いながらリオの口の中にサンドイッチを押し込んだ。
ふんわりとしたパンと香ばしい香りと隠し味のオレンジの香りが口の中に広がった。
「お、おいしい・・・」
「もっと食べろ」
母鳥に餌をねだる子のように、食べ物をどんどん口元に運ばれ、ほおばり続ける。
「だ、だめでふ!あうれいおさまも・・・」
「何を言ってるのかわからんな」
アウレリオの目元が緩み、リオをからかうように口を開けた。
ごっくん。リオは口の中に押し込まれた食べ物を慌てて飲み込むと、アウレリオが好きそうなジューシーなチキンを挟んだサンドイッチを口元にもっていった。
「はい、どうぞ」
アウレリオはリオの手をつかむと、ぱくりとサンドイッチに食らいついた。
リオの手をつかまなくても十分に食べられるのに。
リオが戸惑っていると、アウレリオはリオの手に移った肉汁をなめ始めた。
指の間をなめられるとぞくぞくする。
「も、もう!ちゃんと食べてくださいよ!」
リオは赤くなった顔をごまかそうと、怒ったふりをした。
アウレリオはそんなリオを見て大笑いしている。
「どうしてお前はそんなにかわいいんだ?」
「な、なにを言っているんですか。そんなことをいう人はアウレリオ様だけですよ」
「ははは、当然だろう?」
アウレリオはリオの肩を軽く押して敷物の上に押し倒した。
「うーん、どうしてお前はこんなに甘いのかな?ん?まだ甘いのか確認してみないと」
「み、見られたら・・・」
「静かにしないとみられるかもしれないな」
リオが困り果ててアウレリオを見上げた。大きな瞳がうるうるとにじんでいる。
「心配するな」
「でも」
「あいつらなら見ない。私が信頼のおけない者を連れてくると思うのか?」
「それはそうですけど、でも、俺、心配で。だって・・・」
その先は言葉を飲み込む。
言ってしまったら、楽しい時間が終わってしまいそうだ。
でも、その心配はアウレリオに伝わってしまった。
視線をそらし、ぼそっとつぶやいた。
「悪ふざけが過ぎたか」
変わってしまった空気に気づいていないふりをして、敷布の上にごろっと仰向けに転がり、そのまま目をつむった。
「あ、アウレリオ様?」
えっと思ったが、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
それはそうだ。馬車の中で少し眠ったとはいえ、リオが寝ていた、というか気を失っていた時間もアウレリオは動き続けていたのだから。
リオは体を起こし、お弁当を丁寧に包みなおすと、アウレリオの身体にそっと上着をかけた。
(大好きです、アウレリオ様。本当に好きで好きでたまりません・・・このまま時が止まってしまえばいいのに)
リオはそよ風を顔に受けながら、咲き乱れる花を眺めた。
リオの複雑な心とは裏腹に、花たちがリオたちを祝福するように繊細な花びらを揺らしている。
(そういえば、今日は俺の誕生日だった・・・そうだ。こうして祝っていただけるなんて、俺、幸せだなあ)
目をつむると、瞼の上で日差しが躍った。
風がそよぎ、リオのほほの上に髪を躍らせる。
しあわせな、おだやかな、時間だった。
************
お読みいただきましてありがとうございました。
♡も広告もいつもありがとうございます。
特大の感謝をお送りします。
さて、寒さに弱い私ですが、超厚着で乗り切っています。
もう少し寒くなるとカイロを使いますが、最大5か所にカイロを入れたときには暑くなりすぎて、真冬にゆでだこのようになったことを思い出しました。
最近ならめっきり太ったので、ゆで卵に昇格?できるかもしれません。
それでは、今週もあと少しですね。
健康に気を付けてお過ごしください。
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