5月の雨の、その先に

藍音

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第七十六話 第三王女

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2台の馬車は静かに街を抜け、王宮に向かった。

町中は第三王女の誕生日を祝って、戸口に花とリボンが飾られている。
真っ赤なバラは赤毛の王女の象徴だった。
毎年この日は赤ワインをオレンジジュースで割り、フルーツを浮かべた飲み物が皆にふるまわれることになっている。子供ですら薄めたワインを飲めるこの日は、街中がお祭りムードに包まれる。
浮かれ騒ぎ歌う人たちの間を縫って走る馬車を見ると、街の人々は我らの姫様の生誕を祝うパーティーに出かけていく貴族たちだと、拍手喝采で送り出した。

「姫様はいくつになられたかな」
「もう17歳だ。そろそろお輿入れ先が決まるころだよな」
「遅いくらいだよ。パン屋のリサなんて、同じ年ごろでもう2人の子持ちだ」
「そりゃ、俺たちみたいな平民と、王女様は違うだろうよ」
「まあ、王様が手放したがらないって噂だしな」

第三王女は7人の子がいる王の一番末の子供だ。
上に4人いる王子は、それぞれ王太子や大貴族として叙任されて国の柱となっているし、第三王子は他国に望まれて婿養子に入っていた。
また、3人の姫のうち二人は他国に嫁ぎ、最後に残っているのが赤毛の姫だ。
王は一番最後に生まれた姫を溺愛し、国内の貴族に嫁がせると明言していた。
かわいい娘を一人ぐらいは手元に置いておきたいと。
国内の独身貴族たちは色めき立ったが、いまだ国王と第三王女のお眼鏡にかなうものはいなかった。
だが、姫も今年で17歳。そろそろ婚約者候補ぐらいいてもいい頃合いだ。

「もしかしたら、今日あたり発表があるかもしれないな・・・」

誰かがぽつりとつぶやくと、皆がごくりと唾を飲み込み、そのすぐ後にわっと空気が湧いた。

「だといいな!」
「第三王女様の結婚式なんてどれほど華やかなんだろう!」

気の早い人々は大声で笑いながら祝杯を挙げた。



王宮までの道は馬車で渋滞し、到着した貴族たちは入り口に並んで執事が名を読み上げて紹介するのを待つ。

「キャンベル伯爵ご令息 アウレリオ・リカルド・ル・グラム様 並びに ハリス男爵家ご令嬢 エミリア様」

アウレリオとエミリアが一礼し、並んで入場すると、すでに入場していた貴族たちの間でざわめきが走った。

「あの方は、辺境の・・・?」
「たしか、グラム家といえば、あの恐ろしい・・・」

ざわつく人々を無視してアウレリオがサーバーの運ぶシャンパンを手に取り、エミリアに渡した。

「王にあいさつして証書さえもらえばさっさと退散するのだが」

苦虫を噛み潰したようなアウレリオに、エミリアは首をすくめてシャンパンに口を付けた。
このような場所は初めてで、どうしたらいいのかもわからない。
自分の知っていることといえば、領地経営や刺繍、病人の手当てなどで、晴れがましい場に出たこともなければ、出ると思ったこともなかった。

「エミリア様、大丈夫ですか?無理してお飲みにならなくても」

リオがこっそり耳打ちした。

「何なら僕が処分してきますから、遠慮なくお申し付けください」
「リオ」

エミリアはリオのやさしさにほっとした。
知り合いは一人もいない、周りの話題は誰かのうわさ話ばかりのこの中でどうしたらいいのか。
アウレリオとは会話が成り立たないし、しかも自分から話す話題もない。
アウレリオの次に紹介されたジョゼフィーヌ一行は、別の貴族を捕まえておしゃべりに夢中になっていて誰も自分と話してくれる人はいない。

「緊張するわ」
「そうですね、実は僕もです」

リオが小声でつぶやくと、エミリアが小さく笑った。

ホールは広く豪華で、高い天井には煌びやかな絵が描かれている。
シャンデリアがきらきらと輝き、そこにいる人々は皆最新のドレスに身を包んでいる。
壁に配置されたろうそくの明かりが煌々とあたりを照らし、さざめく人々をより優美に見せていた。

「あなたがいてくれて、本当に助かるわ」

エミリアは率直に思いを伝えた。ここはあまりにも、落ち着かない。

「国王陛下並びに第三王女 セラフィーナ様のお出ましです」

ファンファーレとともに、深紅のカーテンが開かれた。

金色のコートに青いベストを合わせた初老の国王が、目にも鮮やかな赤毛の姫の手を取って表れた。
人々が感嘆の声を上げる。
今日の姫は純白のボディに裾に向かって藍色のグラデーションのかかったドレスを身にまとっていた。手袋は藍色で、真っ赤な髪は緩く結んで左側に垂らし、淡い空色の忘れな草と宝石が飾られている。
あまりの美しさに、皆息をのんだ。

「皆様、今日はわたくしの誕生日を祝ってくださってありがとう」

鈴の鳴るような美しい声がホールに響き渡った。
姫はホールを見回し、アウレリオのいる方角に向かってにっこりと微笑んだが、当のアウレリオはまるで気づかず、右斜め前にいた男が膝から崩れ落ちた。







ありがとうございました。明日、加筆予定ですm(._.)m
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