5月の雨の、その先に

藍音

文字の大きさ
29 / 152

第二十七話 願い

しおりを挟む
急速に胸が高鳴り、心臓の音が周りに聞こえているのではないかと不安になった。

「ご、ごほん」わざとらしく咳払いをする。「なにか聞こえているか?」
「なんですか?」リオがきょとんとアウレリオを見返した。「風の音?それとも、虫の飛んでる音ですか?それとも・・・」
「いや、なんでもない」

アウレリオは赤く染まった頬に気づかれないように、視線を下げた。

ぐぅー

リオの腹が盛大に抗議した。そろそろ、俺に食料をくれ、と。

「あわわ」

慌てるリオに、アウレリオがナプキンにくるまれた包みを差し出した。

「料理長に作らせた。目の前で作らせたから、大丈夫だろう」
「え・・・?」

無表情のアウレリオの前で、料理長が粗相があってはならないと青くなってパンに具材を挟んでいる様子が目に浮かぶ。

「あはっ」思わず吹き出してしまった。伯爵家のご令息が、こんな事に気を使ってくれるなんて!
「若様の分は?」
「私はいい」
「じゃあ、はんぶんこしましょう?」

リオは包みを開けるとパンを半分にちぎって、大きい方をアウレリオに渡した。

「どうぞ、おかけください」

リオがポケットから取り出したリネンの切れ端を地面に敷き、座るように勧めると、アウレリオは無言でその上に腰掛けた。断ればリオが悲しむだろうから。

はんぶんこしたお昼は三口で食べ終わってしまい、ふたりで並んでさわやかな風が吹くなか、のんびりと空色の丘をながめた。

「そういえば、おまえはいくつになったんだ?」
「えっと、たぶん7歳か8歳ぐらいだと思います」
「ぐらい、とはなんだ」
「わからないんです。それを知ってる母ちゃんは飲んだくれてばかりだったし・・・村長様のところに引き取られたとき、あと一年で7歳になるって言ってましたけど、それが正しいのかもわかりません。村長様のところには半年いました」
「・・・では、城に来たときはまだ7歳か、もしかしたら6歳だったかもしれないということか?」
「・・・はい」
「お前・・・」アウレリオが絶句した。「運が良かったな。よく生き延びた」
「はい、ありがとうございます。アウレリオ様のおかげです」

そう言われると複雑な気分だった。
この一年の間にリオは三度毒にあたった。ジョセフィーヌを脅しつけたせいか、どれも腹をくだす程度の軽い毒だったが、一度は高熱を出した。アウレリオの毒見をしている「せい」なのに。

「では、今日をお前の誕生日にしよう」
「え?」
「5月の雨が降った翌日。丘が空色に染まる日だ。それでどうだ?」
「はいっ!」リオが大きくうなずいた。「俺、産まれた日がわからないってこと、ずっと情けなく思ってたんです。みんなが誕生日だってうれしそうに話しているのも、うらやましかった!若様、なんで分かるんですか?親だって言われている人も誰一人気にかけてくれなかったのに!」
「それはひどいな」アウレリオは眉根を寄せた。「だが、私の親も似たようなものだ。だから、気にするな」
「若様・・・俺、これから毎年5月の雨が降るのを楽しみに待ちます。若様が俺に誕生日を授けてくれた日だって、そうかんがえるだけで、なんか、こう・・・ここが」リオは心臓のあたりを撫でた。「あったかくて、もぞもぞして、飛び上がりたいぐらいうれしくなるんです」
アウレリオはリオの巻き毛にそっと触れた。
「来年も、再来年もまたここに来て、お前の誕生日を祝ってやろう。今日でお前は8歳。来年は9歳の誕生日だ。来年はもっとしっかりした食事を持ってこよう」
アウレリオが片目をつぶって見せ、リオは若様にこんな表情ができるのかと目を丸くし、次の瞬間、弾けたように笑った。

**********************

帰り道は、陽が傾き、少し寒いくらいだった。
アウレリオはリオを行きよりもしっかりと抱き寄せた。

背に触れる体温と、心臓の音が大きくて、自分のものなのかアウレリオのものなのかわからない。
ただ、お腹や心臓の奥から経験したことのない甘い疼きが広がり、くすぐったい気持ちを抱えたまま、アウレリオに背中を預けた。

「リオ」アウレリオが耳元でささやき、リオを体ごとぎゅっと抱きしめた。「・・・死ぬな」

震える声に胸が締めつけられる。
涙をこらえるため、目をおおきく開き、唇を噛んだ。

「・・・はい」
「私の許しも得ずに死んではならん。いいか、絶対だ」
「はい」

リオはアウレリオが手綱を掴む手にそっと小さな手を重ねた。
ひんやりとした、でもやさしい手。
胸が一杯になり、涙がこぼれそうだ。

「ずっと、おそばにおります。いさせてください」
「・・・ん・・・」

アウレリオがリオの頭の上に自分の顎をのせた。

(ああ、ずっと、このままでいられたらいいのに)

空は紫とオレンジ色に染まり、今日の日との別れを惜しんでいた。
まるで、リオとアウレリオのように。



*******************

(お礼)

お読みいただきまして、ありがとうございました!
ここまでで第一部終了です。
章立てをしていないんですけど、どうしましょう。
あとで一時掲載停止にして修正するかもしれません。

第二部では、時がたちふたりは大人になっています。待ちに待ったラブ展開がようやく・・・♡

それで、このあと整理のため、2日ほどお休みをいただきます。
がんばって準備を進めてまいりますので、今後もよろしくお願いします。

そして、ハートを送ってくださった方、広告を回してくださった方、とても感謝しています。
2日後まで転んだり、風邪を引いたりしないように事前に祈っておきますので、またお会いしましょう(^_-)-☆♡


しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...