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第四十五話 迷い
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時間が全然進まない。
もどかしい。
その日は、何度も日時計を確認し、時を知らせる鐘の音に神経を尖らせた。
どれほど長く思われても、必ず時は流れる。
日が陰り、太陽が地平線の向こうに沈んだ時、緊張のあまり、めまいを感じた。
同時に、ありえないほどの胸の高鳴りも。
自分のような身分の低い使用人がだいそれたことを考えてはならないと、よく分かっている。
だけど、高鳴る胸は止められない。
ずっと好きだった人と抱き合いたい。
肌を触れ合い、誰にも許したことのない場所をさらけ出す相手は、愛する人がいい。
それが、一夜限りだったとしても。
目を閉じて、自分にいい聞かせる。
アウレリオ様の重荷になってはならない。
そもそも使用人は主人のために存在しているもの。
主人の望みを叶え、快適に過ごしていただくことが、与えられた使命なのだ。
村長の家で過ごしていた時、一階に住んでいた厩番の夫婦はとても仲が良かった。
産まれたばかりの赤ん坊の面倒を見ながら、お互いを見るときはいつも瞳が輝いていた。
愛し合い、時には軽く喧嘩しながらも、しばらくすれば仲直りし、口づけを交わしている。
羨ましさはなかった。
あまりにもかけ離れた存在で、自分の置かれた立場とはちがいすぎる。
酒ばかり飲んで、いつも自分を邪魔にする母。
父親だと聞いたが、真偽は不明の男の人。
どちらも、あの若夫婦が赤ん坊を見るときの愛しげな微笑みを浮かべてリオを見たことは、一度もない。
自分には過ぎた贅沢なのだ。
それは分かっている。
本当は誰かに愛され、誰かの大切な人になりたい。
だが、それは、空に浮かぶ月を手のひらに乗せるほど難しい。
でも、愛することはできる。
たとえ受け取ってもらえなくても、心のなかに愛情を秘め、主人の望みに答えることは不敬にはならないだろう。
アウレリオ様が、抱いてくださる。
しかも、お優しい方だ。俺のようなものに、気遣いをくださる。
使用人たちの噂話では、高貴な方にお仕えする時、必ずしも優しくしてくださるとは限らない。
高貴な方が逗留したときに、部屋に呼ばれたメイドは、いきなり裸にされ、足を開かされたと。
痛いと泣けば、殴られたそうだ。
その娘はしばらくして腹が大きくなり、城を追い出されたとか。
俺は幸せだ。
愛する主人は俺を大切にしてくださるし、妊娠の心配もない。
ふうっと大きなため息をひとつ。
(俺、神経質になってるのかな)
いつもなら気にもかからないことが、気にかかる。
ランプのすす。窓の汚れ、シーツのしわ・・・
床の木目の数を数えだしたときに、ちょっとおかしいなと笑いがこみ上げた。
「リオ」
いつの間にか、主人が部屋に戻ってきていた。
考え込みすぎて、扉を開けそびれてしまった。
「どうした、そんなところで。窓の外に何か面白いものでもあるのか?」
窓際にたたずむリオにアウレリオが話しかけた。
「すみませんでした。扉を開けそびれてしまって・・・」
「気にするな」
アウレリオがリオの肩に手をかけ、外を覗き見たが、部屋の外は薄暗く、もうなにも見えなかった。
ただ、魔の森が誘うように梢を鳴らしているだけ。
「リオ」
アウレリオがリオを背中から抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
「お前はいい匂いがする」
その言葉に含まれる性的な色に、リオの背中にゾクッと快感が走った。
「だが、お前が望まないことは、私も望まない。心配するな」
アウレリオは、リオの心の奥底にあった迷いに気づいていたのだ。進みたくて仕方がないとはいえ、一度経験してしまったら元には戻れない。口づけを交わしてから、二人の関係が全く違うものになってしまったように。
「アウレリオさま」
リオはアウレリオの腕の中で身体を回し、正面から視線を合わせた。
その瞳は空色で、アウレリオの気持ちは落ち着いていると告げていた。
アウレリオの感情が動く時、空色の瞳の奥に金色の光がきらめく。二人の情事のときにはいつも、瞳は金色に染まっていた。
やっぱり、好きだ。
もっと近くに行きたい。
誰よりも近くなりたい。
リオはアウレリオの頬にそっと触れた。
「こわく、ないです。それに、アウレリオ様はなにも心配なさらなくても、俺がアウレリオ様を困らせることは無いです。ご安心ください」
「リオ?お前が私を困らせる?何を言ってるんだ?」
「その・・・いろいろと、心配は無用だということです。俺はアウレリオ様の持ち物ですから。お好きになさる権利をお持ちなのですから・・・それなのに、優しくしてくださって、感謝しています」
アウレリオの眉間にしわが寄った。
「お前のそういう言い方はときに私を傷つける。何故自分をもののように言うのだ。まるで、そのへんにある置物や剣や馬のようではないか」
アウレリオとて知っていた。使用人の命は高価な花瓶や美しい軍馬に劣る、ということを。
だが、リオは自分にとってそのような存在では無いのに。
「そんなつもりはなかったんです・・・ご気分を害されたら、お詫びいたします。でも・・・」
「だまれ」
アウレリオはリオの手をつかんだ。
「二度と、自分をもののように言うな。お前は私の召使いではあるが・・・どのように扱われても良い存在ではないのだ」
「アウレリオさま・・・」リオの胸が温かいもので満たされた。
愛してます。もうずっと、心の底から。
でも、その言葉は言えない。
リオはアウレリオの瞳を見つめた。
「アウレリオ様の金色の瞳が好きです・・・とても。俺のようなものを思いやってくださる、そのお気持ちも・・・もし、俺を望んでくださるのなら、喜んで・・・」
リオはかかとを上げ、そっとアウレリオの唇に口づけた。
「どうぞ、おれを抱いてください」
***********************
(お礼)
あけまして、おめでとうございます。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
のんびりとお正月を楽しんでいらっしゃいますでしょうか。それとも、お忙しい方が多いかな?
私はバタバタしていましたが、今年は元旦に頑張りたいなと思って、時間を作りました。
この作品に出会っていただいてありがとうございます。
また引き続き、よろしくお願いします。
♡をいただきまして、ありがとうございました。感謝しています(*^^*)
もどかしい。
その日は、何度も日時計を確認し、時を知らせる鐘の音に神経を尖らせた。
どれほど長く思われても、必ず時は流れる。
日が陰り、太陽が地平線の向こうに沈んだ時、緊張のあまり、めまいを感じた。
同時に、ありえないほどの胸の高鳴りも。
自分のような身分の低い使用人がだいそれたことを考えてはならないと、よく分かっている。
だけど、高鳴る胸は止められない。
ずっと好きだった人と抱き合いたい。
肌を触れ合い、誰にも許したことのない場所をさらけ出す相手は、愛する人がいい。
それが、一夜限りだったとしても。
目を閉じて、自分にいい聞かせる。
アウレリオ様の重荷になってはならない。
そもそも使用人は主人のために存在しているもの。
主人の望みを叶え、快適に過ごしていただくことが、与えられた使命なのだ。
村長の家で過ごしていた時、一階に住んでいた厩番の夫婦はとても仲が良かった。
産まれたばかりの赤ん坊の面倒を見ながら、お互いを見るときはいつも瞳が輝いていた。
愛し合い、時には軽く喧嘩しながらも、しばらくすれば仲直りし、口づけを交わしている。
羨ましさはなかった。
あまりにもかけ離れた存在で、自分の置かれた立場とはちがいすぎる。
酒ばかり飲んで、いつも自分を邪魔にする母。
父親だと聞いたが、真偽は不明の男の人。
どちらも、あの若夫婦が赤ん坊を見るときの愛しげな微笑みを浮かべてリオを見たことは、一度もない。
自分には過ぎた贅沢なのだ。
それは分かっている。
本当は誰かに愛され、誰かの大切な人になりたい。
だが、それは、空に浮かぶ月を手のひらに乗せるほど難しい。
でも、愛することはできる。
たとえ受け取ってもらえなくても、心のなかに愛情を秘め、主人の望みに答えることは不敬にはならないだろう。
アウレリオ様が、抱いてくださる。
しかも、お優しい方だ。俺のようなものに、気遣いをくださる。
使用人たちの噂話では、高貴な方にお仕えする時、必ずしも優しくしてくださるとは限らない。
高貴な方が逗留したときに、部屋に呼ばれたメイドは、いきなり裸にされ、足を開かされたと。
痛いと泣けば、殴られたそうだ。
その娘はしばらくして腹が大きくなり、城を追い出されたとか。
俺は幸せだ。
愛する主人は俺を大切にしてくださるし、妊娠の心配もない。
ふうっと大きなため息をひとつ。
(俺、神経質になってるのかな)
いつもなら気にもかからないことが、気にかかる。
ランプのすす。窓の汚れ、シーツのしわ・・・
床の木目の数を数えだしたときに、ちょっとおかしいなと笑いがこみ上げた。
「リオ」
いつの間にか、主人が部屋に戻ってきていた。
考え込みすぎて、扉を開けそびれてしまった。
「どうした、そんなところで。窓の外に何か面白いものでもあるのか?」
窓際にたたずむリオにアウレリオが話しかけた。
「すみませんでした。扉を開けそびれてしまって・・・」
「気にするな」
アウレリオがリオの肩に手をかけ、外を覗き見たが、部屋の外は薄暗く、もうなにも見えなかった。
ただ、魔の森が誘うように梢を鳴らしているだけ。
「リオ」
アウレリオがリオを背中から抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
「お前はいい匂いがする」
その言葉に含まれる性的な色に、リオの背中にゾクッと快感が走った。
「だが、お前が望まないことは、私も望まない。心配するな」
アウレリオは、リオの心の奥底にあった迷いに気づいていたのだ。進みたくて仕方がないとはいえ、一度経験してしまったら元には戻れない。口づけを交わしてから、二人の関係が全く違うものになってしまったように。
「アウレリオさま」
リオはアウレリオの腕の中で身体を回し、正面から視線を合わせた。
その瞳は空色で、アウレリオの気持ちは落ち着いていると告げていた。
アウレリオの感情が動く時、空色の瞳の奥に金色の光がきらめく。二人の情事のときにはいつも、瞳は金色に染まっていた。
やっぱり、好きだ。
もっと近くに行きたい。
誰よりも近くなりたい。
リオはアウレリオの頬にそっと触れた。
「こわく、ないです。それに、アウレリオ様はなにも心配なさらなくても、俺がアウレリオ様を困らせることは無いです。ご安心ください」
「リオ?お前が私を困らせる?何を言ってるんだ?」
「その・・・いろいろと、心配は無用だということです。俺はアウレリオ様の持ち物ですから。お好きになさる権利をお持ちなのですから・・・それなのに、優しくしてくださって、感謝しています」
アウレリオの眉間にしわが寄った。
「お前のそういう言い方はときに私を傷つける。何故自分をもののように言うのだ。まるで、そのへんにある置物や剣や馬のようではないか」
アウレリオとて知っていた。使用人の命は高価な花瓶や美しい軍馬に劣る、ということを。
だが、リオは自分にとってそのような存在では無いのに。
「そんなつもりはなかったんです・・・ご気分を害されたら、お詫びいたします。でも・・・」
「だまれ」
アウレリオはリオの手をつかんだ。
「二度と、自分をもののように言うな。お前は私の召使いではあるが・・・どのように扱われても良い存在ではないのだ」
「アウレリオさま・・・」リオの胸が温かいもので満たされた。
愛してます。もうずっと、心の底から。
でも、その言葉は言えない。
リオはアウレリオの瞳を見つめた。
「アウレリオ様の金色の瞳が好きです・・・とても。俺のようなものを思いやってくださる、そのお気持ちも・・・もし、俺を望んでくださるのなら、喜んで・・・」
リオはかかとを上げ、そっとアウレリオの唇に口づけた。
「どうぞ、おれを抱いてください」
***********************
(お礼)
あけまして、おめでとうございます。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
のんびりとお正月を楽しんでいらっしゃいますでしょうか。それとも、お忙しい方が多いかな?
私はバタバタしていましたが、今年は元旦に頑張りたいなと思って、時間を作りました。
この作品に出会っていただいてありがとうございます。
また引き続き、よろしくお願いします。
♡をいただきまして、ありがとうございました。感謝しています(*^^*)
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