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第592話「トライアルアンドエラーという事で、とりあえず、それでやってみませんか?」

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最初に開拓した農地近郊の村から、ぜひに!というOKの返事が、
当然の如く届いた後……農地開拓は各所で順調に進んだ。

……リオネルの段取りにより、
わずか1か月余りで、新たに増えた農地は50か所以上、
合計して、ふたつの町にもなるくらいの広さとなったのである。

国が近郊の無価値だった原野を整地し開拓。
手厚い援助をしてくれた上、まる10年耕作し、目標の収穫を上げれば、
更にその農地が無償で譲渡されると聞き、
当該地の町長、村長、町民、村民はモチベーションが著しくアップ、
大喜びしたからである。

これでイエーラの食糧増産、自給率アップは確実であろう。

ここまで上手く行ったのは、国家規模へとんでもなくスケールアップしたとはいえ、
元々、リオネルが『支援施策』で行っていた町村における経験が、
大いに活きたからである。

しかしながら、今回開拓した農地で、収穫物という結果が出るのはまだ先。

いくらティエラ直伝たる地の加護を開拓した農地へ与えたとはいえ、
作物が育ち、収穫可能となるまでにはある程度の時間がかかる。

まあ、リオネルが本気を出して加護を与えたら、
一瞬で、苗、種が成長し、実がなって、収穫可能という、
神の御業に近い現象が起こるやもしれないが。

……というわけで、リオネルはもうひとつの重要な仕事に手をつける事にした。

もうひとつの重要な仕事とは、他国との交易である。

交易を盛んにし、イエーラの経済を活発化させ、国内の景気を良くして、
税収をアップ、つまり国家予算の増収をはかるのだ。

その為には、改めて新たな交易のシステム、ルートの構築をしなければならない。

ここで生じる大きな問題があった。

それはエルフことアールヴ族の国イエーラが、
今までとって来た独自の鎖国政策である。

補足しよう。

そもそもこの世界における鎖国とは、自国で信仰する宗教以外を禁ずる禁教と、
貿易統制を目的に、許可なしで国民の出国の禁止と、
同じく許可なしで外国人の入国を禁止する政策である。

そして、イエーラの場合、ふるき時代から、この概念をベースとして、
独自の鎖国政策を取っていた。

原則として、イエーラ国民は許可なく出入国は一切禁止。
やむを得ない場合、出入国の際は、国の厳重な審査を受け、
クリアしない場合は許可は出ない。
もしクリアしても出入国の際は、結構な金額の手数料を課せられる。

また、アールヴ族至上主義、純血主義から、
国外で他種族と婚姻し、ファミリーを構築した場合、
自身の再度の入国、そしてファミリーの入国は一切認められない。

ちなみにイエーラから国外へ旅立ったイェレミアスの場合は、
ソウェル引退後の国外特別視察、
及び冒険者として、稼いだ報奨金の国への送金という名目であった。

今回、人間族たるリオネルの入国に関しても、
事前に魔法鳩便でヒルデガルドへ連絡を取り、
『特例』として、しかるべき手続きを踏んだものである。

ただ、リオネルに心酔。
アールヴ族至上主義、純血主義を考え直した、
イェレミアスとヒルデガルドは、この政策を根本から変えたいと言う。

変えたいと言うふたりは、ひどく楽観的であった。
前ソウェルと現ソウェルが、合力し、強くプッシュすれば簡単に変更可能だと。

しかしリオネルはそれほど甘く考えてはいない。
最近は少し緩んで来たとの事だが、1万年近く守られて来たルールなのだ。

他種族を嫌悪する国民感情もあるだろうし、慎重に取り組まないといけない、
そう考えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……とある日の夜、リオネルはヒルデガルド、イェレミアスと打合せをしていた。

新たな交易のシステム、ルートの構築に関して、
リオネルの考えがまとまったからである。

ヒントは、以前冒険者ギルドで読んだ古文書。
鎖国政策をとる東方の国が行った施策がヒントになったのだ。

その東方国には、国外の商人を収容する為、扇形の人工島を建設した。
この人口島が、国外の商人の臨時居住地……『特別地区』となり、
鎖国時には、唯一の貿易地であったという。

リオネルはその扇形人口島の説明をし、

「その東方国は、四方を海に囲まれている島国でした」

「四方を海に囲まれている?」
「島国……ですか?」

「はい、イエーラとは全く地形が違いますが、モデルケースには出来ると思います」

軽く息を吐き、リオネルは更に言う。

「人口島の代わりとして、国境沿いに、国外の商人専用の特別地区を造りましょう」

「え? 国境沿いに特別地区?」
「それは一体、何でしょうか?」

「はい、国境沿いに、高い壁に囲まれた小さな町を造ります」

「高い壁に囲まれた」
「小さな……町ですか」

「はい、この特別地区は、イエーラのように外国人の内地雑居を認めない国家が、条約を定め、外国人の入国と商取引を認めた地域です。外国人の行動を特別地区のみに制限し、一般国民とは切り離し、直接交流は不可能にします。国外との交易は限られた商人のみが、特別地区のみで行うんです。」

「な、成る程」
「その町は、一種の緩衝帯ですね」

「はい、緩衝帯です。いくらおふたりといえど、イエーラの鎖国は約1万年続けて来た長き慣例ですから、いきなり開国だと強権発動すれば、国民から猛反発を招く恐れがあります。ですから緩衝帯である特別地区へ、国外の商人を入国させ、取引所も作り、とりあえずは暫定的に、特別地区内のみで交易します」

「リオネル様のおっしゃる事は分かります」
「特別地区限定で交易を行うのですね」

「はい、特別地区限定で交易を行います。その後をどうするかはイエーラの状況は勿論、相手もある事なので、成り行きで、臨機応変に対応します」

リオネルはそう言うと、更に話を続ける。

「当然、事前にしっかりルールをとり決めておいて双方で共有し厳守します。特別地区内での犯罪行為は厳罰に処すのは勿論ですが、もしも国外の商人が特別地区から、勝手にイエーラ国内へ入る等、ルールを破った場合も、厳しく処罰します。ちなみに、おふたりが一番気になるであろう特別地区運営の財源ですが、国外との交易の際、生ずるで収益等で賄おうと思います」

ざっくりとした説明であったが、相変わらずリオネルの説明は、
簡単明瞭で分かりやすい。

「特別地区の概要に関してはまだまだ説明が必要ですし、ルールに関しても、いろいろなケースを想定して、こまごまと決めておいた方が良いと思います。入国の際のチェックや犯罪抑止の方法も俺の方で考えました。トライアルアンドエラーという事で、とりあえず、それでやってみませんか?」

リオネルはそう言うと、ヒルデガルドとイェレミアスへ柔らかく微笑んだのである。
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