青柳さんは階段で ―契約セフレはクールな債権者に溺愛される―

クリオネ

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《第10章》 天国の門

最善

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 アートの世界について、飛豪は自分でも調べてみたが、実力以上に運も必要となる上、彼女は体にリスクも抱えている。

 加えて、体力もそこまである方ではない。第三者としての評価だと、どれも中途半端に共倒れして、ボロボロになるのが目に見えている。

 ――負担を減らすなら、とりあえずは大学とダンスだけにしろって言って、卒業後は俺がパトロンになってダンスに集中させてやるべき話だな……。

 彼女から与えられたものを考えるなら、最初の五〇〇万円が吹き飛んでも、飛豪にとっては痛くもかゆくもない。むしろ、今すぐに入籍して借金もなにもかもチャラにして、この先の人生を丸抱えしてもいい。それぐらいの覚悟で付きあっている。

 ――ただ、俺が用意する道がこの子にとって最善かどうかが、微妙……。

 コーヒーのカップで手のひらを温めたまま長考モードに入った横顔を、瞳子は固唾をのんで見守っていた。

「あのさ、」

 最後に彼が口を開いたとき、彼女は緊張した面持ちでうなずいた。

「嫌な話と大事な質問、どっちもするよ。今の成りゆきからすると、俺は、『自分の財布が期待されてるんだな』って理解したわけだ。少なくとも君だけの経済状況で、ダンスのレッスンはできない」

「間違ってないです」

「嘘ついたり誤魔化したりしないで答えてほしいんだけど、将来的に君は、どうやって金を稼ぎたい? 俺はもう、君に首根っこ押さえられてるぐらいの気分だし、実際ギリギリのところで助けられたから、正直なところ、経済的な苦労なんかしないで好きなことだけして、俺のとなりで機嫌よく笑っててくれればそれでいい。君の提案したプラン、どう考えても疲弊して神経すりへらすのが目に見えてるから、心配でたまらない」

 あまりにも率直な質問に、今度は瞳子が長考を迫られる。二人の将来さきの選択をするにあたって、金銭の話しあいは避けて通れない。

 飛豪は、瞳子が遠慮のためだけに企業での就職を選ぶことを懸念していた。

 彼としては、彼女が財産をあてにしてこようが、会社員生活を選ぼうが、本当にどちらでも構わなかった。とにかく後悔しない方だけを選んでほしかったので、一つ助け舟をだすことにした。

「君は俺に食いぶち世話になることを躊躇ってるんだろうけど、俺だって、別に大したものではないから。このマンションも親からの相続だし、俺の財産の大半は相続した金を投資で膨らましたものだ。
 学歴くらいは自分でそこそこ頑張ったって言えるけど、アメリカで学位とったのや三か国語話してるのは、努力よりも環境のせい。あとは、実家がらみで収入の糸口になりそうなネタはいくらでも入ってくる。君と違って、自助努力じゃないところで手に入れたものの方が大きいから、それで威張る気もない。
 ――俺は君が好きだから、君が引け目を感じて苦しい道を選んで傷つくのは見たくない。だったら最初から一番幸せになれる方を教えてほしい。それだけ」

 飛豪は瞳子の隣へと場所をうつして、大きな手で肩を抱いた。彼女がもたれかかってくると、不安をなだめるように背中をさすった。
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