政略結婚しましたが、王子は愛人に夢中です!

クリオネ

文字の大きさ
50 / 110
《第3章》 幸せで不幸せ

茜さす帰路 2

しおりを挟む
「あ、でも黙ってたといえば」エリーは、思いだしたように口にした。

「何ですか?」ジェイが、今度はなにを言われるのかと身構える。

「あなた、リシャール王がガラティアに来ること、収穫祭の前には知っていたでしょ。ガラティアの人たちが、ギリギリまで重要事項からわたしを締め出したい気持ちも分かるけど、自分が知らないままだと傷つくわ」

 エリーが頬を膨らませてむくれた。本質的に傷つくのは、彼がすでに女性と経験があったことよりこちらの方だ。

「…………」
「ま、あなたに文句言っても仕方ないんだろうけど」

 黙して返事をしないジェイに、くさくさした気分でエリーは話題を終わらせようとした。

 本当のところ、その点で彼を責められないことを、エリーは十分に理解している。彼だってウォルトンあたりから指示されていたのだろう。せっかく二人きりになれた日を、気まずい空気のまま終わりたくない。

 二人はしばらく、緋色から群青色へと移ろいつつある壮大なグラデーションの空の下、城へとつづく一本道を走っていた。もうすぐ民家が並ぶ地区にはいる。その前に御者台をおりて馬車に戻らなければならない。エリーが口を開こうとしたとき、ジェイがぽつりと言った。

「知らないほうが安全だから」
「え?」

「お嬢様は、『知らないまま』のほうが疑われない。だから俺も、知ってて黙っていた。それが真面目なあんたを苦しめるのは分かる。でも、周囲から『お飾り』だと侮られたままの方が、生存できる可能性が高い。俺はあんたの護衛だから、そこまで考えてた」
「生存って……そんな物騒な」

 戸惑った表情をうかべたエリーを、ジェイはひどく真剣な目つきで見据えた。

「エリー様は、今どこまで把握してる? 知らない方が負担が少ないと思って今までは黙ってきたが、ひょっとするともう、そんな悠長なこと言ってられないのかもしれない。だから、迷ってもいる」
「クロード様とリシャール王の関係は、そこまで差し迫っているっていうこと? ウォルトンから、今回の訪問だけは失敗できないと聞いてたけど」

 ジェイは、リシャール王の訪問背景をざっと説明した。ガラティアは、いつ王都から造反の疑義で攻めこまれてもおかしくない事態に陥っている。今まで意図的に聞かされていなかった政治情勢とはいえ、自分の立っていた足場が流砂の地面のように脆かったことに、エリーは愕然とした。

「お嬢様、驚かせて悪かった。でも、だから、聞かせたくなかったのもある。そんな真っ青な顔させたくなかったし、知らなければ、万が一ディーリア一族が討伐されても、エリー様は王都側に保護される可能性がでてくる」
「ディーリア一族ってクロード様のことでしょ。クロード様の御命が危なくなるときは、あなたも……」
「その時は、もちろん俺も死ぬと思う。でも俺は、あんたに生きのびてほしい」

 青みがった暗がりのなかでも、エリーを見つめている彼の瞳が切実な色を帯びているのが分かる。事態はそれだけ逼迫しているのだ。

 迫りくる夜闇に、エリーは不吉な胸騒ぎを感じていた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...