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追憶編
聖堂に咲く出会い
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カイルと別れ、バニッシュは一人で街の東通りを歩いていた。
買い食いできそうな屋台方面は、無情にもカイルに取られた。
仕方なく反対側の静かな通りを回るバニッシュは、腹を押さえながらぼやく。
「……腹へったなぁ~……」
陽射しが石畳を照らし、祭りの準備で街全体が慌ただしい。
装飾を吊るす職人の掛け声、踊り子の練習、祭具を運ぶ若者たちの笑い声――賑やかさの中で、ただ一人、空腹の男がため息を吐く。
「せめて何か食い物でも売ってねぇかな……」
キョロキョロと周囲を見渡しながら歩くバニッシュ。
だがこの通りは露店よりも装飾や資材を運ぶ人々が多く、屋台など影も形もない。
「うーん、こっちハズレか……」
そんなことを呟きながら角を曲がった、その瞬間――。
――どんっ。
「きゃっ!」
軽い衝突音と共に、小さな悲鳴が上がる。
バニッシュの視線の先で、一人の少女が尻もちをついていた。
「あっ、す、すまない! だ、大丈夫か!?」
慌ててバニッシュは手を差し出す。
少女はうずくまりながら顔を上げ――その姿に、バニッシュの目が思わず奪われた。
黒を基調としたシスター服。
白いフードの下から覗く淡い銀色の髪が、陽光を反射してきらめく。
小柄な身体に似合わぬほど豊かな胸元を隠すように、彼女は胸の前で十字を切る。
「ご、ごめんなさい……わたしの方こそ、前を見てなくて……」
柔らかな声。澄んだ琥珀の瞳には怯えと誠実さが宿っていた。
「い、いや、俺が悪かった。怪我はないか?」
バニッシュの差し出した手を、そっと掴む小さな手があった。
指先はひんやりと柔らかく、花の香りが微かに漂う。
彼女はその手を頼りに立ち上がり、胸の前で手を組むようにして小さく会釈した。
少女は顔を上げる。
光を受けた銀色の髪がふわりと揺れ、柔らかな笑みが咲く。
「だいじょうぶです。……ありがとうございます」
その微笑みは、春の陽だまりのように穏やかだった。
だがすぐに、少女の表情がはっとして曇る。
「あっ……お花が……」
地面には、色とりどりの花びらが散っていた。
バニッシュとぶつかった拍子に、抱えていた花束が落ちてしまったのだ。
「これは?」
バニッシュは腰を屈め、花を拾いながら尋ねる。
「明日のお祭りの飾り付けに使うお花なんです。教会で子どもたちと一緒に準備していて……」
拾い上げた花は、衝撃で茎が折れたり、花びらが散ったりしている。
とても飾りには使えそうにない。
本当に申し訳ない、とバニッシュは深く頭を下げた。
「すまない。前を見てなかったばっかりに……」
「いえ……大丈夫です。まだ時間もありますから、また摘んできますので」
そう言って微笑む少女の声は、慰めるように優しい。
だが、その優しさがかえって胸に刺さる。
「なら――俺も一緒に行こう」
「えっ? で、でも……」
少女は戸惑ったように目を瞬かせる。
「こういうのは二人でやった方が早いだろ? それに、ぶつかったのは俺のせいだ。責任を取らせてくれ」
バニッシュの言葉に、少女は数秒迷ったあと――ふっと表情を緩めた。
「……はい。じゃあ、一緒に」
そう答えると、彼女は籠を抱え直し、石畳の先を指差した。
「この先の丘に、たくさん咲いているんです」
「案内頼むよ、シスターさん」
「セリナです。セリナ・ルーミア」
「そうか。俺はバニッシュ・クラウゼンだ」
二人は顔を見合わせ、微笑を交わす。
風がふわりと吹き抜け、散った花びらが陽光を反射して舞い上がる。
――こうして、二人は並んで歩き出した。
まだ互いの運命を知らぬままに。
これが、後に勇者一行の一人、聖女のセリナと、バニッシュの出会いだった。
丘に、風が吹き抜け、色とりどりの花々が揺れ、バニッシュとセリナはその中で夢中になって花を摘んでいた。
「こんなに集められるなんて……ありがとうございます!」
両腕いっぱいに花を抱え、セリナは嬉しそうに微笑む。
その笑顔に、バニッシュは思わず目を細めた。
「これくらいどうってことないさ。さ、教会に戻ろう」
花籠を分担して持ち、二人は並んで坂を下っていく。
石畳に差す陽光が金色に染まり、どこか穏やかな時間が流れていた。
やがて、街の中に佇む小さな教会が見えてくる。
古びた鐘楼と白い壁――祭りの飾り付けが始まっており、入口では一人の年配のシスターが箒を手に掃除をしていた。
「あら、セリナ。お帰りなさい」
柔らかな声で振り向いたその初老のシスターは、優しい眼差しで二人を迎える。
「飾り用のお花、たくさん採れたみたいね」
「はい! 少し遅くなっちゃいましたけど……」
セリナは駆け寄り、息を弾ませながら答える。
「ふふ、大丈夫よ。ほら、子どもたちがお庭で待ってるわ」
シスター――タリズと呼ばれたその女性は、穏やかに微笑みながら視線をバニッシュに向けた。
「ところで、こちらの方は?」
「あっ、この方はお花を摘むのを手伝ってくださったバニッシュさんです!」
セリナが紹介すると、タリズは目を細め、丁寧に頭を下げた。
「まあ、そうでしたの。ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」
「い、いや、そんな大したことはしてませんよ」
バニッシュは頭をかきながら照れ笑いを浮かべる。
その仕草を見て、タリズは小さく頷くと、
「よかったら、中でお茶でもどうかしら?」と柔らかく声をかけた。
「い、いや、そんなお構いなく……」
遠慮しつつも、腹の虫が――ぐぅぅぅ、と容赦なく鳴った。
空気が一瞬止まり、セリナが目を丸くする。
次の瞬間、タリズはくすりと笑った。
「ふふ、パンとスープもありますので」
「……!」
バニッシュの顔が引きつり、真っ赤になる。
セリナも堪えきれずにふっと笑う。
「タリズさんのパンとスープ、とっても美味しいんですよ」
「……そ、そうか。じゃあ……ご馳走になろうかな」
観念したように頭をかき、バニッシュは頬をかいた。
「ええ、遠慮はいりませんよ」
タリズは微笑み、教会の扉を開ける。
セリナが小さく「どうぞ」と手を差し出し、
バニッシュはその後ろ姿を追うように、静かな礼拝堂の中へと足を踏み入れた。
ステンドグラスから差す柔らかな光が床に虹色の模様を描く。
その光の中に立つセリナの姿は、どこか幻想的で――まるで聖女のようだった。
教会の扉をくぐると、タリズが柔らかな声で言った。
「それでは準備してきますので、お庭のほうで待っていてくださいね」
そう言って奥へと消えていく。
バニッシュは頷き、セリナの案内で中庭へと向かった。
教会の庭は花壇と木々に囲まれた、穏やかな空間だった。
陽光が差し込み、子どもたちの笑い声が風に乗って響いている。
おそらく六人ほどだろうか。三歳くらいの幼子から七歳ほどの子までが駆け回っていた。
「あっ、おねえちゃん!」
「セリナ姉ちゃんだ!」
子どもたちはセリナの姿を見つけると、一斉に笑顔を咲かせて駆け寄ってきた。
その勢いに、セリナは小さく笑いながらも受け止めるように両手を広げる。
「みんな、ただいま」
その声はまるで春風のように優しい。
子どもたちに囲まれたセリナは、抱えていた花かごをそっと見せた。
「ほら、飾り付け用のお花、いっぱい摘んできたよ」
「わあ~! きれいー!」
「いっぱいだー!」
子どもたちの目が輝き、嬉しそうに歓声をあげる。
その微笑ましい光景に、バニッシュも自然と頬が緩んだ。
だが――次の瞬間、場の空気が少し変わる。
「ねぇねぇ、セリナ姉ちゃん。その後ろの人、だれー?」
一人の子がセリナのスカートを引っ張りながら、不思議そうに尋ねた。
セリナは振り返り、バニッシュに微笑んでから答える。
「この人はね、お花を摘むのを手伝ってくれたの」
子どもたちは一斉にバニッシュへと視線を向ける。
じーっと、遠慮のない純粋な目。
バニッシュはその視線に気圧されながら、ぎこちなく笑って手を振った。
「よ、よろしくな……」
その瞬間、いたずらっ子の一人がニヤリと笑い――口を開く。
「おねえちゃんが男を連れてきたー!」
「えっ!? ち、違うよ!」
セリナの顔が一瞬で真っ赤になる。
「おとこー! おとこだー!」
「セリナ姉ちゃん、おとこ連れてきたー!」
面白がった他の子どもたちも、口々に騒ぎ出す。
バニッシュはどうしていいかわからず、ははは……と引きつった笑みを浮かべ、頭をかく。
だが次の瞬間――さらに爆弾が落ちた。
「でもさー、セリナ姉ちゃんの彼氏にしては……おっさんだね!」
「おっさんだー!」
「じじいー!」
庭に響く、無邪気すぎる罵倒。
セリナは顔を真っ赤にして慌てふためき、
「こ、こら! そんな失礼なこと言わないの!」と子どもたちを窘める。
バニッシュは――苦笑い。
引きつる口元をなんとか抑えながら、内心では冷静に呟いた。
(……このガキども、じじいは言いすぎだろ)
だが、そんな心中をよそに、セリナはまだ赤い頬のまま必死に子どもたちを宥めている。
その姿が妙に初々しく、バニッシュは不思議と胸の奥が温かくなるのを感じていた。
教会の扉がきいと音を立てて開く。
奥からタリズが姿を現した。
白いエプロンをかけ、顔には柔らかな笑みを浮かべている。
「さあ、みんな――食事の準備ができましたよ。テーブルと椅子を運んでくださいな」
パンッ、と軽く手を叩くと、子どもたちは一斉に「はーい!」と元気よく返事をする。
その声が庭に広がり、木々の葉がさらさらと揺れた。
子どもたちはわらわらと動き出し、小さな体で懸命に木製の椅子を運び、テーブルを引きずる。
その姿を見て、バニッシュも思わず苦笑いを浮かべる。
「手伝うよ」
そう言って袖をまくり、子どもたちに混じって椅子を運び出す。
「おっさん、力持ちだー!」
「じじい、すげー!」
「お、おっさん言うな!」
思わずバニッシュが突っ込みを入れると、子どもたちはキャッキャと笑いながら走り回る。
そんな微笑ましいやり取りを横目に、タリズとセリナが教会の奥から現れた。
二人の手には大きな鍋と籠に入った焼きたてのパン。
湯気とともに香ばしい香りが辺りに広がり、バニッシュの腹がまたもや正直に鳴った。
「おいしそう……」と呟く子どもたちに、セリナが優しく微笑む。
「もう少し待ってね。みんなの分、ちゃんとありますから」
準備が整うと、テーブルの上に白い布が敷かれ、素朴な木の皿が並べられていく。
バニッシュも皿を配りながら、次々に運ばれてくるパンとスープを受け取り、子どもたちに渡していった。
「ほら、順番に並べよ。こぼすなよー」
「はーい!」
笑い声と温かな香りが混ざり合い、庭は小さな食堂のような賑わいを見せていた。
やがて全員が席につくと、タリズが一歩前に出て、静かに両手を胸の前で重ねる。
「それでは――ささやかな食事と、この平和に感謝を込めて」
そう言って目を閉じ、指先で胸の前に小さく十字を切った。
その仕草に合わせて、セリナや子どもたちも目を閉じ、祈りを捧げる。
「女神 ルミナ=リュミエールの御名に感謝を――」
柔らかな声が風に乗り、鐘の音のように響く。
バニッシュは手を止め、その光景を見つめた。
静寂と温もりに包まれた瞬間――何か神聖なものが胸の奥に流れ込むような、不思議な感覚がした。
そして、慌てて周りを見渡し、見様見真似で手を合わせる。
ぎこちない十字を切りながらも、どこか心が落ち着くような気がした。
セリナが隣で小さく笑う。
「ふふ、上手ですよ」
「……見よう見まねだけどな」
照れくさそうに頭をかくバニッシュ。
その瞬間、風がふわりと吹き抜け、テーブルの上の花びらを揺らした。
穏やかな祈りの時間が過ぎ、子どもたちの「いただきます!」という声が庭に響き渡る。
――そして、バニッシュの心にも、ほんの少し平和という名の温もりが芽生えていた。
買い食いできそうな屋台方面は、無情にもカイルに取られた。
仕方なく反対側の静かな通りを回るバニッシュは、腹を押さえながらぼやく。
「……腹へったなぁ~……」
陽射しが石畳を照らし、祭りの準備で街全体が慌ただしい。
装飾を吊るす職人の掛け声、踊り子の練習、祭具を運ぶ若者たちの笑い声――賑やかさの中で、ただ一人、空腹の男がため息を吐く。
「せめて何か食い物でも売ってねぇかな……」
キョロキョロと周囲を見渡しながら歩くバニッシュ。
だがこの通りは露店よりも装飾や資材を運ぶ人々が多く、屋台など影も形もない。
「うーん、こっちハズレか……」
そんなことを呟きながら角を曲がった、その瞬間――。
――どんっ。
「きゃっ!」
軽い衝突音と共に、小さな悲鳴が上がる。
バニッシュの視線の先で、一人の少女が尻もちをついていた。
「あっ、す、すまない! だ、大丈夫か!?」
慌ててバニッシュは手を差し出す。
少女はうずくまりながら顔を上げ――その姿に、バニッシュの目が思わず奪われた。
黒を基調としたシスター服。
白いフードの下から覗く淡い銀色の髪が、陽光を反射してきらめく。
小柄な身体に似合わぬほど豊かな胸元を隠すように、彼女は胸の前で十字を切る。
「ご、ごめんなさい……わたしの方こそ、前を見てなくて……」
柔らかな声。澄んだ琥珀の瞳には怯えと誠実さが宿っていた。
「い、いや、俺が悪かった。怪我はないか?」
バニッシュの差し出した手を、そっと掴む小さな手があった。
指先はひんやりと柔らかく、花の香りが微かに漂う。
彼女はその手を頼りに立ち上がり、胸の前で手を組むようにして小さく会釈した。
少女は顔を上げる。
光を受けた銀色の髪がふわりと揺れ、柔らかな笑みが咲く。
「だいじょうぶです。……ありがとうございます」
その微笑みは、春の陽だまりのように穏やかだった。
だがすぐに、少女の表情がはっとして曇る。
「あっ……お花が……」
地面には、色とりどりの花びらが散っていた。
バニッシュとぶつかった拍子に、抱えていた花束が落ちてしまったのだ。
「これは?」
バニッシュは腰を屈め、花を拾いながら尋ねる。
「明日のお祭りの飾り付けに使うお花なんです。教会で子どもたちと一緒に準備していて……」
拾い上げた花は、衝撃で茎が折れたり、花びらが散ったりしている。
とても飾りには使えそうにない。
本当に申し訳ない、とバニッシュは深く頭を下げた。
「すまない。前を見てなかったばっかりに……」
「いえ……大丈夫です。まだ時間もありますから、また摘んできますので」
そう言って微笑む少女の声は、慰めるように優しい。
だが、その優しさがかえって胸に刺さる。
「なら――俺も一緒に行こう」
「えっ? で、でも……」
少女は戸惑ったように目を瞬かせる。
「こういうのは二人でやった方が早いだろ? それに、ぶつかったのは俺のせいだ。責任を取らせてくれ」
バニッシュの言葉に、少女は数秒迷ったあと――ふっと表情を緩めた。
「……はい。じゃあ、一緒に」
そう答えると、彼女は籠を抱え直し、石畳の先を指差した。
「この先の丘に、たくさん咲いているんです」
「案内頼むよ、シスターさん」
「セリナです。セリナ・ルーミア」
「そうか。俺はバニッシュ・クラウゼンだ」
二人は顔を見合わせ、微笑を交わす。
風がふわりと吹き抜け、散った花びらが陽光を反射して舞い上がる。
――こうして、二人は並んで歩き出した。
まだ互いの運命を知らぬままに。
これが、後に勇者一行の一人、聖女のセリナと、バニッシュの出会いだった。
丘に、風が吹き抜け、色とりどりの花々が揺れ、バニッシュとセリナはその中で夢中になって花を摘んでいた。
「こんなに集められるなんて……ありがとうございます!」
両腕いっぱいに花を抱え、セリナは嬉しそうに微笑む。
その笑顔に、バニッシュは思わず目を細めた。
「これくらいどうってことないさ。さ、教会に戻ろう」
花籠を分担して持ち、二人は並んで坂を下っていく。
石畳に差す陽光が金色に染まり、どこか穏やかな時間が流れていた。
やがて、街の中に佇む小さな教会が見えてくる。
古びた鐘楼と白い壁――祭りの飾り付けが始まっており、入口では一人の年配のシスターが箒を手に掃除をしていた。
「あら、セリナ。お帰りなさい」
柔らかな声で振り向いたその初老のシスターは、優しい眼差しで二人を迎える。
「飾り用のお花、たくさん採れたみたいね」
「はい! 少し遅くなっちゃいましたけど……」
セリナは駆け寄り、息を弾ませながら答える。
「ふふ、大丈夫よ。ほら、子どもたちがお庭で待ってるわ」
シスター――タリズと呼ばれたその女性は、穏やかに微笑みながら視線をバニッシュに向けた。
「ところで、こちらの方は?」
「あっ、この方はお花を摘むのを手伝ってくださったバニッシュさんです!」
セリナが紹介すると、タリズは目を細め、丁寧に頭を下げた。
「まあ、そうでしたの。ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」
「い、いや、そんな大したことはしてませんよ」
バニッシュは頭をかきながら照れ笑いを浮かべる。
その仕草を見て、タリズは小さく頷くと、
「よかったら、中でお茶でもどうかしら?」と柔らかく声をかけた。
「い、いや、そんなお構いなく……」
遠慮しつつも、腹の虫が――ぐぅぅぅ、と容赦なく鳴った。
空気が一瞬止まり、セリナが目を丸くする。
次の瞬間、タリズはくすりと笑った。
「ふふ、パンとスープもありますので」
「……!」
バニッシュの顔が引きつり、真っ赤になる。
セリナも堪えきれずにふっと笑う。
「タリズさんのパンとスープ、とっても美味しいんですよ」
「……そ、そうか。じゃあ……ご馳走になろうかな」
観念したように頭をかき、バニッシュは頬をかいた。
「ええ、遠慮はいりませんよ」
タリズは微笑み、教会の扉を開ける。
セリナが小さく「どうぞ」と手を差し出し、
バニッシュはその後ろ姿を追うように、静かな礼拝堂の中へと足を踏み入れた。
ステンドグラスから差す柔らかな光が床に虹色の模様を描く。
その光の中に立つセリナの姿は、どこか幻想的で――まるで聖女のようだった。
教会の扉をくぐると、タリズが柔らかな声で言った。
「それでは準備してきますので、お庭のほうで待っていてくださいね」
そう言って奥へと消えていく。
バニッシュは頷き、セリナの案内で中庭へと向かった。
教会の庭は花壇と木々に囲まれた、穏やかな空間だった。
陽光が差し込み、子どもたちの笑い声が風に乗って響いている。
おそらく六人ほどだろうか。三歳くらいの幼子から七歳ほどの子までが駆け回っていた。
「あっ、おねえちゃん!」
「セリナ姉ちゃんだ!」
子どもたちはセリナの姿を見つけると、一斉に笑顔を咲かせて駆け寄ってきた。
その勢いに、セリナは小さく笑いながらも受け止めるように両手を広げる。
「みんな、ただいま」
その声はまるで春風のように優しい。
子どもたちに囲まれたセリナは、抱えていた花かごをそっと見せた。
「ほら、飾り付け用のお花、いっぱい摘んできたよ」
「わあ~! きれいー!」
「いっぱいだー!」
子どもたちの目が輝き、嬉しそうに歓声をあげる。
その微笑ましい光景に、バニッシュも自然と頬が緩んだ。
だが――次の瞬間、場の空気が少し変わる。
「ねぇねぇ、セリナ姉ちゃん。その後ろの人、だれー?」
一人の子がセリナのスカートを引っ張りながら、不思議そうに尋ねた。
セリナは振り返り、バニッシュに微笑んでから答える。
「この人はね、お花を摘むのを手伝ってくれたの」
子どもたちは一斉にバニッシュへと視線を向ける。
じーっと、遠慮のない純粋な目。
バニッシュはその視線に気圧されながら、ぎこちなく笑って手を振った。
「よ、よろしくな……」
その瞬間、いたずらっ子の一人がニヤリと笑い――口を開く。
「おねえちゃんが男を連れてきたー!」
「えっ!? ち、違うよ!」
セリナの顔が一瞬で真っ赤になる。
「おとこー! おとこだー!」
「セリナ姉ちゃん、おとこ連れてきたー!」
面白がった他の子どもたちも、口々に騒ぎ出す。
バニッシュはどうしていいかわからず、ははは……と引きつった笑みを浮かべ、頭をかく。
だが次の瞬間――さらに爆弾が落ちた。
「でもさー、セリナ姉ちゃんの彼氏にしては……おっさんだね!」
「おっさんだー!」
「じじいー!」
庭に響く、無邪気すぎる罵倒。
セリナは顔を真っ赤にして慌てふためき、
「こ、こら! そんな失礼なこと言わないの!」と子どもたちを窘める。
バニッシュは――苦笑い。
引きつる口元をなんとか抑えながら、内心では冷静に呟いた。
(……このガキども、じじいは言いすぎだろ)
だが、そんな心中をよそに、セリナはまだ赤い頬のまま必死に子どもたちを宥めている。
その姿が妙に初々しく、バニッシュは不思議と胸の奥が温かくなるのを感じていた。
教会の扉がきいと音を立てて開く。
奥からタリズが姿を現した。
白いエプロンをかけ、顔には柔らかな笑みを浮かべている。
「さあ、みんな――食事の準備ができましたよ。テーブルと椅子を運んでくださいな」
パンッ、と軽く手を叩くと、子どもたちは一斉に「はーい!」と元気よく返事をする。
その声が庭に広がり、木々の葉がさらさらと揺れた。
子どもたちはわらわらと動き出し、小さな体で懸命に木製の椅子を運び、テーブルを引きずる。
その姿を見て、バニッシュも思わず苦笑いを浮かべる。
「手伝うよ」
そう言って袖をまくり、子どもたちに混じって椅子を運び出す。
「おっさん、力持ちだー!」
「じじい、すげー!」
「お、おっさん言うな!」
思わずバニッシュが突っ込みを入れると、子どもたちはキャッキャと笑いながら走り回る。
そんな微笑ましいやり取りを横目に、タリズとセリナが教会の奥から現れた。
二人の手には大きな鍋と籠に入った焼きたてのパン。
湯気とともに香ばしい香りが辺りに広がり、バニッシュの腹がまたもや正直に鳴った。
「おいしそう……」と呟く子どもたちに、セリナが優しく微笑む。
「もう少し待ってね。みんなの分、ちゃんとありますから」
準備が整うと、テーブルの上に白い布が敷かれ、素朴な木の皿が並べられていく。
バニッシュも皿を配りながら、次々に運ばれてくるパンとスープを受け取り、子どもたちに渡していった。
「ほら、順番に並べよ。こぼすなよー」
「はーい!」
笑い声と温かな香りが混ざり合い、庭は小さな食堂のような賑わいを見せていた。
やがて全員が席につくと、タリズが一歩前に出て、静かに両手を胸の前で重ねる。
「それでは――ささやかな食事と、この平和に感謝を込めて」
そう言って目を閉じ、指先で胸の前に小さく十字を切った。
その仕草に合わせて、セリナや子どもたちも目を閉じ、祈りを捧げる。
「女神 ルミナ=リュミエールの御名に感謝を――」
柔らかな声が風に乗り、鐘の音のように響く。
バニッシュは手を止め、その光景を見つめた。
静寂と温もりに包まれた瞬間――何か神聖なものが胸の奥に流れ込むような、不思議な感覚がした。
そして、慌てて周りを見渡し、見様見真似で手を合わせる。
ぎこちない十字を切りながらも、どこか心が落ち着くような気がした。
セリナが隣で小さく笑う。
「ふふ、上手ですよ」
「……見よう見まねだけどな」
照れくさそうに頭をかくバニッシュ。
その瞬間、風がふわりと吹き抜け、テーブルの上の花びらを揺らした。
穏やかな祈りの時間が過ぎ、子どもたちの「いただきます!」という声が庭に響き渡る。
――そして、バニッシュの心にも、ほんの少し平和という名の温もりが芽生えていた。
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王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
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怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
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これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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