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ep.1
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冷たい雨の音が、ずっと耳の奥で鳴っている。
薄暗い工房の片隅で、メルは自分の手をじっと見つめた。何度も火傷し、金槌を握り続けたせいで節くれだった、可愛げのない指先。
「……メル! まだ終わっていないのか。本当に、君はのろまだな」
低く苛ついた声とともに、泥のついた靴が視界に入った。婚約者である騎士団長だ。
彼が床に放り投げた剣は、メルが三日三晩、睡眠を削って調整したものだった。
「あ……」
「こんなに軽い剣で、何が斬れるというんだ。君の魔力が足りないから、鉄に魂が宿らない。……見ていろ、君が手を抜くから、刃に曇りが出ているじゃないか」
彼はメルが磨き上げたばかりの刃を、わざとらしく指先で弾いた。
本当は、その「軽さ」は、彼が戦場で疲れないように極限まで不純物を削ぎ落とした結果だ。刃の「曇り」は、衝撃を逃がすための特殊な術式を織り込んだ証。
けれど、メルはそれを言葉にできなかった。
「ごめんなさい……。私、不器用だから……。あなたが怪我をしないようにと、思って……」
「言い訳は聞きたくない。今日限りで婚約は破棄だ。君のような『無能』は、この国にはもういらない」
突き飛ばされた肩が、冷たい石壁に当たる。
メルは痛みを堪えて、床に転がった金槌を拾い上げた。胸の奥がチリチリと焼けるようだったが、彼女はいつものように、困ったような小さな笑みを浮かべた。
「……そうですか。今まで、お役に立てなくて、ごめんなさい。……あの、皆さんの剣は……私の魔力が切れると、折れやすくなってしまいます。どうか、無理な戦い方はなさらないでくださいね」
最後まで相手の身を案じるメルの言葉は、冷笑とともに遮られた。
そのまま、雨の降る外へと放り出される。
ずぶ濡れになりながら、メルは首を傾げた。頬を伝うのが、雨なのか涙なのか、自分でもよくわからない。
「あら……。困りました。……傘を、持ってくるのを忘れてしまいましたね」
自分が捨てられたことよりも、これからの行き先よりも。
まずは空から落ちてくる冷たい雫にどう対処すればいいかわからず、彼女はただ、立ち尽くしていた。
薄暗い工房の片隅で、メルは自分の手をじっと見つめた。何度も火傷し、金槌を握り続けたせいで節くれだった、可愛げのない指先。
「……メル! まだ終わっていないのか。本当に、君はのろまだな」
低く苛ついた声とともに、泥のついた靴が視界に入った。婚約者である騎士団長だ。
彼が床に放り投げた剣は、メルが三日三晩、睡眠を削って調整したものだった。
「あ……」
「こんなに軽い剣で、何が斬れるというんだ。君の魔力が足りないから、鉄に魂が宿らない。……見ていろ、君が手を抜くから、刃に曇りが出ているじゃないか」
彼はメルが磨き上げたばかりの刃を、わざとらしく指先で弾いた。
本当は、その「軽さ」は、彼が戦場で疲れないように極限まで不純物を削ぎ落とした結果だ。刃の「曇り」は、衝撃を逃がすための特殊な術式を織り込んだ証。
けれど、メルはそれを言葉にできなかった。
「ごめんなさい……。私、不器用だから……。あなたが怪我をしないようにと、思って……」
「言い訳は聞きたくない。今日限りで婚約は破棄だ。君のような『無能』は、この国にはもういらない」
突き飛ばされた肩が、冷たい石壁に当たる。
メルは痛みを堪えて、床に転がった金槌を拾い上げた。胸の奥がチリチリと焼けるようだったが、彼女はいつものように、困ったような小さな笑みを浮かべた。
「……そうですか。今まで、お役に立てなくて、ごめんなさい。……あの、皆さんの剣は……私の魔力が切れると、折れやすくなってしまいます。どうか、無理な戦い方はなさらないでくださいね」
最後まで相手の身を案じるメルの言葉は、冷笑とともに遮られた。
そのまま、雨の降る外へと放り出される。
ずぶ濡れになりながら、メルは首を傾げた。頬を伝うのが、雨なのか涙なのか、自分でもよくわからない。
「あら……。困りました。……傘を、持ってくるのを忘れてしまいましたね」
自分が捨てられたことよりも、これからの行き先よりも。
まずは空から落ちてくる冷たい雫にどう対処すればいいかわからず、彼女はただ、立ち尽くしていた。
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