【完結】無能と追放された魔導鍛冶師、最強の騎士に拾われ溺愛される

ムラサメ

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ep.2

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雨の冷たさに感覚を失いかけていた、その時だった。

 背後の闇から、嫌な湿り気を帯びた「グルル……」という唸り声が響いた。

​「え……?」

​ おっとりと振り返ったメルの視線の先。そこには、空腹に目を血走らせた巨大な魔獣が、鎌のような爪を振り上げていた。

 誰もいない、雨の廃道。助けてくれるはずの婚約者は、もういない。メルは反射的に、胸元の金槌をぎゅっと抱きしめた。

​(ああ……困りました。私、これしか持っていないのに……)

​ 死を覚悟し、メルがそっと目を閉じた――その瞬間。

​ ドォォォォォン!!

​ 空気が爆ぜるような衝撃音とともに、目の前の魔獣が、悲鳴を上げる間もなく「消し飛んだ」。
 正確には、あまりの衝撃波で背後の石壁まで吹き飛ばされたのだ。

​「……チッ。逃げ足の速い羽虫だと思っていたが、こんなところにいたか」

​ 舞い上がる泥と雨煙の中から現れたのは、漆黒のマントを翻す一人の男だった。

 アルベール・ド・グランベル。

 彼は退屈そうに鼻を鳴らすと、手にした剣を無造作に一閃させた。

 もがこうとした魔獣は、その一撃で巨体を斜めに断ち切られ、絶命する。

​ 圧倒的な武の暴力。

 しかし、その絶大な魔力と衝撃を、彼が握っていた剣は受け止めきれなかった。

​ パキィィィィィィン――!

​ アルベールの剣が、粉々に弾け飛ぶ。
 強すぎる使い手に、武器がついていけていないのだ。
 アルベールは砕けた柄を、困ったように見つめて溜息をついた。

​「またか。……これで今月は何本目だったかな。加減してこれじゃ、もう素手で戦うしかないか」

​ 彼は、自分が今しがた一人の少女を救ったことすら、さして重要ではないという様子で佇んでいた。

​ そんな静寂の中。

 腰を抜かしていたはずのメルが、静かに膝をつき、泥にまみれた剣の破片を拾い集め始めた。

​「……あの、騎士様。そんなに悲しまないでください」

​ アルベールが驚いて視線を落とすと、ずぶ濡れの少女が、欠けた鉄を愛おしそうに掌に乗せて見上げていた。

​「この子は、あなたの力に応えようとして、精一杯頑張ったみたいですから……。……ほら、切っ先まで、あなたを守ろうとして踏ん張った跡があります。とっても勇敢な子です」

​「……っ、え?」

​「すぐに直しますね。……次は、あなたが思い切り振っても大丈夫なように。少し、作り方を変えてみますから」

​ アルベールは息を呑み、その場に立ち尽くした。
 今まで出会った者はみな、剣を壊す自分を「化け物」と忌み嫌い、壊れた剣を「ゴミ」と捨てた。

 けれど、目の前の少女だけは、砕けた鉄の破片を「頑張った」と慈しみ、自分の「全力」を前提に微笑んでいる。
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