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ep.4
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雨の戦場から、アルベールの愛馬に乗せられて数時間が経過した。
メルは、隣国の王城――その一等地に建つ、アルベール専用の離宮へと運び込まれていた。
運び込まれた、という表現は正しい。
なぜなら、メルはアルベールの巨大な漆黒のマントですっぽりと包まれ、まるで「絶対に中身を傷つけてはいけない高級な宝箱」のような状態で抱え上げられていたからだ。
離宮に到着するなり、アルベールは即座にメイドたちへ指示を飛ばした。
「メル、まずは風呂だ。冷たい雨に打たれ続けた。まずは体の芯から温まって、疲れを癒してほしい。……君の健康を損なうことは、この僕が許さない」
彼は堂々と、一点の曇りもない笑顔でそう告げ、最高級の大浴場へとメルを案内した。
「……わぁ、広い。これ、お池みたいですね……」
「隣国の聖域から汲み上げた霊泉だ。疲労回復にはこれ以上のものはない。……僕は扉の外で待っている。何かあれば声をかけてくれ。……ああ、いや、あまりプレッシャーを与えるのも良くないな。僕は少し離れたところで待っているよ」
アルベールは優雅な一礼をして、メルを浴室へと送り出した。
おっとりと、香りの良いお湯に浸かるメル。自分が捨てられたことや、これからの不安が、温かい湯気と共に溶けていく。
(……あ。カイル様たちの剣、大丈夫かな。……あんなに無理な使い方をしたら、きっとすぐ折れちゃうのに……)
そんな心配をしてしまうのも、メルの性分だ。
風呂から上がり、髪をタオルでまとめたメルがロビーへ出ると、そこにはすでに着替えを済ませ、完璧に整った姿のアルベールが立っていた。
「湯冷めはしていないかい? ……さあ、次は夕食だ。君のために、我が国の誇るシェフが腕によりをかけた料理を用意させた」
ダイニングルームの重厚な扉が開くと、そこには湯気を立てる焼きたてのパンや、香ばしい肉料理が並んでいた。
「……おいしそう。……アルベール様、お腹がぺこぺこです」
「はは、それは良かった。さあ、座ってくれ。……今日は本当によく頑張ったね、メル」
アルベールはメルの向かいの席に座り、彼女が食事を口に運ぶのを、誇らしげに、そしてとても優しげに見守っている。
「……あの、アルベール様。……どうして、どこの誰かもわからない私に、こんなによくしてくださるんですか?」
お肉をモグモグと食べながら、メルがふと尋ねる。アルベールはワイングラスを置き、まっすぐメルの目を見つめた。
「理由は二つある。一つは、君が僕という「化け物」を救ってくれたからだ。僕の力を肯定し、剣を直してくれたのは君が初めてだった。……そしてもう一つは」
彼は少しだけ声を落とし、自信に満ちた、それでいて切実な笑みを浮かべた。
「……一目見た時から、君の打つ鉄の音に、僕の魂が共鳴してしまったからだ。……これは理屈じゃない。僕には君が必要なんだ、メル」
それは、圧倒的な熱量を持つ言葉だった。
メルは「……はぁ。メンテナンスは、大事ですねぇ」と受け流したが、その頬は、お風呂のせいだけではなく、ほんの少し赤くなっていた。
「ふぅ……。ごちそうさまでした。お腹いっぱいです、アルベール様」
「それは何よりだ。……さあ、メル。今日は本当に疲れただろう。君のために用意させた部屋へ案内しよう」
アルベールは椅子から立ち上がると、自然な動作でメルの手を取った。彼の掌は、剣を握り込んでいるせいか少し硬いけれど、驚くほど温かい。
案内されたのは、離宮の最上階にある一室だった。
重厚な扉が開くと、そこにはメルの家がまるごと入ってしまうのではないかと思うほど広い寝室が広がっていた。
「わぁ……。ベッドが、雲みたいにふわふわしています……」
「君の肌を傷つけないよう、最高級の綿を使った寝具だ。……メル、ここで誰にも邪魔されず、心ゆくまで休んでほしい」
アルベールは部屋の窓を閉め、カーテンを整えると、振り返ってメルの目をまっすぐに見つめた。
「……何か、必要なものはあるかい? 枕の高さが合わないとか、喉が渇いたとか。……あるいは、一人で眠るのが不安なら、僕が……」
「あ、大丈夫です! 一人で眠るの、大好きですから!」
「…………そうか。……少し残念だが、君の安眠が第一だ」
アルベールは笑みを崩さないまま、けれど気品を持って、メルの前で深く一礼した。
「この部屋の周囲には、僕が信頼する精鋭の騎士を配備した。……そして、この扉のすぐ外には僕がいる。……メル、君の寝息一つ、誰にも乱させはしない。安心して目を閉じてくれ」
「……えっ、アルベール様、お外で寝るんですか?」
「騎士の守護とはそういうものだよ。……おやすみ、僕のメル。明日、君が最高の笑顔で目覚めるのを、僕の全霊をかけて待っている」
彼はそう言い残すと、流れるような動作で部屋を出ていった。
カチリ、と静かに扉が閉まる。
メルは一人、広すぎるベッドに身を沈めた。
つい数時間前までは雨の中で全てを失っていたのに、今はこんなに温かい場所にいる。
(……アルベール様、なんだかちょっと『重い』けれど。……でも、私の打った剣を、あんなに大切にしてくれた……)
その温もりを思い出しながら、メルは深い眠りへと落ちていった。
メルは、隣国の王城――その一等地に建つ、アルベール専用の離宮へと運び込まれていた。
運び込まれた、という表現は正しい。
なぜなら、メルはアルベールの巨大な漆黒のマントですっぽりと包まれ、まるで「絶対に中身を傷つけてはいけない高級な宝箱」のような状態で抱え上げられていたからだ。
離宮に到着するなり、アルベールは即座にメイドたちへ指示を飛ばした。
「メル、まずは風呂だ。冷たい雨に打たれ続けた。まずは体の芯から温まって、疲れを癒してほしい。……君の健康を損なうことは、この僕が許さない」
彼は堂々と、一点の曇りもない笑顔でそう告げ、最高級の大浴場へとメルを案内した。
「……わぁ、広い。これ、お池みたいですね……」
「隣国の聖域から汲み上げた霊泉だ。疲労回復にはこれ以上のものはない。……僕は扉の外で待っている。何かあれば声をかけてくれ。……ああ、いや、あまりプレッシャーを与えるのも良くないな。僕は少し離れたところで待っているよ」
アルベールは優雅な一礼をして、メルを浴室へと送り出した。
おっとりと、香りの良いお湯に浸かるメル。自分が捨てられたことや、これからの不安が、温かい湯気と共に溶けていく。
(……あ。カイル様たちの剣、大丈夫かな。……あんなに無理な使い方をしたら、きっとすぐ折れちゃうのに……)
そんな心配をしてしまうのも、メルの性分だ。
風呂から上がり、髪をタオルでまとめたメルがロビーへ出ると、そこにはすでに着替えを済ませ、完璧に整った姿のアルベールが立っていた。
「湯冷めはしていないかい? ……さあ、次は夕食だ。君のために、我が国の誇るシェフが腕によりをかけた料理を用意させた」
ダイニングルームの重厚な扉が開くと、そこには湯気を立てる焼きたてのパンや、香ばしい肉料理が並んでいた。
「……おいしそう。……アルベール様、お腹がぺこぺこです」
「はは、それは良かった。さあ、座ってくれ。……今日は本当によく頑張ったね、メル」
アルベールはメルの向かいの席に座り、彼女が食事を口に運ぶのを、誇らしげに、そしてとても優しげに見守っている。
「……あの、アルベール様。……どうして、どこの誰かもわからない私に、こんなによくしてくださるんですか?」
お肉をモグモグと食べながら、メルがふと尋ねる。アルベールはワイングラスを置き、まっすぐメルの目を見つめた。
「理由は二つある。一つは、君が僕という「化け物」を救ってくれたからだ。僕の力を肯定し、剣を直してくれたのは君が初めてだった。……そしてもう一つは」
彼は少しだけ声を落とし、自信に満ちた、それでいて切実な笑みを浮かべた。
「……一目見た時から、君の打つ鉄の音に、僕の魂が共鳴してしまったからだ。……これは理屈じゃない。僕には君が必要なんだ、メル」
それは、圧倒的な熱量を持つ言葉だった。
メルは「……はぁ。メンテナンスは、大事ですねぇ」と受け流したが、その頬は、お風呂のせいだけではなく、ほんの少し赤くなっていた。
「ふぅ……。ごちそうさまでした。お腹いっぱいです、アルベール様」
「それは何よりだ。……さあ、メル。今日は本当に疲れただろう。君のために用意させた部屋へ案内しよう」
アルベールは椅子から立ち上がると、自然な動作でメルの手を取った。彼の掌は、剣を握り込んでいるせいか少し硬いけれど、驚くほど温かい。
案内されたのは、離宮の最上階にある一室だった。
重厚な扉が開くと、そこにはメルの家がまるごと入ってしまうのではないかと思うほど広い寝室が広がっていた。
「わぁ……。ベッドが、雲みたいにふわふわしています……」
「君の肌を傷つけないよう、最高級の綿を使った寝具だ。……メル、ここで誰にも邪魔されず、心ゆくまで休んでほしい」
アルベールは部屋の窓を閉め、カーテンを整えると、振り返ってメルの目をまっすぐに見つめた。
「……何か、必要なものはあるかい? 枕の高さが合わないとか、喉が渇いたとか。……あるいは、一人で眠るのが不安なら、僕が……」
「あ、大丈夫です! 一人で眠るの、大好きですから!」
「…………そうか。……少し残念だが、君の安眠が第一だ」
アルベールは笑みを崩さないまま、けれど気品を持って、メルの前で深く一礼した。
「この部屋の周囲には、僕が信頼する精鋭の騎士を配備した。……そして、この扉のすぐ外には僕がいる。……メル、君の寝息一つ、誰にも乱させはしない。安心して目を閉じてくれ」
「……えっ、アルベール様、お外で寝るんですか?」
「騎士の守護とはそういうものだよ。……おやすみ、僕のメル。明日、君が最高の笑顔で目覚めるのを、僕の全霊をかけて待っている」
彼はそう言い残すと、流れるような動作で部屋を出ていった。
カチリ、と静かに扉が閉まる。
メルは一人、広すぎるベッドに身を沈めた。
つい数時間前までは雨の中で全てを失っていたのに、今はこんなに温かい場所にいる。
(……アルベール様、なんだかちょっと『重い』けれど。……でも、私の打った剣を、あんなに大切にしてくれた……)
その温もりを思い出しながら、メルは深い眠りへと落ちていった。
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