【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ

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後編

鋼の崩壊

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 上空。鉄の巨鳥が吐き出す不気味な黒煙が、純白の雲海を汚していく。

 バルガ帝国の旗艦は、その巨大な『鍵』――魔法を力任せに砕く装置を赤く光らせ、私たちの行く手を阻んでいた。

 漆黒の鱗に赤く発光する魔力の脈動が走る。黒龍は、帝国の船から放たれる嫌な音に耐えるように、低く喉を鳴らした。

​「ミア、僕の背中から離れないで。……アポロ、来るぞ!」

​ ゼノ様の叫びが風に乗り、私の耳に届く。私の手には何の感触もなかったけれど、彼の広い背中から伝わってくる、張り詰めたような熱気だけは分かった。

​「分かっているよ。……やれやれ、あんな不恰好な鉄屑で僕の空を汚すなんて。バルガの連中は美学というものを知らないらしい」

​ 並走していたアポロ様が、杖を指揮棒のように優雅に振った。

 彼は空に「透明な足場」を編み上げ、まるで宮殿の回廊でも歩いているかのような軽やかさで、帝国の旗艦の正面へと移動する。

​「全艦、目標を確認! 浄化の源を捕らえろ!」

​ 敵の船から冷酷な号令が響き、無数の「光の鎖」が私たちを目掛けて放たれた。それはミアの魔力を無理やり吸い取り、絡め取るための道具であった。

​「ミアちゃん、あんなものに怖がる必要はない。……ゼノ、五秒だけ時間を。敵の装置の『急所』を暴いてあげるよ」

​「……三秒で済ませろ。ミアを、一瞬たりともこの霧の中に置いておきたくないんだ」

​ ゼノ様が魔槍を構え、黒龍を急加速させた。

 アポロ様は杖を高く掲げると、ターコイズブルーの瞳を鋭く光らせた。
 
「解析なんてまどろっこしいことはしない。……君たちの機械は、魔力を詰め込みすぎているんだよ。――弾けろ、不協和音ディスコード!」

​ アポロ様が杖を一振りした瞬間。

 帝国の船を覆っていた見えない壁が、ガラスが割れるような音を立てて砕け散った。
 
 彼は敵の高度な技術をハックしたのではない。あえて敵の装置に「過剰な魔力」を送り込み、機械が耐えきれなくなって自壊するように仕向けたのである。宮廷魔導師団長としての、あまりにも鮮やかで知的な「活躍」であった。

​「……今だ、ゼノ! 船の右側にある赤いランプの奥だ! そこが全ての動力の心臓だよ!」

​「感謝する、アポロ! ――ミア、行くぞ!!」

​ ゼノ様の赤い瞳が、勝利の悦びに燃え上がった。

 黒龍が咆哮を上げ、鉄の怪物へと肉薄する。

 私は、ゼノ様の腰を必死に抱きしめた。指先に感覚はなくても、彼と一緒に戦っているという確かな熱が、私の胸を焦がしていた。

​「貫け、紅蓮の牙!」

​ ゼノ様の一突きが、アポロ様の示した「心臓」を正確に射抜いた。

 黄金の稲妻が鉄の船を駆け抜け、爆発的な浄化の光が辺りを白く染め上げた。
 
 轟音と共に、帝国の旗艦がバランスを崩し、ゆっくりと雲海の下へと墜ちていく。

 物理的な破壊ではなく、動力を失い、ただの「重い鉄」へと戻された無様な姿。

​「……ふぅ。これでしばらくは静かになるかな」

​ アポロ様がひらりと黒龍の背に飛び乗ってきた。

彼は乱れた銀髪をかき上げ、私に向かって優雅にウィンクをした。

​「見たかい、ミアちゃん。最強の騎士も、僕のガイドがなければただの暴れ馬だからね。……さて、ゼノ。のろけは後にして、ミアちゃんのケアを。魔力を使いすぎて、また冷えてきているよ」

​ アポロ様の指摘に、ゼノ様はハッとして私を抱きしめ直した。
 
「……ああ。すまない、ミア。……よく頑張ってくれた。君のおかげで、一突きで終わらせることができたよ」

​ ゼノ様の熱い体温が、私の感覚のない肌に押し当てられる。
 
 バルガ帝国の技術を、アポロ様の英知とゼノ様の武力、そして私の光で退けた初戦。

 私たちは再び高度を上げ、星が降る谷へと進路を取った。
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