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第3章 混じり気のない黒は、濁りのない白と同じくらい純粋で強烈。だから、惹きつけられる。

43.好き勝手して、いつまでも私のことを忘れたままではいられない、ということを教えてあげるよ、今から。お母さんも、妹も、覚悟して。

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「実月!何を言っているの?本気なの?」
とお母さん。

「本気だよ。お母さんも来る?
私がいる場所を教えるね。

場所は、お母さんの不倫相手の会社が入っている建物の出入り口だよ。

お母さんが来たかったら合流してもいいよ?」

「そんな場所!人様の迷惑を考えなさい!」
とお母さん。

「ええ?
逆だよ、お母さん。
お母さんの不倫相手に迷惑を被っているのは、私だよ、お母さん。」

「大きな声で、話さないの!」
とお母さん。

「お母さん、来るの?来ないの?
それとも、私達の家に先に帰っている?
不倫相手の家に帰るのはなしだからね。

私は、お母さんの不倫相手が出てくるのを建物の出入り口で待っているよ。」

「実月!すぐ行くわ。動かないで待っていなさい。」
とお母さん。

「待っているね。」

お母さんの後ろから、妹が大きな口と追いかけてきているよ、お母さん。

あはは。あははは。
大きな口がご機嫌に笑う声が聞こえるのは、大きな口と私が通じているから?

急がなくても、私は逃げないよ。

お母さんの不倫相手は、どうだろうね?

電話が終わったので、私は建物の出入り口を見守る。

まだかな。まだかな。

まだ、出てこないね。

お母さんの方が早く来るかも?

それとも?


お母さんは息せき切ってやってきた。

残念。

不倫相手よりも、お母さんが先に来たよ。

「実月は帰りなさい。お母さんが謝っておくから。」
と渋面のお母さん。

お母さんは、勘違いしている。

「今帰るなら、お母さん一人で帰って。
お母さんの帰る家は、不倫相手の家じゃないからね?
私と同じ家に帰るんだから。」

「実月、言う通りにしなさい。」
とお母さん。

「ねえ、お母さん。
お母さんは、何をしにここへきたのか、忘れていない?」

お母さんは、私を掴んで引っ張っていこうとする。

「お母さんの不倫相手を待っているのに、お母さんの不倫相手が働いている建物の出入り口から動いたら、お母さんの不倫相手が私を見つけられなくて困るよ?」

「変なことを口走らないで。」
とお母さん。

「お母さん、不倫相手から、出入り口で待っている娘を退けて、と頼まれていない?
無駄なのに。」

私とお父さんが、受付を直撃して、お母さんの不倫相手を呼び出していたとき、不倫相手から電話がかかってきても、お母さんは、不倫相手からの電話には、出るに出られなかったはず。

お父さんが、家に帰ってきているかもしれないこと。

どこにいてもお父さんの声が聞こえてくること、お母さんの頭の中は、お父さんのことでいっぱいになっている。

夫婦円満だよね?

相手のことしか考えられないんだもん。

熱烈な片思いだよね。

私や妹は、大きな口に喰われていないから、大きな口と一緒にいるときは、姿を消せるし、声も聞こえなくなる。

大きな口に喰われたお父さんは、大きな口と一緒にいると姿は消えるけれど、お父さんが話す声は消えないことが分かったの。

今日のために、大きな口を有効活用したよ。

私と約束したお母さんは、不倫相手の電話をとるより、私に電話をかけることが最優先だった。

不倫相手より優先されるのって、気分がいい。

私との電話が終わってから、不倫相手に電話をかけたか、不倫相手からお母さんに電話がかかってきたか。

お母さんを呼んだのは、不倫相手より私が先だよ、お母さん。

私より不倫相手のお願いを優先しないでほしい。

妹がお母さんに追いついたから、妹と一緒にいる大きな口には、妹から離れてもらおう。

「お母さん!」
と妹。

「な、何?いつ来たの?」
と妹の姿に慌てふためくお母さん。

ねえ、妹。
お母さんを追いかけて移動している間に、お母さんが話していた妹の愚痴について考えてみた?
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