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第二章:サジェット食堂

10話 つるっと!もっちりフォー②

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ぎいぎい音をならしながら、丸椅子で舟を漕ぐ。
どうもいい感じのレシピが思いつかない。

つるっと食べられるものと考えると、個人的には素麺が1番いいと思っている。
日本にいた時も、実家の手伝いが忙しすぎて時間がなかったこともあるが、よく素麺を食べていた。
肉味噌をいれたり、トッピングを増やしたりすれば、きっと、ここでも受け入れられやすいだろう。

しかし、素麺の作り方なんてテレビで見たことあるぐらいしか知識がない。
なんだかびよーんとのばして乾燥させていたな……とぼんやりした記憶を辿る。

それに、麺は実家でもうってはいたが、もっぱらじいちゃんの仕事だったし、うどんとかそばとかそういったものだった。

どうしたものか……とうんうん唸っていたら、リチャトさんが厨房にガタガタと音を鳴らしながら入ってきた。

「リチャトさん?どうされたんですか?」
「いやあ、ちょっと面倒なお客が来てね。絡まれると厄介だから一応チヒロは外に行きな」
「えっでもリチャトさんは大丈夫なんですか?」
「あたしは慣れてるからいいんだよ。それよりすまないね、メニュー考えてたのに邪魔しちまって」
「いえ……大丈夫です。行き詰まってましたし、気分転換も含めて外行ってきますね」
「うん、気をつけるんだよ」

突然の外出の予定に体をうーんと伸ばしながら用意をする。
適当にがちゃがちゃと鞄に物を詰め込んで食堂を出る。

そういえば、この間の給料分でアターモという魔道具を買った。
外見も機能もカメラと同じようなものなのだが、非常に安価で手に入れることができる優れものだ。
どうやら、ここの村の名産でもあるそうなので、地域を盛り上げるためにも、料理記録をとるためにも、購入することにしたのだ。

アターモも忘れずに鞄にいれたのを確認して村の広場にでる。
ふわりと肉の匂いが鼻をくすぐる。
流石は肉大国だ。

相変わらずじりじりと肌を焦がすように照り付けてくるお日様が鬱陶しい。
心なしかすれ違う冒険者もだらけた顔をしている。

「オンドクルの丸焼きが入ったぞ~う!!!!!」

突然、広場の中央から大きな声が聞こえた。
見てみれば、3体のオンドクルの丸焼きと屈強な男性が何人かが中央の噴水の前に鎮座していた。

「おお!オンドクルか!しかし、今は少し重たいな……」
「だからといってオンドクルが3体もとれることなんてあるか?」
「もうすこし涼しければ食欲も湧くんだかな……食べないのも勿体無いしもらいにいくか」

わらわらと広場にいた人も、少し離れたところにいた人も中央に集まるも、物凄く嬉しそうではなさそうだ。
以前、家で食べさせてもらった時は、たくさんの人が家に押しかけたというのに。
やっぱり暑い日に脂が多い肉を食べるのはきついのか。

「あら!チヒロはもう仕事あがり?」
「あ、リッタ。まだだよ。ただ新メニューの考案に行き詰まって外歩いてたの。リッタはオンドクルを食べに?」
「ええ。知らせが届いて、役場も一時休業にしてね。みんなで食べに行こうってなったんだけど、私はなんだかお腹が空いてなくてね」
「だよね。みんなあまり気乗りしてなさそう」
「そうね、この時期のオンドクルは1番美味しいんだけどね……何せ少し気持ち悪くなったりするから」

えずくような仕草をするリッタに思わず笑いが込み上げてくる。
せっかくリッタもいるし、ご馳走を食べないのも勿体無いので2人で列に並ぶことにした。

「あいよ!姉ちゃん!お、美人姉妹だな~オンドクル食ってもっと美人になってくれよな!」
「やだあ、お世辞なんて。チヒロ、私たち姉妹に見えるみたいよっ!」
「リッタが若いからでしょ。私が老けてるのかも」
「やだ、そんなこと言ってないじゃないの!チヒロも私もぴちぴちよっ!」

軽口を言い合いながらオンドクルにかぶりつく。

パリッ
じゅわあっ

家で食べた時よりパリパリに焦げた皮と、ジューシーな肉汁に思わず笑みがこぼれる。
オンドクルを素麺の上に乗せたり、ラーメンの上に乗せてチャーシューのようにしても美味しいだろうに。

「あ!!!そうだ!!!!!」
「なっ、なに!?」

いきなり大声をだした私をぽかんと口をあけてリッタが見つめてくる。

「違うの、どうにかね、オンドクルをもっと美味しくしたいなと思っていて」
「オンドクルはもう十分に美味しいけどさらにおいしくできるの?」
「できるよ!私、ここに来た時荷物も一緒だったでしょ?」
「ええ……そうね」
「それだよ!私、あれを見たら悲しくなってたからもう忘れようとしていたのね」
「そうね、チヒロが悲しそうな顔をするから戸棚の上にしまっておいたけど」
「そうなんだけどね、あの本を使えば、新メニューもオンドクルの胃もたれ問題も解決するよ!」
「そんなに万能な本だったの!?すごいわね、早速取りに帰った方がいいわ」
「そうする!リッタ、ありがとう!午後のお仕事も頑張って!」
「ええ、ありがとう。がんばるわ。うちにはリベラルがお留守番してるから鍵はあいてるわよ」
「わかったー!」

たったっと駆け出しながらレシピ本の内容を思い出す。
思い出すだけでむふむふと笑みが溢れてくる。
あれだけ、見てしまったら日本を思い出して泣いてしまっていたから忘れようとしていたのに。
料理が関わるとだめだな私、なんて思いながら家路を辿った。
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