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2章
77:初めての気持ち
しおりを挟むこの気持ちに気づいたのは最近だった
貴族の男が鬱陶しく言い寄ってくることが増えながらも、やり過ごしながら日々を過ごして夏休みとなった
夏休みという私達生徒にとっては嬉しいイベント。去年と同じように1週間後に実家へと帰省するため、学園にいたのだが
突然現れたとてつもない数のドラゴンの襲撃
この都市を守る結界が破壊され、多くの犠牲者が出ると思われた
学園長は9月に行われる国内代表選抜試合の会議のためにおらず、現在先生方の中で1番上の冒険者ランクを持つサラ先生も所用でいないと聞いていた
私は風紀委員会に所属している。学園内の風紀を正し生徒を守る役目だ。ならば、真っ先に戦場に立たずしてどうする
一緒にいたナナと共に外に駆け出した
だが、結果的に言えば私達は何もしなかった。というより出来ることがなかったのだ
その理由は2人の1年生
1人は生徒会に所属しており、ナキア様の婚約者でもあるソウマ コウヅキ
そして、もう1人。整った容姿、綺麗な銀の髪、3本の角。更に1年生だというのに女子にしては背の大きい私よりも大きい身長を持った風紀委員会に所属しているクウガ
2人の戦いは私の常識なんてものからは遠く逸脱していた。まず、どうして空を駆けれるのか。あの独立して動く剣はなんなのか。当たり前のように連発される高度な魔法の数々
そんなことを当たり前のようにやってのけていた。次元が、立っている場所が違う。私はワイバーンなら無傷で倒せる。氷魔法の上位属性である真氷魔法を持つ私ですらワイバーンで精一杯だ。ドラゴンの中でも最下位であるワイバーンにだ
それに対して2人が戦っていたのは大きさからして下位の上位か中位と言ったところだろう。そんなドラゴンがまるでゴブリンの様に倒されていく
首を絶たれ頭が宙を舞う。体が2つに分かたれ血が吹き出る。炎がその身体を燃やし尽くす。雷に打たれて墜落する。氷の棺に納められ、氷と一緒に粉々になる。様々な色の光を発しながら宙に斬線を引きながら飛び回る剣
そんな物語でしか聞いたことのなかったような圧倒的な力
その光景を前にしてなお、私が見ていたのはクウガただ1人。目が離せなかった。その容姿から、その戦う姿から
戦うのが好きで、戦えることが嬉しいのだろう何時ものポーカーフェイスは剥がれ落ち、その表情は凄く楽しそうで生き生きしている
武を嗜む者としてその圧倒的な力にただ憧れただけなのかもしれない。けれども胸は高鳴り、頬が熱くなった。ナナに声をかけられても暫く気づかない位に見惚れていた
その後も続いた戦いを只々見ていた。巨大な竜を圧倒し、突然現れた強大な敵をも倒し、銀の龍が空へと昇っていった
当たり前のように、何時もと変わらぬ様子で帰って来た彼を見て、鼓動が早鐘を打つ。先程言われたナナの言葉が反響する
ナナに言われた「恋する乙女」。これが、この気持ちが恋。そんなことが頭の中に浮かび、その気持ちを隠すように帰ってきたクウガに小言を言ってしまった
今思い返してみれば、クウガは私にとって好ましい後輩だった。クウガは父と祖父以外で初めて私の事をいやらしい目で見ることのなかった男だ。今の気持ちを理解した後では少し悔しいが、私はこの歳では発育は良い方だと自覚している。そうして会う度にそういう目を向けてくる男どもが鬱陶しかった。言い寄ってくる貴族の男はモチロン、彼女のいるサウザーでさえも時々あったのだ
だけどクウガはそんなことは1度もなかった。その事が私には嬉しかった。その時から既にこの気持ちはあったのかもしれない
意識してからはクウガの事をいつも考えてしまうようになった
我ながらこんなにチョロかったか? と疑問に思ってクウガの悪い所を探そうとしてみた
だが、殆ど思いつかない
恋は盲目だというからそのせいかと思いナナにも相談した。ついでに貴族の男が本当に鬱陶しい上に実家のことまでチラつかせてきたのでそれについても相談した
そして、何とナナにもクウガの悪いところが思いつかなかった
貴族の男に関しては、クウガに私の恋人を演じてもらったら良いという結論に達した
これに関しては色々と理由があったりするが、1番はあわよくばを狙ってという感じだ
まあ、切っ掛けが作りたいわけで。少しナナに乗せられている感じがするが、何分こんな経験なんて皆無だ。貴族同士のパーティなんかは出て俗にカッコいいだとかモテると言われる男の人とは会ったことあるのだがこんな気持ちにはなった事がない。その点に関してはナナは色々と知ってる。遊んでいるという意味ではないが、ナナの方が経験がある。実際ナナはあの方とお付き合いしている訳だし助言を信じようと思う
決まったなら善は急げとクウガの部屋へと向かったが不在だったので、寮の前にて待ち、捕まえて説明する筈だったんだが、緊張してしまって明日に話がある的な事を言って逃げた。なんて言ったかは覚えてない
でもしょうがないんだ! もうなんか考えるだけで鼓動が早くなって、緊張しちゃって、頭ん中ぐちゃぐちゃになっちゃってもー!
正直こんなの面倒くさいなんて思ってしまうほどだが、それでもあの気持ちは良いものだと思えるから不思議だ
そして、翌日に説明をして了解が貰えた
凄い嬉しかった。偽とは言え恋人。なんかもう言葉では表せないほど嬉しい
でもそんな嬉しいという心境はナナが爆弾発言を言った事で急速にしぼんだ
直ぐに例の貴族の男が来ると言ってナナは消えたのだ。私に知らせずにそんなことをやっていたなんて。たまにこういうことするからナナは怖い
しかし、来てしまうものはしょうがないし、問題は早めに解決するのが良い。てことでクウガと打ち合わせをした。打ち合わせの間は真っ直ぐ目を見れないし、気を紛らわそうとして色々とやって物凄いソワソワとした落ち着きのないものとなってしまった。絶対変に思われた
簡単な打ち合わせが終わったところで貴族の男がやって来た。相変わらず、登場から品も何もないものだった。同じ貴族として恥ずかしい
貴族が入ってきながら意味のわからない事を言っていたのだが、クウガの姿を視界に入れて機嫌が悪くなる
そんな貴族に対してクウガは私の肩を抱き寄せた
もう思考は真っ白。事前の打ち合わせでは名前で呼び合うことと恋人のような行動をしてくれとは言ったが、いきなり抱き寄せられるとは思わなかった。それにグレイスの彼氏だって!
そんな風に1人で悶えていたらいつの間にか数人の生徒が倒れ伏しており、貴族の男が隣の執事の男に命令しようとしていた
その時だ。急にクウガの威圧感が増した。それは普段は感じられないもの。貴族の男はその強くなった威圧感にやられ、口をつぐむ
貴族の男はきっと本能として目の前の男に脅威を感じたのだろう。そして、1番近くにいた私はその威圧感に普通は恐怖する筈だ。だけどもそうはならなかった。増大した威圧感は頼もしさに変わるだけ。私の好感度が上がるだけ
そして、クウガの口から発せられた言葉が私の耳に届く
「俺のグレイス」
その言葉が耳に届き、脳に伝わり、少しの時間をおいて理解する
そして、ボッと熱くなる顔。俺のグレイスと言う言葉が反響し、繰り返され、鼓動を早くする
そして改めて感じる彼への想い
私は、クウガのことが好きだ
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