Heroic〜龍の力を宿す者〜

Ruto

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2章

107:理不尽

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オオオオオオオオオオオオォォォッ!!!

目には見えない、何かを発散するように

己の内で渦巻く何かに呑まれないように

涙の代わりだとでも言うように

雄叫びを上げた


この気持ちが後悔や悲しみだと言うのなら

それは

もう二度と味わいたくないもので

けれども、前に進むために

乗り越えなければならない


だから、今一度、自分自身に誓いを立てる


でも、その前に

目の前のこいつだけはどうしても許せなかった。これは正義がある訳ではない。これは唯の八つ当たりで、自分勝手な我儘だ

もうこの衝動を、怒りを、止める事は出来ない

いや、俺自身が止めようとしない

守るだなんだと、強さがなんだと、正義がなんだと

そんな事を大人ぶって、言っていたのに

自分はまだ子供であったのだ

だから今回は見逃してほしい

俺が獣に成り下がることを……



許して欲しい




~~~~~~




戦いの幕はクウガの雄叫びを合図として、再び切って落とされた

人間の体の造りに類似した姿を取った龍のクウガが、開いた距離を一息で無くす為に膝を沈み込ませ跳躍の体勢をとる

それを察知したフィルネッセが数えるのも馬鹿馬鹿しく成る程の数の魔法を無詠唱で展開、そして即座にクウガに向けて放つ

それを視界に入れたクウガは動じず慌てず、魔法が放たれる瞬間に跳躍した

いや、飛翔した。地面すれすれを滑るようにして

魔法がクウガの元いた位置に降り注ぐ。フィルネッセは慌てて軌道を変えるが当たらない。クウガが鋭角に曲がり、垂直に上昇し、宙返りでもって魔法を回避していく。その間にもクウガのスピードは加速する

フィルネッセの魔法は、当たらない

クウガには魔を喰らう眼がある。にも関わらず魔法を避けているのは絶望を与える為なのか……

そして、クウガはフィルネッセの遥か上に位置どり、1度翼を羽ばたかせると頭から下へ

ガァァァァァッ!!

咆哮が轟く

その落ちてくる速さは先程までの回避の動きが遊びだったと言わんばかりのスピード

それを視認したフィルネッセは攻撃を止め、防御に全神経を注ぐ。フィルネッセの眼前に魔力の障壁が幾重にも展開された

クウガはそれを見て、尚加速し、頭から突っ込んだ

ガシャーンッ!

力の拮抗などなく、ガラスが割れた様な音を立てて全ての障壁が一瞬にして砕け散った。フィルネッセの肉体は胴の部分を翼で斬り裂かれ真っ二つに、更に上半身は右側が消し飛んでいた。悲鳴は障壁の破砕音でかき消された

しかし、その損傷は一瞬の内に塞がり、二つに分かたれた体は再び元の姿を取り戻す

この再生力が魔王軍幹部の悪魔化が別格とされる所以である。加えて頑丈さや力なんかの身体能力の向上も桁が違う

だが

それはクウガと戦う上で絶望の時間を長くするだけ

その事実を今の攻防で悟ってしまったフィルネッセは、生きることを諦めた

けれどその顔にはある決意が宿っていた

「私の命はくれてやる! だけど、タダで取れると思わないことだ!」

クウガは答えない

するとフィルネッセは右手を上に、左手を下に伸ばす。指は人差し指と中指以外を曲げ、人差し指と中指を絡ませている

これは、ある法を行使する際の動き

そもそも悪魔化とは魔力を用いて行なっているのではない

悪魔化は邪気をもって邪神が施す最上位の邪法によるもの

そして、邪気は、邪法は、邪神のみが行使し得るものではない

魔力とは違う濁った様な黒い煙の様なものがフィルネッセより立ち昇る。詠唱を始めると同時に円を描く様にして両手を胸の前へ

「~~~~~~……~~……~~~」

その詠唱に言葉はなく、旋律のみがフィルネッセの口から発せられ

邪法が発現する

フィルネッセの前面に黒い穴が出現し、赤黒の禍々しい槍が回転射出された

対するクウガは、その槍が魔法とは別の物であると理解した上で、片手で受け止めた

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリッ!

凄まじい擦過音を立てて槍とクウガの手がせめぎあう

軍配は

ザシュッ!

邪法の槍に上がった

フィルネッセの槍はクウガの腕を突き抜け、クウガの片腕は吹き飛んだ

それは、邪法の効果によるもの。あの槍は傷付けた物を破壊するという効果を持っていたのだ

疲労困憊な様子で荒い息な上、肩を上下させるフィルネッセは一矢報いたという表情を浮かべていた

しかし、クウガにとってこれは痛手でも何でもない。その龍の体は魔力で出来ているのだから

魔力の煌めきと共にクウガの新しい腕が形成される。それはフィルネッセの最後の気力すら奪うものだった

ここでフィルネッセを責めることは出来ない。クウガが強すぎて、隙が無さすぎるのだ

最早クウガの相手になる者は数える程しか居ない

精魂尽き果てたフィルネッセの前にクウガが降り立ち、右手で頭を鷲掴みにし持ち上げ、ある魔法を使った

「あ、がっ……あっ! ぐぅっ……」

フィルネッセの苦しげな呻き声が漏れる

魔法を行使した後、クウガはフィルネッセを大きく上に放り投げ、魔法を構築する

その魔法はクウガが初めて師匠であるアイトに傷を受けさせた魔法

空中にて落下の最中であるフィルネッセの周り、上下左右360度、全方位に魔力の剣が現れる。そして、クウガ自身は大きく翼を広げ四つん這いに

そして、剣が一斉にフィルネッセに襲いかかり

一瞬の間を置いて、クウガから必滅のブレスが放たれた

そのブレスは全てを焼き払い、その空間にはクウガ以外誰も居なくなった

オオオオオォォォォォォッ!

再び上げた咆哮には一体、何が込められて居たのだろうか

収まらない怒りか、後悔か、やるせなさか、それとも……

暫く彼はその場で1人、咆哮を上げ続けた




~~~~~~




街から森の中を徒歩5分。そこに僕は人を探しに来ていた

死んだ人々の眠る場所、墓地

何となく、ここにいるんじゃなかって思ってきたら、いた

僕の探し人、クウガはある人の墓標の前で佇んでいた。その姿は、何時もよりも弱々しい表情と木々の隙間から差し込む疎らな日の光の所為で今にも消えてしまいそうだった

「クウガ」

呼びかければ、今気づいた様に目を少し大きくし、こちらを向いた

「そろそろ行くって」

ソウマに伝言を頼まれてクウガを探していたのだ。僕はイヴちゃんの御両親に会いにきた訳だが、それはもう済んだのでクウガ達と一緒に王都に向かうことになったのだ

「分かった」

クウガが歩き出したので僕も反転し、街へ戻る

森の中を進む

途中、クウガが立ち止まり、僕の名前を呼んだ

「フレッド」

「なに?」

返事を返し、僕も立ち止まってクウガの方を向く

「このまま俺に関わっていたらもしかしたら……だからフレッド、俺とはもう」

「嫌だよ」

クウガの言葉に被せる様に僕の気持ちを率直に簡潔に伝える

「君が何と言おうと、僕は君と関わることをやめはしない。きっとクウガは後悔してて、もう2度と今回みたいな事が起きない様にって思って僕に関わるなって言おうとしたんでしょ」

クウガの表情が強張る

「けどね、クウガ。僕はもう誓ったんだ、弱い僕自身に。君と共に戦える様に強くなるって。ソウマみたいに君の隣に並べる様にって。これは僕の誓いなんだ。だから君になんと言われようともこの誓いは変えない」

「でもその為に危険な目にあって死んじゃったら!」

悲痛な顔でクウガが先程よりも大きな声を出す

「死なない!」

「!」

「僕は生きるよ、イヴちゃんを悲しませない為に、イヴちゃんを好きな気持ちを伝える為に。そして、君を悲しませない為、重荷を背負わせない為に!
だからもう関わるななんて悲しいこと言わないでよ。僕も仲間だろ?」

クウガは驚いた顔をした後、何時もの落ち着いていて、かつその瞳の奥で熱い炎を燃やす、僕の知るクウガだ

「ふぅー、フレッドのこと甘くみてたんだな、俺は……ありがとう」

少し照れたようにそう残して、足早に街へ向かっていった

初めて、クウガの力になれたような、そんな気がした


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