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.第4章 可愛い彼女の愛し方

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 バーで菜摘を引き受けた嵐志は、小柄な身体を抱えるようにしながら駅へ向かった。
 菜摘は、泥酔、というほどではないものの、いつものほろ酔い姿とは違う。衆目も気にせず甘えてくるので、正直、かなりうろたえた。
 子どものように嵐志にしがみついているが、身体は立派な女のものだ。酔っ払いに欲情するなと言われそうだが、押し付けられた柔らかな胸の感触に、否応なしに男のサガが反応する。
 嵐志の腕の中で安心し切っている菜摘は、ときどき確認するように見上げては「あらしさんだぁ」とたどたどしい口調で頬を擦り寄せてきた。
 嵐志はそのたびに、弛みそうになる口元やら色々を引き締める。
 なんと幸せすぎる拷問だろう。ここが公共の場でなければ、速攻押し倒してキスをしてドロドロにとかしてとかしまくって――いや落ち着け、今はまだ、外にいるんだ。二人きりになるまでは冷静でなくては。
 つい乱れそうになる心の内を、平静に保とうとするあまり、言葉が少なくなったのが、菜摘の心配をあおったらしい。
 眉尻を下げた顔で見つめてきたかと思うと、あの、とおずおずと切り出した。

「怒って……ますか?」

 嵐志はため息をついて、菜摘を見やる。

「……俺に怒られるようなこと、した?」

 嵐志に問い返されて、菜摘は目を泳がせる。
 潤んだ目をますます潤ませて、「した……かも、しれません」と小さな声で呟いた――その桃色の唇が、ちょっとだけ尖っていて、まるで嵐志にキスをねだっているように見える。

「それじゃあ……怒ってるかもね」

 答えると、菜摘は困ったように嵐志を見上げた。

「どうしたら……許してくれますか?」

 控えめな声。
 これまた、かわいいことを言う。
 嵐志は笑いそうになった。

「そうだな――」

 ふっと言葉を止めて、菜摘の腰を引き寄せた。

「――俺の家に行こうか」

 菜摘の目が、戸惑いに揺れる。嵐志は耳元で囁いた。

「今日は俺が満足するまで、たっぷり愛させてもらうよ」

 ***

 玄関のドアを閉めると、嵐志は荷物を落とすように置いて、菜摘の身体を抱き上げた。
 まだ酔いの覚めていない菜摘は、急に宙に浮いたように感じたのだろう。慌てて嵐志の首元に抱きつく。
 柔らかな胸と腕の感触。アルコールと花のような菜摘の匂い――
 外出モードだった嵐志の心身が一気に切り替わる。本能的に菜摘の唇を奪った。

「んっ……んん……」

 舌を絡め、吸い、唇で挟む。嵐志の首に腕を回しているのは菜摘の方だから、離れようと思えば離れられるはずだが、むしろ、もっととせがむように腕に力がこもる。
 その手が触れた首筋から腰へ、ぞわぞわと悪寒のような喜びが走った。
 菜摘のパンプスをその場にふるい落とし、自分の紐靴を強引に脱ぎ捨てて、玄関からベッドへ向かう。菜摘が自分とのキスに夢中になっているのが震えるほど嬉しい。ベッドに小さな身体を横たえると、さらに口づけを深くした。

「っ……ふっ……っ……」

 合間合間に菜摘の呼吸が聞こえる。ざらざら音を立てているのは自分の呼吸音か、それとも互いの心音か。分からないまま柔らかな唇をむさぼり、自由になった両手で菜摘の身体を撫でる。
 やわらかくて、あたたかい。

「……かわいい」

 喉の奥から絞り出すような本音が漏れた。わずかに唇が離れたすきに、菜摘が目を開けて嵐志を見る。潤んだ丸い目。幼くも見えるはずのそれが、今は乱暴なほど、嵐志の理性を取り払っていく。
 何か言う暇も与えず、また唇を重ねた。深く、深く――さっきまでバーにいた菜摘の口からは、甘くさわやかなアルコールの匂いがする。カクテルでも飲んだのだろう。もう胃の中に収まってしまったはずのそれの名残を、すべて吸い尽くそうとするように口内を侵す。菜摘が苦しそうな息をする。自分も息が上がっている。ギリギリの理性を総動員して、もう一度、軽く唇を離した。

「……ごめん」

 性急だった、と謝ると、菜摘はふるふると首を横に振った。紅潮した頬は、アルコールのせいか……それとも。
 嵐志の思考を遮断するように、菜摘の腕がもう一度、嵐志の首に絡みつき、顔が近づく。
 菜摘の小さな声がした。

「うれしい……ずっと……会えなかったから……」

 気恥ずかしそうな言葉に、えへ、と照れくさそうな笑顔つきだ。たまらずにその腰を引き寄せ、首筋にキスを落とし始めた。

「あ、あの。シャワー」
「要らない。むしろ無理」
「む、無理って……」

 菜摘がわたわたし始める。少しは酔いが覚めてきたんだろうか。
 首筋にキスをしながら、思い出した。バーで菜摘に声をかけていた男のこと。触れていた手のこと。
 腹が立って、曖昧に宙に浮いた菜摘の手首をベッドに押しつける。

「――これ以上、俺に待てって言うの?」

 覆い被さってそう言えば、菜摘は驚いたように嵐志を見上げた。
 あまりに切羽詰まった語調に、嵐志自身も、ぎくりとした。
 中高生でもあるまいに、シャワーを浴びる時間くらい我慢できないっていうのか。
 けれど、本心だった。今は、我慢なんてしたくない。この腕の中に収めた彼女を、このまま愛し尽くしたい。
 菜摘の目がまた揺れる。――あと、一押し。営業の勘が、こういうときには役立つ。
 そっと頬にキスをした後、じっと目を見つめた。

「……おねがい」

 役職持ちの年上が、こんな懇願をするなんて格好悪いだろうか。
 そうも思ったけれど、菜摘はくしゃりと、顔を歪めた。
 小さな両手が伸びてきて、嵐志の頬を包む。

「……分かりました」

 答えると、菜摘は困ったように笑った。

「けど……汗臭かったらすみません」
「気にしないよ」

 嵐志は笑いながら、その頬にキスをする。シャツの裾をたぐり寄せ、背中からその素肌に触れる。
 柔らかくて、つるんとしていて、いつまでも触りたくなる、あたたかい肌。
 そのまま、耳の後ろに唇を寄せ、思い切り鼻孔から息を吸い込んだ。
 ――確かに、ほのかに汗のにおいがする。――が。

「……むしろ、煽られる」

 囁いた言葉は、菜摘に届いたかどうか。
 嵐志は自分のネクタイを解き、菜摘の服を脱がせ始めた。
 首元から肩へ、二の腕へ、胸へ――
 菜摘の白い肌が露出すると、そこにキスを降らせていく。
 そのたびに小さく揺れる菜摘はかわいらしくて、嵐志は自分の気持ちが急速に満たされていくのを感じた。
 菜摘のすべてを剥き出して、同時に全身にキスをし終えると、今度は脚をゆっくり撫でて、膝にキスをした。

「どこからかわいがってもらうのが好き?」

 膝の周りを撫でながらそう訊ねて、嵐志はまた首筋にキスを落とす。
 震える菜摘はぷるぷる首を振るだけで、何の答えにもなっていない。
 そのかわいさに笑うと、嵐志は柔らかな胸元を唇で食んだ。
 舌で舐めては軽く吸い上げる。色づいた頂上を避けて、白い肌を堪能した。
 菜摘が震えるたび、小さな桃色の飾りも震える。触れてくれと求めるように胸を逸らすのを見て、ぷっくりと膨れたそこにも軽くキスをした。

「……ここ?」

 口元をそこに寄せたまま、じっ、と菜摘の目を見つめる。潤んだ菜摘の目が嵐志を見て、またふるふると震えた。どっちにも取れる動きがかわいくてたまらない。嵐志はこれ見よがしにゆっくり口を開き、ゆっくり舌を出して、ツンと立って嵐志を待つ飾りをつついた。

「っ……」

 びくんと震えた菜摘が、たまらないと言いたげに手を顔に持って行く。嵐志が再び舐めると、声を抑えるように手で口を覆った。

「だめだよ。聞かせて」

 口を押さえられないよう、指を絡めるように両手を握った。
 敏感に反り立った飾りを舌でつつき、舐め、吸う。右が終わったら左。左の次は右。

「あっ、っ、ぅ、んっ……!」

 嵐志の愛撫を受けるたび、菜摘は甘い声を漏らした。

「あ、嵐志さんっ……嵐志、さんっ……」

 息を見出し始めた菜摘は、もどかしそうに腰を振る。
 嵐志はふと笑い、片手を解いて内ももを撫でた。

「そろそろ、こっちも?」

 耳元で問えば、こくこくこくと小刻みなうなずきが返ってくる。必死な様子がかわいくてキスをすると、菜摘はそのまま嵐志を求めるように口を開いた。求められるまま舌を絡め、口内をゆっくりと味わう。
 キスをしながら、片手を膝の内側へと進めた。

「あっ……」

 ぬるり、とした感触は、菜摘にも伝わったのだろう。嵐志は笑って、「すごいな」と顔をそちらへ持って行った。

「こんなに溢れてきてる……」
「あ、待って、待っ――あ!」

 じゅる、と吸い上げて、茂みに隠れた芽を舐め上げると、菜摘はびくんと身体を震わせた。
 声を抑えようとした菜摘が、口へ運ぼうとする手を手で絡め取る。
 「駄目だよ」とその手にキスをして指先を口に含んだ。菜摘は「んっ」と身体を震わせた。

「指も感じる? ……じゃあ、もっとしようか」

 ちゅ、ちゅぱ……水音を立てて、指先を一本ずつ、吸って舐めていく。菜摘は胸で息をし、ときどき声未満の声を発しながら、嵐志の顔を蕩けた顔で見つめている――かわいい。
 ふっと笑って、内ももにキスをした。唇で食べるように、舐めるように、下腹部へと滑り降りながらその柔らかとあたたかさを堪能する。
 身体の中でも皮膚が薄く柔らかいそこは、赤ん坊のほっぺたのようなさわり心地だ。
 けれどそれが、赤ん坊でないことを証明するように、降りて行った先には剛い茂みがあり、嵐志の愛撫を待つぬかるみがある。
 ひととき唇を離しただけで後ろまで滴りそうになっているそこを丁寧に舐めあげ、上部をすすり上げるとまた、菜摘の身体がびくんと震えた。

「――かわいいな」

 恍惚と言葉が漏れる。自分の語彙力不足がもどかしいが、もうそれ以外の言葉が出てこないのだ。
 キスでとろんとした目もかわいければ、ほんのり赤く染まった肌もかわいい。嵐志が唇を寄せるたびにぴくんぴくんと震える動きも、快感に耐えられず挙げる嬌声もかわいい――だから、もっと見たい。味わいたい。
 ずずっ、と愛液を吸い上げて、芽を舌で嬲る。菜摘の顔を見れば、もう果てるのも近いと分かる。舌の動きをやめずに、指をぬかるみの中へ沈めた。

「ああっ――!」

 菜摘が嬌声を挙げる。指を絡め取る肉壁の動きが、奥に奥にと嵐志の指を促す。
 また溢れてきた愛液を吸い上げる。最初は外で――

「っ、ぁ、ぁ、あ、あ、あっ……」
「イッていいよ」

 舌で嬲る合間に、優しく優しく声をかけると、菜摘がびくんと震えてのけぞった。触れるたびにぴくんぴくんと震える菜摘を抱きしめながら、指の動きは止めない。

「まっ、ま、今、まだっ……!」
「大丈夫。そのまま奥で気持ちよくなろうね」

 半ば泣き顔の菜摘の頭を撫でてやる。たまらないというようにぎゅっと抱きついてくる身体を抱き留め、指で菜摘の中をまさぐる。
 部屋にはぐちゅぐちゅと卑猥な音が続き、嵐志に抱きつく菜摘の震えは止まない。
 かわいい――頬に、耳に、キスを落としながら想いを囁く。菜摘の目は潤み、ふるふると首を横に振る。理性が溶けてきているのが分かる――なんてかわいいんだろう。

「君が好きなところは……ここだったよね?」
「――あっ」

 一点をかすったとき、菜摘がまた震えた。愛する人の乱れるスイッチは、一度知れば忘れるわけもない。
 菜摘の返事も待たずにリズミカルにこする。ぶるぶる震える菜摘はさらに息づかいを荒げて、一度目よりも獣めいた声で果てた。

「ああ……もう、かわいいなぁ……ほんとにかわいい……」

 柔らかな肌にキスを落とす。舌を這わせる。傷つけないように丁寧に。跡を残さないように優しく。
 ふわふわ、もちもちの肌の感触。
 甘くて優しい菜摘の香り。汗と、愛液の混じり合った匂い――
 ――ああ、幸せだ。

「次は、もっと奥のいいところを探してみようか」

 菜摘の震えが少し落ち着いたところで、嵐志は菜摘の中に入れたままだった指を再び動かし始めた。菜摘が「あっ、あのっ」と慌てたように脚をばたつかせる。

「あ、あらし、さん……」
「うん?」
「そ、その。ま、まだ……?」

 ギリギリ理性が残った、恥ずかしそうな顔が問いかけてくる。
 嵐志はふふっと笑った。

「まだって、何が? まだ始まったばっかりだよ」

 え、と目を見開く菜摘を見る前に、嵐志はその唇を唇で封じた。

 ***

 菜摘の身体を存分に堪能した頃には、嵐志自身もそろそろ限界が近かった。
 避妊具を装着して菜摘の入り口にあてがう。

「お待たせ」
「っ、はっ、はぁっ……」

 息の荒い菜摘は、もうほとんど目もうつろだ。ときどきかすれている声は、明日は出なくなっているだろう。
 それでも、嵐志を抱きしめようと手を伸ばしてくる。もう力も入らないくらい消耗しているように見えるのに。
 その健気さが愛おしくてたまらない。
 華奢な腕の中に自ら収まるように身を寄せながら、自分の熱を菜摘の中に沈めていく。

「――っ、く……」

 何度となく達した菜摘の中は、予想以上に狭く熱い。挿れるだけでも持って行かれそうだ。
 ゆっくり、ゆっくりと押し入れ、最後はぐぐっと奥まで進めた。

「っ、ぁ、あ、あああああっ――!」

 びくんびくん、と菜摘の中がうねる。挿れただけで達したらしい。絞り取ろうとするような動きにどうにか耐え、繋がったまま菜摘の顔にキスを落とす。
 菜摘は荒い息をしながら、それでも嵐志のキスを受け止めようと顔を向けてくる。
 唇を重ねてゆっくりと口内をなぶる。ゆっくりと。ゆっくりと――同時に、腰を動かし始めた。

「ん……ん……ん……」

 鼻から抜ける菜摘の声。
 ああ――なんて甘美なんだろう。
 幸福感に浸りながら腰を振る。すすり泣くような嬌声の合間に、菜摘が呼びかけた。

「あら、しさん、あ、ら……」
「うん……菜摘……好きだよ……」
「っ、っ……! っ!」

 キスを降らせながら、愛を伝える。グズグズと溶けきった菜摘の中に、自分の肉棒がみっちりと受け止められている喜び。
 胸で呼吸する菜摘は、半ば意識が飛んでいるのだろう。
 そんな姿を愛でる喜びに浸りきっているのに、不意に脳内で、不安が囁いた。
 明日になって、菜摘が意識を取り戻したら――こんなはずじゃなかったと、嵐志を突き放すかもしれない。
 膨れ上がっていく恐怖心。菜摘を強く掻き抱いた。
 深くなった繋がりに、菜摘の身体がしなる。声にならない悲鳴があがる。

「好きだ――好きだよ――菜摘――な、つ、みっ……!」

 律動を、段々と早めていく。失いたくない。かわいい人。かわいい――愛おしい人――

「ぁ、あ、あ、あっ……!」

 もうほとんど吐息になった菜摘の声が、嵐志の律動に合わせて快感を唄う。
 つい思い切り奥を突いて、菜摘が一段と大きな声を挙げた。一瞬怯んだ嵐志の耳に、菜摘の声が届いた。

「あら、っ、さん……すき……だいすきっ……」

 その言葉を聞いたとたん、身体がさらに熱を持った。
 嵐志はそのまま、激しく奥を突き――菜摘のかすれた嬌声を聞きながら、共に果てた。
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