10 / 19
釣り餌
しおりを挟む
俺は駅前にあるワイン専門店に来ていた。夜の八時前だというのに随分と会社帰りの人々で賑わっている。
街はお歳暮やクリスマスなど出費がかさむ時期ということもあって稼ぎ時なのだろう。店には各々のPOPが置いてあり購買意欲を出させる店の戦略に苦笑いを浮かべながらも次々と手に取る。戦略にはまったみたいで少し悔しい。
これは琴音が好きそうだ、あ、これはいいな……。
酒を選ぶ基準となるのは全て、琴音だ。それ以外自分のために選ぶことはない。クリスマスということもあり、見た目のラベルも華やかなものを選び店を出る。
クリスマスは、琴音はどうするのだろうか。
去年はクリスマス前に付き合った彼氏に振られたかなんかで慰めながら酒を酌み交わした。
一緒に過ごそうという勇気は、友人として過ごした年月の長さのせいで簡単には口にできない。
駅に向かって広場を歩いていると男の声に足を止めて振り返る。
「ほら、しっかり。琴音ちゃん」
「うー。すみません」
足が掴まれたように地面から離れない。なのに視線は二人を捉えたままだ。あの男は誰なんだろう、琴音の肩を抱き歩くあの男は……。男に微笑みかける琴音を見て、自分の手に持っていたワインを見た。
かっこ悪い。中途半端に俺は何をしているんだろう。
琴音が他の男と一緒にいるのを見たのは久しぶりだ。彼氏が出来た、別れたという話は聞くだけで実際にその場に出くわしたこともない。
広場で立ち尽くす俺を残して幾方面から幸せそうな表情を浮かべた人たちが通り過ぎていく。どうすれば俺はこの人たちみたいに歩き出せるんだろう。
あの日、琴音に触れてしまった日に帰りたかった。触れてしまえばタガが外れることをバカな俺は想像もできなかった。その時以上に琴音を深く思うなんて……。
俊はゆっくりと駅に向かって歩きはじめた。
街はお歳暮やクリスマスなど出費がかさむ時期ということもあって稼ぎ時なのだろう。店には各々のPOPが置いてあり購買意欲を出させる店の戦略に苦笑いを浮かべながらも次々と手に取る。戦略にはまったみたいで少し悔しい。
これは琴音が好きそうだ、あ、これはいいな……。
酒を選ぶ基準となるのは全て、琴音だ。それ以外自分のために選ぶことはない。クリスマスということもあり、見た目のラベルも華やかなものを選び店を出る。
クリスマスは、琴音はどうするのだろうか。
去年はクリスマス前に付き合った彼氏に振られたかなんかで慰めながら酒を酌み交わした。
一緒に過ごそうという勇気は、友人として過ごした年月の長さのせいで簡単には口にできない。
駅に向かって広場を歩いていると男の声に足を止めて振り返る。
「ほら、しっかり。琴音ちゃん」
「うー。すみません」
足が掴まれたように地面から離れない。なのに視線は二人を捉えたままだ。あの男は誰なんだろう、琴音の肩を抱き歩くあの男は……。男に微笑みかける琴音を見て、自分の手に持っていたワインを見た。
かっこ悪い。中途半端に俺は何をしているんだろう。
琴音が他の男と一緒にいるのを見たのは久しぶりだ。彼氏が出来た、別れたという話は聞くだけで実際にその場に出くわしたこともない。
広場で立ち尽くす俺を残して幾方面から幸せそうな表情を浮かべた人たちが通り過ぎていく。どうすれば俺はこの人たちみたいに歩き出せるんだろう。
あの日、琴音に触れてしまった日に帰りたかった。触れてしまえばタガが外れることをバカな俺は想像もできなかった。その時以上に琴音を深く思うなんて……。
俊はゆっくりと駅に向かって歩きはじめた。
6
あなたにおすすめの小説
好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
3回目巻き戻り令嬢ですが、今回はなんだか様子がおかしい
エヌ
恋愛
婚約破棄されて、断罪されて、処刑される。を繰り返して人生3回目。
だけどこの3回目、なんだか様子がおかしい
一部残酷な表現がございますので苦手な方はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる