いつまでもたぬき寝入りを

恋とはなんだ

　仕事中にもかかわらず琴音はコソコソと携帯電話を確認してため息ばかりついていた。

「どうしたの？彼氏と喧嘩？」

　横に座っていたベテランパートの同僚から冷やかされすぐさま携帯電話を元に戻す。

「若いっていいわねぇ……」といってキーボードを叩く姿を横目にポケットに入れた携帯電話を服の上から触れる。

　突然、俊から酒の誘いがパタリと来なくなった。いつも定期的に来ていたのに。仕事で忙しくてもメールは来ていた。

　◯◯の酒が安いが共同出資しないか？
　期間限定の日本酒どちらがいい？

　など必ず情報が回ってきていた。四日も俊から連絡がなかった事などない。

　寂しい……。もしかして、彼女が、できた……？

　俊は自分のことを話したがらないが、なんとなく女性の影があることがあった。気づいてはいたが触れてはいけない気がして黙っていたが……もしかしたらクリスマス直前に彼女ができたということか？


　何度目かのため息をすると同僚が可笑しそうに笑う。

「そんなに好きになれたらいい恋ね」

「いい……恋？」

　恋ではないはずだ。ただ、連絡がないから気になるだけで……。

　俊が他の人と自宅で微笑み合い飲む姿を想像する。……うわ、めちゃくちゃイヤ……。

　自分の思考に驚く。
　俊くんは、優しいし、一緒にいて楽で、同じ趣味を持ってて、横顔もキレイ……指も長くてキレイだし、声だって……。


『こ、とね……』

　あの時の声が頭によぎる。今でも顔が赤くなるほど、熱を帯びてて……とにかくエロい。

　俊とは随分長く友人として付き合いすぎて感覚がおかしい。今まで付き合った人たちは友人関係から発展することは今までなかった。異性として出会い付き合うばかりだ。
　冷静になって考えてみる。

　うわ、待って、すごい好きかも。

　突然顔を覆い耳まで赤くなった琴音を同僚は呆れた目で見ていた。

「青春はそこまでにして、さっさと資料作りしてくれるー？」

　今晩残業することは確定したようだ。