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第二部
黒嶺会竜樹の日常
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危なかった──。
院から急に誰かが出てきた。後ろ姿を見られた可能性があるが恐らく俺とはバレてはいないだろう。
「組長……事務所に向かいますか?」
「いや、屋敷に行ってくれ……」
前髪を後ろに流し竜樹は溜め息をつく。
院の前にいたのは黒嶺会の組長、黒田竜樹だった。数ヶ月前に先生を拉致し輪姦しようとしたあの悪党だ。
あのあと父親、そして龍晶会と明徳会にかなり絞られた……。
そのあと三ヶ月ほどはそのツケで随分と苦労したがようやく落ち着いてきた。黒嶺会の勢力は弱まり実質二大派閥の下で動くようになってしまったが、黒嶺会自体は皆納得しそれなりに充実した生活を送っている。
それも、すべては女神のおかげだ──。
竜樹は女神に、先生に恋をしていた。
屋敷に着くと自分の部屋へと向かう。部屋の奥にある襖を開ける……明かりをつけるとそこは……壁一面、幸の写真だらけだった。
院の玄関を掃除する幸の写真
銀行帰りに買い物をする幸の写真
商店街で黒づくめの男たち相手に真剣な表情で話す幸
アーケード街の中央で黒ずくめの男の股間を指差して何かを叫んでいるのを光田が必死で止めようとしている写真
八百屋の前でお婆ちゃんが幸に手を合わせて拝む様子の写真
真っ赤な顔した光田に腕を引っ張られながら引きずられる幸とそれにすがろうとする黒ずくめの男たちの写真
もう少しいい写真がなかったのかと思うが、竜樹本人は恍惚とした顔でその写真を見つめる。竜樹は幸の胸を洗濯板呼ばわりしていたが、今では立派な幸のストーカーになっていた。
「先生、幸せそうだったな……よかった」
さっき院を覗いてみるとヤクザたちに囲まれて幸は満面の笑みだった。すごく幸せそうだった。もちろんあんな目に合わせた竜樹には幸の前に現れる資格はない。
時々ああやって院を覗き、幸の姿を見るのが竜樹の楽しみだった。
何も悪いことはしない。
竜樹はシャツを捲り自分の右腕を見つめる。そこには何針か縫合の痕がある。あの日、ビール瓶の破片で切った傷だ。
先生が自分の着ていた服を引きちぎり手当てをしてくれた記憶が蘇る。
──できた、とりあえず病院にいかなきゃだめよ
あの日の幸の言葉が脳裏から離れられない。
それと同時にあの時無理やり奪ってしまった唇の感触と血の味も……。俺と先生の間には、血の匂いしかしない。甘い思い出なんてものはない。
それでも、会いたくなる……。先生が龍晶会の女だとしても──。
長居はしちゃダメだ。辛くなる……。
竜樹はそっと襖を閉めた……。
あくる日事務所に明徳会の組長が直々にやってきた。
「おう、久しぶりだな」
「ご無沙汰しております。どうされましたか?」
事件の後明徳会のこの男にひどく殴られた。
地獄はその後だった。俺よりも若い黒髪の女が現れて何も言わずに俺を縛り上げた。あっという間の仕事に俺も唖然とするしかなかった……そこからは……とにかく大変だった。生きていて良かったと思う。あの女には二度と会いたくない。
「悪いな、今度の週末に町内会の催しで露店を出すんだが、そこでりんご飴をやってくれないか?」
「わかりました。では若い舎弟に──」
「いや、お前に任せたい……」
「え? あ……はい──分かりました」
剛が帰り際にしつこく「りんご飴だ、りんご飴だぞ!」と念を押した。
よくわからないが竜樹は舎弟にりんごの仕入れをして準備にとりかかるように伝えた。
院から急に誰かが出てきた。後ろ姿を見られた可能性があるが恐らく俺とはバレてはいないだろう。
「組長……事務所に向かいますか?」
「いや、屋敷に行ってくれ……」
前髪を後ろに流し竜樹は溜め息をつく。
院の前にいたのは黒嶺会の組長、黒田竜樹だった。数ヶ月前に先生を拉致し輪姦しようとしたあの悪党だ。
あのあと父親、そして龍晶会と明徳会にかなり絞られた……。
そのあと三ヶ月ほどはそのツケで随分と苦労したがようやく落ち着いてきた。黒嶺会の勢力は弱まり実質二大派閥の下で動くようになってしまったが、黒嶺会自体は皆納得しそれなりに充実した生活を送っている。
それも、すべては女神のおかげだ──。
竜樹は女神に、先生に恋をしていた。
屋敷に着くと自分の部屋へと向かう。部屋の奥にある襖を開ける……明かりをつけるとそこは……壁一面、幸の写真だらけだった。
院の玄関を掃除する幸の写真
銀行帰りに買い物をする幸の写真
商店街で黒づくめの男たち相手に真剣な表情で話す幸
アーケード街の中央で黒ずくめの男の股間を指差して何かを叫んでいるのを光田が必死で止めようとしている写真
八百屋の前でお婆ちゃんが幸に手を合わせて拝む様子の写真
真っ赤な顔した光田に腕を引っ張られながら引きずられる幸とそれにすがろうとする黒ずくめの男たちの写真
もう少しいい写真がなかったのかと思うが、竜樹本人は恍惚とした顔でその写真を見つめる。竜樹は幸の胸を洗濯板呼ばわりしていたが、今では立派な幸のストーカーになっていた。
「先生、幸せそうだったな……よかった」
さっき院を覗いてみるとヤクザたちに囲まれて幸は満面の笑みだった。すごく幸せそうだった。もちろんあんな目に合わせた竜樹には幸の前に現れる資格はない。
時々ああやって院を覗き、幸の姿を見るのが竜樹の楽しみだった。
何も悪いことはしない。
竜樹はシャツを捲り自分の右腕を見つめる。そこには何針か縫合の痕がある。あの日、ビール瓶の破片で切った傷だ。
先生が自分の着ていた服を引きちぎり手当てをしてくれた記憶が蘇る。
──できた、とりあえず病院にいかなきゃだめよ
あの日の幸の言葉が脳裏から離れられない。
それと同時にあの時無理やり奪ってしまった唇の感触と血の味も……。俺と先生の間には、血の匂いしかしない。甘い思い出なんてものはない。
それでも、会いたくなる……。先生が龍晶会の女だとしても──。
長居はしちゃダメだ。辛くなる……。
竜樹はそっと襖を閉めた……。
あくる日事務所に明徳会の組長が直々にやってきた。
「おう、久しぶりだな」
「ご無沙汰しております。どうされましたか?」
事件の後明徳会のこの男にひどく殴られた。
地獄はその後だった。俺よりも若い黒髪の女が現れて何も言わずに俺を縛り上げた。あっという間の仕事に俺も唖然とするしかなかった……そこからは……とにかく大変だった。生きていて良かったと思う。あの女には二度と会いたくない。
「悪いな、今度の週末に町内会の催しで露店を出すんだが、そこでりんご飴をやってくれないか?」
「わかりました。では若い舎弟に──」
「いや、お前に任せたい……」
「え? あ……はい──分かりました」
剛が帰り際にしつこく「りんご飴だ、りんご飴だぞ!」と念を押した。
よくわからないが竜樹は舎弟にりんごの仕入れをして準備にとりかかるように伝えた。
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