裏稼業最強の貴族令嬢は、初めての暗殺失敗から全てを奪われるようです。 〜魔力値ぶっ壊れ令嬢は恋愛経験値だけゼロだった件〜

ごどめ

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48話 とても残念ね

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「急に呼び出してすまない、ルフェルミア」

 ドラグス王太子殿下たちと夕食会を終えたその日の深夜。
 ヴァンが去った後、今度は私の部屋の扉がノックされ侍女頭のエレナが「旦那様がお呼びです」と、私に伝えにきたので、私は言われるがまま、ドウェインお義父様のもとへとやってきていた。
 まったく、今日は妙に忙しい日ね。

「いえ。なんのご用でしょうか?」

「うむ。実はお前とリアンの件について、いい加減どうすべきかを考えていた」

 そう。私たちの仲はまだドウェインお義父様やミゼリアお義母様には許可されていない。
 一応ドウェインお義父様のご厚意で私はこの屋敷に引き続き住むことが許されているが、婚約もきっちり決まったわけではないのだ。

「おそらくお前たちは私たちが許可しなければ屋敷を出て二人だけでどこかにでも行ってしまうのだろう? 先日、リアンからはそのようなことを言われた」

 なるほど、リアン様の中ではそうなのね。ではそういうことにしておこう。

「いつまでもこのままでは良くないしな。私はお前とリアンの仲を認めようと思う。ヴァンにもめぼしい相手がいるようだしな」

「めぼしい相手……?」

「聖女様だ。ドラグス王太子殿下に後で聞いてみたところ、どうやら彼女は本気でヴァンのことを好いてくれているらしい」 

 どうにもそうらしい。
 あの殺戮の女神、なんであんな奴のことなんか好きになったのかしら。

「子供たちは私たちの道具ではない。お前たちはお前たちの意思を尊重すべきと思った。だからルフェルミア、お前は気の向くまま、好きな相手と結婚するといい」

「はい、わかりましたわ、ドウェインお義父様」

「……何か、あまり浮かない顔だな?」

「いえ、そんなことは」

「そうか。とにかくお前たちのことはもう認めた。ミゼリアはすぐに首を縦には振らないだろうが、私がのちほど言いくるめておくから安心するといい。それだけだ、呼び出して悪かったな」

「ありがとうございます。失礼します」

 私は頭を下げてドウェインお義父様の部屋を出た。
 私とリアン様の仲が正式に認められた、か。
 なんとも……よくわからない気分だ。

 私はこれを望んではいたが、これは別に自分の本当の望みなわけではない。
 私の望みは……。

「ルフェルミアさん、ちょうどいいところにいたわ」

 廊下の奥で人の気配がすると思ったら今度はミゼリアお義母様と出くわした。
 いつもなら互いに無視するというのに。

「ちょっと私の部屋にいらっしゃい。大事な話があります」

「わかりました」

 本当に忙しいわね、今日は。
 思いつつ私は言われるがまま、彼女についていく。

「そこに腰かけなさい」

「はい」

 そして指定された椅子へと腰をおろす。

「あなた、リアンとは本当に結婚するつもりでいるのかしら?」

「そのつもりですが」

「そう。何度言っても考え直す気はないのね?」

「はい」

 そうしないとどうやら私は死ぬらしいからね。

「そ、わかったわ。それじゃあ一度席を立って後ろを向いてもらえるかしら? その後、瞳を閉じていてちょうだい」

「わかりました」

 ふう。とても残念な結果になりそうね、これは。
 ――そんなことを思いながら私はまだ、彼女に言われた通りに従う。

「……ちゃんと目を閉じているわね? 私が良いと言うまで開けては駄目よ」

 それからミゼリアお義母様はカチャカチャと何かを取り出す物音を立て、そして少し私と距離を取った。

「ルフェルミアさん、今までご苦労様。そしてさようなら」

 そんな呟きが少し後ろの方から聞こえると同時に私の背後に向かって駆け寄る足音が室内に響く。

 とても、とても残念ね、ミゼリアお義母様。
 仮にも義理の母になったのだから多少のことは大目に見てあげようと思っていたけれど。

 彼女が私の背後のすぐそばまで走り寄って来た瞬間。

「ッ!?」

 私はくるり、と身を翻して彼女の攻撃をかわす。
 そして瞬時に素早く彼女の右手首を私の右手で掴み、同時に左手首も私の左手で掴み上げる。
 カラン、と刃渡がやや長めのナイフが床へと落とされた。
 彼女が今夜私を殺害しようとしていたことは先ほど出会った瞬間に理解していた。
 こんなに殺意を剥き出しで部屋に招待されれば、ね。

「ッく、ぐ……い、いた……」

「ミゼリアお義母様。非常に残念です」

「あ、あなた……一体何を……!?」

「あなた程度の目では私が何をしたかわからなかったでしょう? まあ、そんなことはどうでもいいけれどね」

「い、いつもウスノロで鈍臭いあなたが……」

 ミゼリアお義母様の前では私は基本そんな感じの自分を演じていた。その方が油断を誘いやすいからだ。

「ミゼリアお義母様……いえ、ミゼリア・グレアンドル。あなたは超えてはならない一線を超えてしまった。この私に殺意を向けた。本来ならあなたはとっくに私に殺されていてもおかしくない」

「な、何を言って……!? あ、あなたは一体……!?」

「今は私を縛る制約があるからあなたを殺すことはしない。けれど、もはやあなたは戻れない領域に踏み込んだ。今日以降、これまでと同じ生活ができるとは思わないことね」

「な、何を偉そうに……! ちょっと勘良くナイフを避けたからって生意気に……ッ」

 ギリギリ、とミゼリアは私を睨みつける。

 仕方ない、少しくらい痛い目を見せてやるか。
 どのみちこの女は恐怖で屈服させる方が早そうだ。
 
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