蒼い月に照らされて 〜この先ずっと愛し続けたい〜

颯斗

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何気ない日々の中で

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困ってしまった顔がよほど変な顔になってたのか、大笑いした成田淳子は、腕にパンとツッコミを入れていた。何か言いたそうな感じがしたが、皮膚科の処置室から呼び出しがあった。それすら一瞬気付くことが出来なかったが、はっと我にかえることが出来たので、
「成田さん。皮膚科の処置室から呼ばれてますよ。処置終わったんやないですか?」
「かもしれないですね。まぁ、わたしは別の用事で外来にいるんですが。仕方ないですね。でも、成田さん。なんで、そんなに焦ってるんですか?それにもう11月入って、寒くなりつつあるのに。おでこに汗かいてますよ」
ケラケラと笑いながら固まっている身体にペシペシと叩いてしていた。何があったのか分からないような状態でオロオロとしてしまっていた。
「ウソですよ。成田さん。わたしこの若葉病院好きですし。今の病棟もおもしろいですし。辞めないですよ」
そう言って、二人の距離が近いぞと言いたくなるくらいの懐まで入ってきた。成田淳子はにっこり笑っていたが、その笑顔は身近に感じるアイドルと名が付けられるくらいに感じられ、患者さんウケがいい。そんな笑顔を間近で見せてくれる。だからいつもそんなドキドキすることぶっ込んでくることないじゃない?と言いたくなってしまっている。
でも、外来で笑う声のボリュームではなかったため、いろんな人たち目線が一気に注目する状態に。1A病棟から出て、普段しないような仕草や挑戦的な表情で対応してくる成田淳子。それがまた、周りを和ませるんだろうけど。困った人である。
「成田さん。そんなに心配してくれてありがとうございます。でも、私辞めませんから安心してください。うちのナース達、言ってますよ。成田さんみたいな人が人事に居てくれてるからこそ、安心してナースの仕事を出来るんだって。みんな褒めてますよ。師長さんもそんなこと言ってます。だって、師長さん。昼から成田さんが来るってニコニコしてましたよ。私もその一人ですから。まぁ、私がここを辞めるときは、成田さんのことを信じられなくなった時かなぁ」
そんなことをニコッと笑って皮膚科の方へ走っていった。そんなみんな買いかぶりしすぎてるんだけどと、思いながらも褒めてくれることに、嫌な気持ちはしない。
そんな風に話してくれる人がたとえ社交辞令的なことであっても一人でも居れば、そんな人たちのために走り回って見せようと改めて実感した。感謝の思いをぐっと込めて、皮膚科の方へ走っていった成田淳子へ頭を下げた。

現場に来ると、いろんな人から声をかけられる。3Bの梅澤師長もその一人だ。後で寄ってほしいとのこと。いま総務事務所から出てきたときに、たまたま前を通ったのが見えたからか、声をかけてきた。殆ど声をかけられるのは看護師の方々ではあるが、総務の人たちからも声をかけられる。本部へ帰るのは夕方になるだろうなぁって思いながら、階段を駆け足で上がり、山本師長のところへ急いだ。
1Aのナースステーションに行くと、師長は慌ただしくしていて、話せる雰囲気ではなかった。日勤看護師に話を聞くと、シフト上一人来るはずであった日勤看護師が、体調を崩してしまって欠員が出てしまったみたいだ。さっきの薬局前でばったり会った成田淳子も、おそらくイレギュラーな動きをしていたんだと思われる。そんなこと、なんも言わなかったし、そんな素振りを見せなかった。
来る前の胸騒ぎは、こんなことだったのかと悔やまれる。だが、そうも言ってられない。成田淳子が外来から戻ってきていて、慌ただしくしている。
「成田さん。聞きましたよ。それならそうとさっき言ってくださいよ。今日の日勤帯に欠員が出てるみたいですね」
「バレてしまいましたか…。ハイ。その通りです。空いてるベッドに、入院する患者さんも、入ってきましたし割とバタバタしてます。でももう少ししたらひと段落します。師長さーん。成田さんきてくれましたよー」
成田淳子はそう言って、山本師長を呼びだした。
救急カートやら、バイタルのカート、電子カルテのため、パソコンのカートの動く音、送信機の音。また点滴の処置をするために用意している音、そして何よりナース同士の会話している音をかき分けて、山本師長は目の前に来てくれた。
「成田さん。忙しいのに呼び立ててごめんなさいね。多分聞いたかもしれないですが、ちょっと大変な状態になってます。ここではなんなんで、奥の休憩室に行きますか…。こちらへどうぞ。淳子さん137の東野さん、少しバイタルが落ち着かないので、しばらく様子を見ておいてくれるかしら」
「東野さんですね。少し前から調子が良くありませんって申し送りでも言われてましたもんね。承知しました。でもバイタル安定しませんね。もう一回再検査したほうがいいかもしれないですね。先生に相談してみましょうか?」
「淳子さん。そうしてくれますか?植松先生に相談してみてください。なんか難色示したら、私がガツンと言うので。」
「それは心強いです。師長のガツンは効きますからね」
山本師長は、ニヤリとしながら成田淳子の肩をポンとして、奥の休憩室に案内してくれた。安定する師長と、1Aのエースとのやり取りを見て、人事としてもまた心強く感じた。
「師長いつ来ても、相変わらずここの病棟は、活気があっていいですね。成田さんも益々ノリに乗ってるような気がしますし。成田さんを山本師長の下に配置して良かったですよ」
「そうですね。今、1Aのエースですから。彼女は。みんなをまとめるリーダー的存在になりつつありますよ。いい人財が来てくれました。」
やはり、成田淳子はここのリーダー的存在になりつつあるようだ。
「でも、今日1人欠員でてるなんて、知りませんでした。気づかずで申し訳ありません。今日呼ばれたのはそのことですか?」
当日、欠員が出ると、総務に連絡が入るようになる。各病院担当の職員にその連絡が入るようになっているが、この欠員の情報は入ってきていなかった。
「ハイ。その通りなのよ。入職して半年になる松岡さんなんですが、まだ20代で若手ナースなので、荒削りですが、よく頑張っていたのよ。吸収も早いし、育ってくれてるなぁって思っていたんですけどね。先月に入ったくらいから少し元気がないみたいで、少し面談したんです。先月の末だったかしら。少し突っ走り過ぎたかもしれませんって言ってましてね。その情報は人事にも入ってるはずなので、ご存知だとは思いますが。今月に入って、淳子さんに様子を見て欲しいってお願いしたんです。すごく細かいところまで気づいてくれて、良い感じやとは思いますがって」
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