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何気ない日々の中で
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「遥人さん。おはよう。何してるの?あ、ポポを遊んでくれてるんですね。ありがとうございます。ポポちゃん。こっちおいで。」
「淳子さん。おはようございます。起こしちゃいましたね。すみません。まだ寝ててください。ぼくはもう出ますので。」
その会話途中で背中から飛びつかれて、その勢いに耐えられず倒れ込んでしまった。2、3回転くらい転がって止まった。
「淳子さん。勢いよ過ぎてすよ。回転しちゃいましたから。ほら。ポポちゃんびっくりしてるじゃないですか。」
「遥人さんの大きな背中見てたら、飛び込んできていいよって言ってたから。抱きしめちゃいました。遥人さん。男なんですから、踏ん張ってくださいよ。回転しちゃいましたね。遥人さんの上に乗っかっちゃいましたね。」
あまりの転がりに、大笑いしながらまた抱きしめてキスしてしまった。淳子さんの匂いがしてきて、居心地がいい。
「淳子さん。もう。離れたくなくなるじゃないですか。淳子さんの身体暖かいし。淳子さんの匂い。落ち着きます。」
淳子さんの側は、本当に居心地が良くて、こんな感覚は久しぶりに感じる。久しく感じていない、この身体の奥底にある温かくて、なんとも言いがたい感触。ぼくは、絶対に忘れたくないものになりそうだ。
またしばらくギュッと抱きしめる時間があった。なんかあっという間に過ぎた時間のような感覚だった。あとすごく後ろ髪が引かれる思いがした。このまま面接がなければ、蒼井常務との特別な面接がなければ、きっと帰らずにもっと一緒の時間を共有しただろう。昨日までそんな気持ちにはならなかったが、今の僕にはそんな気持ちが芽生えてきている。
「遥人さん。どうしたのですか?なんか表情が曇ってるような気がします。気のせいならごめんなさい。」
淳子さんには、こんな能力もあるんだなぁ。前、山本師長に言われたことを思い出した。業務がどれだけ忙しくてバタバタしていても、顔色や、表情をしっかりと見ていて周りを気遣うと。だから、そんなに周りに気遣いすることは、大事だし、すごいことだけど、でもそんなことをしたら自分がしんどくなるよ。と伝えたことがあるんです。そんなことを言っておられたことを思い出す。
淳子さんには、隠し事が出来ないなぁ。これもまたトリセツに記載しておかなきゃ。
「淳子さん。気にし過ぎですよ。気にしないでください。少し眠いだけですから。じゃあ。淳子さん。行ってきます。ゆっくり寝てくださいね。」
まぁ、騙せてないだろうし、今の僕の気持ちも察してるだろうけど、まぁ、今はそういう風にしてもらおう…。そうしてぼくは、ポポにも頭をぐしゃぐしゃにして撫でて、またくるねって言いながら玄関に向かうと、淳子さんも後ろからしばらくして見送りに来てくれた。
「遥人さん。これ、駅に向かうまでに食べて。お口に合うかどうかわからないけど。」
「これは…?」
「まぁ、開けての楽しみにしていてください。開けずにも分かってしまう形ですがね…。」
「こんなの、いつの間に作ったんですか?確か、夜中は僕と一緒に寝たはずですけど。ほのかに温かいし。なんか、至れり尽くせりじゃないですか…。」
ぼくは、僕から初めて淳子さんを抱き寄せて、僕から初めて唇を奪った。愛おしい。すごく愛おしく思った。離れたくない…。
「どうしたんですか?遥人さん。早く行かなきゃ面接始まちゃいますよ。蒼井常務待ってますから。ハイ。急げ急げ…。遥人さん。わたしね。仕事に関しては遅刻したりする人って、あまり好きじゃないんです。社会人として、最低だと思うんです。だから早く行ってらっしゃい。
あ、でも家の鍵は持っていってくださいよ。家の鍵を遥人さんに持っていてもらいたいので。なんでかはわかりませんが。まぁでも普段持っていても、本来は娘たちがいてるので、先にじゃあ家で待っていてなんてことは、そうそうできないですが。何かの時にね。遥人さんが持ってるという、それだけで、なんだかうれしいです。」
淳子さんはそんな風に言って、背中を押してくれた。その時の淳子さんの笑顔にぼくは完全に落ちてしまった。ぼくの胸奥のモノを根こそぎ抉り取っていった。もう、どうしようもないくらい持っていっていく。ぼくの気持ちを…。
そして、ぼくはそんな気持ちのまま、また夢のような魔法の時間から、解き放たれて、本来の日常の時間軸にエスケープされていった。
うまく切り替えができぬままであるが。仕事モードに切り替えなきゃ…
「淳子さん。おはようございます。起こしちゃいましたね。すみません。まだ寝ててください。ぼくはもう出ますので。」
その会話途中で背中から飛びつかれて、その勢いに耐えられず倒れ込んでしまった。2、3回転くらい転がって止まった。
「淳子さん。勢いよ過ぎてすよ。回転しちゃいましたから。ほら。ポポちゃんびっくりしてるじゃないですか。」
「遥人さんの大きな背中見てたら、飛び込んできていいよって言ってたから。抱きしめちゃいました。遥人さん。男なんですから、踏ん張ってくださいよ。回転しちゃいましたね。遥人さんの上に乗っかっちゃいましたね。」
あまりの転がりに、大笑いしながらまた抱きしめてキスしてしまった。淳子さんの匂いがしてきて、居心地がいい。
「淳子さん。もう。離れたくなくなるじゃないですか。淳子さんの身体暖かいし。淳子さんの匂い。落ち着きます。」
淳子さんの側は、本当に居心地が良くて、こんな感覚は久しぶりに感じる。久しく感じていない、この身体の奥底にある温かくて、なんとも言いがたい感触。ぼくは、絶対に忘れたくないものになりそうだ。
またしばらくギュッと抱きしめる時間があった。なんかあっという間に過ぎた時間のような感覚だった。あとすごく後ろ髪が引かれる思いがした。このまま面接がなければ、蒼井常務との特別な面接がなければ、きっと帰らずにもっと一緒の時間を共有しただろう。昨日までそんな気持ちにはならなかったが、今の僕にはそんな気持ちが芽生えてきている。
「遥人さん。どうしたのですか?なんか表情が曇ってるような気がします。気のせいならごめんなさい。」
淳子さんには、こんな能力もあるんだなぁ。前、山本師長に言われたことを思い出した。業務がどれだけ忙しくてバタバタしていても、顔色や、表情をしっかりと見ていて周りを気遣うと。だから、そんなに周りに気遣いすることは、大事だし、すごいことだけど、でもそんなことをしたら自分がしんどくなるよ。と伝えたことがあるんです。そんなことを言っておられたことを思い出す。
淳子さんには、隠し事が出来ないなぁ。これもまたトリセツに記載しておかなきゃ。
「淳子さん。気にし過ぎですよ。気にしないでください。少し眠いだけですから。じゃあ。淳子さん。行ってきます。ゆっくり寝てくださいね。」
まぁ、騙せてないだろうし、今の僕の気持ちも察してるだろうけど、まぁ、今はそういう風にしてもらおう…。そうしてぼくは、ポポにも頭をぐしゃぐしゃにして撫でて、またくるねって言いながら玄関に向かうと、淳子さんも後ろからしばらくして見送りに来てくれた。
「遥人さん。これ、駅に向かうまでに食べて。お口に合うかどうかわからないけど。」
「これは…?」
「まぁ、開けての楽しみにしていてください。開けずにも分かってしまう形ですがね…。」
「こんなの、いつの間に作ったんですか?確か、夜中は僕と一緒に寝たはずですけど。ほのかに温かいし。なんか、至れり尽くせりじゃないですか…。」
ぼくは、僕から初めて淳子さんを抱き寄せて、僕から初めて唇を奪った。愛おしい。すごく愛おしく思った。離れたくない…。
「どうしたんですか?遥人さん。早く行かなきゃ面接始まちゃいますよ。蒼井常務待ってますから。ハイ。急げ急げ…。遥人さん。わたしね。仕事に関しては遅刻したりする人って、あまり好きじゃないんです。社会人として、最低だと思うんです。だから早く行ってらっしゃい。
あ、でも家の鍵は持っていってくださいよ。家の鍵を遥人さんに持っていてもらいたいので。なんでかはわかりませんが。まぁでも普段持っていても、本来は娘たちがいてるので、先にじゃあ家で待っていてなんてことは、そうそうできないですが。何かの時にね。遥人さんが持ってるという、それだけで、なんだかうれしいです。」
淳子さんはそんな風に言って、背中を押してくれた。その時の淳子さんの笑顔にぼくは完全に落ちてしまった。ぼくの胸奥のモノを根こそぎ抉り取っていった。もう、どうしようもないくらい持っていっていく。ぼくの気持ちを…。
そして、ぼくはそんな気持ちのまま、また夢のような魔法の時間から、解き放たれて、本来の日常の時間軸にエスケープされていった。
うまく切り替えができぬままであるが。仕事モードに切り替えなきゃ…
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