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貴女のいる時間の中で
⑧
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そう話しているときに、淳子さんが病室から出てきたのが見えた。どんな顔でどんなふうに話せばいいのかわからないって考えてたところで、悩んでいた。そんなタイミングはそういうときに限って突然やってくる。
「成田さん。おはようございます。お疲れさまです。今日松岡さんきてますよ。」
何気ない普通の様子で話してこられた。やはりプロだ。切り替えできている。
「そ、そうなんですね。さっき師長から聞きましたよ。後で一回ヒアリングをしてみます。その時、成田さん同席してオブザーバーしてもらえますか?」
「そうね。淳子さん。それの方がいいわ。私が同席しようと思ったんやけど、そっちの方がいいわね。」
「いえいえ。山本師長も入ってもらうつもりです。はいってくださいね。ねぇ看護部長。」
淳子さん以外に一人入ってないと集中できない。なんとか淳子さん以外の人も同席させないと。
そんなふうにやりとりをしていると、淳子さんは山本師長たちから死角になっているため見えていない。それをいいことに、表情を変えてぼくに合図をうってきた。その表情はキスを要求しているかのような表情で。
なんて表情をするんだろう。あれは確実に挑発をしてる、確信犯だ。
何度も何度も誘惑してくる表情。さっきの尊敬した気持ちは却下だ。
でも、その表情は、可愛くて、すごく愛おしく感じるのは確か…。淳子さんのバカ。
「成田さん。固まってるけど大丈夫?わかりました。私も同席するから、何時にしましょう」
「あ、はい。少し時間が落ち着く時間で良いですよ。院内に居てますので。しばらく松岡さんの様子も見てみたいですし。」
ぼくは、淳子さんの誘惑する表情にニヤけたり吹き出したりするのを、我慢してなんとかその場を乗り越えることができた。あとでLINEで、もーって言わなきゃだ。なんかギャフンと淳子さんに逆襲しなきゃだ。
看護部長たちとのやりとりを終えたあと、しばらくその場に留まり、松岡さんの様子を伺っていた。少し表情は硬いところはあるが、思いのほか看護業務をこなしている、まわりの看護師たちともコミニュケーションをとりながらできているので、さっき師長が言ってたとおり、少し休むことでリフレッシュができたのかもしれない。おそらく大丈夫であろうが、念には念を入れなきゃいけないだろう。松岡さん本人のカバーは淳子さんに任せるとして、人事として出来る事を考えて行動して行こう。
「淳子さん。さっきの顔は、ナシだよ。」
「えー?なんのことですか?」
「えーっ。なんのことって。そりゃないよー。あ、なんか仕事モードからかけ離れた話し方になってしまってる」
「ホントだ。それにわたしのこと、淳子さんって言ってるし。病棟で『淳子さん』って言っちゃったらダメなのに~。」
松岡さんの様子を遠目から伺っていると、外来から病棟に戻ってきた淳子さんが近づいてきた。お互いであるが、仕事モードの表情ではなく、多分ぼく自身の表情は見えないが、少し表情は崩れてしまっているに違いない。
「ホントに。ぼく淳子さんって言ってしまってる。まぁいいか。成田さんやなくても。師長も淳子さんって言うてたもんね。」
「そりゃ、病棟スタッフなんだから、それは極々普通の光景ですけど、成田さんが言うのは少し意味合いが違うような感じする~」
「そうかなぁ。そんなもんかぁ。じゃあ気をつけないとね。まぁでも、淳子って呼び捨てにしてるわけでもないし…特にぼくは同じ苗字の『成田』だからね。そんなに違和感はないでしょ…。」
「そりゃそうか。じゃあ許すよ。『遥人くん。』あ、さっきの顔はどうやった?」
「あ、淳子さんが遥人くんはダメでしょ。二人の時だけにしてくださいよ。」
「わかってますよ。敢えて言ったんです。でも遥人くん。顔がニヤけ過ぎ。気をつけないと、ウチのボスからなんか言われるよ。女はその辺鋭いからねー」
「気をつけなきゃ。仕事モードに戻ります。」
少し突き放すような仕草を見せて、淳子さんから離れようとすると、淳子さんは体当たりするかのようにぶつかってきた。周りから見たらラブラブのカップルのような感じで…。
「もー。淳子さん。何するんですか。ぶつかってこないでくださいよ。」
「なんなん。それは。すごく嬉しいくせに。それより明後日の水曜日わたし半日勤務なんですけど、仕事終わりに今度はわたしがよく行くお店に食事に行きませんか?今度はわたしがご馳走します。予定空けておいてくださいよー。」
キスをしようとするかのような仕草を見せて、詰所の中に入っていった。誰かスタッフがそんな顔してる淳子さんをみたらどうするんだろ…。そんなのはちゃんと頭に入ってるとは思うが、小悪魔のしっぽがヒョロリと見えたような。
だか、詰所に入った途端、日勤のスタッフとのやり取りは、プロの間になっていて仕事モードに切り替えがしっかりできていた。そのあたりはやはりぼくのリスペクト出来る成田淳子が目の前にいた。ぼくもしっかりしなきゃ。仕事モードに切り替えよう。
そんなふうに思っていたら、詰所から師長が出てきて、ぼくの顔を見つけるとかけてきた。
「成田さん。もうすぐ昼ごはんだから、一緒に食堂へ行きましょう。うちの『成田さん』も連れて行くから打ち合わせしましょう。」
「承知しました。では、ご一緒させて頂きます。師長とお昼ご飯は久しぶりですね。」
「成田さん。おはようございます。お疲れさまです。今日松岡さんきてますよ。」
何気ない普通の様子で話してこられた。やはりプロだ。切り替えできている。
「そ、そうなんですね。さっき師長から聞きましたよ。後で一回ヒアリングをしてみます。その時、成田さん同席してオブザーバーしてもらえますか?」
「そうね。淳子さん。それの方がいいわ。私が同席しようと思ったんやけど、そっちの方がいいわね。」
「いえいえ。山本師長も入ってもらうつもりです。はいってくださいね。ねぇ看護部長。」
淳子さん以外に一人入ってないと集中できない。なんとか淳子さん以外の人も同席させないと。
そんなふうにやりとりをしていると、淳子さんは山本師長たちから死角になっているため見えていない。それをいいことに、表情を変えてぼくに合図をうってきた。その表情はキスを要求しているかのような表情で。
なんて表情をするんだろう。あれは確実に挑発をしてる、確信犯だ。
何度も何度も誘惑してくる表情。さっきの尊敬した気持ちは却下だ。
でも、その表情は、可愛くて、すごく愛おしく感じるのは確か…。淳子さんのバカ。
「成田さん。固まってるけど大丈夫?わかりました。私も同席するから、何時にしましょう」
「あ、はい。少し時間が落ち着く時間で良いですよ。院内に居てますので。しばらく松岡さんの様子も見てみたいですし。」
ぼくは、淳子さんの誘惑する表情にニヤけたり吹き出したりするのを、我慢してなんとかその場を乗り越えることができた。あとでLINEで、もーって言わなきゃだ。なんかギャフンと淳子さんに逆襲しなきゃだ。
看護部長たちとのやりとりを終えたあと、しばらくその場に留まり、松岡さんの様子を伺っていた。少し表情は硬いところはあるが、思いのほか看護業務をこなしている、まわりの看護師たちともコミニュケーションをとりながらできているので、さっき師長が言ってたとおり、少し休むことでリフレッシュができたのかもしれない。おそらく大丈夫であろうが、念には念を入れなきゃいけないだろう。松岡さん本人のカバーは淳子さんに任せるとして、人事として出来る事を考えて行動して行こう。
「淳子さん。さっきの顔は、ナシだよ。」
「えー?なんのことですか?」
「えーっ。なんのことって。そりゃないよー。あ、なんか仕事モードからかけ離れた話し方になってしまってる」
「ホントだ。それにわたしのこと、淳子さんって言ってるし。病棟で『淳子さん』って言っちゃったらダメなのに~。」
松岡さんの様子を遠目から伺っていると、外来から病棟に戻ってきた淳子さんが近づいてきた。お互いであるが、仕事モードの表情ではなく、多分ぼく自身の表情は見えないが、少し表情は崩れてしまっているに違いない。
「ホントに。ぼく淳子さんって言ってしまってる。まぁいいか。成田さんやなくても。師長も淳子さんって言うてたもんね。」
「そりゃ、病棟スタッフなんだから、それは極々普通の光景ですけど、成田さんが言うのは少し意味合いが違うような感じする~」
「そうかなぁ。そんなもんかぁ。じゃあ気をつけないとね。まぁでも、淳子って呼び捨てにしてるわけでもないし…特にぼくは同じ苗字の『成田』だからね。そんなに違和感はないでしょ…。」
「そりゃそうか。じゃあ許すよ。『遥人くん。』あ、さっきの顔はどうやった?」
「あ、淳子さんが遥人くんはダメでしょ。二人の時だけにしてくださいよ。」
「わかってますよ。敢えて言ったんです。でも遥人くん。顔がニヤけ過ぎ。気をつけないと、ウチのボスからなんか言われるよ。女はその辺鋭いからねー」
「気をつけなきゃ。仕事モードに戻ります。」
少し突き放すような仕草を見せて、淳子さんから離れようとすると、淳子さんは体当たりするかのようにぶつかってきた。周りから見たらラブラブのカップルのような感じで…。
「もー。淳子さん。何するんですか。ぶつかってこないでくださいよ。」
「なんなん。それは。すごく嬉しいくせに。それより明後日の水曜日わたし半日勤務なんですけど、仕事終わりに今度はわたしがよく行くお店に食事に行きませんか?今度はわたしがご馳走します。予定空けておいてくださいよー。」
キスをしようとするかのような仕草を見せて、詰所の中に入っていった。誰かスタッフがそんな顔してる淳子さんをみたらどうするんだろ…。そんなのはちゃんと頭に入ってるとは思うが、小悪魔のしっぽがヒョロリと見えたような。
だか、詰所に入った途端、日勤のスタッフとのやり取りは、プロの間になっていて仕事モードに切り替えがしっかりできていた。そのあたりはやはりぼくのリスペクト出来る成田淳子が目の前にいた。ぼくもしっかりしなきゃ。仕事モードに切り替えよう。
そんなふうに思っていたら、詰所から師長が出てきて、ぼくの顔を見つけるとかけてきた。
「成田さん。もうすぐ昼ごはんだから、一緒に食堂へ行きましょう。うちの『成田さん』も連れて行くから打ち合わせしましょう。」
「承知しました。では、ご一緒させて頂きます。師長とお昼ご飯は久しぶりですね。」
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