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25話
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朝はアリスが迎えに来て一緒に学院へ行く。アリスが馬車から降りると自然に指を絡ませる。
「ちょっと……離してちょうだい」
小首を傾げる彼は小動物のように愛らしい表情をしている。
「なんで?僕のこと嫌いになっちゃった?」
美しい翠緑色の瞳が潤んで一層輝きを増す。
「そんなわけないわ。皆が見てるのよ……恥ずかしいわ」
今もままの繋いだ手に注目が集まり、恥ずかしい。
「じゃあ他の人の目がなければ構わないんだね」
こくんと頷けば、アリスは手を離してくれた。
「アリス、まさか私のこと面白がってやってない?」
「そんな……まさか!? 僕は、幼馴染のアルちゃんとずっとずっと仲良くしたいだけだよ」
そう言ってアリスは笑った。その笑顔は太陽の下何の曇もなく美しさすら感じるほどに純粋で、あまりの玲瓏さに神々しさすら感じるほどで、疑った自分が悪いと感じるほどだった。けど……もう何度目だろうか、こんなやり取りは……流石にからかってるってわかってしまう。でも、嫌じゃない。なんだか胸が、くすぐったい。……だからまーいいかな。
教室に着いて席に着けば、椅子にインクが垂れた跡があった。
「お姉ちゃん、おはよう」
「ごきげんよう、アンネ」
私の側まで来たアンネの手が汚れていた。
「その手どうしたのかしら?」
「あー、家で手紙を書いてたら、インク零しちゃって……」
「嘘おっしゃい。私の机に落書きでもされていた?」
「落書きなんてされてないよ」
アンネと視線が合わない。アンネは表情に出るタイプだ。そしてあいかわらす爪が甘くて、椅子の上のインクを拭き忘れて、私にバレている、可愛いお馬鹿さんだ。
「正直に言わないと今後、お菓子もランチもあげいわよ」
「嘘は言ってないし……」
「じゃあどこで何をして、その手汚したの?」
「うっ……」
こう黙っていては、わかってしまう。アンネは嘘のつけない性格のようだ。可愛い子だなぁ。
アンネは生徒会の仕事ではポンコツだし、乙女ゲーヒロインとしても、いまいち進めてないしけど、こういう所が憎めないと思う。
アンネは正直に私の机にインクが零されていてそれを自分が掃除したと正直に話してくれた。
「ねぇそれどういうこと?」
ニコニコと笑っているアリスは口元は笑みを作っているが、目が笑っていない。私に何かあった時は、いつもこういう顔をしている。最初は気づかなかったけど、怒っていると気づいたのはいつだっただろうか。
「ちょっといいかな」
首根っこを捕まえられ、アンネはアリスに連れて行かれた。アリスはいい子だから大丈夫だろう。
SHR前に二人は帰って来た。心配になって二人をよく見たけど、アンネは喜色満面顔をしていて、アリスはいつも通りに朗らかな顔をしていた。
「お姉ちゃん、ご飯食べに行きましょう」
ジトッとした目で見てしまう。こいつまたたかるきだなって……。そういえば、妹も私の給料日に限って呑みに連れってくれって連絡して来たことを思いだす。
「やだなぁ、今日は自分で出すから大丈夫」
「本当に?」
別にお金が惜しいわけじゃない。けど、もう何度も奢ってあげているから、当てにされるとなんか嫌な気分になってしまう私は心が狭いのかもしれない。でも、やっぱり親でも姉妹でもない私ばかりが奢ってるのはおかしいと思う。
「ふふふっ。臨時収入があったんだ」
「何で?」
喜色満面。こいつ、朝、アリスに連れられて、戻って来た顔と同じ顔している。わかりやすい。
「……まさか、アリスにまでお金たかったの?」
「ち、違うよ。絶対にたかってなんかないよ。それに相手は殿下だよ。たとえヒロインでも好感度も上がってない私がどうこうできる相手じゃないでしょう!?」
「それもそうね」
納得である。あんなに優しいアリスでも、王子だし、それにこんなお馬鹿なアンネにいいように出来るわけないか。
「お姉ちゃん、アリスを攻略しないの!?」
アンネが唇を寄せ、小さな声で尋ねた。だから、私も同じようにして返事をした。
「アリスを辱めるなんて私にできると思う?」
「殿下はお姉ちゃんがしてくれることなら、喜んで何でも受け入れると思う。だって、好感度カンストしてる状態で”首を絞める”を選択したら、”君がくれるものなら痛みも苦しみでさえ愛おしい”っていってたもん」
「そんな選択肢選んだの?」
「うん。だって、100回に1回しか出ない聖獣様のスチル欲しくて、何度もプレイしたんだもん」
「100回もしたの?」
「一人辺り100回だよ」
「アンネのお馬鹿さん……」
「そのスチルすっごく人気なんだよ。聖獣様は飼い主によって年齢が変わるから」
私は呆れた声で相槌をうった。
「それより、週末にお茶会開くけど着てく服あるの?」
「ないよ。平民にドレスなんか買えないよ」
「じゃあ、早めに来れば私のドレス貸してあげるから」
「ありがとう、お姉ちゃん」
クラスの序列1位の生徒は毎年、学年が変わる度にお茶会を開く慣習がある。このクラスでは公爵令嬢たる私が序列1位だ。しかも、王女のいないこの国で公爵家としても序列1位なので――父は歴史に名を遺すくらいの超凄腕宰相だから、女性の中でも王妃様と側室のカヤール妃に継ぐ序列3位である。
そういえばお父様は、お父様の功績を褒めるととても嫌な顔をするけどなんでだろうか?
「それにアンネ、テスト勉強してる?」
「あっ……」
こいつ忘れている……。目の前のお馬鹿な美少女を呆れた目で見て嘆息した。
「ちょっと……離してちょうだい」
小首を傾げる彼は小動物のように愛らしい表情をしている。
「なんで?僕のこと嫌いになっちゃった?」
美しい翠緑色の瞳が潤んで一層輝きを増す。
「そんなわけないわ。皆が見てるのよ……恥ずかしいわ」
今もままの繋いだ手に注目が集まり、恥ずかしい。
「じゃあ他の人の目がなければ構わないんだね」
こくんと頷けば、アリスは手を離してくれた。
「アリス、まさか私のこと面白がってやってない?」
「そんな……まさか!? 僕は、幼馴染のアルちゃんとずっとずっと仲良くしたいだけだよ」
そう言ってアリスは笑った。その笑顔は太陽の下何の曇もなく美しさすら感じるほどに純粋で、あまりの玲瓏さに神々しさすら感じるほどで、疑った自分が悪いと感じるほどだった。けど……もう何度目だろうか、こんなやり取りは……流石にからかってるってわかってしまう。でも、嫌じゃない。なんだか胸が、くすぐったい。……だからまーいいかな。
教室に着いて席に着けば、椅子にインクが垂れた跡があった。
「お姉ちゃん、おはよう」
「ごきげんよう、アンネ」
私の側まで来たアンネの手が汚れていた。
「その手どうしたのかしら?」
「あー、家で手紙を書いてたら、インク零しちゃって……」
「嘘おっしゃい。私の机に落書きでもされていた?」
「落書きなんてされてないよ」
アンネと視線が合わない。アンネは表情に出るタイプだ。そしてあいかわらす爪が甘くて、椅子の上のインクを拭き忘れて、私にバレている、可愛いお馬鹿さんだ。
「正直に言わないと今後、お菓子もランチもあげいわよ」
「嘘は言ってないし……」
「じゃあどこで何をして、その手汚したの?」
「うっ……」
こう黙っていては、わかってしまう。アンネは嘘のつけない性格のようだ。可愛い子だなぁ。
アンネは生徒会の仕事ではポンコツだし、乙女ゲーヒロインとしても、いまいち進めてないしけど、こういう所が憎めないと思う。
アンネは正直に私の机にインクが零されていてそれを自分が掃除したと正直に話してくれた。
「ねぇそれどういうこと?」
ニコニコと笑っているアリスは口元は笑みを作っているが、目が笑っていない。私に何かあった時は、いつもこういう顔をしている。最初は気づかなかったけど、怒っていると気づいたのはいつだっただろうか。
「ちょっといいかな」
首根っこを捕まえられ、アンネはアリスに連れて行かれた。アリスはいい子だから大丈夫だろう。
SHR前に二人は帰って来た。心配になって二人をよく見たけど、アンネは喜色満面顔をしていて、アリスはいつも通りに朗らかな顔をしていた。
「お姉ちゃん、ご飯食べに行きましょう」
ジトッとした目で見てしまう。こいつまたたかるきだなって……。そういえば、妹も私の給料日に限って呑みに連れってくれって連絡して来たことを思いだす。
「やだなぁ、今日は自分で出すから大丈夫」
「本当に?」
別にお金が惜しいわけじゃない。けど、もう何度も奢ってあげているから、当てにされるとなんか嫌な気分になってしまう私は心が狭いのかもしれない。でも、やっぱり親でも姉妹でもない私ばかりが奢ってるのはおかしいと思う。
「ふふふっ。臨時収入があったんだ」
「何で?」
喜色満面。こいつ、朝、アリスに連れられて、戻って来た顔と同じ顔している。わかりやすい。
「……まさか、アリスにまでお金たかったの?」
「ち、違うよ。絶対にたかってなんかないよ。それに相手は殿下だよ。たとえヒロインでも好感度も上がってない私がどうこうできる相手じゃないでしょう!?」
「それもそうね」
納得である。あんなに優しいアリスでも、王子だし、それにこんなお馬鹿なアンネにいいように出来るわけないか。
「お姉ちゃん、アリスを攻略しないの!?」
アンネが唇を寄せ、小さな声で尋ねた。だから、私も同じようにして返事をした。
「アリスを辱めるなんて私にできると思う?」
「殿下はお姉ちゃんがしてくれることなら、喜んで何でも受け入れると思う。だって、好感度カンストしてる状態で”首を絞める”を選択したら、”君がくれるものなら痛みも苦しみでさえ愛おしい”っていってたもん」
「そんな選択肢選んだの?」
「うん。だって、100回に1回しか出ない聖獣様のスチル欲しくて、何度もプレイしたんだもん」
「100回もしたの?」
「一人辺り100回だよ」
「アンネのお馬鹿さん……」
「そのスチルすっごく人気なんだよ。聖獣様は飼い主によって年齢が変わるから」
私は呆れた声で相槌をうった。
「それより、週末にお茶会開くけど着てく服あるの?」
「ないよ。平民にドレスなんか買えないよ」
「じゃあ、早めに来れば私のドレス貸してあげるから」
「ありがとう、お姉ちゃん」
クラスの序列1位の生徒は毎年、学年が変わる度にお茶会を開く慣習がある。このクラスでは公爵令嬢たる私が序列1位だ。しかも、王女のいないこの国で公爵家としても序列1位なので――父は歴史に名を遺すくらいの超凄腕宰相だから、女性の中でも王妃様と側室のカヤール妃に継ぐ序列3位である。
そういえばお父様は、お父様の功績を褒めるととても嫌な顔をするけどなんでだろうか?
「それにアンネ、テスト勉強してる?」
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こいつ忘れている……。目の前のお馬鹿な美少女を呆れた目で見て嘆息した。
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