★完結 【R18】変態だらけの18禁乙女ゲーム世界に転生したから、死んで生まれ変わりたい

石原 ぴと

文字の大きさ
52 / 82

47話

 公爵邸を出れば、人が炉端に座りこんでいる。子供が怯えて「怖い」と泣いている声がする。
 ごめんなさいと心の中で呟いた。
 だってこの状況は止められたかもしれなかったから。

 この国は城塞都市で、3つの壁に阻まれている。1の壁は城をぐるりと囲み、2の壁は貴族の邸宅を囲んでいる。3の壁は王都全体を囲んでおり、平民の居住区や商店や広場などを囲んでいる。城は3重の壁守られているのだ。
 2の壁を乗り越えれば、そこはもっと悲惨で人が足の踏み場も無いほどいた。このどうしようもない状況にイライラし、当たり散らす人、ただただ身を縮め震えている人、泣きながら笑い叫ぶ狂った人などがいて混沌としている。

 怖いと思った。それと同時に申し訳なさも沸き立った。自分なら止められたかもしれなかったからか、自分と親しい人が引き起こしたことだからか、それともその両方からか……。

 それでも少しでも早くアリスに会わなければいけないと思い歩を進めた。ひどい人口密度で人波を縫って歩を進める。押しのけかき分け……足を踏みつけてしまった。
 
「ごめんなさい」
「あ゛ぁぁん!?」

 咄嗟に謝るが、先程まで他の男性と喧嘩していた人間には通じる訳がなく、不機嫌そうな声と目線で睨まれた。

「申し訳ございません」
「いってぇーなぁ」
「足りるかわかりませんが……」

 財布に入っていた金貨おを全て差し出した。

「失礼します」

  一礼して先に進もうとしたが、肩を掴まれ足を止めた。

「はっ……金なんか今更なんにもなんねぇーんだよ」
「申し訳ございません」
「いい身なりだな……」

 足を踏んだ自分が悪いので再び頭を下げた。彼からはアルコールの匂いがする。しびれを切らしたエバンの動く気配をハンドサインで静止させた。じろじろと値踏みする嫌な視線が体中を這う。

「貴族様ってか……いいよな、安全な2の壁の中で平和に暮らしてるもんな」

 彼の言葉に周りの視線が集まる。それは羨望か嫉妬か……ズルをした人を見るような目線だった。

「俺らから金だけ搾取して、助けてくれないなんてひどいだろっ……」

 手に持った酒瓶を地面に投げつけた。咄嗟に身を縮め腕で顔をガードした。
 ふわりとした浮遊感。目を開けると……
 エバンがお姫様だっこをして屋根へ飛び乗った。思わず驚いて小さく悲鳴をあげ、彼の首に手を回した。
 この世界が地球と違うといえども、こんな芸当出来る人間は一握りだ。

 北の空が黒っぽくなっている。それは曇りだからではない。飛行タイプの魔物のせいだ。翅蟻似たフライアント、猛毒を持つ蜂に似たキラービー、ワイバーンなどだろうか。恐くて手が震える。その手をエバンは大きな手で握ってくれた。彼の顔を見ると優しく微笑んだ。

「俺が側にいます。ずっと一生……命尽きるその時まで守ります」

 掛ける言葉が見つからなくて無言でいたら、エバンは困った様に眉を下げ謝った。

「申し訳ございません。必ず守るとお約束出来なくて……」
「……ううん、違んです。こういう時、なんて声を掛ければいいかわからなくて……」

 最期になるかもしれないからと言う言葉は飲み込んだ。

「アルセナ姫を守って死ねるなら本懐です。悔いはありません」

 彼の握った手に力が籠もる。湿った風が通り過ぎた。
 行きましょうかといえば、エバンは頷いて屋根を飛び移りながら魔物の軍隊の方へ向かった。




 3の壁の歩廊にたどり着く。歩廊の立って外壁の外を見た。空だけじゃない大地を埋め尽くす魔物の行列は、砂埃を巻き上げ近づいて来ている。地平線は見えない。本当は怖い。逃げ出したかった。でも、責任を取らなければならないから立ち向かわなくてはならない。エバンと繋いだ手から伝わる体温が、私を勇気づける。一人じゃないってこんなに心強い。

「ありがとう、側に居てくれて。一人じゃたどり着け無かった」

 そうして繋いだ指先を解いて、深く息を吸って、吐く。そしてまた吸って大声叫んだ。力いっぱい、人生最大の声量で、届けって念じながら。

「アリス~、どこにいるの~~!!!」

 って叫んで出てくるなら……

「呼んだ? アルちゃんはズルいよね」

 なんでそんなこと言うのかわからなくて、何も言えないでいると、続いて、だって呼んだら俺が来るってわかってたんでしょう……だから王都から離れていたのに……とアリスは言った。そして

――あぁ……ダメだ

 そう思った。アリスの目を見て確信した。完全に魔王化していると。アリスの輪郭がぼやけて、黒い靄のような粒子が立ち昇っている。目が潤んだ。切なくて。見間違いであってほしい……夢であってほしい……そして…………いつものように天使の様な顔で笑っていてほしいなんて、現実逃避を往生際が悪く考えてしまう。
 愛しい人をこんなふうにしてしまった自分に腹が立つ。そして魔王因子なんて存在する世界を恨んだ。

「ごめんなさい……」

 アリスの頬に触れる。感触があって触れられるだけで嬉しかった。ずっとアリスに会いたかった。アリスが恋しかった。募った愛しさに胸が締め付けられる。

「謝るのは僕の方……だって酷いことをこれからするんだから」

 アリスはいつものような天使の顔で笑った。
 私は胸が苦しかった。
感想 15

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、 王弟殿下と出会いました。 なんでわたしがこんな目に…… R18 性的描写あり。※マークつけてます。 38話完結 2/25日で終わる予定になっております。 たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。 この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。 バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。 読んでいただきありがとうございます! 番外編5話 掲載開始 2/28

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。