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3話 イチャイチャに憧れたけど、心臓がもたない

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「狭苦しいわ。それに座り心地も良くないし……」

 憧れていた馬車でのイチャイチャ。でも心臓が持たない。お義兄様は控えめに言ってもかっこいい。整った顎のラインに高い鼻筋、大きめの目は少し垂れて可愛らしく、鮮やかなエメラルドグリーンの瞳にいつも惹きつけられた。それだけではなく、私はよくわからないけど、やや少し厚みのある整った唇と目元のホクロがセクシーだと令嬢以外にも婦人も言っていて、とても人気があった。

「いや?」
「いやって…………」
「もし嫌ならはっきり言って。もう二度としないから」
「!?」

――待って、違うのぉーーそうじゃないのよぉーーー……でも恥ずかしくて言えない

「はっきり言ってくれなきゃわからないよ」

 なんだか嬉しそうに感じるのは気のせいかしら?

「恥ずかしいのよ! 慣れてなくて」

 私の声は思いのほか無愛想だった。

「クスクス……そういうところもすごくかわいいね」

――ぎゅっ

「ぎょえっ」
「ぷっ、なに今の? 新種の珍獣?」
「わ、悪かったわね」
「僕、新種の珍獣も好きだし……ずっとこの髪に顔を埋めてみたかったんだ」

 そういって、私のウェーブがかった真っ赤な真紅の髪に顔を埋めて意外と柔らかいねと笑った。

「お、義兄様?」
「ステファン」
「お義兄様、近いです」
「ステファンって呼んで。あっ、スチューでもいいよ」
「ステファン、少し離れてください」
「んーやっぱりスチューって呼ばないと離れない。ロジィとスチューってお揃いみたいでしょ!?」

 やばい、この人誰ってレベルで性格が変わっている。口惜しいけど、顔の良さが邪魔して、無駄にときめいてしまう。特に優しげな笑顔……騙されちゃダメよ。この顔に泣かされたご令嬢は沢山いるのだから。

 人の髪の匂いを嗅ぎながら「いい匂い、ロージィにピッタリの華やかな香りだね」なんて言ってないで離れて欲しいんですが……ん、ん゛ん゛っ押してもびくともしません! 何なに、ローズにベルガモット、ゼラニウムって私の香水の材料なんて言ってないで、私の話を聞いてください。

「ちょっと、お義兄様聞いてます?」
「スチュー」
「ス、スチュー……」

――恥ずかしい!


「離れてくださらない」
「やだ」

 詐欺ですか? ニコニコ嬉しそうにしても……う゛ぅっ、騙されちゃうわ。もう、降参。お義兄様のその顔、最高にずるいわ!

「でも、本当に離れて欲しいのです。ドキドキして心臓発作しちゃうわ!」
「いっぱいしたらなれるよ。でも、万が一心臓発作を起こしたら……」

――カプッ

「ひぇっ、耳!」
「ショック療法でもっと過激なことをしてあげるね」

――今、間違いなく、心臓止まったわ。

 お義兄様が私の髪を鼻歌を歌いながら愉しそうに弄んでいるのを無視し、然程変わらぬ小麦畑を眺めて心の平静を保っていたが、看過できない出来事が訪れる。

「お、お義兄様?」
「スチュー」

 どうやらスチューと呼ばないと返事しない仕様のようです。

「スチュー、あの当たってるんですが……」
「何が」

 そのニコニコ笑顔、わかってるのかわからないんですが……

「ほら、硬くなった男性のあれですよ」
「ち○こ?」

 おっきくしてるくせに、爽やかに言わないでください。

「男だったら、当たり前だよね。好きな子が膝の上に乗ってるんだから。さらに羞恥でぷるぷる震えてる姿なんて食べるしかないよね」

 首、舐めないでぇーーーー!!! 普通、そっちが恥ずかしがるんじゃないの? こっちのほうが余計恥ずかしくなるってどういうことよ。この状況でおっきくなるのは当然みたいに言っても……当然じゃないよね。やっぱり当然なのかしら? わからないわ。

「わかったよ。3.14159265359…………」
「えっ、もしかして円周率? なんで?」
「円周率唱えると、ち○こおさまるんだよな。素数数えるって言うやつもいるけど、僕は断然円周率派だね」

 あの後はなんとかおさまったものの、再びお尻をつんつんしてくるあの硬くなるやつになぜか私が羞恥に耐えながら、首都の自邸に向かった。
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