御伽の国の聖女様! 婚約破棄するというので、聖女の力で結界を吸収してやりました。精々頑張ってください、私はもふもふと暮らします

地鶏

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二章 御伽の国

63 武闘会(5)

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 2回戦、行ってみましょう。

 最初はシラユキに勝ったアーさんと、飛び入り参加のホープですね。

 あまりこういうことを考えるのも良くないですが、アーさん、ボコボコにしちゃってください!

 アーさんにウインクで気持ちを伝えます。多分、伝わったはずです。

「……ふん、悪魔と馴れ合うなどと……ふざけた女だ」
「あれは負けたら承知しませんよ、という合図だ。お前が思っているようなものではない」

 全然伝わってませんでした。負けたら承知しませんよなんて考えませんよ! 

 ただアーさん、少し笑ってるので、伝わった上で私をからかっているのでしょう。むぅ。

 最近、からかってくることが多いですねアーさん。この前シルフィに怒られたのを見捨てた仕返しですか?! なんにせよ、私も今度なにかイタズラをしかけることを考えましょう。

「なんにせよ、他種族との共存など認めない。俺がここでお前を殺し、他の奴らも殺し、あの女も殺してやろう。それが、神聖国騎士としての役目だ!」

 ホープは、アーさんにしか聞こえない程度の声でそう言います。

 あ、私は魔力で聴覚を強化してるのでちゃんと聞こえますよ。にしても、あんなこと言っていいんでしょうか。場所が場所なら宣戦布告と捉えられてもおかしくありません。

「……お前はどうやら、なにか誤解しているようだな」
「誤解だと?」
「殺すと言ったが……お前、この村の子供と戦ったところで勝てないぞ?」
「……貴様!」

 アーさんの言っていることは本当です。多分、あのホープという騎士は村の子供にも勝てないでしょう。

「ふざけたことを……悪魔程度が神の加護を受けた俺に勝てるわけがないだろう! 上位の悪魔の討伐記録など、神聖国にはいくらでもあるのだ!」

 そういってホープは開始の合図も待たずにアーさんに襲い掛かります。

 さすがに武闘会のルールからは外れるので、止めようかと思いましたが、アーさんが問題ないと伝えてくるので少し様子を見ましょう。

「滅べ、悪魔! 《聖滅の光》!」

 アーさんが白い光に包まれます。悪魔に対して特化性能を持った魔法です。

 特化性能、持ってるはずなんですが……効いていませんね。アーさんは何事も無かったかのように光の柱から歩いて出てきます。

「な、なんだと? おかしい……そんなはずはない。《聖滅の光》!」

 やっぱり、アーさんには効きませんね。あの魔法、悪魔に対して特化してるというのは間違いないですが、単純すぎてそもそもの威力が弱いですね。

 多分、誰でも真似できます。ちょっと膝元でやってみたら一発で出来ました。聖滅の光~ですね。

「嘘だろう……?! これで滅びない悪魔がいるものか! この魔法は上位の悪魔でさえ倒せるというのに」
「上位の悪魔? その程度では中級悪魔でも耐えれるだろう」

 なんなら、生まれたてほやほやの赤ちゃん悪魔でも耐えれるも思いますよ。

「そんな馬鹿な! この魔法は同時使用すれば、魔神すら滅ぼしたと神聖国の歴史に伝わっているんだぞ!」
「ならば、その歴史が嘘だっただけだろう。魔神など、我でさえ足元にも及ばない強さを誇るのだ。この魔法を食らったところで、傷を受けることすらありえない」

 神聖国は歴史とか信仰の教えとかで色々と偏った教育をしているのかもしれませんね。あのホープという子は、幼い頃からその偏った教育を受けてきたのでしょうから、目の前の事実を受けいれられないのでしょう。

 あ、神聖国の人が逃げようとしているので、はっきりわかる形で監視をお願いします。

「ふざけるな……嘘なはずがない! 神の教えが、嘘であってたまるか! 《聖滅の光》!」
「だから、効かないと言っているだろう。まったく」

 何度も魔法をはなちますが、アーさんには傷ひとつつきません。

 ホープはどんどん魔力を消費して、遂には無くなってしまいます。

 ただ、魔力がなくとも魔法は使えます。命を削れば、ですけどね。ホープは苦しそうにしながらも、いまだに魔法を放ち続けています。

 魔法で、アーさんに拘束するよう伝えましょう。

 神聖国の教えは、ちょっと歪んでいるというか、他種族に対して異様な拒否反応がある感じですね。

 まだ若いのに、教えが本当だと証明するために進んで命を投げようとするのは頂けませんから、止めてもらわなければなりません。

 アーさんが魔法をかけると、ホープは意識を手放しました。

 さすがはアーさんです。ただ、何度も魔法を受けさせてしまいました、大丈夫でしょうか?

「大丈夫ですか、アーさん。嫌な思いをさせてしまいましたね」
「そんなことはない。この村が変わっているだけで、悪魔に対しての人間の反応はあれが普通だ」
「私は、最初からアーさんと仲良くしようと思ってましたよ」
「無理矢理契約魔法をかけられた覚えがあるのだが?」

 勢い余ってというやつです。にしても、観客が少し冷めてしまいました。

 純粋な力比べだったのに、すこし政治的な面が出てしまいましたから……どうしましょうか。

 そう思ってたら、司会進行役のミレーが魔法を使って声を大きくします。

 何をする気でしょう?

「観客のみなさん! 盛り下がってどうしたんですか! そんな気分じゃ、次に待っている試合を見せる訳には行きませんよぉ!」

 次の試合……金髪とフェンですね。

「さっきは見事な戦いを見せてくれた、金髪ことブッチャーが、この村最強の番犬、フェンに挑むのです! さぁさぁ! 盛り下がってる暇なんてありませんよぉ!」

 ミレーの元気な声で、観客の意識が武闘会に戻っていきます。

「ありがとうございます、ミレー」
「いえいえ、マーガレット様。これが私の仕事ですから!」

 ミレーのおかげで会場の熱気も戻ってきました。金髪とフェンの試合にうつりましょう。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

sideサキエル


 僕はサキエル。どうしようもない、馬鹿な天使だ。

 堕天することが怖い、天界に戻れなくなるのが怖い、その恐怖の感情に囚われて、誰に迷惑になるかなんて考えずに行動してしまった。

 まだ、堕天は少しずつ進んでいる。だけど、この村で暮らしていると、それも悪くないような気がしてきてしまう。

 天使とはかけ離れた存在だとされる悪魔も、この村じゃ天使と敵対せずに一緒に暮らしている。

 世界中のどこを見たって、これだけの種族が平和に暮らしているのはここだけだと思う。

 そして、僕もまた、この村に暮らす天使の1人だ。今回の武闘会にも、少しだけ手伝ったし、あまり目立たない場所で様子を眺めてる。

 ただ、人の頼みは聞かないと決めた僕だけど、ここに住まわせてもらってる恩を忘れてるわけじゃない。

 武闘会の会場から逃げた人間を追いかけよう。たしか、神聖国から来たって言ってた。

「……待ちなよ、人間」
「?! ……おや、これはこれは、天使様ではないですか。翼が少々傷んでおられるようですが、大丈夫ですかな?」

 堕天しかけてることをいっているのかな。

「……君には関係のないことだ」
「いやはや、我らの信じる天使様とは、違うようだと思いましてな」

 ……あぁ。そういえば、どっかの国にまつりあげられてる天使達がいるって聞いたことがある。

「それで、どうしたのですかな? 私を捕まえにでもきましたか?」
「いや、そうじゃないよ」

 捕まえたら、国の問題になるらしい。シルフィっていう怖いエルフがそう伝えてきた。

「では、なんの用で?」
「忠告を。この村に敵対しない方がいい」
「……ほう。そんなことを言いに来たのですか?」

 別に、僕が言ったところで何かが変わるわけじゃないのはわかってる。
 
 だけど、それを伝えたかったんだ。何故かはわからないけど、自分の中でそうするべきだと、そうすることが、村への恩返しになる。そんな気がした。

「……頭の片隅には入れておきましょう。では、さようなら、追放の天使様」

 ……人間は、大きな空飛ぶ乗り物に乗って行ってしまった。

 追放の天使。堕天をバカにする天使がよく言う言葉だ。

 ……悔しい、まえならそう思ったけど、やっぱり自分の中で堕天への拒否感が薄れている気がする。

 村の一員、そんな自分を受け入れ始めてるのかもしれない。

 次の試合はあの金髪くんが出るって言ってたな。前の試合は見事な立ち回りだったし……見に戻らなきゃ。

 うん、やっぱり、天使の1人じゃなくて、村の一員としての自分に変わっていってる気がする。

「金髪 対 フェンの試合、初めっ!」

 よし、間に合った。試合を楽しもう。
 
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