御伽の国の聖女様! 婚約破棄するというので、聖女の力で結界を吸収してやりました。精々頑張ってください、私はもふもふと暮らします

地鶏

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三章 龍の花嫁

84 龍と少女の御伽噺

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「先生、質問です!」
「……なんですか」

 ルールーがすさまじく面倒くさそうに生徒の質問に答えています。

 ここは学校です。正確に言えば、学校になるべく作られた建築物ですね。

 まだ教師の選定や、学校のシステム、学ぶ教科など詳しく決まっていないので運用はまだ先ですが。

 そして、そんな学校予定地で何をしているのかと言うと、村の大人達が寄って集ってルールーの授業をうけてます。

 内容は、この前手紙を送ってきたアナスタシア女王が選ばれた『龍の花嫁』についてです。名前は何となく聞いた事ありますが、高位の貴族ですらあまり情報が開示されないそうですから、王国内では貴族の中でもかなり下の方だった私はよく知りません。

 そんな情報をなぜルールーが知っているのかと言うと……なぜ知ってるんでしょう? 

「もう、静かにしてください! 授業を始めますよー!」
「「「はーい」」」

 声を揃えて元気な返事が返ってきますが、これみんな大人です。

「……返事だけ元気よくても全然静かになってないじゃないですか。ワタクシ、既に面倒ですマーガレット様」
「頑張ってくださいルールー。これからやってくるであろう厄介事の対策のためにも情報共有はしなければなりません」
「マーガレット様がいうのならば……ワタクシ、頑張りますわ。ということで……」

 ルールーが一度教室を出ます。そして、少しの間待っていると、教師っぽい服に着替えたルールーが帰ってきました。

 なぜか、手に鞭を持っています。

 ……え?

「さぁ、授業をします。真面目にやらないと……」

 ルールーが鞭を振り抜きます。す、すごいいい音がなりました。

「わかってますね?」
「「「……はい」」」

 すごい教室が静かになりました。怖いですルールー。とりあえず隣の席のフェンをもふもふしながら授業を受けましょう。もふもふー。

「まず、『龍の花嫁』というものの歴史からですね。この国に移住している王都の歴史研究家によると、はるか昔、初代勇者アリアと魔王の戦いの時代よりもさらに前、一人の少女と、一匹の龍からその仕組みは始まっまたそうです」

 ……御伽噺みたいですね。ルールーが魔法を使い始めました。黒板に、まるで絵本が生きてるかのように映像が流れ始めました。

 そこにいるのは、寒そうな布一枚だけを頼りに、寒さに耐える一人の女の子です。

 場所は……牢獄ですか。

「少女は、当時の強国であった『中帝国』の姫でした。ですが、当時の皇帝には多くの子供がいたため、特別な力を持たない王族はこうして権力争いから遠ざけられていました」
 
 来る日も来る日も、冷たい牢獄の中で寂しさを募らせる少女の姿が映し出されていきます。

「ある日、少女のもとに一匹の真っ黒な猫が現れました。少女は自身の寂しさを埋めるように、そして、自分と同じようにボロボロの姿だった猫を助けたい気持ちで、限りある食事を分け与え、抱きしめ温め続けました」

 どんどん、映像の中の猫は元気になって行きます。

「まるで、猫は少女の言葉を理解しているかのように、少女と寄り添いました。ですが、日に日に少女は弱っていきます。猫も、それに気付いていました」

 苦しそうな呼吸で横になる少女を、猫が心配そうに見つめています。

「猫は悩みました。そして、少女に自身の正体を伝える決心をしたのです。自分の本当の姿は、人々に恐れられる龍だと」

 龍だと伝えてしまえば、少女も他の人々と同じように自身を恐れてしまうかもしれない。そう怯えながら、龍は少女に話しています。

「ですが、少女の体は限界が近かったのです。猫の声も、聞くことが出来ないくらいに」
「そんな……」
「それでも、心優しい少女は、猫が苦しそうな表情を浮かべていることに気づいていました。重い身体を必死に動かし、ゆっくり、猫の身体を撫でました。大丈夫だよ、と呟きながら」

 みんな、ルールーの語り口に夢中になってます。

「猫は、少女を助けたいと思いました。ですが、今の猫には龍としての力はほとんど残っていません。力を取り戻すためには外に出なければならないのです。猫は必ず助けに戻る、そう伝えて少女の元を離れていきました」

 映像が切り替わり、立派な城と絢爛豪華な街並みが広がります。この造りは見たことがありますね、歴史の勉強で習った気がします。

「猫は、命を懸けて力を取り戻そうと頑張りました。そして、龍としての力を取り戻し、少女を助けに向かいます。突如街に現れた巨大な黒龍に人々は慌てます。ですが時の皇帝は、冷静に黒龍と向かい合いました」

 ーー龍よ、我が国へ何をしに来た?

 ーーこの国に囚われし娘を助けに来た

 ーーそうか、だがあれは我が娘だ。勝手に持って行かれては困る。……そうだ龍よ。我が国の敵である異教徒を焼いてきてはくれまいか? それならば、たとえ龍といえども娘をやろう

「龍は、その言葉を信じて皇帝が異教徒とよぶもの達を焼き払いました。そして、また中帝国へと降り立ちます」

 ーー言われた通りのことはやった。娘は何処だ

「龍はそう尋ねますが、待てども待てども娘を連れてくる様子はありません。それどころか、大量の兵士が龍を囲み始めます」

 ーーなんの真似だ

 ーー龍よ、貴様のおかげで邪悪な異教徒は滅びた! これで我が帝国は覇権を握ることが出来たのだ、礼を言おう

 ーー御託はいい! 娘はどこだ!

 ーー娘はな、死んだ。冷たい牢獄の中でな。あぁ、うわ言のように呟いていたよ、助けに来る、助けに来る、とな

「そうして皇帝は龍にむかって武器を向けます。ですが、怒り狂った龍に人間がどれだけ集まったところで勝てるはずもなく、たちまち辺りは火の海となりました。その怒りの炎は都を焼くだけでは収まらず、中帝国全体に及ぼうとします」

 怒り狂う龍の前に、一人の姫が現れました。

 ーー私が行きます。妹の代わりにはならないかも知れません、ですが、どうかその怒りを鎮めては貰えませんか

「龍は、関係ないと姫を焼こうとしました。ですが、姫の瞳は、少女の瞳とそっくりでした。心優しい少女の瞳と。そして龍はその姫を攫ってどこかへ飛び立っていきました」

 ……映像が終わりました。

「それ以来、龍の里に花嫁という形で女性を贈るのがならわしになっています。これが『龍の花嫁』の起源です」
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