61 / 72
三章 龍の花嫁
89 ノアの国の聖女様
しおりを挟む
これはもう絶対間に合わない。そう思いましたが、背中に感じたのは硬い地面の衝撃ではなく、安心感のあるもふもふの毛でした。
「ふぅ……間に合った……」
「死ぬかと思いました……ありがとうございます、フェン」
あのまま落ちていたら間違いなく死んでいました。今までで一番死を身近に感じる瞬間でしたね……。
「マーガレット! 大丈夫か!」
「アーさん、大丈夫ですよ、フェンのおかげで助かりました」
「怪我は……なさそうだな。だが、どうしたのだ? 攻撃を食らったのか?」
アーさんに続いて、続々とみんなが集まってきます。心配をかけてしまいましたね。ただ……。
やっぱり、魔力が全て無くなってます。体の中に力強く渦巻いていた魔力が空っぽです。
「マーガレット? どうしたのだ?」
私が黙ったままなので、みんなが声をかけてくれます。
「……魔力がなくなりました。正確に言えば、封印されたというのが正しいでしょうか……」
「「「「「「「「「「なっ?!」」」」」」」」」」
私の魔力が封印されてしまったという事は、今までのように戦ってみんなを守る事ができなくなったという事です。しかも、ゲートを使って行っていた他国の監視や、魔法を使った大規模な建築などもできないという事です。
こうなった時のために、食料は私に関係なく供給できるようにしていたので生活に困ることはないでしょう。魔王さんや、ラムさん、魔王国の人たちも助けてくれるでしょう。
ジッキンデンさんも助けてくれるでしょう。いい人ですから、あの人。
「主の魔力が……本当になくなっているな」
「勇者が使った魔道具のせいでしょう。……ごめんなさい、私が油断したせいです」
「謝るなマーガレット、大丈夫だ」
「大丈夫じゃありません!」
私が大きい声を出したからか、みんなが静かになります。
大丈夫じゃないんですよ……私がみんなを守らないといけないのに、魔力がなくなった私では何もできません。
「マーガレット……」
「みんなを、そしてこの国を守ることが私の役割なんです……なのに、私は何も、何もできなくなってしまいました……」
体から力が抜けていきます。やらなければいけないことはたくさんあるんですから、動いてください私の体。お願いします。
視界がぼやけます。なんで、涙なんか流してるんですか。そんな場合じゃないでしょう、私。
国を守りながら、アナスタシアさんを助けに行かなきゃいけないんですよ。ふらふらする体で何とか立ち上がって、勇者が逃げた方向へと向かいます。
「お、おい。主よ、どこへ行くのだ」
「いかなきゃ……いかなきゃいけません」
「落ち着けマーガレット! その状態では危険だぞ」
「そうですマーガレット様!」
みんなが私の体をおさえてきます。振りほどけません、なんでですか? 身体強化がかかってるはず……そうでした、今は使えないんですね……。
「なんで……止めるんですか」
「今、その状態のマーガレットを行かせるわけにはいかない」
……魔力がない私は、確かに普通の人間です。それでもみんなを守るために何もしないわけにはいかないんです。
「マーガレット、マーガレット!」
「……なんですか、アーさん」
「マーガレット、お前の作ったこの国をちゃんと見るんだ」
この国、ですか? 顔をあげると、アーさん、フェンをはじめ、シルフィ、ルール―、アダム、ナオキ、バレンタイン、ヤニム、カブさん、マトン君、金髪、堕天使のみんな、そして騒ぎを聞いて避難していたはずの国民みんながいました。私が守るべき人たちです。
「確かに、我々はマーガレットに守られている。マーガレットがそのことを常に考えて、この国が平和でいられるよう頑張っていることも知っている」
ほかのみんなも、アーさんの声を聴いて深くうなずいています。
「だからこそ、マーガレットが困っているのならば、我々が助ける。いつもマーガレットが言っていることだろう、我々は家族なのだ。弱っていたり、困っているのならば喜んで助けよう」
「アーさん……」
そんな風に考えていてくれたんですか? 思わず涙があふれてきます。もともと泣いていたのに、さらに涙があふれたせいでもう顔がぐちゃぐちゃです。
涙をぬぐっていると、小さな腕が私の頭を抱きかかえます。
「アーさんの言うとおりだよ、お母さん。僕たちがお母さんを守るよ。お母さんが守ってきたこの国も!」
「アダム……ですが、危険です。勇者も、フォーレイも強いです。それに得体のしれない魔道具も使っています」
「それでも大丈夫。僕たちは強いんだよ! それにね、僕たち、怒ってるんだ」
アダムが聞いたことのないような怖い声でそうつぶやきます。確かに、そういわてみればなんかみんな魔力を練って臨戦態勢ですね。
「お母さんを危ない目に合わせた上に、泣かせた人たち……許さないよ」
「アダムの言う通りだ。ぼこぼこにしてやろう」
「そうですね、この世の地獄を見せてやります」
みんなすごいやる気です。うれしい気持ちもありますが、やっぱり心配ですね……。いや、みんなを信じましょう。無力な私にできることはそれだけです。
「よーし、マーガレット様のため、俺が勇者を倒す!」
「それは無理だと思うよヤニム、死ぬって。ねえ金髪」
「マトンの言うとおりだな。ヤニムじゃ絶対に死ぬ」
「はあ? いったなお前ら。絶対俺が倒してやるからな!」
ヤニム……うれしいですし、頑張ってほしいですけど勇者と戦ったら多分死ぬと思います。マトン君と金髪と一緒ならわかりませんが。
「……ほらな、みなやる気だ。これを見ても、まだ信じてもらえないか? マーガレット」
一番戦意を滾らせているアーさんが、私にそう聞いてきます。
「そんなことはありません……みんなで、この国を守り、アナスタシアを助けましょう!」
私がそういうと、一糸乱れぬ元気な返事が返ってきます。私もめそめそしていられません。できることを探して、みんなのために動くのです。
さあ、助けに行きますよ! アナスタシアさん!
「ふぅ……間に合った……」
「死ぬかと思いました……ありがとうございます、フェン」
あのまま落ちていたら間違いなく死んでいました。今までで一番死を身近に感じる瞬間でしたね……。
「マーガレット! 大丈夫か!」
「アーさん、大丈夫ですよ、フェンのおかげで助かりました」
「怪我は……なさそうだな。だが、どうしたのだ? 攻撃を食らったのか?」
アーさんに続いて、続々とみんなが集まってきます。心配をかけてしまいましたね。ただ……。
やっぱり、魔力が全て無くなってます。体の中に力強く渦巻いていた魔力が空っぽです。
「マーガレット? どうしたのだ?」
私が黙ったままなので、みんなが声をかけてくれます。
「……魔力がなくなりました。正確に言えば、封印されたというのが正しいでしょうか……」
「「「「「「「「「「なっ?!」」」」」」」」」」
私の魔力が封印されてしまったという事は、今までのように戦ってみんなを守る事ができなくなったという事です。しかも、ゲートを使って行っていた他国の監視や、魔法を使った大規模な建築などもできないという事です。
こうなった時のために、食料は私に関係なく供給できるようにしていたので生活に困ることはないでしょう。魔王さんや、ラムさん、魔王国の人たちも助けてくれるでしょう。
ジッキンデンさんも助けてくれるでしょう。いい人ですから、あの人。
「主の魔力が……本当になくなっているな」
「勇者が使った魔道具のせいでしょう。……ごめんなさい、私が油断したせいです」
「謝るなマーガレット、大丈夫だ」
「大丈夫じゃありません!」
私が大きい声を出したからか、みんなが静かになります。
大丈夫じゃないんですよ……私がみんなを守らないといけないのに、魔力がなくなった私では何もできません。
「マーガレット……」
「みんなを、そしてこの国を守ることが私の役割なんです……なのに、私は何も、何もできなくなってしまいました……」
体から力が抜けていきます。やらなければいけないことはたくさんあるんですから、動いてください私の体。お願いします。
視界がぼやけます。なんで、涙なんか流してるんですか。そんな場合じゃないでしょう、私。
国を守りながら、アナスタシアさんを助けに行かなきゃいけないんですよ。ふらふらする体で何とか立ち上がって、勇者が逃げた方向へと向かいます。
「お、おい。主よ、どこへ行くのだ」
「いかなきゃ……いかなきゃいけません」
「落ち着けマーガレット! その状態では危険だぞ」
「そうですマーガレット様!」
みんなが私の体をおさえてきます。振りほどけません、なんでですか? 身体強化がかかってるはず……そうでした、今は使えないんですね……。
「なんで……止めるんですか」
「今、その状態のマーガレットを行かせるわけにはいかない」
……魔力がない私は、確かに普通の人間です。それでもみんなを守るために何もしないわけにはいかないんです。
「マーガレット、マーガレット!」
「……なんですか、アーさん」
「マーガレット、お前の作ったこの国をちゃんと見るんだ」
この国、ですか? 顔をあげると、アーさん、フェンをはじめ、シルフィ、ルール―、アダム、ナオキ、バレンタイン、ヤニム、カブさん、マトン君、金髪、堕天使のみんな、そして騒ぎを聞いて避難していたはずの国民みんながいました。私が守るべき人たちです。
「確かに、我々はマーガレットに守られている。マーガレットがそのことを常に考えて、この国が平和でいられるよう頑張っていることも知っている」
ほかのみんなも、アーさんの声を聴いて深くうなずいています。
「だからこそ、マーガレットが困っているのならば、我々が助ける。いつもマーガレットが言っていることだろう、我々は家族なのだ。弱っていたり、困っているのならば喜んで助けよう」
「アーさん……」
そんな風に考えていてくれたんですか? 思わず涙があふれてきます。もともと泣いていたのに、さらに涙があふれたせいでもう顔がぐちゃぐちゃです。
涙をぬぐっていると、小さな腕が私の頭を抱きかかえます。
「アーさんの言うとおりだよ、お母さん。僕たちがお母さんを守るよ。お母さんが守ってきたこの国も!」
「アダム……ですが、危険です。勇者も、フォーレイも強いです。それに得体のしれない魔道具も使っています」
「それでも大丈夫。僕たちは強いんだよ! それにね、僕たち、怒ってるんだ」
アダムが聞いたことのないような怖い声でそうつぶやきます。確かに、そういわてみればなんかみんな魔力を練って臨戦態勢ですね。
「お母さんを危ない目に合わせた上に、泣かせた人たち……許さないよ」
「アダムの言う通りだ。ぼこぼこにしてやろう」
「そうですね、この世の地獄を見せてやります」
みんなすごいやる気です。うれしい気持ちもありますが、やっぱり心配ですね……。いや、みんなを信じましょう。無力な私にできることはそれだけです。
「よーし、マーガレット様のため、俺が勇者を倒す!」
「それは無理だと思うよヤニム、死ぬって。ねえ金髪」
「マトンの言うとおりだな。ヤニムじゃ絶対に死ぬ」
「はあ? いったなお前ら。絶対俺が倒してやるからな!」
ヤニム……うれしいですし、頑張ってほしいですけど勇者と戦ったら多分死ぬと思います。マトン君と金髪と一緒ならわかりませんが。
「……ほらな、みなやる気だ。これを見ても、まだ信じてもらえないか? マーガレット」
一番戦意を滾らせているアーさんが、私にそう聞いてきます。
「そんなことはありません……みんなで、この国を守り、アナスタシアを助けましょう!」
私がそういうと、一糸乱れぬ元気な返事が返ってきます。私もめそめそしていられません。できることを探して、みんなのために動くのです。
さあ、助けに行きますよ! アナスタシアさん!
10
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。