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第三十話
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昼食の時間には既に噂は広まりきっているようだった。
僕が食堂に姿を現すとどよめきが走った。
「あの、聖女様の生まれ変わりの方ですよね!?」
席に腰を下ろすと、見知らぬ一組の学生が声をかけてきた。
「私たち、聖女伝説に憧れがあって……今代の聖女様と賢者様が既に結ばれていると知って感激です! 握手してください!」
「えっと、あの……」
オレンジと黄色のローブを見るに、二年生と三年生のようだ。
勢いに押されて僕は彼らと握手をさせられてしまった。
「やった、お兄ちゃんわたし聖女様と握手しちゃった!」
「よかったなスーザン!」
どうやら彼らは兄妹だったようだ。
「あの、僕も……」
横合いからおずおずと声をかけられる。
「私もお願いします……!」
学生らの手が迫ってくる。
混乱した僕は昼食を載せたトレーを抱えて食堂を飛び出した。
「はあ? それでなんで俺の研究室に来るんだ馬鹿か?」
イッシュクロフト先生の研究室に飛び込むと、思いっ切り不機嫌そうな超越卿が出迎えてくれた。
「元凶であるエルフの賢者様のところに行けばいいだろうが」
「その、何となく行きづらくて……」
はああ、と大きく溜息を吐く先生。
今エルネスト先生のところに行ったらますます噂は増長するし、エルネスト先生は申し訳なさそうな顔をするんだろうなと思うと彼のところに向かうことはできなかった。
「ふん、まあ仕方ない……ほとぼりが収まるまで場所くらいは貸してやろう」
「ありがとうございます!」
「いいか、ずっとじゃないぞ。居場所くらい自分で見つけろ」
今はイッシュクロフト先生の不愛想で無関心な優しさが嬉しかった。
それからしばらくは昼食を持参してイッシュクロフト先生の研究室でランチを摂ることにした。
「あの、先生」
「なんだ」
「聖女様って絶対に光属性を持って生まれるんですよね?」
超越卿と呼ばれるイッシュクロフト先生ならば僕が生まれ変わりかどうかについて明確な答えを出してくれるだろうかと尋ねてみる。
先生は再び大きな大きな溜息を吐いてから、口を開く。
「およそ百年……正確には百二十年に一度程度の周期で聖女の生まれ変わりはこの世に生まれ落ちると言われている。何故そんな奇跡が行われるのかと言えば、一番最初の聖女が光魔術の秘術を使ったかららしい。輪廻転生の術を」
「輪廻転生の術……」
「その輪廻転生の術が受け継がれていくためには代々の生まれ変わりが秘術をかけ直していく必要があるらしい。だから聖女の生まれ変わりは毎回光属性を持って生まれてくるのだが……本当に君が聖女の生まれ変わりだとすれば、輪廻転生は今代でお終いということだな」
「え……っ!?」
輪廻転生がおしまいかもしれない?
僕が闇属性を持って生まれてきてしまったせいで?
思いにも寄らない可能性に心臓が早鐘のように打つ。
「はっ、エルフの賢者の奴、案外前の聖女を怒らせるようなことをしたのかもしれないぞ? 君が闇属性を持った男として生まれてきたのは聖女からの絶縁宣言かもしれん」
イッシュクロフト先生は愉快そうに呟く。
「絶縁、宣言……」
そんな可能性、全然思い当たらなかった。
でも何故だか心がすっと落ち着くのを感じた。
それなら僕が男として生まれてきたのも、闇属性持ちとして生まれてきたのも何もかも自分のせいではない。
そういうことなら快く自分が聖女の生まれ変わりである可能性を受け入れられる気がした。
ああそうだ。
僕が本当に恐ろしかったのは、「自分が生まれ変わりではない」ことではなくて……「本当は生まれ変わりなのに自分のせいで闇属性になってしまった」かもしれないことなんだ。
「ああもちろん、今のは俺の勝手な仮説ですらない憶測だ。賢者本人に言ったりするんじゃないぞ」
イッシュクロフト先生が釘を刺す。
「え、言っちゃ駄目なんですか?」
「もちろんだ。学説を発表するならばきちんと立証した上でなければ」
イッシュクロフト先生にとっては聖女伝説云々の騒ぎも学問の一つにしか過ぎないらしかった。
僕が食堂に姿を現すとどよめきが走った。
「あの、聖女様の生まれ変わりの方ですよね!?」
席に腰を下ろすと、見知らぬ一組の学生が声をかけてきた。
「私たち、聖女伝説に憧れがあって……今代の聖女様と賢者様が既に結ばれていると知って感激です! 握手してください!」
「えっと、あの……」
オレンジと黄色のローブを見るに、二年生と三年生のようだ。
勢いに押されて僕は彼らと握手をさせられてしまった。
「やった、お兄ちゃんわたし聖女様と握手しちゃった!」
「よかったなスーザン!」
どうやら彼らは兄妹だったようだ。
「あの、僕も……」
横合いからおずおずと声をかけられる。
「私もお願いします……!」
学生らの手が迫ってくる。
混乱した僕は昼食を載せたトレーを抱えて食堂を飛び出した。
「はあ? それでなんで俺の研究室に来るんだ馬鹿か?」
イッシュクロフト先生の研究室に飛び込むと、思いっ切り不機嫌そうな超越卿が出迎えてくれた。
「元凶であるエルフの賢者様のところに行けばいいだろうが」
「その、何となく行きづらくて……」
はああ、と大きく溜息を吐く先生。
今エルネスト先生のところに行ったらますます噂は増長するし、エルネスト先生は申し訳なさそうな顔をするんだろうなと思うと彼のところに向かうことはできなかった。
「ふん、まあ仕方ない……ほとぼりが収まるまで場所くらいは貸してやろう」
「ありがとうございます!」
「いいか、ずっとじゃないぞ。居場所くらい自分で見つけろ」
今はイッシュクロフト先生の不愛想で無関心な優しさが嬉しかった。
それからしばらくは昼食を持参してイッシュクロフト先生の研究室でランチを摂ることにした。
「あの、先生」
「なんだ」
「聖女様って絶対に光属性を持って生まれるんですよね?」
超越卿と呼ばれるイッシュクロフト先生ならば僕が生まれ変わりかどうかについて明確な答えを出してくれるだろうかと尋ねてみる。
先生は再び大きな大きな溜息を吐いてから、口を開く。
「およそ百年……正確には百二十年に一度程度の周期で聖女の生まれ変わりはこの世に生まれ落ちると言われている。何故そんな奇跡が行われるのかと言えば、一番最初の聖女が光魔術の秘術を使ったかららしい。輪廻転生の術を」
「輪廻転生の術……」
「その輪廻転生の術が受け継がれていくためには代々の生まれ変わりが秘術をかけ直していく必要があるらしい。だから聖女の生まれ変わりは毎回光属性を持って生まれてくるのだが……本当に君が聖女の生まれ変わりだとすれば、輪廻転生は今代でお終いということだな」
「え……っ!?」
輪廻転生がおしまいかもしれない?
僕が闇属性を持って生まれてきてしまったせいで?
思いにも寄らない可能性に心臓が早鐘のように打つ。
「はっ、エルフの賢者の奴、案外前の聖女を怒らせるようなことをしたのかもしれないぞ? 君が闇属性を持った男として生まれてきたのは聖女からの絶縁宣言かもしれん」
イッシュクロフト先生は愉快そうに呟く。
「絶縁、宣言……」
そんな可能性、全然思い当たらなかった。
でも何故だか心がすっと落ち着くのを感じた。
それなら僕が男として生まれてきたのも、闇属性持ちとして生まれてきたのも何もかも自分のせいではない。
そういうことなら快く自分が聖女の生まれ変わりである可能性を受け入れられる気がした。
ああそうだ。
僕が本当に恐ろしかったのは、「自分が生まれ変わりではない」ことではなくて……「本当は生まれ変わりなのに自分のせいで闇属性になってしまった」かもしれないことなんだ。
「ああもちろん、今のは俺の勝手な仮説ですらない憶測だ。賢者本人に言ったりするんじゃないぞ」
イッシュクロフト先生が釘を刺す。
「え、言っちゃ駄目なんですか?」
「もちろんだ。学説を発表するならばきちんと立証した上でなければ」
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