嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

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第四十三話

 学期が始まってから三ヶ月が経った。
 季節はもう真冬だ。

 冬休み前のテストや課題があらゆる科目から出されるこの時期、学生たちは僕でなくても図書室に毎日通い詰めて勉強している。この時期の図書室は目元に隈をこさえた学生たちで混雑していた。

 僕も例外ではなく、ここ最近は太陽の日の休日もエルネスト先生との逢引どころではなく勉学に邁進していた。
 なにせこの国の暦では一週間は五日間で、最後の一日が太陽の日という神殿によって定められた安息日なのだ。
 テストや課題をこなそうと思えば呑気にしていられる時間は少しもない。
 冬季休暇になれば仕立て屋に注文していた衣装が完成する。そのことを励みに自分に鞭を入れて頑張っていた。

 事件が起きたのはそんなある日のことだった。

 その日の呪術学の大教室はガヤガヤとしていた。
 今日はレポートの提出日だったからだ。

『諸君らにまともなレポートが書けると期待はしていないが、最初から書こうとする努力も見せない者は即刻落第とする』

 そんなイッシュクロフト先生の脅し文句に学生たちは時には協力し合ってこの日に何としてでも間に合うようにレポートを完成させた。
 教室に集まった学生たちは何となく互いを戦友と認識しているような緩やかな絆が結ばれていた。

「ルインハイトくん、レポートどうだった?」

 白いふわふわの妖精、シャルルくんが話しかけてくる。
 さしもの優等生の彼の顔にも疲れが出ている。

 呪術学からだけレポートの課題が出ているのであれば僕も余裕だったが、同時に他の教科からも課題が出ているし、テストがある教科に備えてテスト勉強も同時進行で行わなければならなかったのだ。
 ここ数日はみんな死ぬほど大変だった。だが最難関の呪術学の課題が終われば少しは楽になる。

「何とか及第点がもらえるクオリティのものが書けたと思う」
「ほんと!? すごい、参考に読ませてもらってもいい?」
「もちろんだよ」

 僕は鞄からレポートの紙の束を取り出し、シャルルくんに手渡した。
 彼はレポートを受け取ると真剣な顔で読み始めた。
 そんなに真剣に読まれると少し気恥ずかしい。

「あの、ルインハイト様!」
「はい?」

 建前上は学生間に身分差はないことになっているが、僕が王族だからなのかそれとも聖女の生まれ変わりだと信じられてるからか、様付けで呼びかけられることが多かった。
 振り返るとやはりキラキラした目で僕を見つめている学生の一群がいた。

「この間の治癒魔術の実践も凄かったですね!」
「はあ、まあ……」

 どうやら彼らは治癒魔術学を一緒に受けている学生たちのようだ。
 いきなりどうしたのだろう。

「治癒魔術を使う時のコツとかはあるんですか? 僕たち、どうしても今度の治癒魔術学でいい成績を修めたくって!」

 なるほど、彼らは教えを請いたいらしい。
 魔導学院では学生たちは互いの苦いを補うように助け合って共に卒業を目指すのが通例となっている。
 僕は今のところ苦手な科目はないが、ここで彼らを助けねば将来苦手な課題にぶち当たった時に周囲に助けてもらえないかもしれない。
 僕はなるべく丁寧に彼らにコツを教えてあげることにした。

「僕の感覚は独特らしいから参考にならないかもしれないんだけど……」

 彼らは目を輝かせて真面目に話を聞いてくれた。
 そんな時だった。

「あぁ……ッ!?」

 シャルルくんの悲鳴のような声が聞こえた。
 慌てて振り向くと、そこには無惨な光景が広がっていた。
 僕の机の上でレポートがズタズタに裂かれていた。
 提出できなければ落第させるとイッシュクロフト先生が明言したレポートが。

「え……」
「レポートを読んでたら友達に話しかけられたから一旦置いといて……次見た時にはもうこうなってたんだ!」

 シャルルくんが泣きそうな顔で訴える。
 教室中の学生がズタズタになったレポートに気が付き、息を呑んだ。

「誰がこんなことを!」
「誰か見ていた奴はいるか!?」

 大教室はあっという間にハチの巣をつついたような騒ぎになった。
 聖女の生まれ変わりの書いた課題をズタズタにするなんて、と学生たちは義憤に駆られている。
 僕のレポートを破いてしまった犯人を見ていた者はいないようで、犯人捜しが始まった。
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