嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

野良猫のらん

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第四十四話

「ぼ、ボクが目を離していたせいで……」
「シャルルくんのせいじゃないよ」

 今にも綺麗な蒼い瞳から涙の零れそうなシャルルくんの背中を擦って宥める。

「マルステンのせいじゃないか?」

 誰かがぽつりと呟いた。
 騒がしい大教室の中でその声はやたらと通り、誰もがマルステンに疑惑の目を向けた。

「マルステンの奴、隠し通せてるつもりらしいけど明らかにルインハイト様に対して敵意を向けてるもんな」
「こんなことをする奴、マルステンぐらいしかいない!」

 騒めき声は次第にただの疑惑から確信へと向かっていく。

「な……っ!?」

 疑惑の視線を大勢から向けられたマルステンは弾かれたように椅子から立ち上がる。

「な、何故この私がそんなせせこましい真似をせねばならん!? わっ、私は王家の血を継いでいるんだぞッ!!」

 マルステンは声を裏返らせて反論する。
 だがその慌てようは学生らにすれば彼が犯人だという説得力が増したに過ぎなかったようだ。

「おい、さっさと謝れよ」
「最低」

 マルステンは学生たちにローブの首根っこを掴まれて引っ立てられて、僕の前まで連れて来られた。
 教室中から軽蔑の眼差しを向けられている。

「ほら」

 背中を叩かれ、マルステンが前につんのめる。
 だが顔を上げた彼の瞳には強い意思が宿っていた。

「身に覚えのない罪で絶対に謝罪の言葉など口にするものか……ッ!」

 その瞳に宿る光を見て、彼は真実を言っていると僕は感じた。
 だが周囲は「まだ言うか」とばかりに視線をさらに険しくさせる。

「こいつ……っ!」

 学生の一人が拳を振り上げる。

「待って!」

 僕はマルステンとその学生の間に割って入った。

「彼は自分はやってないと言っている。それなのに証拠もなく彼を犯人と決めつけるなんておかしい……っ!」
「な……ッ!?」

 一番の驚きの声は僕の真後ろから上がった。
 マルステンの声だ。

「な、何故貴様が私のことを庇う……? 私は貴様を……」

 彼の言葉は最後まで続かなかった。

「これは一体何の騒ぎだ」

 超越卿ことイッシュクロフト先生が教室に姿を現す。
 先生はいつも以上に不機嫌な顔で教室を見回す。
 大教室が一瞬でシン、と静まり返った。

「ふん、そういうことか」

 僕は一番前の席を取っていた。
 ズタズタになったレポートの束はすぐに先生の目に付いたようで、フンと鼻を鳴らした。
 先生はすたすたと僕の席のところまで歩いてくると、片手に革手袋をはめた。

「……っ」

 思わず息を呑んでしまった。
 革手袋の手の甲には精緻で複雑な魔法陣が描かれていたからだ。

(魔力節約と詠唱短縮と……駄目だ、複雑過ぎて読み取り切れない)

 魔力の消耗を抑える魔法陣は本で見たことがあるが、こんなに精巧ではなかった。
 これが魔力の限界をも超える超越卿の魔法陣か。

 先生は革手袋をはめた手をバラバラになったレポートの残骸の上にかざした。

Meüsjr逆行

 先生が一言、古代語で呪文を唱えると千切れたレポートの紙片が寄り集まり、合わさっていく。
 あっという間にレポートが元に復元されていく。

 それから先生がまた一言、呪文を唱える。

Àseuttjr固定

 寄り集まって元に戻ったレポートの紙が今度は石板のように固められて固定された。

「これで問題ないだろう。俺の講義中に犯人捜しだとか何とか下らないことをして時間を無駄にさせる奴は減点する。講義後に勝手にやれ」

 石板のような板の集まりと化した僕のレポートを回収してイッシュクロフト先生は大教室を見回す。
 異を唱えられる生徒はおらず、一人残らず大人しく着席した。

 こうして僕は無事にレポートを提出することができたのだった。
 イッシュクロフト先生が優しい先生で良かった。
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