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第五十九話
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それから学院内で逃げるルインハイトとそれを追いかけるエルネスト先生の姿が散見されるようになった。
学生たちはそれを見て「痴話喧嘩でもしたのかな」としか考えなかった。
だが、ある時を境に出所不明の噂が流れるようになる。
ルインハイトは本物聖女の生まれ変わりではないらしい。
闇魔術を使ってエルフの賢者様を洗脳して騙しているのだと。
学生たちは初めはそんな噂は鼻で笑い飛ばした。
だが次第にその噂を信じる学生の数は増えてきた。
ルインハイトに向けられる視線の種類も変わってきたのである。
◆
「馬鹿馬鹿しい! 闇の洗脳魔術だと!? それでも誉ある学院生か!? そんな魔術理論に反したことを口にした奴は落第にしてやる!」
変な方向に怒り狂っているのは悪名高き落第卿ことイッシュクロフト先生である。
洗脳魔術なんて便利なものがあるなら使い方を教えて欲しいくらいだと喚き散らしている。
一通り喚き終わると、先生は僕に向き直った。
「ふう、まったく……学生がふざけた下らない噂を流すのはよくあることだが、大丈夫なのか?」
僕は一年生の時のようにイッシュクロフト先生の研究室でお昼ご飯を食べるようになっていた。
蔓延している噂によって、学生たちが手の平を返したように敵意を向けてくるようになったからだ。
食堂で食事をしようものならヒソヒソと聞こえるか聞こえないかぐらいの声で陰口を言われるのだ。時には堂々と絡まれて嫌味を言われることもある。
とてもじゃないが落ち着いて食事できる環境ではない。
「大丈夫……です。当然の報いなので」
薄々自分が生まれ変わりではないと分かっていた。
分かっていたのに彼と一緒に居続けたのは、本物さえ現れればエルネスト先生もすぐに分かるだろうと思っていたからだ。
なのに、まさか彼が僕のことを聖女の生まれ変わりだと誤認し続けるだなんて。
一緒にいた時間が長過ぎたせいかもしれない。
エルネスト先生は生まれ変わりを察知する能力が弱まってきているのだとシャルルくんが言っていた。きっとそのせいだ。
本物の聖女様の生まれ変わりが現れるまでのほんの短い時間を借りるだけのつもりだったのに、僕がすべてを台無しにしてしまった。
このままエルネスト先生が誤認したままだったらどうなってしまうのだろう。輪廻転生の秘術は受け継がれるのだろうか。
もし、僕のせいで輪廻転生の輪が途切れたら……。
「おい」
僕を鋭く睨むイッシュクロフト先生の顔が目の前にあった。
「何をうじうじと悩んでいるんだ」
ぷに、と先生の指が僕の両頬を掴んだ。
「ひゃにふるんでふは!」
「大体お前、悩むくらいなら憤慨すべきじゃないのか?」
「ぼ、僕が何に怒るべきって言うんですか?」
ぱっとほっぺから指が離れる。
「この数年間あのエルフの賢者様と愛を育んできたのはお前だろう? 本物の聖女の生まれ変わりやら何やらがぽっと出てきたくらいで何故譲る?」
「何故ってそんなの、聖女様の生まれ変わりは何世代もかけて愛を育んできたエルネスト先生の恋人で……」
「人間だって心変わりすることはある。エルフの賢者様が心変わりして聖女の生まれ変わりではなくお前を愛するようになったのではないと何故言える?」
ビシリと指先を突き付けられた。
そんな発想、まったくなかった。
エルネスト先生は聖女の生まれ変わりと結ばれるべきなんだと盲目的に思っていた。
それこそ盲目的に聖女伝説を信仰してきた噂好きの学生たちのように。
「え、でもそれこそ理解できません。何百年と愛し合ってきた恋人の生まれ変わりを放棄してまで僕を選ぶ理由なんて何もありません」
僕のこの言葉に、先生はギリリと睨んでくる。
「それは嫌味か? 少なくとも目の前にいる偏屈で不愛想で学生らに落第卿とかあだ名をつけられて恐れられている研究バカの男よりは遥かに人間的魅力に溢れているだろう」
「い、いや嫌味のつもりはないです……!」
僕は慌てて否定した。
「はんっ。ともかく、俺の目から見ればお前たち二人が結び付かない方が不自然に見えるんだ。前世は前世、今世は今世だろう?」
ロマンティックさを欠片も理解しないイッシュクロフト先生の言葉はどこまでも現実主義だった。
彼の言葉を否定していたらどこまでも問答が続きそうだったので、「そういうこともあるかもしれません」と僕は曖昧に同意して話を終わらせたのだった。
……本当に聖女の生まれ変わりだからじゃなくて、僕自身を見て僕を選んでくれたのならそれ以上嬉しいことはないけれど。
学生たちはそれを見て「痴話喧嘩でもしたのかな」としか考えなかった。
だが、ある時を境に出所不明の噂が流れるようになる。
ルインハイトは本物聖女の生まれ変わりではないらしい。
闇魔術を使ってエルフの賢者様を洗脳して騙しているのだと。
学生たちは初めはそんな噂は鼻で笑い飛ばした。
だが次第にその噂を信じる学生の数は増えてきた。
ルインハイトに向けられる視線の種類も変わってきたのである。
◆
「馬鹿馬鹿しい! 闇の洗脳魔術だと!? それでも誉ある学院生か!? そんな魔術理論に反したことを口にした奴は落第にしてやる!」
変な方向に怒り狂っているのは悪名高き落第卿ことイッシュクロフト先生である。
洗脳魔術なんて便利なものがあるなら使い方を教えて欲しいくらいだと喚き散らしている。
一通り喚き終わると、先生は僕に向き直った。
「ふう、まったく……学生がふざけた下らない噂を流すのはよくあることだが、大丈夫なのか?」
僕は一年生の時のようにイッシュクロフト先生の研究室でお昼ご飯を食べるようになっていた。
蔓延している噂によって、学生たちが手の平を返したように敵意を向けてくるようになったからだ。
食堂で食事をしようものならヒソヒソと聞こえるか聞こえないかぐらいの声で陰口を言われるのだ。時には堂々と絡まれて嫌味を言われることもある。
とてもじゃないが落ち着いて食事できる環境ではない。
「大丈夫……です。当然の報いなので」
薄々自分が生まれ変わりではないと分かっていた。
分かっていたのに彼と一緒に居続けたのは、本物さえ現れればエルネスト先生もすぐに分かるだろうと思っていたからだ。
なのに、まさか彼が僕のことを聖女の生まれ変わりだと誤認し続けるだなんて。
一緒にいた時間が長過ぎたせいかもしれない。
エルネスト先生は生まれ変わりを察知する能力が弱まってきているのだとシャルルくんが言っていた。きっとそのせいだ。
本物の聖女様の生まれ変わりが現れるまでのほんの短い時間を借りるだけのつもりだったのに、僕がすべてを台無しにしてしまった。
このままエルネスト先生が誤認したままだったらどうなってしまうのだろう。輪廻転生の秘術は受け継がれるのだろうか。
もし、僕のせいで輪廻転生の輪が途切れたら……。
「おい」
僕を鋭く睨むイッシュクロフト先生の顔が目の前にあった。
「何をうじうじと悩んでいるんだ」
ぷに、と先生の指が僕の両頬を掴んだ。
「ひゃにふるんでふは!」
「大体お前、悩むくらいなら憤慨すべきじゃないのか?」
「ぼ、僕が何に怒るべきって言うんですか?」
ぱっとほっぺから指が離れる。
「この数年間あのエルフの賢者様と愛を育んできたのはお前だろう? 本物の聖女の生まれ変わりやら何やらがぽっと出てきたくらいで何故譲る?」
「何故ってそんなの、聖女様の生まれ変わりは何世代もかけて愛を育んできたエルネスト先生の恋人で……」
「人間だって心変わりすることはある。エルフの賢者様が心変わりして聖女の生まれ変わりではなくお前を愛するようになったのではないと何故言える?」
ビシリと指先を突き付けられた。
そんな発想、まったくなかった。
エルネスト先生は聖女の生まれ変わりと結ばれるべきなんだと盲目的に思っていた。
それこそ盲目的に聖女伝説を信仰してきた噂好きの学生たちのように。
「え、でもそれこそ理解できません。何百年と愛し合ってきた恋人の生まれ変わりを放棄してまで僕を選ぶ理由なんて何もありません」
僕のこの言葉に、先生はギリリと睨んでくる。
「それは嫌味か? 少なくとも目の前にいる偏屈で不愛想で学生らに落第卿とかあだ名をつけられて恐れられている研究バカの男よりは遥かに人間的魅力に溢れているだろう」
「い、いや嫌味のつもりはないです……!」
僕は慌てて否定した。
「はんっ。ともかく、俺の目から見ればお前たち二人が結び付かない方が不自然に見えるんだ。前世は前世、今世は今世だろう?」
ロマンティックさを欠片も理解しないイッシュクロフト先生の言葉はどこまでも現実主義だった。
彼の言葉を否定していたらどこまでも問答が続きそうだったので、「そういうこともあるかもしれません」と僕は曖昧に同意して話を終わらせたのだった。
……本当に聖女の生まれ変わりだからじゃなくて、僕自身を見て僕を選んでくれたのならそれ以上嬉しいことはないけれど。
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