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第六十話
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「最近シュペルフォエル先生とルインハイト殿下が一緒にいるところを見ませんね」
「やはりあの噂は本当なのでは……」
ヒソヒソと声が聞こえてくる。
わざと聞こえるように言っているのか、それとも声量に気を遣う気がないのか。
イッシュクロフト先生はたとえ僕が聖女の生まれ変わりでなかったとしても、エルネスト先生と結ばれてもいいと言ってくれた。
でも僕にはどうしてもそうは思えなかったので、相変わらず彼と一緒にいることを避けている。
そうした態度が僕がエルネスト先生を騙しているという噂をむしろ助長させているらしかった。
「俺には奴の正体が分かっていたぜ。権力を持ってる奴はこれだから」
聞き覚えのある声はあの時僕に危害を加えようとした男子学生の一人だろうか。妬みと敵意の籠った声だ。
こういった声も多くなってきた。
「知ってる? 本物の聖女様の生まれ変わりはシャルル・ブルダリアス様なのですって」
「まあ……確かに言われてみればブルダリアス様の方が聖女様のイメージにぴったりですわ」
「卑劣な黒魔術によって愛しい人を奪われて、ブルダリアス様が可哀想」
「何故今まであんな人を聖女様の生まれ変わりだと勘違いしていたのかしら。もしかすれば私たちも黒魔術の影響化にあったのかも……」
今までエルネスト先生と僕が一緒にいるのを見かけては好き勝手に騒いでいた女子学生たちが侮蔑の視線をあからさまに向けてくる。
元々僕を崇拝の対象というか一歩距離を置いて接してくる人ばかりで、シャルルくんしか友達と言える人はできなかった。
そのシャルルくんとも最近は何だか会話を交わしづらくて、今では孤立している。
でもいいんだ。
学院は勉強をするための場所だ、友達を作るための場所じゃない。
友達が一人も出来なくたって何の問題もない。
だから僕は泣いたりしない。
今まで通り教室の前の方に座り、講義を真面目に受ける。
勉学に埋没している間は煩わしいことはすべて頭の中から消え失せた。
その瞬間を求めて僕はひたすらに勉強した。今まで以上に。
そんなある日のことだった。
「あの、勉強のことでいろいろと聞きたいことがあるのでこの後二人でお茶しませんか!」
講義が終わるなり意を決した様子でエルネスト先生に声をかけたのは、シャルルくんだった。
いつもエルネスト先生は講義が終わるなり僕と会話しようと無駄な努力をするから、今まで彼を誘うチャンスがなかったのだろう。
胸がずきっと痛むのを無視して、僕は机の上の筆記用具を鞄の中にしまっていく。
エルネスト先生はシャルルくんにニコリと笑いかけた。
「いま質問するといい。周りのみんなの参考にもなるだろう」
彼の返答にシャルルくんは狼狽える。
勉強のことでいろいろ聞きたいなんていうのは口実で、二人きりになりたいというのが目的に決まっているのに。彼はこんなにも朴念仁だったろうか。
「でもあの、質問したいことがたくさんあるので時間がかかってしまうと思うんです。だから二人でお茶したいと思って……」
なおもシャルルくんは食い下がる。
「そうか、だがそれは出来ない。私には心に決めた人がいるんだ。その人に勘違いされるようなことはできない」
エルネスト先生はぴしゃりとシャルルくんのお願いを撥ね退けた。
その瞬間、教室中の学生の視線が僕に向いた気がした。
彼の言う『心に決めた人』というのが誰のことか明らかだったからだ。
「ルインハイトを何とかしなきゃシュペルフォエル様は聖女様と一緒になれないのか……」
敵意を越えた感情――――殺意を感じた瞬間だった。
「やはりあの噂は本当なのでは……」
ヒソヒソと声が聞こえてくる。
わざと聞こえるように言っているのか、それとも声量に気を遣う気がないのか。
イッシュクロフト先生はたとえ僕が聖女の生まれ変わりでなかったとしても、エルネスト先生と結ばれてもいいと言ってくれた。
でも僕にはどうしてもそうは思えなかったので、相変わらず彼と一緒にいることを避けている。
そうした態度が僕がエルネスト先生を騙しているという噂をむしろ助長させているらしかった。
「俺には奴の正体が分かっていたぜ。権力を持ってる奴はこれだから」
聞き覚えのある声はあの時僕に危害を加えようとした男子学生の一人だろうか。妬みと敵意の籠った声だ。
こういった声も多くなってきた。
「知ってる? 本物の聖女様の生まれ変わりはシャルル・ブルダリアス様なのですって」
「まあ……確かに言われてみればブルダリアス様の方が聖女様のイメージにぴったりですわ」
「卑劣な黒魔術によって愛しい人を奪われて、ブルダリアス様が可哀想」
「何故今まであんな人を聖女様の生まれ変わりだと勘違いしていたのかしら。もしかすれば私たちも黒魔術の影響化にあったのかも……」
今までエルネスト先生と僕が一緒にいるのを見かけては好き勝手に騒いでいた女子学生たちが侮蔑の視線をあからさまに向けてくる。
元々僕を崇拝の対象というか一歩距離を置いて接してくる人ばかりで、シャルルくんしか友達と言える人はできなかった。
そのシャルルくんとも最近は何だか会話を交わしづらくて、今では孤立している。
でもいいんだ。
学院は勉強をするための場所だ、友達を作るための場所じゃない。
友達が一人も出来なくたって何の問題もない。
だから僕は泣いたりしない。
今まで通り教室の前の方に座り、講義を真面目に受ける。
勉学に埋没している間は煩わしいことはすべて頭の中から消え失せた。
その瞬間を求めて僕はひたすらに勉強した。今まで以上に。
そんなある日のことだった。
「あの、勉強のことでいろいろと聞きたいことがあるのでこの後二人でお茶しませんか!」
講義が終わるなり意を決した様子でエルネスト先生に声をかけたのは、シャルルくんだった。
いつもエルネスト先生は講義が終わるなり僕と会話しようと無駄な努力をするから、今まで彼を誘うチャンスがなかったのだろう。
胸がずきっと痛むのを無視して、僕は机の上の筆記用具を鞄の中にしまっていく。
エルネスト先生はシャルルくんにニコリと笑いかけた。
「いま質問するといい。周りのみんなの参考にもなるだろう」
彼の返答にシャルルくんは狼狽える。
勉強のことでいろいろ聞きたいなんていうのは口実で、二人きりになりたいというのが目的に決まっているのに。彼はこんなにも朴念仁だったろうか。
「でもあの、質問したいことがたくさんあるので時間がかかってしまうと思うんです。だから二人でお茶したいと思って……」
なおもシャルルくんは食い下がる。
「そうか、だがそれは出来ない。私には心に決めた人がいるんだ。その人に勘違いされるようなことはできない」
エルネスト先生はぴしゃりとシャルルくんのお願いを撥ね退けた。
その瞬間、教室中の学生の視線が僕に向いた気がした。
彼の言う『心に決めた人』というのが誰のことか明らかだったからだ。
「ルインハイトを何とかしなきゃシュペルフォエル様は聖女様と一緒になれないのか……」
敵意を越えた感情――――殺意を感じた瞬間だった。
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