百合厨な私は『悪役令嬢×クール令嬢』を成就させたいのに攻略男子が邪魔してくる~シンメトリカル・ロマンス

裏乃つむぐ

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王子との休日

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 街へ百合本を漁りに来た私は、なぜか攻略キャラ二人とサンドイッチ屋さんに並んでいる。私の目の前には、緑髪の同級生ドレッドとオレンジヘタレ王子アルフレッドが立っている。

「このお店って有名なんですか?」

 何気なく私は聞いてみた。前にも来たことがあるようでアルフレッド王子は思い出しながら口にする。

「いや、前に来たときは人気ではなかったんだが……」
「だよな。アルと来てから一気に人が増えたよな」

 ドレッドは両手を後頭部に当てながら呑気に発言した。

(それって、王子が来たからじゃ……)

 この店は王室御用達という烙印でも押されたのだろう。ということは街の皆さんはアルフレッド王子の顔をご存じなのでは?

 耳を澄ませると「あれってアルフレッド王子じゃない?」、「キャー、かっこいい!」みたいな黄色い声が聞こえる。

 もちろん。

「あの女誰?」、「きっと王子に擦り寄った汚い女よ」みたいな私を卑下ひげする発言も飛び交っている。

(早くここから抜け出したい……)

 内心ひやひやしながら、この状況に耐えていると、

「悪い。用事があったのを思い出した。このまま二人で昼食を済ませてくれ」

 ドレッドがまさかの発言をした。このまま王子と二人はとても、とてもマズい。

「えっ、それはちょっと……」

 私はドレッドを引き留めようとするが、アルフレッド王子は問題ないようで、

「なんとも急だな。一人で昼食は遠慮したいが今はアユミがいる。俺は構わない」

(えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ、構えよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお)

 「悪い、じゃあな」と吐き捨ててドレッドは去ってしまった。



 こうして、私は王子と二人でお店に並んだ。周りからのひそひそ声がさらに醜悪な言葉に変わった気がするが、右から左に流しておくしかない。もう心が持たない。

 頭を空っぽにしていると、いつの間にか私たちの順番になっていた。こんなことなら「この人はこの国の第二王子アルフレッド様です! 並ばせるなんて無礼よ!」と権力の優先パスを行使してもよかったと思う。でも、私にはそこまでの勇気はないし、何となくこのヘタレ王子は嫌がりそうだ。断ろうものなら逆に注目を浴びかねない。

 このお店では、パンの種類、下地の油脂、具材、ドレッシングをそれぞれ選んで注文するようだ。自分の好みのサンドイッチを作れるのが良いところだが、組み合わせが無限大過ぎて選べない。

「どうした? 注文しないのか?」

 アルフレッド王子は私が戸惑っているのに気付いたようだ。

「えーと。こういうのに慣れていなくて」

 正直に私が告げると、

「大きいパンと小さいパンどちらがいい?」
「小さい方が好きですね」
「固さは?」
「柔らかい方が…」

 私の回答を元に王子はパンの種類を店員さんに告げた。店員さんは丸いパンを取り出し、包丁で切れ込みを入れた。

「次は油脂だな。匂いが強いのと弱いのがあるんだが………………」

 こうして王子の質問に答えるとサンドイッチが出来上がった。白くてふんわりとしたパンに、アボカドとエビを挟んだシュリンプサンドイッチだ。ちなみにドリンクだけは自分で選んでいる。

 一方、アルフレッド王子はすでに決めてあったのか、早々と注文してサンドイッチを頼んだ……というか、パンの種類だけは長いバケットで具材は私と同じだった。パンだけ違うのはお腹が空いていたからだろう。

 お金を払おうとしたらアルフレッド王子が全部払うと言いだした。恩を売るのは癪なのでもちろん自分の分は自分で払った。

 サンドイッチを受け取った私たちは、店舗の中に入り二人用の空いた席に座る。

 私と同じ具材でいいんですか? と聞こうものなら、「君と同じだから良い」とか「君が好きなものだ。問題ない」とかいつものジゴロセリフが返ってくることが安易に想像できた。配慮はしない。

「自分のことは決められないのに、他人のことは決められるんですね」

 私はもぐもぐしながら堂々と無礼な発言をする。こんなことを言うのも、王子は大抵の発言では怒らないと良くわかってきたからだ。ついでに嫌いになってくれると万々歳。

「そうだな、他人のことを決める方が楽だ。喜んでくれるときは嬉しい」

 実際、王子が選んでくれたのは助かったし、注文したサンドイッチは私の好みで嬉しくないと言えば嘘になる。どういう発言をすれば他人が喜ぶのか、どう聞き出せば他人の好みを知れるのかを熟知しているようだ。ホストにでもなれば指名ナンバーワンになれるのでは?

「アルフレッド王子のその才能はすごいと思いますけれど……王には向いていないですね」
「……俺もそう思う」

 ちょっと皮肉を込めて意見してしまったが、王子自身もそう思っているようだ。王子との恋愛レベルが上がると、悪役令嬢ヴェネッサが主人公をイジメてくるようになる。今の性格のままでは主人公を守れないと勇気を出して自分の意見を通そうとするのが王子ルートだった。

 私がストローでチューチューとドリンクを飲んでいると、ピアノの高い音とパイプオルガンのような低音が合わさった演奏が聞こえる。

 音の方を向くと、丸くて赤いカーペットの上にアップライトピアノが置かれていて、ドレスを着た女の人が演奏している。鍵盤の両脇にパイプがついていて、ピアノの後ろに取り付けられた円盤状の装置へと繋がっている。

 緑頭が言っていた風魔法で演奏するピアノだろう。そういえば音楽室に置いてあったものもパイプが付いていたような。

「あれは……ゼピューノですか?」

 私は確かめるようにアルフレッドに聞いた。

「そうだ、知らないのか?」
「最近名前を知りました。私は平民なので魔法で演奏する楽器は詳しくないんです」

 平民という身分を有効活用して常識を知らない言い訳をした。

「俺は音楽が得意じゃないが、アユミはどうだ?」
「私は得意な方ですよ。風魔法を使わなくていい楽器だったら弾けると思います。これでもピアノを一〇年くらい習っていたんですよ」

 私は腰に手を当てて自慢した。これでもピアノは小学校から中学校まで習っていた。高校になってからは辞めちゃったけれどね。

 私のことを感心してくれるだろうと踏んでいたが、そんなことはなくアルフレッド王子は頭にはてなを浮かべていた。

「ピアノ? なんだそれは?」
「えっ!?」

 まさかの返答に私は驚いてしまった。この世界には『ピアノ』という楽器がないとでもいうのか。

「えーと、あそこの楽器にパイプがついていないやつです」

 私はゼピューノを指差し、ピアノという楽器が直感的にわかるように説明すると、

「……モノピューノのことか?」
「あー、それです、それです。モノピューノ(?)です」

 挙動不審になりながらもアルフレッド王子の発言に合わせておいた。この世界ではピアノのことをモノピューノというのか、ふむふむ。

 こうして昼食を終えた私と王子はお別れした。図らずもちょっとしたデートになったが、全てはドレッドのせいだ。後で文句を言っておこう。

 ちなみに目的の大きな本屋さんで百合本を探すが見つからなかった……悲しす。代わりにルームメイトへのお土産を買っておいた。



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