21 / 21
駄々っ子
しおりを挟む魔法演習の授業で私はグラウンドにいた。基礎から魔法を教えてくれるようになったので私的には嬉しい。隣では課題を終えたリック師匠とツンツンルームメイトが付いてくれている。
「なかなか上手くできないね。でも大丈夫だよ! 一生懸命練習すれば出来るようになるから!」
「はい! 師匠!」
私は五〇〇ミリリットル程度の水の球を作る。本当はもっと大きい球を作りたいけれど全く安定しない。本来なら球から水を糸のように飛ばすんだけれどそれ以前の段階だった。
魔法の感覚は球技に近い。
別に私は運動が苦手というわけではなくテニスやバドミントンみたいな道具を使うスポーツはできた。でも、バレーやバスケットボールみたいな球を直接触るスポーツは苦手だった。魔法はどちらかというと後者だった。
「アユミ、平民で出来てないのあんただけよ。しっかりしなさい!」
ツンツンルームメイトも私のことを見てくれていた。彼女も平民だけど十分な魔力を持っていて私と同じような理由で学園に入学した。私と違って魔法はそこそこできるようだ。
「わかってるんだけど……ああっ」
水の球が崩れて、バシャっと地面に落ちた。
「……」
「惜しかったね。もう一回やってみようよ!」
リック師匠はこうして何回も応援してくれている。魔力変換とやらには慣れてきたものの外に出してコントロールするのが慣れない。
集中力が切れた私は他の生徒がどこまで魔法を使えるのか確認する。
ドゴーンとか、ドバァとか、ビュワーとか、ボゴボゴとか、擬音まみれだけど私よりも強力な魔法を使っているのが一目瞭然だった。
(くそぅ、なんで私だけっ)
悔しくなるができないものはできない。しょうがない。
(あれは……)
緑頭ことドレッドが魔法の練習をしている。彼が手を前にかざすと竜巻が作られた。リック師匠はあの魔法について解説してくれる。
「んーと、あれは風の中級魔法・竜巻だね。しかも杖無しで使っている。僕でも杖がないと中級魔法は使えないからドレッドさんはすごいんだよ!」
「師匠にできないことなんてあるんですか?」
「あはは、できないことはたくさんあるよ」
そんな難しいことをドレッドは軽々とやってのけるようだ。思ったよりもすごいやつなのでは?
「私も負けられない、見てて!」
緑頭に対抗心を燃やして、体内の魔力を一気に変換する。
水魔法を思い切り使うと、
水がスプリンクラーのようにまき散らされた。
「「「わあああああああああああああああああ」」」
近くにいた私とリック師匠とツンツンルームメイトはびしょ濡れになった。
「何やってるのよアユミ!」
「うう、ごめんなさい」
「あはは……」
その後、ツンツンルームメイトの着替えを手伝おうとしたが拒否され、リック師匠に変身したら服を乾かすのが楽だろうと提案したけれど拒否された。なぜここまで警戒されるのだろうか?
授業も終わり、今日も今日とて私は公爵令嬢ヴェネッサに付きまとっていた。最近では彼女たちの行動パターンを把握して先回りしている。
「なぜ貴方はいつも現れるのかしら……」
「ヴェネッサ様! 今日も麗しゅうございます! 是非そんなあなたの……」
「……派閥には入れませんわよ」
シッシッとヴェネッサは手で私を追い払う。最近では彼女の茶髪縦カールの具合も覚えてきた。今日はふんわりしていなくて、心なしかくるくるの元気がないようだ。何かストレスでも抱えているのかな。
「どうしてですか! 私の、私の愛が足りないからですか!?」
「ち・が・い・ま・す・わ! そもそも派閥というのは、政治的な理由で集ったり、交流を深めて家の役に立ったりという大義名分があります。お遊びで入るものではありません! 平民の貴方が入って、わたくしに何の得がありますの?」
「それなら……一日中ヴェネッサ様のお世話をします。朝から晩まで着替えから入浴までグヘヘヘ……」
自分で提案しておきながらぐへへしてしまった。どうやら派閥とは遊びで入るものではないらしい。だけど私の愛を否定しなくなっただけ進歩したと言えよう。
「わたくしには使用人がいますので必要ないですわ! ノエル、行きますわよ」
「はい」
膝まづいた私の隣をヴェネッサとクール令嬢ノエルが通り過ぎた。ふわっと彼女たちの良い匂いがする。ふむふむ、今日の香水はバラじゃなくてスズランかしら?
におひマスターの私がくんかくんかしていると、正面から人が来たようだ。
「……何やってるんだアユミちゃん?」
声をかけたのは緑頭のスポ根野郎(スポーツをやっているのかは知らないけれど)ことドレッドだ。同級生の彼は最近何かと話しかけてくる。
「えーと。麗しい女神たちに向けてお祈りをしてたんです」
「こんなところでか?」
今いる場所は校舎をつなぐ一階の渡り廊下で、そのまま歩いて外に出られる。グリフィス先輩と出会った場所だ。
「場所なんて関係ないです。願う気持ちが強くなれば、こうしてすぐにお祈りを捧げるんです」
「そ、そうか。信仰心が高いんだな」
若干ドレッドが引いているように見えたが問題はない。彼と仲良くなる必要なんてないのだから。
「そろそろグリフィス先輩との勉強会始まるぞ。早く行こう」
そう、彼はいつもグリフィス先輩との勉強会に誘ってくる。さらにお昼休みはアルフレッド王子との昼食に付き合わされていた。
彼らとの接触は避けたいのにドレッドがいつも『邪魔』してくるのだ。
「今日も用事があるので~~でわ~~~」
私は風で舞い上がる木の葉のように去ろうとするが、
ガシッ!
こうして肩を掴まれると、
「グリフィス先輩も待っているんだ。アユミちゃんがいないと俺への当たりが強いんだよ。さっさと行くぞ」
「い~や~だ~おうちにかえる~~」
駄々っ子な私は引きずられながら自習室に連れていかれた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる