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聖女と魔王と魔女編
女王陛下のお仕事
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少々の問題はあったものの私とユリアの入れ替えも完了した。オスカーをジニーに変える作業もほどほどにして、外に出した後に問題が起きた。
一時的に別行動のウィリアムが戻ってこない。
ソランとイリューは同室にいるものの女王のエスコート役には向かないだろう。まあ、ユリアは従えて来ちゃったみたいだけど。
ばユリアのその時の表情は、蔑みの微笑という感じらしい。たまにねーちゃんがそういう顔したとソランが証言している。存在は知っているが、あったことのないソランの姉にちょっと興味出てきた。
「さて、もう勝手に出て行くよ。
ここからは女王陛下と弁えるように」
「はい、陛下」
いや、そこまでの軍隊式ななにかをもとめたわけじゃないんだけどな……。
慈悲深い笑顔65点でねぎらっておこうかな。なぜかもっと緊張してるんだろ。首をかしげても答えはでてこなそうなので気にしないことにした。
「まずは、ウィリアム殿がいらっしゃいそうな場所へ案内してくれる?」
「承知しました」
イリューがそつなく返事をしてくる。うん、その調子だ。ソランは何か言いかけて口を閉じたので失言しなかっただけ偉い。
部屋の外には誰もいなかった。兄様が挑戦者をまとめて這いつくばらせたので、砦内の警備が手薄になっている。
私たちにはやりやすい環境でも普通はまずいんじゃないだろうか。
「おそらく私室に戻られたと思います。こちらの階段から三階へ登って奥です」
わざわざ階段を指定したのは、上の階の一部箇所と構造上繋がっていないからだ。団長室は最後までの籠城に備えてある。そこに至るまでに行くもの罠があり、閉鎖される場所があった。
案内されるままに私は着いていくが、本当に誰一人いない。昨日はこうじゃなかった、と思うのだけど。
ソランがおかしいなと呟くくらいにはやっぱり普通じゃないらしい。
人の気配と探っていくと一方向から感じるものがある。
「……あっちに人がいっぱいいる」
「そちらが私室になるんですが、いっぱい?」
「気配というか殺気立っているというかそんな感じかしら」
少年たちにはまだわからないらしい。
「行ってみればわかるわ」
半信半疑のままに彼らは着いてきた。
そして、部屋に近づくと人だかりが見えた。
「……いいようにされているようにしか思えませぬ」
遠くからも声が聞こえるくらいには激昂してる。
近寄らずに聞いていれば、他国の小娘にやられすぎだの下に見られてるだの、あなた様こそが王になるべきですだの……。
困惑が先立つ。
「……うーん。王位とか罰ゲームなの? という兄様を見てるとこの感覚馴染めない」
私程度にとられるくらいの王位だよ? 魔女がほかの誰かにくれてやるのも気に入らんと放り投げた先にいただけよ? と言いだしたらきりがないのだけど。
そもそもの話。
簒奪と言われればその通り。
正当の継承と言われてもその通り。
どちらも正しく間違っている。
「怒ってらっしゃいます?」
「別に。反発は地方のほうが強いと思ってた。実体を知らないからね」
だからこそ、顔を見せて気にかけているという姿勢を見せることは大事。一度でも見たことがあれば、少しは違う、と兄様も言ってた。
「で、ウィリアム殿はアレを押さえられない、ということは問題」
極端な話、私を選ぶか、彼らを選ぶかということになる。
彼らを選ぶのならば何らかの形での敵対は避けられない。本人が望まなくても周囲がそう言えば、そうなるところがあるからね。
本来の忠臣ならば、主の事を慮るだろうけど。
……うん。無理だな。最低最悪な前例がいる。
「火に油を注ぎに行ってくるけど、あなたたちはどうする?」
「え、止めるんじゃ?」
「大爆発希望」
「え、ええっ!?」
「やっぱり怒ってるんじゃ」
「違うよ」
軽く答えて彼らのもとに向かう。
「あら、ウィリアム殿。どうされたんですの?」
可愛い微笑み58点。うーん。可愛さが足りない。やはり少年二人を従えてとしか見えないところが痛いだろうか。
「待たせてしまって申し訳ない。
おまえらも持ち場に戻れ」
ウィリアムはほっとしたのか焦っているのかわからないような口調。聞かれていないと思ってはいないと思うけれどね。
半分ほどは大人しくその場を離れようとしていたのだけど、残りはなにか言いたげに残っていた。
「陛下」
その中からそう声をかけてきたのはまだ若い男だった。若いと言ってもウィリアムと同じくらいだろうけど。確か、兵を束ねる立場にいる中の一人だったと思う。ジニーに対してやたらと敵対的だったからなんとなく覚えている。
「なにかしら」
止めようとしたウィリアムを手で制して、話を聞く。
「なぜ、陛下は殿下の求婚をお断りになったのですか」
……は?
想定外の話が投げ込まれてきたぞ。小娘が王位を譲れとか言われるかと思って迎撃するつもりだったんだけど。
「断られてない」
いやに早く訂正をいれたね。君も。
「ええ、保留しましたね」
おかげで私も訂正する羽目になったじゃないか。
「なぜですか。殿下に愛されるのは女性としての誉であり、幸せでしょう」
「はぁ?」
おっと、素が。
私はヴァージニア、可憐な女王様。……いや、さすがにこれはちょっと引きつった微笑みが限界だぞ。
しかし、周囲の兵士たちは私の表情を意に介することもなく頷いていたりする。団長はいいやつですとか何とか聞こえてきた。
ウィリアムが絶句している。本来は部下をたしなめるべきではあるけれど、なんか、かわいそうになってきた。振られた男扱いされてたのか、そうかぁ。
じゃあ、女王の側近で幼馴染のジニーなんて目の敵にされそうだ。なんか怪しい関係でもあんじゃないのって感じの良い男だし。
……というか一人くらい気がついてもいいのだよ。あれ、女の人じゃないかって。
「陛下との話は、ちゃんと、考えてるから、それは黙っててくれ」
呻くようにウィリアムが言っている。やっぱり、本人に大ダメージきてる。かわいそー……。
で、本人のその気も知らずに、ちゃんと考えているに反応して周囲は盛り上がっている。
「それは本当ですか」
喜んでいるところ悪いけど、場当たり的な言いわけだと思うよ。期待されている方面では私は考えていない。
まあ、この場を何とかするには他に言いようがなかったのだろうけど。というわけで、散れとウィリアムが号令でもかければいいのだろうが、なぜか焦っているように見えた。
「良かった。国の先が若い女性が決めるとなると不安ですから。陛下も女性の身では荷が重いでしょうから殿下に託せば安心です」
あたりまえのように。
そう言う。
なるほど。ここでも私は夫を決めればその男に王権を渡すと思われているのか。今回の場合にはウィリアムに。望む王に冠を載せるために、婚姻せよと無邪気に言う。
嘗められたものだ。
私は微笑む。
「あっれー、私が先導する未来は不安かなぁ」
場違いに明るい声が突然現れた。
誰も反応できずに場は静まりかえるが、彼女は気にも留めない。自分の言葉に返事がないことも全く気にした風もない。
「やぁ、我が心の友。
相談があってきたんだ。取り込み中でも割り込むよ」
溜息しか出てこない。
白銀の魔女は私の前で、にこりと笑う。
狙ったのか偶然かはわからないが、都合が良かったような気もする。
私は隠しポケットに入れた冷たい感触から手を離す。ウィリアムは抜刀直前のような姿勢で止まっているし。
君は、殴るくらいで済ませてやりなよ。私だって寸止めのつもりだったんだから。
「ま、魔女殿!?」
どよめきとともに呼ばれても彼女は視線を向けもしない。
「悪いが従弟殿、女王様を借りていくよ。君は君の仕事をしたまえ」
「わかってる。彼女を困らせるなよ」
「あははは。困らせられてるのは私のほうだよ」
「だれがいつ困らせたというの」
「うーん。お互い様かな。まあ、後で聞くよ」
「行くって言ってない」
「はいはい」
全く聞く気がない。
呼ぶ手間が省けたとは到底思えないテンションだ。酔っぱらってないでこれというのは、やばそうな気がする。
「ああそうだ。
ひとつ、言っておくよ。
私が決めた王に不満があるなら、この国を出ていけ。私は温情があるから、屍になれとは言わない」
少しも笑わず魔女は言い切って私の手を取った。
それは魔女と王の権威のために必要な釘差しだったと思うんだけど、彼女が言うことに違和感があった。屍になっても、自業自得じゃない? と言いそう。
……まさかね?
そう言えば、それとは別に変なことも言っていた。
意外にも徒歩という手段で廊下を歩く彼女についていきながらこそっと尋ねた。
「わが友ってなに」
「うん? お友達じゃないか」
それ、お友達価格でとか、お友達だからいいじゃないかと何か手伝わされるやつじゃないの?
一時的に別行動のウィリアムが戻ってこない。
ソランとイリューは同室にいるものの女王のエスコート役には向かないだろう。まあ、ユリアは従えて来ちゃったみたいだけど。
ばユリアのその時の表情は、蔑みの微笑という感じらしい。たまにねーちゃんがそういう顔したとソランが証言している。存在は知っているが、あったことのないソランの姉にちょっと興味出てきた。
「さて、もう勝手に出て行くよ。
ここからは女王陛下と弁えるように」
「はい、陛下」
いや、そこまでの軍隊式ななにかをもとめたわけじゃないんだけどな……。
慈悲深い笑顔65点でねぎらっておこうかな。なぜかもっと緊張してるんだろ。首をかしげても答えはでてこなそうなので気にしないことにした。
「まずは、ウィリアム殿がいらっしゃいそうな場所へ案内してくれる?」
「承知しました」
イリューがそつなく返事をしてくる。うん、その調子だ。ソランは何か言いかけて口を閉じたので失言しなかっただけ偉い。
部屋の外には誰もいなかった。兄様が挑戦者をまとめて這いつくばらせたので、砦内の警備が手薄になっている。
私たちにはやりやすい環境でも普通はまずいんじゃないだろうか。
「おそらく私室に戻られたと思います。こちらの階段から三階へ登って奥です」
わざわざ階段を指定したのは、上の階の一部箇所と構造上繋がっていないからだ。団長室は最後までの籠城に備えてある。そこに至るまでに行くもの罠があり、閉鎖される場所があった。
案内されるままに私は着いていくが、本当に誰一人いない。昨日はこうじゃなかった、と思うのだけど。
ソランがおかしいなと呟くくらいにはやっぱり普通じゃないらしい。
人の気配と探っていくと一方向から感じるものがある。
「……あっちに人がいっぱいいる」
「そちらが私室になるんですが、いっぱい?」
「気配というか殺気立っているというかそんな感じかしら」
少年たちにはまだわからないらしい。
「行ってみればわかるわ」
半信半疑のままに彼らは着いてきた。
そして、部屋に近づくと人だかりが見えた。
「……いいようにされているようにしか思えませぬ」
遠くからも声が聞こえるくらいには激昂してる。
近寄らずに聞いていれば、他国の小娘にやられすぎだの下に見られてるだの、あなた様こそが王になるべきですだの……。
困惑が先立つ。
「……うーん。王位とか罰ゲームなの? という兄様を見てるとこの感覚馴染めない」
私程度にとられるくらいの王位だよ? 魔女がほかの誰かにくれてやるのも気に入らんと放り投げた先にいただけよ? と言いだしたらきりがないのだけど。
そもそもの話。
簒奪と言われればその通り。
正当の継承と言われてもその通り。
どちらも正しく間違っている。
「怒ってらっしゃいます?」
「別に。反発は地方のほうが強いと思ってた。実体を知らないからね」
だからこそ、顔を見せて気にかけているという姿勢を見せることは大事。一度でも見たことがあれば、少しは違う、と兄様も言ってた。
「で、ウィリアム殿はアレを押さえられない、ということは問題」
極端な話、私を選ぶか、彼らを選ぶかということになる。
彼らを選ぶのならば何らかの形での敵対は避けられない。本人が望まなくても周囲がそう言えば、そうなるところがあるからね。
本来の忠臣ならば、主の事を慮るだろうけど。
……うん。無理だな。最低最悪な前例がいる。
「火に油を注ぎに行ってくるけど、あなたたちはどうする?」
「え、止めるんじゃ?」
「大爆発希望」
「え、ええっ!?」
「やっぱり怒ってるんじゃ」
「違うよ」
軽く答えて彼らのもとに向かう。
「あら、ウィリアム殿。どうされたんですの?」
可愛い微笑み58点。うーん。可愛さが足りない。やはり少年二人を従えてとしか見えないところが痛いだろうか。
「待たせてしまって申し訳ない。
おまえらも持ち場に戻れ」
ウィリアムはほっとしたのか焦っているのかわからないような口調。聞かれていないと思ってはいないと思うけれどね。
半分ほどは大人しくその場を離れようとしていたのだけど、残りはなにか言いたげに残っていた。
「陛下」
その中からそう声をかけてきたのはまだ若い男だった。若いと言ってもウィリアムと同じくらいだろうけど。確か、兵を束ねる立場にいる中の一人だったと思う。ジニーに対してやたらと敵対的だったからなんとなく覚えている。
「なにかしら」
止めようとしたウィリアムを手で制して、話を聞く。
「なぜ、陛下は殿下の求婚をお断りになったのですか」
……は?
想定外の話が投げ込まれてきたぞ。小娘が王位を譲れとか言われるかと思って迎撃するつもりだったんだけど。
「断られてない」
いやに早く訂正をいれたね。君も。
「ええ、保留しましたね」
おかげで私も訂正する羽目になったじゃないか。
「なぜですか。殿下に愛されるのは女性としての誉であり、幸せでしょう」
「はぁ?」
おっと、素が。
私はヴァージニア、可憐な女王様。……いや、さすがにこれはちょっと引きつった微笑みが限界だぞ。
しかし、周囲の兵士たちは私の表情を意に介することもなく頷いていたりする。団長はいいやつですとか何とか聞こえてきた。
ウィリアムが絶句している。本来は部下をたしなめるべきではあるけれど、なんか、かわいそうになってきた。振られた男扱いされてたのか、そうかぁ。
じゃあ、女王の側近で幼馴染のジニーなんて目の敵にされそうだ。なんか怪しい関係でもあんじゃないのって感じの良い男だし。
……というか一人くらい気がついてもいいのだよ。あれ、女の人じゃないかって。
「陛下との話は、ちゃんと、考えてるから、それは黙っててくれ」
呻くようにウィリアムが言っている。やっぱり、本人に大ダメージきてる。かわいそー……。
で、本人のその気も知らずに、ちゃんと考えているに反応して周囲は盛り上がっている。
「それは本当ですか」
喜んでいるところ悪いけど、場当たり的な言いわけだと思うよ。期待されている方面では私は考えていない。
まあ、この場を何とかするには他に言いようがなかったのだろうけど。というわけで、散れとウィリアムが号令でもかければいいのだろうが、なぜか焦っているように見えた。
「良かった。国の先が若い女性が決めるとなると不安ですから。陛下も女性の身では荷が重いでしょうから殿下に託せば安心です」
あたりまえのように。
そう言う。
なるほど。ここでも私は夫を決めればその男に王権を渡すと思われているのか。今回の場合にはウィリアムに。望む王に冠を載せるために、婚姻せよと無邪気に言う。
嘗められたものだ。
私は微笑む。
「あっれー、私が先導する未来は不安かなぁ」
場違いに明るい声が突然現れた。
誰も反応できずに場は静まりかえるが、彼女は気にも留めない。自分の言葉に返事がないことも全く気にした風もない。
「やぁ、我が心の友。
相談があってきたんだ。取り込み中でも割り込むよ」
溜息しか出てこない。
白銀の魔女は私の前で、にこりと笑う。
狙ったのか偶然かはわからないが、都合が良かったような気もする。
私は隠しポケットに入れた冷たい感触から手を離す。ウィリアムは抜刀直前のような姿勢で止まっているし。
君は、殴るくらいで済ませてやりなよ。私だって寸止めのつもりだったんだから。
「ま、魔女殿!?」
どよめきとともに呼ばれても彼女は視線を向けもしない。
「悪いが従弟殿、女王様を借りていくよ。君は君の仕事をしたまえ」
「わかってる。彼女を困らせるなよ」
「あははは。困らせられてるのは私のほうだよ」
「だれがいつ困らせたというの」
「うーん。お互い様かな。まあ、後で聞くよ」
「行くって言ってない」
「はいはい」
全く聞く気がない。
呼ぶ手間が省けたとは到底思えないテンションだ。酔っぱらってないでこれというのは、やばそうな気がする。
「ああそうだ。
ひとつ、言っておくよ。
私が決めた王に不満があるなら、この国を出ていけ。私は温情があるから、屍になれとは言わない」
少しも笑わず魔女は言い切って私の手を取った。
それは魔女と王の権威のために必要な釘差しだったと思うんだけど、彼女が言うことに違和感があった。屍になっても、自業自得じゃない? と言いそう。
……まさかね?
そう言えば、それとは別に変なことも言っていた。
意外にも徒歩という手段で廊下を歩く彼女についていきながらこそっと尋ねた。
「わが友ってなに」
「うん? お友達じゃないか」
それ、お友達価格でとか、お友達だからいいじゃないかと何か手伝わされるやつじゃないの?
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