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11章 選択可能限界
俺と魔王
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スケルタスが単独でサンダー・ドラゴンを突破した。そのわけのわからない知らせはギルド中を席巻したようだ。
サンダードラゴン、というかドラゴン類は到底人一人で倒せるような存在ではない。大規模パーティを組んで多大な散漫を出してやっと倒す。そのようなシロモノだ。
まあ、俺は倒せるけどな。
だって俺は魔王だし。
それにしたってなぁ。あいつが本当にスケルタスなのか? 意味がわかんねぇ。スケルタスだとして、何で武闘大会に出場してるんだ。ますます意味がわかんねえ。とにかく俺が武闘大会で挨拶する目は完全になくなった。
それにしてもあいつがねぇ。
スケルタスというのは『幻想迷宮グローリーフィア』で街発展イベントがあった時、ギリギリまで発展させたいという読者要望から無理くり発生したキャラだ。一年終了、つまりエンディングを迎えるちょっと前にギルドに登録され、アホみたいな金額を積み上げてダンジョン攻略を丸投げするためのキャラ。要望に応えて無理矢理作られたためか、グラフィックもボイスも何もなく、ただギルドのリストに名前だけ登場する。
だから、前世では『スケルタス』なんてキャラに出会ったやつはいないはずだ。
「ほんと、とんでもないわねぇ。でもそんなに気にすることあるかしら? 私より弱いわぁ」
「うーん、ヘイグリット、俺が気にしてるのは強さじゃないんだよ。ちょっと不確定要素もあるしな」
「不確定要素? なにそれ」
「不確定だからわかんねぇ。まあそれより、問題は魔女の方だな」
「ねぇ、本当にほっといていいの?」
「それもわかんねぇ」
ヘイグリットとはそんな話で〆た。
何故ここにして不確定要素が等比級数的に増えてんだ? 全く頭を抱えるぜ。けれども結局、魔女にもこの『幻想迷宮グローリーフィア』の呪いを解く方法はわからないわけだ。まあ、それはそうなのかもしれないな。魔女はこの『幻想迷宮グローリーフィア』の外側にいたんだから。
今、魔女はこの領域を観測している。だからそのうち何かわかるものがあるのかもしれない。
……ファッションショーに出す絵も描かないといけないなぁ。
あのヴェスの服には驚いた。想像していたよりそのまんまで驚いた。
それにしても将光と真理は俺を魔王と認識してているのか、人間の欠片と認識してるのとどっちなんだ? こないだはろくに話す時間もなかったしな。あー。でもダルギスオンがソルに俺が魔王だって言っちゃったから、やっぱ知ってるんだよな。いやそもそも俺がヘイグリットとダルギスオン連れ回してんだから魔王確定だろ。あの二人は四天王の強い方上二人だし。そう考えると四天王最弱はだれなんた? 順番的にはフィーリエット? うーん、あいつが一番面倒くせぇ。小せぇしぶんぶん飛び回るからな。
さて。そろそろ時間か。
俺は今、この国の魔法部の特殊部屋の外にいた。全ての魔力を遮断する部屋は、バグ自体の存在は遮断しないものの、そのバグが世界を汚染する力を阻害するようだ。完全に稼働しているのかはわからない。
そこで俺は実験をする。どちらかといえば、される?
隣に腰掛けているウォルターはやっぱり将光、何だよな。面影はあるような、ないような、いや、グラフィックは変形ウォルターなんだから面影があるわけがないか。
「おい、将光。お前はもうやったんだろ」
「ああ」
まあ、将光だよな。
「何がわかった?」
「俺が分かち難くウォルターであることだな。俺はウォルターとして存在し、ウォルターとしての能力を得ている。俺こそがウォルターで、俺の魂はウォルターの魂だ」
「ふうん。じゃあ俺も魔王なんだろうな」
「ああ。だがどれほど魔王なのか、それが問題だろ」
「まあな。俺の後は真理で試すのか?」
ウォルターであるところの将光の魂を封入したウォルターは、少し悩ましげに眉を顰める。
「……いや、今のところ頼む予定はない」
「主人公だから?」
「ああ」
「俺も主人公みたいなもんだと思うけどなぁ」
「けれどもお前は二つに分離しただろ。魔王であってお前の魂ではない部分とお前自身を。なあ、そういや魔王トゥルーエンドってのはお前的に成立し得るのか?」
魔王トゥルーエンド?
ああ、主人公が魔王とくっつくやつか。うーん。俺はそもそも『幻想迷宮グローリーフィア』にどハマりしてたが、エンディング後になんて全く興味はなかった。クリアしたらログだけ取って次のプレイを始める。
俺が真理とトゥルーエンドってことは真理と結婚してこのダンジョンでずっと暮らすわけか。
「ごめんだな」
「やっぱりねぇ」
将光は将光らしくなく肩をすくめる。
「別に真理が嫌なわけじゃないが、他人との暮らしが強制されるのはどうにも性に合わん。面倒臭ぇ」
「俺ん時みたいにさ、とりあえずエンド迎えておちついたら別れるとかでもいいんじゃね? 談合的なアレ」
「あっという間に不成立にしたくせに、よく言うな」
「ほんとにな。でも真理がぶっ倒れるまで、いや、ぶっ倒れてしばらくは俺はまだ俺じゃなかったんだよ」
この一年を超えるというバグはおそらく真理がエンディングを拒否することで発生したのだろう。そういえば前世でも真理はウォルターを生理的に嫌っていた。そこに将光が入ったと考えればすげぇ笑える。
けれども真理の、つまり主人公の行動を起点に俺と将光は意識を取り戻した。やはり主人公というのは特別なのだろう。
「将光、ノーマルエンドは真理がぶち壊して越えられたが、トゥルーエンドは超えられるもんかな」
「超えねぇと仕方がないだろ。ほら、終わったようだぞ」
目の前の扉が開かれ、奥からエルトリュールが現れる。その手には俺の角と尻尾があった。
「ウォルター様、こちらをお預かりください」
「わかった。じゃあ頑張れよ、アレグリット。すんげぇ気持ち悪いが、痛くはなかった」
「俺は痛いより気持ち悪い方がやだよ」
ちらりと横目で見た角は、やはり俺ではない感じがした。あれが本来の魔王、幻想迷宮の主人、グローリーフィア。
角と交代でエルトリュールに連れられて入った部屋は不思議な部屋だった。けれども似たようなものに見覚えがある。
サンダードラゴン、というかドラゴン類は到底人一人で倒せるような存在ではない。大規模パーティを組んで多大な散漫を出してやっと倒す。そのようなシロモノだ。
まあ、俺は倒せるけどな。
だって俺は魔王だし。
それにしたってなぁ。あいつが本当にスケルタスなのか? 意味がわかんねぇ。スケルタスだとして、何で武闘大会に出場してるんだ。ますます意味がわかんねえ。とにかく俺が武闘大会で挨拶する目は完全になくなった。
それにしてもあいつがねぇ。
スケルタスというのは『幻想迷宮グローリーフィア』で街発展イベントがあった時、ギリギリまで発展させたいという読者要望から無理くり発生したキャラだ。一年終了、つまりエンディングを迎えるちょっと前にギルドに登録され、アホみたいな金額を積み上げてダンジョン攻略を丸投げするためのキャラ。要望に応えて無理矢理作られたためか、グラフィックもボイスも何もなく、ただギルドのリストに名前だけ登場する。
だから、前世では『スケルタス』なんてキャラに出会ったやつはいないはずだ。
「ほんと、とんでもないわねぇ。でもそんなに気にすることあるかしら? 私より弱いわぁ」
「うーん、ヘイグリット、俺が気にしてるのは強さじゃないんだよ。ちょっと不確定要素もあるしな」
「不確定要素? なにそれ」
「不確定だからわかんねぇ。まあそれより、問題は魔女の方だな」
「ねぇ、本当にほっといていいの?」
「それもわかんねぇ」
ヘイグリットとはそんな話で〆た。
何故ここにして不確定要素が等比級数的に増えてんだ? 全く頭を抱えるぜ。けれども結局、魔女にもこの『幻想迷宮グローリーフィア』の呪いを解く方法はわからないわけだ。まあ、それはそうなのかもしれないな。魔女はこの『幻想迷宮グローリーフィア』の外側にいたんだから。
今、魔女はこの領域を観測している。だからそのうち何かわかるものがあるのかもしれない。
……ファッションショーに出す絵も描かないといけないなぁ。
あのヴェスの服には驚いた。想像していたよりそのまんまで驚いた。
それにしても将光と真理は俺を魔王と認識してているのか、人間の欠片と認識してるのとどっちなんだ? こないだはろくに話す時間もなかったしな。あー。でもダルギスオンがソルに俺が魔王だって言っちゃったから、やっぱ知ってるんだよな。いやそもそも俺がヘイグリットとダルギスオン連れ回してんだから魔王確定だろ。あの二人は四天王の強い方上二人だし。そう考えると四天王最弱はだれなんた? 順番的にはフィーリエット? うーん、あいつが一番面倒くせぇ。小せぇしぶんぶん飛び回るからな。
さて。そろそろ時間か。
俺は今、この国の魔法部の特殊部屋の外にいた。全ての魔力を遮断する部屋は、バグ自体の存在は遮断しないものの、そのバグが世界を汚染する力を阻害するようだ。完全に稼働しているのかはわからない。
そこで俺は実験をする。どちらかといえば、される?
隣に腰掛けているウォルターはやっぱり将光、何だよな。面影はあるような、ないような、いや、グラフィックは変形ウォルターなんだから面影があるわけがないか。
「おい、将光。お前はもうやったんだろ」
「ああ」
まあ、将光だよな。
「何がわかった?」
「俺が分かち難くウォルターであることだな。俺はウォルターとして存在し、ウォルターとしての能力を得ている。俺こそがウォルターで、俺の魂はウォルターの魂だ」
「ふうん。じゃあ俺も魔王なんだろうな」
「ああ。だがどれほど魔王なのか、それが問題だろ」
「まあな。俺の後は真理で試すのか?」
ウォルターであるところの将光の魂を封入したウォルターは、少し悩ましげに眉を顰める。
「……いや、今のところ頼む予定はない」
「主人公だから?」
「ああ」
「俺も主人公みたいなもんだと思うけどなぁ」
「けれどもお前は二つに分離しただろ。魔王であってお前の魂ではない部分とお前自身を。なあ、そういや魔王トゥルーエンドってのはお前的に成立し得るのか?」
魔王トゥルーエンド?
ああ、主人公が魔王とくっつくやつか。うーん。俺はそもそも『幻想迷宮グローリーフィア』にどハマりしてたが、エンディング後になんて全く興味はなかった。クリアしたらログだけ取って次のプレイを始める。
俺が真理とトゥルーエンドってことは真理と結婚してこのダンジョンでずっと暮らすわけか。
「ごめんだな」
「やっぱりねぇ」
将光は将光らしくなく肩をすくめる。
「別に真理が嫌なわけじゃないが、他人との暮らしが強制されるのはどうにも性に合わん。面倒臭ぇ」
「俺ん時みたいにさ、とりあえずエンド迎えておちついたら別れるとかでもいいんじゃね? 談合的なアレ」
「あっという間に不成立にしたくせに、よく言うな」
「ほんとにな。でも真理がぶっ倒れるまで、いや、ぶっ倒れてしばらくは俺はまだ俺じゃなかったんだよ」
この一年を超えるというバグはおそらく真理がエンディングを拒否することで発生したのだろう。そういえば前世でも真理はウォルターを生理的に嫌っていた。そこに将光が入ったと考えればすげぇ笑える。
けれども真理の、つまり主人公の行動を起点に俺と将光は意識を取り戻した。やはり主人公というのは特別なのだろう。
「将光、ノーマルエンドは真理がぶち壊して越えられたが、トゥルーエンドは超えられるもんかな」
「超えねぇと仕方がないだろ。ほら、終わったようだぞ」
目の前の扉が開かれ、奥からエルトリュールが現れる。その手には俺の角と尻尾があった。
「ウォルター様、こちらをお預かりください」
「わかった。じゃあ頑張れよ、アレグリット。すんげぇ気持ち悪いが、痛くはなかった」
「俺は痛いより気持ち悪い方がやだよ」
ちらりと横目で見た角は、やはり俺ではない感じがした。あれが本来の魔王、幻想迷宮の主人、グローリーフィア。
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